見出し画像

クリスマス前には 2023

クリスマスは華やかなものだ。それはアメリカ文化からの影響で、私が子供の頃にはすでに確立されていた。アメリカ文化の影響というのは私がクリスマスの度に父親に聞かされていたビングさんのクリスマスアルバムや商業主義、それにらに代表されるような文化だと思う。それらが映画やテレビという文化を通して広まった。もちろんクリスマスキャロルのようなものはヨーロッパを源流とするが、それを受け継いで大衆文化として成り立ったのはアメリカなのだろう、と、なんとなく思う。それを日本人も享受している。日本人は文化を取り入れるのが好きだと思う。それを取り入れて楽しめる。自分で言うこともないのだけれど、その一つがこういうことなんだろうと思ってしまう。


X'mas day in the next life - 山野ミナ feat. 高橋幸宏

去年の十二月初め、2022年のこれを書き、そこで高橋幸宏さんの曲について書いた。そこでずっと思っていた待っているという言葉で表現し終わった。しかしそれから一か月後、幸宏さんは自身の歩みを止め、永遠の世界に旅立った。私はその事柄を今でも引きずっている部分もある。しかし、記憶をたどるにしてもいいことばかり、考えたり経験し直してみれば経験していたはずの事柄はさらに奥深く、新たな部分を知ることができたりもした。

その中でも山野ミナさんとの関係を知り、今回書いている。山野ミナさんはジャズシンガーでもあり、ボサノヴァにも造詣が深いと聞く、そんなシンガーソングライターのメジャーデビューアルバムを幸宏さんがプロデュースした。そしてこの曲は配信限定シングルとしてリリースされたようだ。この曲も幸宏さんの曲で、去年書いた神を忘れて、祝へよ X'mas timeと同じくA Day in The Next Lifeというアルバムに入っていた。EMIに移って三枚目というのは憶えていて、………と、このように幸宏さんのことになると意味のない蛇足がいくらでも出てくるので、それは置いておく。

この曲を聞いたときに驚いたのは山野ミナさんのボーカルで、ピアノやアコースティックギター、ベースやドラムの生の音につつまれていながらその音に負けてない、というよりも存在感が際立っている。強く太く聞こえたその声は、現実の姿からは連想できなかった驚きで、だが聞いていると違う。それはただ力強いというのではなく、微妙なスピードですり抜ける感覚、少しハスキーな音がブレスの端々に出る、その情緒、それを思えば声の特徴に感じ入ってしまい、その魅力を感じる。ボーカル曲というのはこういうものなのだろうかと思ってしまった。

この曲では曲や歌詞のメッセージを歌として伝えるようではなく、それらを俯瞰して神の視点で歌っているような気もしてしまう。そこにいる彼女が歌っているのではなく、それを見ている彼女が歌っているように感じるのだ。幸宏さんのバージョンは切なさが前に出てくるように感じていたが、この曲ではミナさんの存在感が大きく、しっかりした主柱のように感じられるのがとてもいい。また曲のあちこちに幸宏さんらしい部分が見えていて心地よい。

彼が曲を書きアレンジをして世に送り出したものが私の好きなものだったのだから当然だが、この曲もボーカルと絡むメインで鳴るサックスとは別の、心地よいリズムのリフを繰り返すサックスというかホーン系の音、それがまた幸宏さんを思い出してしまい本当に心地よく響いている。クリスマスの日にストーブや暖炉の前で暖まりながら聞きたい曲だ。


Christmas Time (Is Here Again) - The Beatles

ビートルズである。いろいろ好きな音楽のことを書いてはいるが、ビートルズはどうしても出てきてしまう。子供の頃のクラシックや歌謡曲、そういう世界から外へと踏み出す初めに選んだのがビートルズとYMOだった。小学生の冒険と成長の一段階上への踏み出し、そんな記憶は鮮明で明確な事実としてある。過程は分からないが、友人と実行した。

その後ゲットバックを映画館で見たりしたが、小学生なので知識もなく音楽以外はよく分からなかった。アップルの屋上でのライブ以外はあまり記憶に残ってない。その時点で赤盤と青盤を聞いていたくらいだったのだ。だがそれはいい経験になり、その後大人になるにつれて少しずつ色々な彼らのドキュメンタリーを見て、さまざまなことを知る。その中で初期の売れる前から売れた後、そのロンドンでのファンとの交流というものにクリスマスというのがあったというのをなにかのドキュメンタリーで触れていた。それはソノシートをファンクラブの人たちに送るというようなものだった。

それを見たときにすごく興味がわいた。そういうレアな音源を聞きたいと思った。それらはメッセージを吹き込んだものらしく、音楽が入っているものもあったようだということくらいしか知らなかった。それらの音源のブートレグはたくさん作られたらしいが、私は触れたことはなかった。しかしある日ジョンがいないビートルズの新曲、フリー・アズ・ア・バードが発売され、B面やCDの四曲目で知ることになる。実はこれでも短くした曲だけのバージョンで、ファンディスクではもっと長い構成になっていたようだ。

曲を聞けば晴れわたる雪の日が目の前にあるような明るさを思い浮かべ、表題の言葉が繰り返しのリフになっていて、その中の楽しさやうれしさを表現しているようだ。そのリフレインは何度も繰り返されるが、その繰り返し自体がChristmas time is here againと、そのものでもある気がする。

最後の方にはそのリフに載せてポール、ジョン、ジョージ、リンゴの挨拶が入り、最後の最後では厳かなきよしこの夜が流れ、そこにジョンの朗読によるオリジナルの散文詩のようなものがある。その朗読も変わった語り口になっていて、昔ながらの、もしくは方言とか、演劇調とでもいうのか、そういう表現になっている。これがファンディスクとしてあるとすればハッピーで、いや、ファンでなくてもこの曲を聞けばクリスマスがハッピーだと分かるような曲になっていると思う。


Silent Night - Bing Crosby

毎回のビング・クロスビーさんだけど、私の子供の頃からの業というか、恩恵にて彼のクリスマスソングだけは外せない。しかも今回は最初にこれを書いた時に選んだGod Rest You Merry, Gentlemenに続いてのクリスマスキャロルだ。しかもそれとは段違いにポピュラーで、きよしこの夜という時点で誰もが知っている曲で歌、ということになってしまう。ビングさんとクリスマスキャロル、最高の組み合わせじゃないか。

ビングさんの美声とミニマルで厳かだが暖かいサウンド、途中からはコーラスも入り、ビングさんの声も増して甘くなるような気がする。私の耳では聞き分けられないけど、最初や途中で響くグロッケンかチェレスタか分からないキラキラしたサウンドがクリスマスの気分を盛り上げる。でもやはりそれはビングさんの歌を引き立てているに過ぎない。そしてそれらすべてが揃って聖なる夜を示しているのだろう。そんな曲だ。父親が持っていたビングさんのクリスマスアルバムは数々の曲があったが一番落ち着ける曲で、その日にふさわしく、神に近いような気持ちにさせてくれる歌だ。


天国を覗きたい - ヒカシュー

さて、ヒカシューである。大好きなバンド。最初はニューウェイヴやテクノポップのつもりで聞いていたが、すぐにそれだけではないヒカシューの世界を知り、続けて聞いているうちにどんどん私の情緒を刺激した。そして心の深くに刻まれ、その回りにまた肉がつき私自身も成長していった。そんなバンドで存在だ。それは曲も歌詞もそうで、どちらも私の情緒を激しく刺激したのだ。

ヒカシューの曲には様々な面があると思っているが、今回の曲がクリスマスソングかは分からない、だが私はそう思っているし、そうだといいなと思っている。この曲は人間の顔というアルバムに入っていて、このころはまだビニール盤での流通がメインだった。それを買いに行った記憶もあるが、薄れている。もう一つの記憶はドラムスの谷口勝さんが急逝してしまったことで、この曲も彼の緻密なビートが聞ける。

また、この頃にライブにも行ったが、そのときは谷口さんの急逝後だったのかもしれない。前後の記憶が定かでないのもあるが、不思議な靄につつまれていて、ライブ直前にも関わらずエレベーターで、まだ三田超人になる前の海琳正道さんと出会って握手をしてもらった記憶が残るだけだ。すごいギターの人なのに普通の人に溶け込んでる様に静と動を感じさせられた。

この曲は故野本和浩さんの曲で、彼のサックスが二コーラス目の最初以外は通して流れている。それはメロディと同じ旋律が続くので、主役のような、さりげない伴奏者のような面白い表現になっている。聞いているとサックスとボーカルの関係は、ボーカルの歌っている主体と対になった鏡の向こうとのような気もしなくもない、そんな表現に思えてしまう。それとベースの二つが特徴的に曲を形成している。もちろん谷口さんの緻密で軽快なビートや海琳さんのグッとくるギターもいい。

そしてこの曲もそうだが、いつも巻上さんの歌詞がすごい。この曲もただのクリスマスソングではなく、しみじみと沁みわたる歌詞になっている。でも説教じみているとか暗いとかそういうものではなく、かわいらしくまとまっていて、曲もとても軽快で愛らしく仕上がっている。そこにはクリスマスのワクワクがある。がくっとするかもしれないけどね。とはいうが、ここではがくっとはしないのである。


いつもそうだが一つの曲なのに伝えたいことが膨大になってしまい、長くなる。それじゃあダメだと短くしたい。誰が見ているわけでもないのも分かっている。だけど、伝えたい。ジレンマである。毎年少しずつ書いているが、最初の頃から曲数は減り、駄文は意味もなく増えている。そういうことで今回は四曲で勘弁してください状態だ。もちろんこれを書いている無意味さも分かってる、誰が見てるわけでもないからね。

クリスマス前には 2022



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?