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Au pair ワーホリ カナダ生活238日目 「見知らぬ人に助けてもらう」

 更新が遅くなってしまった。
 書かなくちゃなぁと思っていたのだけれど、倦怠感が続いていて、「あぁ、風邪を引くかもな」と思っていたところに生理と風邪が重なってしまったのだ。
 こんなことをnote上で言うのはおかしいかもしれないけれど、私は重度の生理不順で1年間全く来ないなんてことはザラだった。一度20代前半で産婦人科に行ったことがあり、子宮に問題があるのではなく、ふたつのうち一つの女性ホルモンが出ていないことによるものだと言われた。スマルナでピルを買って飲むものの、1日で終わるような不完全な生理ばかりだった。
 小学6年生くらいで初潮が来て以降、大学生になるまでに両手で数えるくらいしか生理がこないような状態が続き、20代になってその理由が分かったものの子どもを産む予定もなく、そのまま放置していたというのにカナダに来て半年が過ぎた今、順調に生理が来るようになっていた。
 30歳でも1年間生理がこないと早期閉経が起こり得るらしく、私はてっきりそれだとばかり思っていたので内心驚いている。
 ほとんどストレスのない生活に健康的な食事、きちんとした睡眠をとっているからなのか。はたまた私自身の心の成長と共に起きたことなのか。
 そんなわけで更新が滞ってしまったのだけれど、書きたいことはたくさん溜まっているので、ぼちぼち書いていこうと思う。

 少し前、初めて1人でトロント動物園に行ってきた。途中からハロートークで知り合った男の子と合流する予定だったのだけれど、現地までは1人で向かった。行きは順調だったものの、帰りはトラブルだらけで一時はカナダを心底嫌いになるくらいだった。
 その一部始終を今日はまとめてみようと思う。
 ちなみに、トロント動物園は冬に行くことはおすすめできないので、行ってみたい人は夏に行った方が良いと思う。寒いと見ることができる動物の数が圧倒的に減るからだ。アフリカエリアなんて、3種類しか見ることができなかった。


行きは上々、ほぼ問題なく到着

 前日、シッター先のお母さんが「トロント動物園は遠いって、夫が言ってるけれど大丈夫?」というラインを送ってきてくれた。
 この日、私はシッターをしていて、帰り際の雑談で土曜日にトロントに行くことを伝えていた。「言ってくれたら良かったのに! 今日、うちに泊まっていく?」と言ってくれたけれど、「パンツ、持ってきていないんです」と伝えるとおかあさんはとても笑っていて、30代になっているのだから下着というべきだったかと思いながら私もつられて笑った。
 前々からシッター先のお母さんが「毎週土曜日は家族でトロントに行くから、トロントに行きたかったら一緒に連れていくよ」という優しい声がけをしてくれていたのだ。トロント動物園に行くことは前々から決まっていたことだったけれど、バスのストライキがあったりして、言うタイミングを失っていた。
 淡い期待を込めて「今日下着を持っていったら泊めてくれるかも…」と思ったのは本当だけれど、それはなんだかいやらしい気がして結局持っていくことをやめたことまで話すと、「そんなこと気にしなくてよかったのに」とからっとした様子で言われたので、次回行くときはお邪魔しようと思った。
 シッター先のお母さんはさらに、「週末のGoパスを買うならネットでしか買えないからね」というお得な情報までラインで教えてくれた。その夜、必死に調べて無事に購入することができた。10CADで往復ができる便利なチケットなので、Go Transit Passはおすすめできる。GoバスとGoトレインは心底嫌いだけれど。後述するけれど、非常に駅構内が分かりづらいのだ。

 さて。
 シッター先のお父さんがいった通り、私の滞在先からトロント動物園に行くには3時間20分かかり、帰りになると4時間以上かかることが分かっていた。それを一緒に行く男の子に伝えると、「4時間!? きみは本当にぼくに会いたいの?」と言われ、なんだか自分が男に飢えている女のように思えた。実際はそんなことは一切なく、ただ知り合って気軽に遊べそうだなと思った人がたまたま男の子だったというだけなのだけれど。
 心が折れそうになりながらも、まあ行ってみるかという軽い気持ちで私はその日、早めに眠りについた。

 翌日、起きて早々、私は少し緊張していた。
 1人で海外を出歩くなんて初めての経験だった。確かにハミルトンやケベックの田舎にいたときは1人で歩き回っていたけれど、これはほとんど日本と変わらない感覚で過ごすことができる治安レベルだったからだ。ハミルトンは夜でもベビーカーを押すファミリーが歩いていたり、かなり治安が良い。ダウンタウンはマリファナが蔓延しているので治安が悪いと思うけれど、私の行動範囲の治安は良かった。
 オーストラリアのケアンズに行った時は友人と過ごしていたし、夜に出歩いても問題ないくらい治安が良好で、つまり、私には海外の治安が良くない都会を歩いた経験が全くなかった。
 そもそも、私は他人からしっかりしているように見られるけれど、人一倍ドジなのだ。少しでも油断すると忘れ物をしたりする。日本でも駅構内を歩いていると突然声をかけられて何事かと思って振り返ると、OLらしき女性から「カーディガンが裏表逆になっていますよ」と教えてもらうくらいには抜けている。

 そんなわけで、朝起きて早々昨日から何度見たかわからないGoogleマップを見直していると、Goバスに乗り換えるところで時間が短すぎる気がしてきて、念の為予定より15分早く着くバスで行くことにした。初めて乗るバス乗り場だったので、私の性格上、不安だったのだ。私は初めてすることに対しては少し強迫的なくらい神経質になってしまう。特に、今回はトロントの治安が悪くなっているという情報を見たりしていたので、もしかしたら死ぬ可能性もあるなという思いもあって、ナーバスになっていたと思う。
 そんな大袈裟なと思うかもしれないけれど、私からしたら「なんでみんな自分が不幸な事件に巻き込まれないと思っているんだろう」と不思議に思うのだ。この世には必ず悪い人がいて、それに巻き込まれる無関係な人たちがいるというのに、いつも自分や身の回りの人にはその危険がないと思っていることがひどく不思議に思えてならない。
 今年トロントでいきなり刺された女性だって、その日起きて顔を洗いながら「私今日刺されるかもしれない」なんて思っていなかったはずだ。でも、刺された。もしかしたらヘッドフォンをしていて、スマホを見ていて、その凶行の前兆に気づけなかったのかもしれない。
 少しでも自分が死を意識することで回避できるのだったら神経質になった方がいいという気持ちの方が、私の中では強いのだ。

 水筒に水を入れ、あまり充電がされていない不安感のあるモバイルバッテリーとカメラと手袋をリュックに入れて一階に降りたところで、ホストマザーとばったり会う。
 少しだけ雑談をした結果、バス停まで全速力で走ることになった。定刻1分前でも容赦なく出発するバスのせいで悲しみに暮れた経験が何度かあったからだ。
 息を切らしながらバス停に着くと、まだバスは来ていなかった。定刻になっても来なかったので、改めてGoogleマップを見ると出発済みになっていて「Googleマップがおかしいのかバスが行ったのかどっちなんだろう」と思いながら若干の焦りを感じた。
 少しするとバスが来て、とりあえず一安心しながら私のトロントへの旅がようやく始まった。

 バスは10分ほど遅れてハミルトンGoバスセンターに到着した。やっぱり遅れたか。そんなことを思いながら、朝の自分の決断を心の中で褒め称える。Goバスは一つ乗り遅れると30分以上後にしか次の便がないのだ。 

 行きのバスは順調に動き出し、私はユニオン駅に辿り着いた。ここの駅で違うGoトレインに乗らなくてはならず、とりあえずGoと書かれた看板に向かって歩き出す。ようやく着いた乗り継ぎ場では、自分の乗る電車のプラットフォーム番号が乗っておらず、ここじゃないのかと思いながらうろうろしていても埒があかないと思った私は駅に立っている女性に聞いた。
 すると、路線ごとにプラットフォームの表示が出るのは10分前だから乗り継ぎ場で待っているように教えてもらったのだ。10分前になるまで何番線から乗ればいいのかわからないなんて、なんて不便なんだと思った。道理でGoogleマップには何番線と書かれていないわけだと納得した。
 日本では何番線から出発するのかが書かれていることが一般的で、30分前だろうとホームに行くことができ、待っていれば目の前に扉が来てくれる。慣れている人はいいかもしれないけれど、「ここの場所で待っていることが正解なのかしら」というソワソワ感を抱きながら待っているのはとても不安だった。
 しかも私が行きたい路線はトラブルで欠便になり、TTC(地下鉄)で向かうように指示された。再度Googleマップで経路を検索し、地下鉄に乗り込んだ。
 その後、バスに乗り換え、トロント動物園まで向かう。そのバスの運転手は途中途中寄り道をしていたけれど、時間以内に着いたので、それも計算してやっているのかなと思うと感心した。

 トロント動物園に着いて、合流する予定の男の子に連絡するとまだ着かないという連絡がきたので、チケットを買って待っていたのだけれど、時間がかかりそうだから先にまわっていて欲しいと言われた。
 入り口でトロント動物園を見渡す。きちんと1人で来ることができたことを誇らしく思った。
 思わず口元がにんまりとしながら、写真を撮った。


寒空の動物園

 とりあえず、最初にギフトショップに向かった。
 ケベックで友達になった英語の先生がポストカードが好きなので、買おうと思ったのだ。可愛いポストカードがあり、しかも木製なので少し変わっているなと思ってそれを買った。なまけものが好きなので、それにする。日本の友達にも送ろうと思って、その子が好きなホッキョクグマの木製のポストカードと自分用になまけもののマグネットを買った。
 それから非常食用にメロン味のキャンディを買って、ギフトショップから出る。

 そこからとりあえず歩き始めると、すぐにそばにヤギがいた。うんちを撒き散らしながら頭をどつきあって喧嘩を始めたかと思えば、仲良く寄り添い出す様子に、彼らの不思議な情緒の波を感じながら見ていた。スタッフたちによって外に連れられて行く一部のヤギが羨ましいのか、中に残ったヤギたちが姦しく鳴いていて、ヤギの目ってあらためて見ても怖いなと思った。

喧嘩後に寄り添う2頭
たくさんのホワイトウルフ
ここのフラミンゴはすごい小さかった
コモドドラゴンがゆっくりと動いていた

 色々と歩き回ったけれど、寒いせいでほとんど動物がいなかった。インディアンエリアやオーストラリアエリアなど国ごとにエリアがあり広かったけれど、見られない動物も多く、寒々しさに拍車がかかっていた。
 カナダエリアのモースを見たかったのだけれど、パンフレットには開園していると書いてあったのにも関わらず、道が閉鎖されており、夏しか見られないと書かれていてがっかりした。

笑いながらご飯食べてるように見える
シーツを被ってお客さんの目からにげる逃げるようにしているオラウータン
ウォンバットはどこにいるでしょう
牙が伸び続けて頭に刺さるという不思議動物バビルサ
ライオンもそうだったけど虎も寝てた
ハイエナ結構大きかった。富士急で見た子よりもふさふさ。
中国人の女の子が面白半分におちょくっていてこの子が興奮状態になっていたのを見て、
子どもの残酷さを垣間見た。


悪夢のような帰宅時間

 動物園からユニオン駅までは無事に辿り着くことができた。
 ここまでは、順調だったのだ。

 ユニオン駅に辿り着くと、行きで来た道を戻るようにしてGoバス乗り場に向かう。ブラックフライデーだったので、道が渋滞しているからバスの遅延が起きているかもしれないと思って電子板を見上げると、そこには「迂回路」という文字があった。
 どうやら、渋滞が深刻過ぎて私が乗るバスは1時間先まで迂回しており、いつトロントに戻ってくるか分からないという状態らしかった。オークビルまで行き、そこからハミルトン行きのGoバスに乗り換えろと書いてあるのを見て絶望を覚える。
 渋々ユニオン駅に戻るが、途中で時間がないことに気付き、猛ダッシュする。階段を駆け上がり、死にそうな思いでGoトレインに乗り込んだ。
 Goトレインもバスも2階構造になっており、暑い暑いと思いながら、2階の席に座った。
 Googleマップを確認すると、このままバーリントンまで行けばいいと書いてあるが、トロントの電子板にはオークビルと書いてあったため、オークビルで降りた。そしてこれが、最大のミスとなる。

 オークビルで降りるのは、初めてだった。バスに乗り込まなくてはいけなかったが、バス停が分かりづらく、右往左往する。オークビルの駅は無人駅に近く、スタッフもいなかったので誰かに聞くこともできず、Googleマップに従ってバスの番号を探した。
 そしてこのとき、誤ってGoogleマップを一度閉じてしまい、もう一度検索をかけ直すと、さっきまで見ていたバス経路が出てこなくなってしまう。1人で焦っているとバス停にバスが来た。一か八かでそのバスに乗り込むと、これが間違いだった。Googleマップを見ていると、目的地とは全く違う方向に向かって走り出していた。
 まずい。このバスはどこに行こうとしているんだ。
 焦ってGoogleマップを操作しようとすると、バスの車内が真っ暗になる。夜行バスに乗ってしまったんじゃないかと、パニックになった。通常のバスでも車内を暗くすることがカナダではあることを知っていたし、経験していたけれど、この時のバスは全て消灯したので、焦りが大きかった。紐を引っ張ってできるだけ最寄りで降りようとする。
 結論から言えば、このバスは案外近くで停車した。
 大慌てで降りると、もう一度Googleマップを見た。とりあえずオークビルまで戻るバスに乗らなくてはいけなかった。20分以上待たなくてはならず、私は暇潰しに歩いて次の乗り場まで向かい、寒い中、バスを待つ他なかった。
 スマホの充電がつきかける。モバイルバッテリーに繋いでぼんやりとした。家に帰ることができるか不安だった。この時点で19時30分過ぎ。帰ったら22時を過ぎるだろう。調べる度に、Googleマップの帰宅時間がどんどん伸びていくのがしんどかった。
 バスが来た。念の為、このバスがオークビルに行くのか拙い英語で確認をする。白髪の優しげな老人が微笑みながら「Yes」と言ってくれたことが、なんだか心に沁みた。

 オークビルに戻ってきて、もう一度Googleマップを見た。4番線に乗る必要があったのだが、自分が待つホームに4番線がくるのか分からなかった。なぜなら何にも標識がないからだ。
 電子板もない。日本なら、何かしらの標識があり、お知らせの電子板があるだろう。でも、ここにはそれがなかった。
 苛立ちが募る。私は一体、どこのプラットホームに立ち、待てばいいのか。そんなことを思っていると、Goトレインが停車する。
 日本では電車本体にも電子板がついており、このバスがどこ行きなのかがわかるのだけれど、ここの電車にはついていなかった。意味がわからない。駅員もおらず、これが正しいのかどうか聞きたいのに誰にも聞くことができなかった。
 何人かの女の子も、戸惑った様子で電車の電子版を探すように右往左往していた。わからなくなっているのは、私だけではなかったのだ。
 一か八かで電車に乗り込む。時間はこの電車に間違いないし、他の電車も止まっていなかった。
 電車の扉が閉まるのと同時に、向かい側に違う電車が止まった。
 あ。もしかしたらあの電車かも。
 そう思うのと同時に、電車は走り出した。Googleマップを見ると、私を示す青い玉は、ユニオン駅に向かって動き出していた。

 私はこのとき、かならパニックになっていた。この時点で20時半過ぎ。日本みたいに特急や快速などがあるかどうかもわからなかった。もしかしたらこのままユニオン駅まで一駅も止まらない可能性もあった。電車内には自分しかおらず、思わず大声で「嘘でしょ!?」と叫んでいた。
 やばいやばいやばい。
 大声で独り言を言っていた。
 もしこれが特急だとして、このまま行ったら21時過ぎにユニオン駅に着いてしまう。
 終電が何時なのか分からない状態だったので、トロントで一泊する可能性があるんじゃないかとさえ思った。しかも、夜のユニオン駅は治安が悪くなる。ドラッグの売人やホームレスが構内に入ってくるからだ。そんなところを歩きたくなかった。
 10分がとてつもなく長く感じられた。
 電車は一駅で止まった。

 慌てて電車から飛び出す。出口に向かい、Googleマップに従って乗り場を探すが、ホームが見つからなかった。苛立ちが止まらないし、泣きそうだった。
 こうなったら、誰かに聞くしかない。
 そう思って振り返った時、1人の女性がいて、拙い英語で話しかけた。
 最初、女性は不審そうにしていたが、道がわからないこと、どの電車に乗ればいいのか教えてほしいということを伝えると、女性もここは初めて来たということだった。それでも、教えてくれた。しかも、その女性も友人の誕生日パーティーに参加するためにハミルトンに向かっているところだったらしく、私はあなたについて行きたい旨を伝えると、一緒に行ってくれることになった。「この街は素敵なところだけれど、駅はよくない。不親切だわ」と言っていた。
 電車を一緒に待っている間、彼女は4人くらいの人たちに電車のことを聞かれていた。みんな道に迷っていたので、本当に不親切な作りなんだと思う。
 電車内では別々の席に座った。私は疲れ切っていたので、会話をする気になれなかったのだ。私は自分でも改めてGoogleマップを調べると、彼女とは違う駅で降りなくてはいけなかったようだった。
 その駅が近づいてきたので立ち上がって降りようとすると、彼女が「ハミルトンに行くなら、ここで降りないわよ」と引き留めてきた。私もGoogleマップを信用できなくなっていたので、「そうか、またGoogleマップが間違えたのか」と思って彼女の隣に座った。
 彼女は「あなたの住所を教えて」と行ったので、住所を伝えるとGoogleマップで検索し出す。「Oh, Jesus」と彼女は落胆の声を上げた。どうやら私はやっぱり先ほどの駅で降りなくてはいけなかったようだった。
 彼女は下唇を噛んでしばらく黙り込んだと思うと、早口で話し始めた。この時の私はすっかり疲弊していたのできちんと聞き取れなかったけれど、一緒にタクシーに乗ろうということだった。
 タクシーか。高いけど、もうそれで帰った方がいいか。
 そう思って、私は頷いた。この時、すでに22時を目前にしていた。

 電車を降りてタクシー乗り場への道を探していると、黒人の女性が私たちの様子を見て「あっちよ」と教えてくれる。私たちはお礼を言って、そこに向かうと彼女はクレジットカードをスマホに入力していた。それを終えると、タクシーを探し始める。
 見当たらないまま歩いていると、「これも冒険よ」と彼女は笑ったので「そうだね」と私も笑い返した。
 タクシーを探している間にも、彼女は道を聞かれていたので、道を聞かれるタイプの人なのだと確信した。
 タクシーに乗り込むと、彼女は友人に電話をし始めた。どうやら状況を説明しているらしかった。私を送ってから友人の家に行くから遅れること、友人から「なんであなたがそこまでするの」と聞かれて、私はいつもこうなのと答えているらしかったことがなんとか聞き取れた。
 彼女が電話を終え、私はどうやってお金を支払えばいいのかを聞くと、彼女は首を横に振った。「あなたは支払う必要はないわ。私が間違えたせいであなたは降りるべき駅を降りることができなかった。それにもし、私があなたの立場なら、私は相手に今の私のようにしてほしいと思うはず。だから、あなたは払わなくていいの。本当に気にしないで」と言われた。
 こういうとき、英語が出てこなくて、ありがとうとしか言えなかった。
 タクシーの中で、彼女と少し話をした。彼女はフランス人で家族とトロントに引っ越してきて10年ほどになること。フランスには親族がたくさんいること。私はオペアとしてカナダにいること。
 家に着くと、彼女に再度お礼を言う。タクシーの扉が開かずもたついていると、彼女が開けてくれた。最後の最後まで、私は本当にとろくさい人間だった。
 連絡先も知らない、初対面の彼女は友人の誕生日パーティーへと向かって行くの見送ると、玄関の鍵を探した。

 家に入ると、22時半を過ぎていた。私はすぐにベッドに横になり、無事帰ってこれたことを噛み締めながら、すぐに眠ってしまった。


運の良さだけで生きている

 翌日、朝起きてすぐにシャワーを浴びた。
 髪の毛を洗いながら、自分の引きの良さを噛み締める。彼女は本当に良い人だった。おそらくタクシーは5000円くらいしたはずだ。にもかかわらず、彼女は自分のミスだと全て支払ってくれたし、最後まで私の面倒を見てくれた。

 私は本当に運が良い。
 最近、このことをよく噛み締めるようにして生きている。
 正直、30代にもなって貯金を切り崩して海外に滞在しているし、帰国の航空券は17万以上もして、銀行の残高を見れば金銭的に恵まれているとは言えないけれど、でも海外に来て子どもたちと一緒に過ごし、彼らの純粋さに癒される日々を送ることができている。
 1年間プー太郎をして、来年からどうなるかなんてちっともわからないけれど、2024年という響きがなんだか縁起がいいなと思うし、辰年と聞いて、来年はいい年になるという根拠のない自信が心を満たしている。
 離婚も経験したし、とんでもないブラック企業に勤めたりもしたけれど、今となってはどれくらい辛かったのか、思い出すこともできない。当時は気が狂いそうなくらい辛かったけれど、結局時が経てば癒える程度のトラブルだったのだ。
 家庭環境も劣悪だった。毒親は2人とも浮気をして、小学校低学年のころから家庭内別居で冷え切っていた。母親からは暴力があり、ギャンブルに金を使われ、父親からは不快な性的接触があったり、祖母からはブスだと言われる日々で、今思い返してみてもとんでもない人たちだったけれど、結局私は彼らを恨むこともなく今を生きている。ほとんど縁を切っているも同然なので、この先会うことはないだろうし、彼らが死んでも悲しまないだろうけれど、恨みもせず彼らが幸せになるのであればそれいいと思えることは、本当に運が良いことだと思う。私は私の根っからの楽観主義であることに感謝していたし、こういう気質に生まれることができたのはラッキーだったと言う他ないだろう。

 私は何か大きな成功をしたわけではないけれど、それでも日々を平穏に生きることができている時点で、大きな幸運を手にしているのだと思っている。
 今、世界中でたくさんのうねりが起きていて、私たちは両手から溢れんばかりの課題を抱えて生きている。おかしな理不尽なことばかりが起きていて、自分達は不幸だという気持ちが先行していく時代だ。
 でも、時々、今生きているということはとんでもない大きな幸運を手にしていることと同義なのかもしれないと思ってみるのもいいのではないだろうか。深呼吸するときに、そっとこの気持ちをまぜるだけでも、胸が楽になるかもしれない。

 私は、運の良さで生きている。
 なんの能力もないけれど、運の良さが私を支えてくれている。

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