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Au pair ワーホリ カナダ生活196日目 「外国人であり、弱者であるということ」

 今日、ジャパレスのトライアルで3時間働いてきた。結果的に、採用になったのだと思う。
 今日の夜ご飯の時間にホストファミリーに伝えたところ、少しだけ一悶着があった。そのときに自分が改めてここでは外国人であり、弱者の立場にいるんだということを再認識したので、2日連続だけれどnoteを書いてみた。



中国人オーナーのジャパレスにて

 バスを乗り間違えることもなく、無事にお店に到着した。
 前回書きそびれていたけれど、履歴書を持ってきたときはバスを4回ほど間違えながら辿り着いた。カナダのバスは少し分かりづらい気がしているのだけれど、これはまた違うところで書こうと思う。
 15分前に到着し、少し緊張しつつも、働きたくないなという気持ちもあいまって、「まあ駄目ならのんびりライフが続くだけだし、むしろ不採用になった方が精神的に楽だな」なんて思っていた。私のワーキングホリデーの目的はホリデーに重点をあてているからだ。
 「じゃあなんでトライアルに行くの?」と聞かれれば、たまたまホストマザーが求人情報を知っていて、「ワーホリっぽいことも少しはしておくか」と思い、出しに行った履歴書でたまたま連絡がきたからという、全てなんとなくの流れに身を任せた結果だった。

 店に入り、「ハロー」と声をかけた。オーナーがひょっこりと顔をのぞかせる。「あらぁ、いらっしゃい」というような雰囲気で出迎えてくれたオーナーは開口一番、「日本語で話していいよ」という中国人訛りのある日本語で言ってくれた。
 「え!?いいんですか!?」と私は思わず言ってしまった。私は今回のワーホリが英語取得が第一目的ではないので、緩いサポートの中、ストレスなく自分を少しずつ成長させることができるなら、それでいいと思っている。自分が本気で取り組みたいことなら努力は惜しまないけれど、それでもできるだけストレスなくのんびりとやっていく方がいいということを、ここ数年で自分なりに学んでいた。
 「いいよいいよ、全然いいよ。私、日本語長く使ってないからあれだけど」と朗らかに笑いながら、お店のTシャツとエプロンを貸してくれる。「とても緊張していたので、助かります」と伝えて、最初はお客さんもなく暇だったので色々と教えてもらう時間がはじまった。
 すると突然、「コーヒー飲める?」と聞かれて、「飲めますよ」と答えると、ティムホートンの大きいサイズのカフェオレが出てきてまたもやびっくりしてしまった。「あなたが何を飲めるかわからなかったから」と言いながら手渡してくれて、「ありがとうございます!」と大声が出た。

 お店のスタッフはオーナーと私を含めて5人。
 オーナー曰く、「今週はリーディングウィーク(学生たちのテスト前の学習期間としてある1週間のお休み)だから、忙しくないよ」ということだった。確かに、最初は人があまりにも来なくて、こんなに人が必要なのかなと思っていると、デリバリーがたくさん鳴り始める。ウーバーイーツを含めて3つのデリバリーをしているらしく、それらが交互に鳴りながら、お客さんもちらほら入ってきて、瞬く間に忙しくなった。
 慣れない飲食店のアルバイトだったので手間取りながらも、11時から14時まで働いた。
 私はこの日、何時にトライアルが終わるのかがわからなくて、「そろそろ聞こうかしら」と思っているところにオーナーさんも「今日何時までやるの?」と聞かれて、「別に何時でもいいですよ」と伝えると「普段はこのくらいでやめるんだよね。じゃあもうやめようか」と言われて終わることになった。
 「いつなら大丈夫?」と聞かれたので、「週3日で月曜日から金曜日の間であればいつでもいいです」と言うと、「じゃあ、次は月曜日にしようかな。多分午後3時から7時までだと思うけど、またスケジュール確認して連絡するから」と伝えられた。契約書も出てこないし、ものすごくふうわりとした始まり方だなと思ったけれど、これが海外の感じなのかなと思って、「わかりました」と答えた。

 洋服を着替えると、「何かご飯つくっていきなよ。食べていいよ」と言われ、「え!? つくる!?」と声を上げていると、「カレー食べたい?」と聞かれたので、「いや、この角煮の丼が食べたいです」と角煮の入った炊飯器を指差しながら主張した。「いいよ」と言われ、テイクアウト用の丼に詰めてくれる。私は以前、これをテイクアウトで食べていて、とても美味しかったことをしっかりと覚えていたのだ。
 「私、前これ食べましたよ」と言うと、「え!? ほんとに!?」と今度は向こうがびっくりしていた。「私これ、大好きです。本当に美味しいから」と容器を受け取ると、「日本ではこれ、なんという?」と聞かれたので、「うーん、ルーロー飯の味に似てるからなぁ…。でも、角煮丼でもいいと思いますよ」と伝える。すると、「これ私のオリジナルだから、名前、角煮丼でいいのかわからないよ」とオーナーがぼやいたので、「え!? オリジナル!?」とまた驚き返すこととなった。
 「ルーロー飯はダメなんですか? 多分、中国語ですよね。日本にもありますよ」と聞いてみると、「うん、ルーロー飯は中国語だよ。え? 日本にもあるの?」「ランチとかでもありますよ」「なんて書く?」「カタカナのルーローに飯と書いてハンと読みます。2、3年前くらいから流行ってて、私もよく食べました」という会話がオーナーにとって衝撃的だったのか、他のスタッフにも中国語で勢いよく伝え始めた。私以外のスタッフは中国人だったので、みんな「へぇ、そうなんだ」という空気とともに、女の子のスタッフの「ほんとに〜?」という日本語を聞いて私も一緒にくすくすと笑うのだった。

 そんな、なんとなく和気藹々とした空気の中、最後はみんなと「お疲れ様でした!」と言い合ってトライアルが終わった。
 そして私は緊張が抜けた安堵感のせいか、もらったカフェオレをお店に置き忘れて意気揚々と帰路へと着き、バスに乗りながら、「トイレ借りておけばよかったな。カフェオレも忘れたし、なんでドジ踏まないと気が済まない性分なんだろう」とため息をつくのだった。


トライアルの様子を報告すると起きた一悶着

 夜ご飯、今日起きたことをホストペアレンツに伝えた。
 「決まってよかったですね」とホストマザーが言ってくれたのだけれど、かなりふわっとした状態で始まっているので、私自身、本当に採用になっているのかあまり自信がなく、「多分そうだと思うんですけど。なんかゆるゆるとはじまったので。契約書もなくて、時給も聞かされてないから。でも、多分次が採用後の初出勤だと思うんですけど」と伝えていると、ホストファザーが「無給のトライアルなんてそもそもない。違法だ。そんなことはしてはいけない。契約書もないなんておかしい。契約書にサインしてから雇用が始まる。だからきちんと確認するべきだ」と言い始めた。
 私はTikTokやYouTubeで色々ワーホリのアルバイト事情を見ていたのだけれど、無給でトライアルしている人もちらほらいたので、無給のトライアルは日本のインターンシップみたいなものという解釈でいた。だが、ホストファザー曰く、「違法である」ということ。ホストファザーは生粋のカナダ人(カナダ以外の国での生活の方が長いけれど)であり、しかも人事周りのことを大学で勉強していたらしいので、確かなことだと思う。
 ちなみに、この時点でホストマザーが以前働いていた日本食店で行われていたチップをお店側で集めて平等にスタッフに配るということも違法だったらしく、そちらにまで話が飛び火していた。
 でもホストマザー曰く、「無給のトライアルは実際よくあることだし、特に飲食店はありますよ。日本でも18歳以下の喫煙飲酒を発見したときに必ず警察に通報するわけじゃなかったり、残業代支給の部分がぼやかされているからって労基に必ずいくわけじゃないように、違法だけど暗黙になっている部分があるんです。それがあるからといって必ずしも悪いとは限らないです」ということだった。
 でも、ホストファザー的には、「差別的な発言になるかもしれないけど、アジア系はブラックが多い。英語がわからないし、移民だったり、ワーホリだったりでカナダのことを知らない人が多いから」という意見を持っていて、ホストマザーは「わざわざこの初日にそんなことを言うことない」と注意したりと2人が少し過熱し出してしまう中、背後では2歳の子どもが耳をつん裂くくらい叫び声をあげていた。私はひとり置いてきぼりの気分だった。

 さて、皆さんには私のことがのほほんとした阿呆に見ていることだろう。契約書のことも時給のことも聞かずになんとなく流されていて、結局トライアルも違法なことで、仕事が本採用かどうかもわからずに4時間タダ働きして帰ってきているのだから。
 個人的に、ホストファザーの言っていたことは、実際に起きてから考えればいいと思っていた。そもそも、不安要素があったとしてもこんなにもほけっとしていられるのは私のメンタルがとても安定している証拠で、何にも焦っていないのは、私が私自身をとても信頼しているからだ。「何かが起きたとしても、別に死ぬわけでもあるまいし。なんとかなるし、なんとかできる」という気持ちの表れであり、変に肩に力が入っていないのだと思う。それにくわえて、今の私は自分に何も課していなかった。お金がもらえる職がなくても、生きていく上で大切な食住の確保はできているので、仕事が見つからなければ帰国しなければならない状態でもなく、お金がじわじわと目減りした状態で帰国するだけの話だった。帰国後もすぐに日本で仕事が見つかるだろうと気楽に考えているので、貯金の減少も大した問題ではないと思っている。多少のそわそわ感があるのは、仕方ないけれど。

 私は、オーナーの雰囲気を見て肌で悪い人じゃないだろうなと感じていた。でも、雇用の仕方だけでも見れば確かに悪い人の可能性を秘めている。だけれど、今の時点では全くわからないのだ。私は、「あの人、悪い人だったかも」なんて嫌な気持ちを抱えながら過ごしたくないし、実際に悪い人だとわかってから怒り出すのでも遅くはないのではないかと思う。いい人だと信じていて裏切られた苦しみも重いだろうが、疑惑のある嫌な気持ちを持ち続けることもまた苦しいだろうから、私は「いい人だと思ったんだけどなぁ」とがっかりする方がマシだと思うし、自分の心が悪くならないだろうなと思っている。他者に対して嫌な気持ちを持ち続けることは、本当に自分の心を悪くさせるのだ。

 お金や時間の損はどうするの?と思う人もいるかもしれないけれど、「自分が損しているかどうか」ということについて、30年弱生きてきて、あまり考えたことがない。
 単純に、面倒臭いからだ。
 いちいち自分の行動や相手の行動に対して細かくそろばんをたたくようなことをするのは、面倒臭い。私は大雑把な性格だし、死に直結しない限り、「まあいいか。こういうことできたし」で済ませてしまうざっくばらんな性分も、功を奏しているような気がしている。


私は外国人で、弱者

 今日、ホストペアレンツの会話を聞いていて、ホストマザーが「あなたは生粋のカナダ人だし、英語が話せるからこういうこと(違法的な場面に遭遇しないだろうという意味)にはならないだろうけど」ということを言っていたのを聞いて、「あぁ、私って今、外国人で弱者なんだな」とふと思わされた。ホストマザーは日本人なので、もしかしたら彼女にも何かしらの苦労があったのかもしれない。

 同時に、「違法」なことを「違法」だと叫ぶことができるのは、強者の立場にいる特権なのだろうとも感じた。弱者は「正義」を叫ぶことはできない。よく言う、「勝者こそ正義」というものだと思う。弱者は悪いことのお陰で生かされていることもあるし、そもそも悪の中にいることを知らない可能性もあるだろう。叫ぶことができたとしても、それはすぐに消されるのだ。

 そして、日本にいる外国の人たちもほとんどが日本にいる限りは弱者なんだなと思った。日本の契約書を読めるようになるまで、どれくらいの時間がかかるのだろう。日本の法律を理解できるようになるまでに、どれくらい大変な思いをするのだろう。もちろん、全員ではないと思うけれど、なりやすいことには変わりない。
 私は日本に戻ったら、彼らより有意な立場になると思う。日本で違法なことも理解しているし、嫌なことを母国語で流暢に主張することができ、契約に目をこらして自衛することもできる。家を借りることも簡単にできて、カードの契約も楽にできるだろう。実際に今までに、モンゴル人の男の子と働いたことがあったけれど、「給料を全然払ってくれない」と会社に対して怒っていたことがあった。でもそれを違う日本人に聞くと、それは契約上、次の月に支払うことが決まっていたらしい。彼らは、わからないがゆえに味わなくても良い不安や怒りを感じることがあるのだと思う。

 外国人であるということは、それだけで弱者に一歩近づいていくのだなと思った。もちろんあらかじめ色々調べて回避することもできるだろうけれど、やっぱり不利なことには変わりがないのだ。
 例えば、私は英語がわからない。笑顔で辱めを受けるような言葉を吐かれても、気づきはしないだろう。雰囲気で察することはできるかもしれないが、そんな経験をしたあとは、その国籍の人が言うことの意味を疑惑的に捉えるようになり、心が荒んでいくに違いない。
 でも、こうした差は一生埋めることはできないし、法律でどうにかできる問題でもない。そういうことをする人を撲滅することも不可能だ。
 結局、自分の身を守ることができるのは自分だけなんだなと心底思った。誰かが助けることができる問題ではなく、もしできるとしてもそれはささやかなサポートでしかない。弱い立場になったとき、自分の経験と手の中にある能力が1番自分自身を救ってくれるのかもしれない。

 日本にいると触れることがない、「自分は外国人」という感覚。
 それは本当に、ふとしたときに思い出す。

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