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【感情紀行記】信任

 東京駅から皇居へと真っ直ぐに伸びる行幸通りの石畳を馬が音を立てて、ゆっくりと進んでいく。モーニングコートや民族衣装などの正装に身を包んだ大使が豪華絢爛な馬車に乗り、皇居へと入っていく。信任状捧呈式と呼ばれるこの儀式は、その国の国家元首からの信任状と、前任者の解任状を携え、その国家の元首へと面会し、手渡すものである。ここまで仰々しいものでなくても、人間が生活していれば日々信任というのは行われている。

 大学生という身分になり、社会的信用は多少増えた。これを活用し、定期的にインターンを始めた。人を信用し、要件を代理でこなしてもらうというのはなかなかハードルの高いことである。特に仕事となれば金銭も関わってくる上に、金銭では回収できない、対外的な信用問題に関わるから大変なことだ。そのため、仕事は内部で処理できることから始まった。周囲にいる人から様々なことを学ばせてもらいながら、手取り足取り色々な雑務をこなした。少しずつクリエイティブな仕事を任せさせてもらえるようになったり、自分なりにアレンジしたりすることによって職場の人々の頼まれてはいないけれども喜ばれるニーズに応えていった。会話も少しずつ交わすようになり、人としての信任も積み上げ、他のところから来たスパイでないことも証明していくことに成功した。電話を取ったり、かけたりする対外的な仕事も増え、機密的な部分や重要な案件まで任せてもらえるようになった。誕生日会なども開いてもらうなど、もはや職場の一員として完全に迎え入れてもらうことができ、一層のやる気と団結力がついた。

 働きやすい職場とすることができ、チームの歯車として、潤滑油としてしっかりと貢献している意識が芽生えた。「この仕事お願いできる?」とか、「この仕事やってみない?」という声がけを日常的にしてもらえるようになった。日常の中の小さな信任状奉呈式である。

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