2023年に読んでおもしろかった小説(一月~四月)

 読書記録的なものはあまり公開していないのだが、それなりに読んではいるのです。備忘録として、強く印象に残っているものだけまとめておこうと思います。
 あくまでも「エビハラが今年読んだ本」なので刊行時期なんかはバラバラです。今年の一月から読み終えた順にあげていきます。面白かった順とかではなくて、読んだ順です。
 同人小説とかWEBのものを含めてしまうとえらい数になってしまうので、とりあえず商業で出ているものだけにします。

①「猫の地球儀」 秋山瑞人著
 焔の章、幽の章の上下編からなるSF小説。
 可愛らしい表紙に加え、登場するキャラクターのほとんどが猫、という設定だったのでファンシーな作品なのかと思いきや、信じられないほどにハードなSF作品で度肝を抜かれた。重厚感のある文章に加え、テーマがすごい。
 多くの人(猫)が信じている教義を否定してまで真実を追い求めることは、本当に正しいことなのか。著者があとがきで言及しているが、地動説を唱えた「ガリレオ・ガリレイ」と教会との関係性をモチーフに描かれるハードコアな物語世界に、脱帽せざるを得なかった。
 最後の一文があまりに美しく、そして切なかった。

②「ミミズクと夜の王」 紅玉いづき著
 電撃小説大賞の大賞受賞作なのだが、いい意味であまりラノベっぽくない作品。西洋的な世界観をベースにしたファンタジー作品で、正直なところあまり「目新しい要素」みたいなものはないのだけど、キャラクターひとりひとりの造形とディテール、痛みを感じざるをえないストーリーの中で、確かな優しさと愛情がある。おためごかしではない優しさをまっすぐに描く、物語の王道とはこういうものか、と改めて感じた作品だった。

③「ある男」 平野啓一郎著
 偶然、著者の平野氏の講演会に参加する機会があったことで手に取った作品。映画化もされていたタイミングだったので、「亡くなった夫が戸籍とは別の人間だった」という導入は知っていたが、それが誰の視点で描かれるのかまでは把握していなかった。彼らが抱えた苦しみとは何なのか、そして平野氏の提唱する分人主義を核に語られる、私が私であるということの難しさとその意味を、深く考えさせられた。何であれ、人の支えとなるのは愛情だ。人の営みとは、やはり他者なしにはありえない。その他者の数だけ自分がいる。「本当の自分」なんて存在しない、という言説は心を楽にした。宮崎県が舞台ということもあり、作中のシーンも想像しやすかった。

④「ブラックロッド」古橋秀之著
 異形の街「ケイオス・ヘキサ」を舞台にしたサイバーパンク/オカルトパンクSF小説。……オカルトパンク? 聞いたことないジャンル!!とワクワクしながら開いたページでいきなり始まった,、戦闘訓練を受けた僧侶の集団「機甲折伏隊(ガンボーズ)」の大バトル。大体の用語に仰々しいルビがふられる、厨二心をハチャメチャにくすぐられる舞台設定。そして笑わない特捜官、ブラックロッド。魅力的なキャラクター達が繰り広げる外連味たっぷりのバトルと、訪れる救いのない結末……。かつてない読書体験をさせてくれた、唯一無二の一冊だった。

⑤「アムリタ」        野崎まど著
 「舞面真面とお面の女」
 「小説家の作り方」
 「死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死~」
 「パーフェクトフレンド」
 「2」
 ここはあえて六冊同時に掲載。それぞれ独立して読めるものの、最後の「2」を最大限に楽しむためにはシリーズ全てを読む必要がある連作。人の常識では図れない「天才」が各作品に登場するのだが、最初の「アムリタ」に登場した人物が、やっぱり最強だった。物語設計に独特の雰囲気がある作家さんなのだけれど、キャラクターのかけ合いは笑えたり、ちょっと恋愛っぽい展開があったりと、エンタメとしてのサービス精神はしっかりとありつつも、拭いきれないクレイジーが根底にある作品群で、めちゃめちゃ楽しめた。

⑥「残月記」 小田雅久仁
 月をモチーフにした二本の短編と、一本の長編。表題作の「残月記」が一番のお気に入り。現代日本をベースとしたディストピア的な世界とクロスする、月の幻想的な世界。社会派な重苦しい物語と思いきや、根底にはしっかりとエンターテイメントの魅力があって、すごく楽しく読めた。幻想的な描写も素敵で、文章表現一つとっても魅力的だった。


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