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今回の見所をお知らせします

現在開催中の特別展、『アーツ&クラフトとデザイン展』、私達がとても楽しみにしていた展覧会です。何しろ可愛いんですよね。実際には、単純に可愛いだけでは無くて、こうしたデザインの生まれた社会的背景からひもとく展覧会でもあるのです。今回は、学芸員さんからのレクチャーの内容を、まとめていきたいと思います。

今回の展覧会は広島を皮切りに山形、府中、愛知と巡回してきた展覧会です。展示会場は4章構成となっています。
第1章【モリス・マーシャル・フォークナー商会とモリス商会】
まずは、展示室に入って正面にあるのが『格子垣』。つるバラの咲く生け垣をイメージしたこちらの壁紙はモリスが妻ジェインと共に住んだ『レッド・ハウス』の壁紙として制作したもので、これをはじめとした一連の室内装飾からアーツ&クラフツ運動が始まったと言われる記念すべき作品です。展示室内には、まず、これら一連の壁紙のデザインが並んで展示されています。
『マリーゴールド』、『ルリハコベ』、『ウィローバウ』など、今でも様々な商品やテキスタイルデザインなどに用いられている有名な作品がオリジナル版で並んでいます。その背後にはかの有名な『イチゴ泥棒』の生地。
こちらはキャプションでも説明がありますが、インディゴ抜染という、非常に手間のかかる作業工程を経て制作された一点です。その他にも同様の技法を用いて制作された『兄弟ウサギ』、『ロウデン』『メドウェイ』などもじっくりと見られます。(興奮しすぎて作品を指さすのは構いませんが近付きすぎると監視員が寄ってきますよ。(笑))その他にも<モリス・マーシャル・フォークナー商会>の時代の作品から独立して<モリス商会>までの代表的な作品の数々をお楽しみ頂いた後は、モリス晩年のデザイン作品である、本の展示が見られます。中世の手写本を手本とした圧倒的な模様の美しさ。これでもかといわんばかりにみっちりとうねる唐草模様と飾り文字。当時の貴重なオリジナルのため、劣化が進行して完全に開いておくのが難しいので、展示台に角度をつけて工夫してあります。
そして展示室の一番奥に、ぶらぶら美術館でも取り上げられたサセックスチェアや、キャビネット衝立などの家具。丁寧な手仕事のもつ仕上がりの美しさが素晴らしい作品です。家具の背後に下げられたタペストリーも美しいのでじっくりご覧下さい。
(個人的にはサセックスチェアの後ろのタペストリーのリスが可愛くてお気に入りです。)

第二章【アーツ&クラフツ展覧会協会】
第二章の入り口に並んでいるのはウォルター・クレインの絵本。アールヌーボー様式で描かれた子供向けの絵本は、現代人がみても、そのデザイン性の高さに見入ってしまいます。ウォルター・クレインはアーツ&クラフツ運動を広めるために開催されたアーツ&クラフツ展覧会協会の会長も務めた有能なデザイナーで、アートワーカーズギルドの代表でもありました。絵本だけでなく、織物の文様デザインや壁紙などの室内装飾等も手広く手がけたデザイナーです。壁面ケース内にも彼の作品が飾られています。
その他にも建築家でもあったC.F.アンズリー・ヴォイジーの壁紙デザインは、リアリティーよりも単純化された形によって物事の本質を捉えていく方向へと変化していくのが見て取れます。中央独立ケースの中のガラスランプは、モリスと交流のあったデザイナーのW.A.スミス・ベンソンのもので、ガラス部分の優雅な曲線の美しさと、それを損なわないように曲線で構成された金属部分の細工の確かさが大変美しいランプとなっています。当時流行し始めたワセリンガラスなどを使用しているのも特徴の一つです。
反対側の壁ケース内には、ウィリアム・ド・モーガンとモリスの制作したタイルが展示されています。当初、タイルはオランダから素焼きの状態の素地を輸入して、国内で絵付けデザインを行うのが一般的でしたが、最終的には原料の粉末を輸入して、型にはめて圧縮して素地から制作するようになりました。初期のものはモリスが平面のタイルに絵付けしたものですが、後期には型で凹凸をつけたタイルに細くタイル生地を絞り出して文様を描く日本ではイッチンと呼ばれる技法も使用されて、より複雑で美しいデザインが作られるようになっていくのが分かる展示になっています。そして銀工芸製品の職人を育成したことでも知られるC.ロバート・アシュビーによる銀食器からジェームズ・パウエル・アンド・サンズのガラス製品を楽しんで第一会場は終わります。

第三章【英国におけるアーツ&クラフツの展開】
第二展示室を出て右手奥に進んでいくと、見えてくるのが第二会場です。
おっと、・・・その手前には府中の展示でも人気だったオリジナルしおり制作のコーナーが。可愛らしいスタンプを使って、自分だけのアーツ&クラフツしおりを作ってから隣のフォトスポットで、レッドハウスと一緒に記念撮影。会場の彼方此方に姿を見せている赤い小鳥たちもしっかりポーズをとっています。そこから進むと、第二会場の入り口にはビーデイルチェア。
こちらの会場ではリバティープリントで知られるリバティー商会の製品デザインやそこにデザインを提供していたシルヴァー・スタジオの製品達。
銀製品及びピューター製の食器類などで知られているアーチボイルド・ノックスの作品などが並んでいます。その他にも、アーツ&クラフツ運動によってジュエリーなどの装身具の世界でも、いわゆる上流階級向けに制作されていたハイ・ジュエリーとは異なる、水晶やムーンストーンなどの半貴石などとエナメルを使用したアクセサリー製品の展示が並びます。ここでは宝石は主役では無く、あくまでもデザインをひきたたせるための脇役となっています。この年代になってくると、ようやく、モリスが思い描いた「美しいもの、デザイン性に優れた日用品を様々な人の手元に」という理想が現実に近付いてきます。皮肉なことに、急速な産業革命による機械化という現象に対する反発から始まった【手作業の美しい製品】を人々の生活にというアーツ&クラフツ運動は、機械による制作工程の合理化によってようやく価格帯を安価に抑えて民衆の手に届くものとなったのです。
そしてアーツ&クラフツの波は海を渡ってアメリカ大陸へ。
こちらでは、フランク・ロイド・ライトのステンドグラス作品二点と、ティファニーのランプやステンドグラス製品を展示しています。フランク・ロイド・ライトは、日本では明治村に移築されている旧帝国ホテルの建築家として有名ですが、シカゴのアーツ&クラフツ協会の創設メンバーでもありました。アメリカでは、イギリスで言われたような【機械化への否定的観点】はあまりなく、むしろデザイン性の高い(手工業製品に限らず)工芸品という考え方が主流となっていきます。
もう一つの展示ティファニーの製品ですが、こちらはよく混同されがちなものとしてチャールズ・ルイス・ティファニーが創設した「Tiffany&Co.」の製品ではなく、ルイス・コンフォート・ティファニー創設のグラスメーキング会社の製品です。教会などのステンドグラスの制作からその残りのガラスを使用した小物入れ、ランプスタンド、デスクセットや写真立てなどが知られています。美しい虹色に輝くファブリル・ガラスを使用したテーブルランプなどは、非常に美しいものです。
最後の一角では、当館の寄託品から、イギリスの同時代の陶器の展示が見られます。こちらは巡回しませんので、お見逃しのないようにご覧下さい。

駆け足になりましたが、今回の展覧会、是非実物を見に来て下さいね。
最後までご覧頂き、有り難うございました。

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