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【活動報告】オンラインイベント「障害のある子どもへの性教育、どう始める?どう深める?」

ピルコンnoteを開いてくださり、ありがとうございます!ピルコンインターンのごっしーです!
このnoteでは、ピルコンが主催するオンラインイベントのレポートをお届けします📝

ピルコンでは、9月20日(水)19時半より、オンラインイベント「障害のある子どもへの性教育、どう始める?どう深める?」を開催しました💡
ゲストにお迎えしたのは、障害児・者の包括的セクシュアリティ教育の専門家である伊藤修毅さん。イベントでは、知的障害・発達障害のある子ども・若者が抱えやすい性についての課題に対して、禁止メッセージばかりにならない、ポジティブな性教育のためにどんなことが大切なのかを、障害者を取り巻く性教育の現状や教育現場での実践例も交えながら、お話を伺いました。

今回のイベントは、当日参加・後日視聴を合わせて、なんと250名以上の方からお申込みをいただきました🙌
ご参加いただけなかった方も、このレポートでイベントの様子をお伝えいたしますので、ぜひ最後までご覧いただけますと幸いです!


Talk1 日本の現状

まずは、障害のある若者に対してどのような性教育が行われているのか、日本の現状を見ていきましょう。

伊藤先生スライドより ※無断転載・転用禁止

日本は2014年から障害者権利条約という、障害者の人権や尊厳を保障する国際的な条約に批准しています。この条約の中では、障害者の恋愛や結婚に関する差別を撤廃する義務に加え、障害者が性教育を受ける権利があることが、はっきりと明文化されています。

しかし実際には、知的障害のある若者が、特別支援学校やグループホームから交際を制限されたり、性的関係を禁止されるケースが多いそうです。
このような現状の背景として、伊藤先生は「障害のある人々の性に関する過去の言説を、日本が未だに引きずったままにしている」と指摘しています。

包括的性教育の国際的な指針である『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』によると、歴史的に、障がいのある人々は性的な欲望がない、もしくは性的抑制がきかない存在だとみなされてきたそうです。そのため、性教育は一般的に必要のないもの、または有害なものとして考えられてきました。

しかし、障がいのある若者の誰もが性的な存在であり、最高水準の健康を維持することを含む、かれらのセクシュアリティを楽しむ権利、良質なセクシュアリティ教育と性と生殖に関する健康サービスにアクセスする権利を持っています📝

このような国際的な基準から、日本の現状はかなり遠いと言えますね・・・・・・。
では、障害のある子どもや若者に対し、具体的にはどのような性教育が行われるべきなのでしょうか?

Talk2 抑制的性教育の再考

先ほど紹介した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の中では、「誰もが、自らのからだに誰が、どこに、どのようにふれることができるのかを決める権利をもっている」とされています。これを「からだの権利」と呼びます💡
まずは、この「からだの権利」について、具体的なテーマを例にとって考えてみましょう。

例えば、障害のある子どもが抱えやすい性の課題の一つに「性器いじり」があります。「性器いじり」とは、プライベートな空間ではない公共の場などで、自分の性器を触ってしまうことです。
しかし、子どもの「性器いじり」に対して「汚いから触ってはダメ!」と教えてしまうと、子どもは性器に触ること自体がトラウマになり、出来なくなってしまいます。その結果、自分の性器を洗ったり、マスターベーションを獲得する過程に支障が出てしまいます。

伊藤先生は「性器いじり」ではなく「性器タッチ」という表現を使い、触ることをネガティブに捉えるのではなく、むしろ性器にさわれる力を育むことが大切であると指摘しました。
子どもが性器を触っているのを見たら、まずは子どもが「なぜ、いま」性器を触っているのか、大人の側が理解しようと努めることが、性教育の第一歩だといいます。性器にかゆみや異常がないか、もしくはつまらなくて退屈だったりしないか、その子の理解に役立てることができます。性器を触ることをきつく禁止するのではなく、TPOに応じてきちんと判断できるようにサポートしてくことが大切なのです。

また、近年話題になっているプライベートゾーン教育も「からだの権利」の侵害になりうる場合があると、伊藤先生は指摘します。
プライベートゾーンは「水着で隠れるところと口」など、身体の中で特別な部位を指す言葉として用いられますが、そこには「ほかの人に見せたり、触らせたりしてはいけません」という、大人からの一方的な禁止メッセージが伴います❌
このような禁止メッセージによる教育は、「自分のからだはおとなが管理するものだ」という感覚を養い、かえって性被害リスクの増大に繋がる可能性もあるといいます。

だからこそ、性器も含めて身体の名称や働きを子ども自身が学び、自分のからだを自分で触れて、決められる力を育てていけるようにすることが大切なのですね。

Talk3 ふれあいを学ぶセクシュアリティ教育

現在、多くの特別支援学校や特別支援学級では「腕一本分離れましょう」「1m以上離れましょう」など、他者と機械的に距離を取ることに重点が置かれた指導が行われているといいます。
しかし、このような他者とのふれあい自体を禁止する教育は、どのような身体的接触なら自分が「心地よい」または「嫌だ」と思うのか、自分自身で感じられるようになる過程を阻害してしまいます。
だからこそ、「距離感を教えよう」と思うのではなく「同意に基づいた、お互いに心地よいふれあいを学ぶ」セクシュアリティ教育の実践が求められています。

では、他者との心地よいふれあいを教えるために、具体的にどのような実践方法があるのでしょうか?
イベントの中で伊藤先生が紹介してくださった手法の1つが「さいころゲーム」です🎲

さいころゲームとは、「あくしゅをする」「ハイタッチをする」「頭をなでなでする」「ハグをする」などをサイコロの目にして、ころがして出した目に書いてあるふれあいを行う、というものです。
子どもの発達段階に合わせて、となりの人とする、相手を指名するなどのアレンジを加えることも可能ですが、伊藤先生おすすめのアレンジが、実際にふれあいをする前に「○○してもいいですか?」「いいですよ/いやですよ」といった同意のやりとりを入れることです。
このような「同意」をゲームで実践することで、子どもは「いやな時はいやだと言ってよい」ということや、「○○はいやだけど、△△ならいいよ」というコミュニケーションの取り方を学ぶことができます。

この他にも、性教育の実践例を取り上げたニュース記事や、発達が気になる子どもと大人が一緒に性について学べる書籍についてもご紹介いただきました。
もっと学んでみたい!という方は、ぜひこちらもご覧ください👀

まとめ

性的問題行動と呼ばれる行動は、その行動自体が「問題」なのではなく、性教育を保障していない社会の問題です。伊藤先生は、問題とされる行動を発達要求の現れ、すなわち「性教育要求行動」と受け止めましょう!といいます。

この社会の「おとな」のほとんどは、適切な性教育を受けていない、性教育ネグレクト状態で育っています。しかし、だからといって次世代に性教育を十分に保障しないままでは、ネガティブな連鎖が起こり続けてしまいます。

この連鎖を断ち切り、すべての子ども・若者に包括的セクシュアリティ教育を保障する流れを作るためにも、まずは私たちが性のタブー意識から脱却し、性と生についてとことん学び直し、堂々と性を語るための言葉を獲得する必要があるのです。

Q&A

事前のアンケートと参加者の皆さまから届いた質問に、伊藤先生からお答えいただきました。いくつか抜粋してご紹介します💭

Q.支援学校で外部講師として性教育を行うときの形態(集団だと難しいけれど...)について悩んでいます。
A.単発の短い講演で伝えられることは「性の話はしてもOK」「困ったときは相談」ということに限られると思います。また、子どもにとっての相談相手は支援学校の先生になるわけですから、外部講師として子どもへの性教育を行うときには、同時に先生方へも働きかけることが重要だと考えています。

Q.こだわりの強いタイプのお子さんに認識や行動変容を促す効果的なアプローチはありますか?
A.「行動変容」に目を向けてしまうと、人格(≒内面)を育むという大切な面が欠落してしまうことが多いです。セクシュアリティは人格に不可欠な要素であり、行動だけが変化しても、内面が育まれていなければ一時的なものにしかなりません。なので、「行動」という表面的なものに惑わされすぎないことが大切なのではないかと思います。

Q.子どもと支援職の関係の中で、支援者は子どもが望む接触をどれくらい受け入れるべきですか?
A.支援者自身が「ここまではOK」と許容できる範囲までで良いと思います。
ただ、子どもに伝えるときは一方的に「ダメ」と言うのではなく、「こうしてもらえたら嬉しい」「こういうふうに関わってほしいな」というポジティブなメッセージを伝えてあげると良いのではないかと思います。

参加者アンケート

参加者のみなさまから、講演後にアンケートを記入していただきました。
感想の一部をご紹介します💭

・ASD児には、腕1本分離れましょうなど、具体的に伝える方がイメージしやすいと思っていましたか、その弊害の方が大きかったかもしれないと思いました。自分自身、性を肯定的に捉えてオープンに伝えられるようになることが必要だと感じました。
・プライベートゾーンは「他の人に見せてはいけない」や「距離をとって」って最近買った絵本にも書いてあって、今までやってた性教育は間違ってたかもなーと思いながら、講義をみてました。確かに、好きな人ができて好きな人も自分を触りたい、あなたも好きな人を触りたいと思ったら、お互いに確認して触れてもいいんだよと言ってあげた方がポジティブだし、いい性教育だよな、と私自身も感じました。
「自分のからだについて知らないと大切にしようがない」この言葉が、包括的性教育を学ぶ大前提だと感じました。障がいの有無に関わらず、この思いを持ちながら学んで伝えていきたいと思います。

この他にも、たくさんの感想をいただきました!
アンケートにご協力いただいた皆さま、本当にありがとうございました✨

ここからかるたワークショップのお知らせ

ピルコンでは、こころ・からだの大切さや性について遊びながら学べる教材「ここからかるた」を使った、障害のある子ども・若者や社会的養護下にある子ども・若者やその支援者に向けたワークショップを出張開催します!

「ここからかるた」は、国際的な包括的性教育の指針「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に基づき製作された教材です。
「からだ」「こころ」「あんぜん」「ひととのかんけい」をテーマにしたかるたで楽しく遊びながら、心身の健康や人間関係について学べます。

障害のある子ども・若者たちが「性」について学ぶ機会は限られています。
ピルコンは、障害のある子ども・若者に向けて、包括的性教育教材を活用したワークショップを実施することで、あたたかくリラックスした雰囲気のなかで、かるた遊びやゲームを通して、楽しく性のことを学ぶ経験を共有します。
また、子ども・若者たちだけではなく、希望する教職員、支援者や保護者にも参加してもらい、信頼できる大人と性について話しやすい関係性の構築にも繋げていきます。

「ここからかるた」を入手してはいるけれど、なかなか施設・団体内での活用が広まっていない・・・・・・というところも、お気軽にお問合せください。

詳細・お申し込みはこちらから!
https://pilcon.org/info/kokokara_workshop2023

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この記事を書いた人⇒ごっしー
早稲田大学文化構想学部の4年生。生まれた環境や性別にかかわらず、全ての人が正しい性の知識や望む手段にアクセスできる社会を目指して、ピルコンフェロー/インターンとして活動中。

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