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海が見える喫茶店

大学時代、サークルの仲間たちと海へ遊びに行った。
初めて訪れる日本海側の海はお盆を過ぎるとすでに波が高くて、どこか人を寄せ付けない厳しさを感じさせるようだった。

思った通り、波の高い少し灰色がかった海で遊泳するのは無理だった。それでも若い私たちは、せっかくだからと水着に着替えて、ときおり波しぶきがくだける岩場で一日じゅう遊び回った。

岩場の小高くなっているところに、一軒の店があるのを私たちは見つけた。どうやら、カフェレストランのようだ。近くまで行ってみると、お店の入口にはピンク色のフラミンゴの置物が置いてあって、ここだけはまるで南国の穏やかな青い海を思わせるようだった。

店に入ると、広い店内には、大きな窓の外に広がる海の景色と、整然と並べられたイスとテーブルと、そして本棚には古いマンガ本と雑誌がたくさん詰まっていた。

それからすっかり、この店はわたしたちの行きつけになった。とはいっても、民宿に滞在している数日の間だけのことではあるけれど。朝起きて身支度を整えたら、誰からともなく「サ店行こうぜー」という声があがる。岩場をのぼってその店にたどり着くと、私たちは思い思いにマンガを読んだり、テーブルを寄せてみんなでダベったりした。遊泳できない海で、今日は何をして遊ぼうか? そうやって小一時間過ごしてから、私たちは浜辺へと降りていくのだった。

数十年後。仲間たちと夏を過ごしたあの喫茶店が、つい最近まで営業していたことをフェイスブックで知った。コロナ禍のあおりで、ついに閉店してしまったらしい。古い日記を読み返すまで、すっかりその店の名前を忘れていた。でももう忘れない。あのときの仲間たちの思い出も一緒に。

#わたしと海

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