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「サッシ・ペレレの棲む森」 栗御殿への道 第8回 田中規子 月刊ピンドラーマ2023年12月号

アチバイア栗園は森に囲まれている。本年はタケノコ狩りイベントも実施したかったが、雨が多すぎたせいか、タケノコが出たあと腐っているものが多く、実施できなかった。タケノコも川べりの竹林にでる。川べりは竹林と森に囲まれており、涼しく気持ちのいい場所だ。が、感じる人は何かがいる、という。私は絶対トトロがいると思っているし、ブラジル人の友人はサッシ・ペレレという森にすむ一本足の子供の妖精がいるという。いたずら好きのサッシ・ペレレは森の守り神のようだ。友人はギィー…、ギィー…と、風に揺れる竹林を見上げてサッシ・ペレレは竹林にいるんだとも言っていた。

森や畑には動物もいる。川の近くの竹林に井戸があり、その井戸水を生活用水に使っているのだが、夜にタンクの水が空になり真っ暗な竹林にポンプアップのスイッチを入れにいったことがある。怖々行ってみたら蛍が舞っていて幻想的だった。夫が一人で昼に森にいったところ、川からザバー!っと音がして大きなホエザルが逃げていったとか。サグイという人類の祖先という小さいサルの群れもみかける。鳥の種類も多く、夫は今のところ46種類確認した。10月から2、3か月は鳥の営巣時期で、栗の木に隠れるように作られた鳥の巣をみつけることがあり、よく見ると巣に栗の花を使っていることがある。ヒナが成長し巣立つのをそっと見守ることもあれば、大雨の後に巣から落ちて死んでいる雛を見ることもある。

森を利用するのは動物だけでなく、この地域の猟師もいる。イノシシ、アルマジロなどを狩っているのだ。木の上に猟師が獲物を待つための足場が残されていたり、アルマジロの穴を掘った跡もあった。ある夜、犬のごんちゃんが竹林の方に行って狂ったように吠えるので、爆竹を竹林に向けて発射したところ、何かがガサガサ逃げる音がした。翌朝行ってみると、猟師が昨夜慌てて逃げたのだろう、アルマジロの巣を掘るための掘り器が落ちていた。以来、外から入りやすそうな場所には「私有地に付き立ち入り禁止」の看板と有刺鉄線を張るようになった。

ブラジルでは私有地でも川の周りは森林として残す義務があり、土地の境界線が川になっているところが多い私の土地は、必然的に森林を残さねばならない。なのでだいたい私の土地の少なくとも5分の1ぐらいは全部手付かずの森林なのだ。先日アマゾンのトメアスーという日系コロニアから来た友人とこのジャングルを歩いたところ、アマゾンはいま大豆とパーム椰子ばかりになっていて、こんなジャングルはアマゾンにもなかなかないと言う。それにしても友人はもう80歳以上なのに、ジャングルをひょいひょいと私と一緒に歩くのだからすごい。

このように森や川、畑を含む自然は、人間の活動と野生動物、近隣の人たちとの活動が織りなす場で、お互い観察しながら調和点を探りつつ生きている。まだうちの森の猿は、栗を知らないので食べに来ないが、知られたらえらい被害が予想される。野生動物が害獣にならないようにするには、森に十分な食べ物があり、そして畑では毎日栗をくまなく拾って動物が食べる隙を与えないことだ。生態系のトップに人間がいる、という驕りを捨て、サッシ・ペレレの棲む森とともに生きていきたいと思う。いや、ひょっとして夫は人間でなくトトロなのではないかな。


田中規子(たなかのりこ)
2005年よりブラジル在住。
2013年よりアチバイア市にていきなり栗栽培をはじめた。
栗の加工品、焼き栗、栗菓子を作り、イベントや配達で販売中。栗拾い体験、タケノコ狩りなども農園で実施中。
Instagram: @sitiodascastanheiras

月刊ピンドラーマ2023年12月号表紙

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