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幸せなとしよりになるための25条。 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2024年3月号

今年の1月は日本に滞在していました。元旦は能登半島地震で始まり、筆者も怖い思いをしました。亡くなられた方や被災された方には心よりお悔やみとお見舞い申し上げます。震災の世の中です。現在は能登地方では支援活動がおこなわれていますが、雲の上の世界でも大震災が起こり、政治家が倒壊した家屋(註1)から這い出そうと必死ようです。

ややこしくなっている自民党の関係者や地震の被災者が報道されていますが、目につくのは「としより」です。高齢者が多数でてきます。現実世界でもどこへ行っても老人がいっぱいで、バスなんかに乗ると「優先座席」などいったいだれが優先的に座るのか「年寄りの判別基準」が必要なくらい多い印象です。

筆者も還暦を過ぎているので、しっかり高齢者の仲間入りをしているわけで、老人老人と偉そうに言えません。そこらに歩いているとしよりとなんら変わらないのでしょう。結局自分の仲間も同じ世代なので、最近SNSとかで回って来る話がとしよりの話題が多いです。そのうち、「幸せなとしよりになるための25条」といったのが、多分お笑い系なのだと思われますが、なかなか的を射たモノだったのでコメント入りで紹介します。ブラジル人の感性・感覚である部分を加味して参考にしていただけたら幸いです。開業医のコメント部分が(コ)になります。

幸せなとしよりになるための25条。

第1条:息子や娘の生活に口出してはダメです。
(コ)言わずもがな、もめ事の種の最たるものでしょう。意見して効果ありますか?

第2条:孫の教育方針に干渉してはダメです。
(コ)これも第1と同じ系統ですな。

第3条:婿や嫁を愛しなさい。まあ、許容くらいはしてもよいでしょ。自分の娘や息子が選んだ人だということを忘れてはいけません。
(コ)そうなのです、結局自身の子経由でおこった選択なのだと言うことを自覚する必要がありますな。好みでない嫁や婿も実は自分の家族の感性や自分に対する当てこすりである可能性が大なのです。

第4条:息子や娘の結婚生活に意見したりどちらかの側につくのはいけません。
(コ)これも第1や第2と関連するものですな。それと、老後だれが介護してくれるのかといった問題もあるので、だれとでも仲良くしておいた方が良いぞという警告ですね。第1〜4を深読みすると、嫁や娘を大事にしろと言うことですか?としよりの介護には結局女性が深く関わる現状がブラジルでも日本でもありますね。

第5条:ブチブチ文句を言うとしよりにならないようにしましょう。
(コ)第1〜4を実行しないと、そうなります。うるさいだけ。よほど資産を持っていないとだれも寄りつかなくなりますよ。資産持ってるから寄りついてくるのも悲しいですけどね。

第6条:自分を気の毒に思うようなとしよりになってはダメです。
(コ)これはさらに性格が悪い。自身の境遇を他人のせいと思っているからそうなりますな。反面、その他人の慈悲を請う行為に出てしまう。なにより後ろ向きの生活をしている証拠なのですな。

第7条:「俺の時とか自分の時代は」と言った発言は止めましょう。その時代は既に過ぎ去っているのです。
(コ)わかりやすい項目。世の中は進歩しています。こういった発言は時代について行けていないことを告知しているのです。取り残され感満載。

第8条:将来の計画を持ちましょう。
(コ)現在の世の中の事柄がわかってこそ将来の見通しができます。第7の反対・反省・対策ですな。

第9条:病気の話は止めましょう。だれも病気の話などしたくないのです。
(コ)高齢になるとだれしもどこか身体の不調や治療経験があり、話題になりやすい。でも鬱陶しいのです。同世代で情報交換程度にするのであればまだしも、若い人にこれをやると相当嫌がられます。顔に出さない場合は単に社交辞令なのです。

第10条:収入の如何に関わらず、毎月いくらか貯金をしましょう。
コ)歳いってからの不安の原因の一番は金銭的な不安であることは東西どこでも同じです。第8と同じく前向きに人生をみる行為ですな。この場合、貯金する行為が重要と思います。

第11条:分割払いは止めましょう。としよりが月賦払いなどとんでもないです。
(コ)第14と関連です。明日がないかも。借金が子孫に残るとよくないでしょ?

第12条:医療保険に入るか、医療費が必要な時に備えて貯金しましょう。
(コ)高齢になると医療費がかかります。日本の厚労省のデータによると、75歳以上の医療費は44歳以下の7.5倍です。身体がポンコツになってくると、あちこち故障するのはだれにでも起こりうる現象で、違うのは「故障の度合い」だけ。

第13条:自分の葬式の資金を残しておきましょう。
(コ)日本ではよく言われる終活ですな。ブラジルと日本では温度差がありますね。これは死の観念の違いから来るのではないかと筆者は思います。キリスト教のブラジルでは死は終焉とみていますから、だれも終わってなにも無くなってしまいたくない。なので、そんな用意はしたくない。

第14条:子孫に自分の「問題」を残さないでおきましょう。
(コ)まあ、この場合、一番の問題は借金のことでしょうな。死んでから現れる親類とか。

第15条:時事問題や政治報道に関心を持っても無駄です。それらを解決する能力はもう持ち合わせてないのです。
(コ)そうです。何もできません。ブラジルは選挙義務があるけど、高齢者はそれすら免除されますからね。一般のとしよりは大抵相手にすらしてもらえないので、害がないと言えばないけど。問題は経営や政治に関わって居座っているとしより。老害という言葉もあります。

第16条:楽しむためであればテレビ鑑賞しましょう。イライラするためではありません。
(コ)これは第15の派生だな。イライラしてもどうしようもありません。

第17条:動物が好きであれば、ペットを飼いましょう。
(コ)最近は高齢者施設で動物を導入することが普通になったくらい、良いことが多いです。癒しというヤツですな。ペットと生活することで生活の質や日常生活動作が向上し、ペットを介して他の人と接する機会がふえ、全体的にとしよりの社会性が増します。スウェーデンで実施された研究によると、一人暮らしで犬を飼っている場合、死亡リスクが33%減少する結果があります。犬を飼っている人の平均寿命が伸びる効果が認められます。ただ最近はペット自身も高齢になり、介護が必要になってくる現象もありますね。また、高齢オーナーが死去してペットが孤立してしまう問題なんかもありますから、そのあたりもちゃんと終活しておく必要があると思います。

第18条:毎日起きたら、散歩や料理や裁縫や家庭菜園など何か活動をしましょう。ジッと死ぬのを待っていてはいけません。
(コ)身体を動かすのは長寿の条件です。血行が宜しくないと、身体の細胞が死にます。そうなると長生きできません。同時に頭を使う活動をして脳が老化するのを防ぐのですな。自分が興味がある活動を把握しておかないと、としよりになってドテッとソファに座ってテレビ観る毎日になりますよ。

第19条:綺麗で良い匂いがするとしよりを目指しましょう。歳いってるので臭うのはダメです。
(コ)加齢臭というのがありますね。これは皮脂が変質し、ノネナールやペラルゴン酸といった物質になり、これが悪臭になるのですな。男性の方がホルモンの加減で皮脂が多く生成されるので臭いがキツくなる傾向があるので、じじいは要注意です。歳いってるからしょうがないと、清潔にしてないとさらにとしより臭くなりますよ。

第20条:としよりになっている事実を素直に喜びましょう。としよりになれなかった人もいっぱいいるのです。
(コ)ある意味としよりは生き残りですからね。そのうち周りにはだれもいなくなっていくのも悲しいです。そのためわざわざ本条があるのだと思います。

第21条:皆が来たがる自宅を作りましょう。人が来るか避けるかは自身によります。
(コ)これは前述の20か条の行為によるものですな。宜しくないと、結果として自分の子孫も寄りつかなくなってしまう。そんな例をたくさんみています…悲しいです。本人は孤独です。悲しいです。そしてもっと悲しいのが本人のせいでそうなっていることをまったく自覚していない。

第22条:重ねた歳を未来への橋として活用しましょう。過去への階段ではダメです。
(コ)第8、第10と関連するモノですな。としよりであっても、過去に縛られないで前進してこそ人生を楽しめると言っているのです。最近のSDGな言い方をすると「としよりであってこそ」ですかな。

第23条:良い思い出を残す方が安堵を残す方よりいいです。
(コ)これはポルトガル語の原文ではなかなかカッコ良いです:"é melhor ir deixando saudades do que deixando alívio"。要するに逝って安堵されるより逝って良い思い出とされる人物のほうが良いということですね。あーやっと亡くなってくれたなんて思われる人生、悲しい人生じゃあないですか。

第24条:残りの人生を楽しみましょう。自身で笑い、人を笑わせましょう。
(コ)笑顔は社会性を増幅するモノです。これは世界共通の価値観でしょう。ただし、としよりになると気をつけないといけないのが、「ヘラヘラ笑っている老人」と「バカにしているのが明らかなお世辞笑いする老人」。笑っている本人は意外とよろしく思ってますが、ハタから見ると嫌みなとしよりにしか見えません。

第25条:とっておきのワインや明日まで置いておいたらもっと冷えるであろうビールは今日中に消費しましょう。明日はないかもしれません。
(コ)軽そうで実はとても深い最後の本条。自然の摂理からいうといつ死んでもよい事態が毎日迫っているので、その日その時を大事に生きろということですな。

このコラムの24人の読者様、当たり前の25条ですか?意外とやらない、やってない、できない行為じゃあないでしょうか?だから悲しいとしよりが多いのでは?としよりは悲しいモノだとか言ってないで加齢する事実を見直してみたいと考える筆者でした。

註1:昨年末から自民党の各派閥のパーティー券裏金問題で今月に入り、刑事告発や逮捕者が出ている。結局派閥の解散にまで発展している問題。


秋山一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、疫学専攻)。
この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。
診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。

月刊ピンドラーマ2024年3月号表紙

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