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怪獣8号【マンガ第1話研究】

こんにちは。
パインブックです。
今回のマンガ連載第1話研究は、集英社ジャンププラスで大人気の『怪獣8号』です。2020年7月から現在に続いて連載されています。

前回は、↓の正直不動産を研究しました。
正直不動産【マンガ連載第1話研究】|パインブック🍍📕|note
前回は職業ものというリアルな話なので、次は思いっきりフィクションものマンガの研究です。

怪獣8号の第1話。

怪獣8号は、『SPY×FAMILY』と並ぶ少年ジャンプ+最大のヒット作です。↓ジャンプ+サイトで3話まで無料で読めます。

連載して最初の単行本の発売前から大人気作品となり、口コミを読んでいると1話~3話までは特に面白いという声が多いんですよね。

単行本の発売前から日本国内外で人気を博す[7]。1日で3200件を超えるコメントが寄せられるなど、連載開始からインターネット上で大きな話題を呼び、最新話更新のたびに大きな反響を呼んでいる。2020年12月には『少年ジャンプ+』の看板作品と報道された[3][8][注 1]。各話の閲覧数は更新ごとに100万を超え、総閲覧数は第15話公開(10月30日)時点で3000万[1]、第31話公開(4月16日)時点で1億閲覧[10]を『少年ジャンプ+』史上最速となるペースで突破した。

Wikipedia

実際に第1話の完成度がめっちゃ高いと感じます。設定の良さ、疾走感、意外性、キャラクター。すごく考えて作られている感じがしますね。
それでは、研究していきましょう!

松本直也先生。担当編集は中路さん。

松本直也先生は、もともと2014年~2015年までジャンプ+で『ポチクロ』という漫画を連載されていました。コミカルなタッチでかわいらしく読んでて癒されます。

その後、再びジャンププラスで2020年7月から怪獣8号の連載開始となります。年齢は40歳とベテランの先生です。

担当編集は、集英社の中路靖二郎さんです。
今まで、『ぬらりひょんの孫』『食戟のソーマ』『忘却バッテリー』『姫様“拷問”の時間です』など、大人気作品を連発していますね。
『怪獣8号』×『ゴールデンカムイ』担当編集対談 | 集英社 2024年度定期採用情報 (shueisha.co.jp)
こちらのインタビューによると、松本直也先生と中路さんは17年の付き合いだそうです。めっちゃ長いですねw

怪獣8号については、2018年末から19年頭にはストーリーの原型ができていたそうで、中路さんとは3話以降どんな話にしたか話し合ったということなので、第1話の大枠は松本直也先生の頭の中では既にできてたのですかね。
実際に連載が開始されたのは2020年の7月ですから、ストーリーの原型ができてから連載開始まで少なくとも1年半以上経過していることになります。
これだけでも、最初の1話の制作には相当の力を入れたんじゃないかと想像されますね。

第1話をデータで見てみよう。

ページ数:56ページ
全セリフ文字数:2,657字(吹き出し・ナレーション合計)
1ページあたり平均文字数:47.4字
セリフのある登場人物:6人
アナウンサー、日比野カフカ、同僚、上司、亜白ミナ、市川レノ
主人公の年齢・設定:32歳。夢の職業に就くのを諦めるも、責任感ある頼れる男。

ページ数は56と、第1話にしては長めですかね。でも、コマが大きく、セリフの文字数も全体的に少なめ、疾走感のある展開なのでそこまで長くは感じません。
1ページあたりの平均文字数は47.4字です。前回の正直不動産が135.9字だったことを考えると、比較的少ないですね。3分の1ほどです。
 電子漫画という媒体や、アクション系のマンガという性質からですね。職業漫画とフィクシション/アクション主体の違いが良く現れていますね。
主人公、日比野カフカの年齢は32歳と青年漫画にしては高く、一部ではおじさん主人公なんて言われています。
 少年ジャンプほどではないですが、ジャンプ+の読者層に対しては、32歳の主人公というのは当初は思い切った設定だったのようですね。
 こちらのサイトによると、ジャンプ+アプリユーザーの平均年齢は26歳~27歳だそうです。
大ヒットを生み出す「少年ジャンプ+」 SPY×FAMILY・怪獣8号 - Impress Watch
 ただ、こちらの記事では日比野カフカはジャンプ+の読者層と年齢が近いと書かれているので、32歳が高すぎるというわけでもなさそうです。
面白い物語をつくるには? 「少年ジャンプ+」編集者が、そのヒントを語ります ジャンププラス原作大賞

怪獣8号の世界観。

怪獣8号の物語設定は、日本に怪獣が攻めてきてそれを主人公たち防衛軍が倒していくものです。ここで漫画を読めばわかる設定を詳しく書いてもしょうがないので、優れている点を考えていきます。

・まず読者層が広く、海外も展開できる。
怪獣8号みたいな漫画って、世界対応してるんですよね。ドラゴンボールとか、ワンピース、ハンターハンターみたいに。一応舞台は日本の設定ですが、日本人じゃないと分からない文脈というのは特にありません。
すると、そもそも潜在的な読者数が日本人1億人くらいから、世界80億人に広がるんですよね。
実際に、海外向けのマーケティングに力をいれていて、フランスでは大人気みたいです。
前回の正直不動産は、日本の不動産仲介業を前提にしていますし、各種不動産に関する法令も日本のものなので、海外の人が共感するのはかなり難しいはずです。
もちろん日本で人気になることがまず難しいのですが、その先の潜在力を考えると、売れた時の爆発力がケタ違いになります。
韓国で人気のWebtoonも最初から世界展開を考えていると思いますし、電子漫画の広がりやすさから見ても、確実に長所ですよね。

・世界に没入しやすい。
フィクションとはいえ、怪獣8号の世界は比較的読者が入り込みやすくなってると思います。作品の新しい世界に足を踏み入れるのって、読者は結構ストレスを感じます。どこのどんな世界だか分からない場所で当たり前のように話が進むと、読書は置いてけぼりになりますよね。なので主人公と同じ目線で世界に入れる異世界モノが人気なのはそういった要因もあると思います。
ただ怪獣8号の場合は、最初の1ページ目で「怪獣大国 日本」とバン!とナレーションが入り、次にすぐ「神奈川県横浜市に怪獣が発生しています」と具体的な地名を書いたセリフがあります。
ここで読者は、(ああ、日本で怪獣が現れる設定なんだな)とすぐ分かるわけです。ここが例えば、「バード国、ペンギン村で…」なんて架空の地名だと、イマイチ臨場感がなく入り込めないと思います。
また次のページで、「フォルティチュード6…津波の心配は…」とセリフあり、前ページの怪獣大国という単語からも、地震大国とかけていて、地震を怪獣に例えているのかな、と想像できるようになっています。
怪獣が日本に現れるというぶっとんだフィクションでも、読者がどことなく身近に感じられるような素晴らしい導入になっています。

・怪獣がかっこいい。
シンプルに大ゴマで、どでかく怪獣が描かれているのが漫画としてとても魅力的です。ドラゴンではなく、怪獣っていうのがいいですよね。wikiにはゴジラの系譜と書かれていましたが、この怪獣というのが日本的でよいのかもしれません。

登場人物のキャラ設定。市川レノの方が主人公っぽいよね。

主人公は、日比野カフカ(32)です。
防衛隊員になるのを諦めるも、再び目指します。

・少年ジャンプなら、市川レノが主人公。
最初読んでいて思ったのは、日比野カフカよりも途中から出てくる市川レノの方が主人公っぽいなーということですw
だって、日比野カフカは髪がボサボサ髭が生えた32歳の言い訳臭いおじさん。なのに対して、市川レノはさらさらヘアーのイケメンで19歳と若く、「俺は諦めないんで 死ぬまでわかんねーっス」とマインドも主人公的です。
これが少年ジャンプだったら、ほんとに市川レノが主人公の方がよかったんじゃないかと思います。でも、媒体はジャンプ+です。ジャンプ+は読者層としてジャンプ卒業組の20代以降が多い目指すワンピース超え、『ジャンプ+』はマンガの王道を行く (newspicks.com))ことから、一度現実の厳しさに対面して夢破れた日比野カフカの方が感情移入しやすいのかもしれませんね。

・とはいえ主人公以外の主要キャラは若い。
主人公は32歳ですが、他の主要キャラは27歳、19歳、16歳、と若いです。ジャンプマンガなので、流石におじさんばかり出てくる、というわけではないですね。
主人公は、年下のイケメンや美人から尊敬されたり、褒められたりするので、感情移入する読者もなんだか気持ちいい気分になれますw

・1話の最後主人公は怪獣になる。鬼滅は妹が鬼になる。
1話のオチは、主人公が怪獣になってしまうというもので、このストーリー構造については後述します。
ここでは、主人公が怪獣になってしまうというキャラクター設定面に注目します。日比野カフカは怪獣を倒さないといけないのですが、自分自身が怪獣になってしまうという矛盾を抱えます。
これは、鬼滅の刃で禰豆子が鬼になってしまうのと似ていますよね。炭治郎は鬼を倒さないといけないですが、守るべき妹が鬼になってしまいます。
ここがやっぱり一つ怪獣8号の面白いポイントですよね。ただ強く変身するというのではなく、敵でもある怪獣になってしまうという矛盾を抱えることで、物語に深みがでてきます。強さを手に入れる代償と考えることもできますね、強さを手に入れるために何かを失う必要があることでシリアスさが増します。
何かを得るために何かを失う、代償ががあるから選んだ選択肢は重さが出てきます。

三幕構成でみるストーリーの構造。

脚本でよく使われる三幕構成を用いて、第1話のストーリーの構造を見ていきます。
三幕構成 - Wikipedia

第一幕が設定、第二幕が対立・衝突、第三幕が解決です。

第一幕(余獣があらわれるシーンまで)
第一幕では、怪獣大国日本の舞台、日比野カフカのキャラ設定、幼馴染亜白ミナとの関係性、市川レノとの会話により防衛隊員を諦めたことが説明されます。
第一幕で提示されるセントラルクエスチョン(主人公の解決しなければならない問題)は、「日比野カフカは防衛隊員になれるのか?」です。
そしてプロットポイントⅠとして、怪獣の清掃中に余獣があらわれ、日比野カフカは殺されそうになり、自身の無力を痛感します。

第二幕(横浜南総合病院~第2話の怪獣が現れるまで)
第二幕では、主人公の内面の変化、葛藤が描かれます。
余獣があらわれた時に亜白ミナに助けられたこと、病院での市川レノからの励ましの言葉により、防衛隊員を諦めた自分との対立・葛藤があります。
そして、物語で一番重要な部分、ミッドポイントです。このイベントによりもう後戻りできなくなるという不可逆イベントです。
これが、主人公が怪獣になってしまい、強烈なパワーを手に入れるイベントです。
ミッドポイントの特徴として、これを機に主人公の危険度が急激に上昇するという点があります。前回の正直不動産では嘘がつけなくなって絶体絶命のピンチになりましたし、今回の怪獣8号では怪獣になったことでバレたら殺されます。
そして、この怪獣になってしまうシーンでコミカルな演出とともに第1話が終わります。
最後のページでは、病院にいるじいさんに怪獣の姿が見られてしまうという強いヒキで第2話に続くことになります。

やっぱり、ここのミッドポイントが一番面白い部分ですよね。
ストーリーの流れからして、病院のベッドで「俺もう一回防衛隊員目指す」と日比野カフカが言い切って、人間の姿のまま物語を進めても問題ないわけです。というか、普通に読んでいたら読者はそうなるだろうと思うはずです。
ですが、もう後戻りできない不可逆で強烈なイベントとして、自分が怪獣になってしまうという設定が用意されていて、読者はその意外性にびっくりするわけです。
こんな感じで物語が今までの流れとはガラリと変わっていく展開は、惹きつけられます。読者が「面白い!」とビビっと来るところですよね。

そして同時に、怪獣となったことでセントラルクエスチョンである「日比野カフカは防衛隊員になれるのか?」という問題に対しては、危機的な状況になります。怪獣なのに防衛隊員になるなんておかしな話だからです。
カフカの「もう俺が防衛隊員になることってないのか」とふと絶望的な予感が脳裏をよぎるシーンからも分かりますね。
これがプロットポイントⅡです。

第三幕(2話の再び怪獣が現れるシーン~)
第三幕は、変化の証明がまず行われます。主人公が本当に変化したのかテストが行われる場面です。
怪獣8号では、怪獣に変身したカフカが超強力なパワーを得て、余裕で敵の怪獣をぶっ飛ばしてしまいます。爽快ですね。

そして姿かたちは怪獣になってしまったけれども、カフカは「そうだ行かなきゃ」「アイツのとなりにいかなきゃなんねえ」とのセリフからも分かる通り、精神面での決意が完了し、防衛隊員となる(あるいはそれに近い形で怪獣を倒し亜白ミナを助ける)というセントラルクエスチョンの解答がYESであることが明かされます。

第3話の前半部分がエンディングにあたるかと思います。
これでこの三幕構成が完成し、その後連載の物語として続いていきます。

まとめ。漫画原作の作品ではないけど。

自分でこの記事を書いていて、三幕構成の手法が予想以上に奇麗にハマるなと感じましたw研究していてものすごく勉強になりました。

ただ実際のところ漫画原作という観点では、絵がない原作で怪獣8号のよう漫画を考えていくのは難しいんじゃないかと思います。
松本直也先生の作画力が前提で成り立っている部分もありますし、この設定やストーリーに別途原作が必ずいるかというと、そうでもない気がするからです。
松本直也先生の世界観が前提で作られている感じがしますし、その世界観は本人が描いていかないと表現が難しそうです。
文字だけの脚本ではこういった面白さを表現するのは不可能といってもいいかもしれません。

ですがここで例えば「怪獣大国日本」のストーリーではなく、本当に「地震大国日本」の漫画で、地震が多発する状況になって、そこで救助をする隊員が主人公のストーリーであれば原作者の必要性が高まるかもしれません。
なぜなら、原作者に気象予報士の知識があれば地震の様子を専門的に説明したり、原作者が自衛隊員であれば救助の様子を実際の体験から書いていくことができるからです。
他にも、異世界で地震が起こった時に、現代のサバイバル知識で生き残る漫画だとか…。

こういった素晴らしい第1話~第2話の展開を参考にしていきながら、原作者として何か専門的な分野や、独自な側面から書いていけたらいいのだろうなーと思います。

ではでは。


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