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Yellow

目が離せなかった。後ろ姿があまりにもあの人だったから。

踵を返すと同時にふわりと見えた顔形に心臓がトクリと脈を打つ。

気づかれたくないと思う反面立ち去ろうとしない自分がいる。葛藤を繰り広げる私を他所に距離は狭まるばかり。気づかなくていいよ、私のことなんか。そんな小さな希望は儚くも散り、それまで足元に落としていた彼の視線がゆっくりと上がる。それと同時に目と目が合った。瞳が微かに見開いたのがわかった。

「こんばんは」
「…こんばんは」
「…元気だったか?」
「、うん」
「プレゼント買いに来ててさ、母さんに向けてだけど」

そうなんだ。
適当な返ししか出来なくて、どんな話を持ちかければいいかもわからない。彼はどう思っているだろう。心理的な行動なのか、自身の足はじろじろと後ずさる。一定の距離を保とうと必死だ。

3年ぶりに再会した彼は最後に手を触れたその日から何も変わっていなかった。いや、年相応の顔つきになったというのだろうか。悪く言えば老けたと言うのだろうか。私がそう感じたように彼は数年ぶりに出会った私を見てどのような印象を抱いたのだろう。沈黙がつらいと感じる一歩手前、繫ぎ止めるように言葉が投げかけられる。

「…順調か?」

なにが。とは聞かなかった。その言葉がなにを指すのか、どういう意味で問いかけた質問なのか理解していたからだ。

「、うん」

こんな時どのような表情で、声色で返答すればよいかわからず微妙なリアクションをとってしまう。それに対して彼もまた「そうか。俺は未だフリーだよ」と冗談混じりのようなどう捉えたらよいか分かりかねる笑みを見せる。

「…そろそろ行かないと。これからまだ寄るところがあってさ」
「そうなんだ」
「あとで連絡する。…今度ごはんでも行こうよ」

ポンと肩を叩かれた時に感じたぬくもり、穏やかな眼差し、落ち着いた声、そのトーンから発せられる私の名前-
会話の端々で、昔のあなたを見た。

連絡すると言われても連絡先なんてもの、とうの昔に思い出と共に消去してしまったし、きっと彼からのメッセージが私のもとに届くことは一生ない。それを知っていての発言なのか否か。

じゃあね

上手く笑えているだろうか。背中に感じる熱は未だに消えない。首筋が汗ばむ。

もう、終わっているのに

あの人と別れてから、気になる人はいた。それは先輩だったり友達だったり、出会いは様々で、それでもやっぱり気になる人どまりで。気づけばまた比べている。
背の高さや声の低さ、私を見る視線のあたたかさ。

この人じゃない。
彼以上の人じゃない。
そこまで好きじゃない。

新しい人と関わる度余計彼との思い出や良いところが鮮明に蘇って、結局比べている。縋るような出口の見えない、恋。

彼には見えただろうか。あなたを忘れるためにどれだけの時間と想いをかけ、それでも新しい恋を見つけ前へと進んだ私の左手薬指に光るそれが。

恋の本当の終わりは、相手を思い出さなくなった時、自分以外の誰かとの幸せを心から祝えるようになった時だと誰かが言っていた。

心はすでに別の人に向いていることも、それに比例するように思い出すことも別れたてのあの頃に比べれば頻繁ではなくなった。時折、元気にしているだろうかとふと思い出すくらいだ。

そのような私だから雑踏の中に消えていく彼を必死で目で追うことも、振り返ることもしなかった。彼のいなくなった日常に還っていく、それだけだ。それだけ。

#aiko #小説 #失恋 #music

aiko が大好きなのですが、aikoの楽曲を基にしたお話を書きたくて…昔書いたものを加筆修正したものです。
時々このような駄文がひょっこり現れます…

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