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数の拡張(5)「分数」

正負の数は、相反する性質をもつ二種類の量を表すのに用いられる数である。

正負の数の具体例として、差異、変化、相対値などが挙げられる。

ものの個数を表すだけなら、上の三つくらいしか考えられないが、量を表す場合には、もっと多くの例が存在する。

例えば、電気は、互いに打ち消し合う二種類の量をもつから、正負の数で表せて、それぞれを正の電気、負の電気という。

他にも、物体の移動は、互いに打ち消し合う二種類の方向があるから、正負の数で表せて、正の方向の移動、負の方向の移動というのを考えることがある。

移動に限らず、正反対の二つの向きがあるものはすべて、正負の数で表せる。速度、加速度、力、温度、収入と支出、など。

数は非常に高い抽象性を有しているため、ほとんどすべてのものを数えることができる。

かけ算

ガムが入った小箱がいくつかあったとしよう。小箱に入っているガムの数を数えることもできるし、小箱の数を数えることもできる。そして、すべての小箱の中にあるガムを合わせた数を数えることもできる。

このとき、ガムの総数は、一つの小箱に入ってあるガムの数と小箱の数によって一意に決まる。

したがって、一つの小箱に入っているガムの数と小箱の数の組み合わせに対して、ガムの総数を対応付けることができ、この対応関係によって定義される計算をかけ算という。

ところで、ガムの総数は、足し算の繰り返しによって求められるから、かけ算を足し算の拡張として捉えることもできる。

例えば、$${3}$$個のガムが入った小箱が$${5}$$箱あるとき、ガムは全部で$${3×5}$$個であるが、この数は$${3+3+3+3+3}$$個として求められる。

一般に、$${a×b}$$は足し算の繰り返しに用いて次のように定義できる。

$$
a×b=\underbrace{a+a+\cdots+a}_{b個}
$$

このとき、$${b}$$は足し算の回数を表すものであるから、絶対値としての数(自然数)である。

複数回の足し算が定義されていれば、必ず、任意の対象と自然数のかけ算を素朴に定義できる。

正負の数のかけ算を考えるには、絶対値の代わりに相対値を用いればよい。

$${a}$$と相対値$${(b-c)}$$のかけ算を、それぞれの積の相対値$${a×b-a×c}$$で定義する。

$$
a×(b-c)=a×b-a×c
$$

この定義によれば必然的に、正負のかけ算は、相対値を求める計算になる。

$${12}$$個入りのチョコの箱を$${5}$$箱持っている五郎くんに対して、二郎くんは$${2}$$箱しか持っていない。二郎くんが持っている箱の数は五郎さんに対して$${-3}$$箱であり、チョコの数は$${12×(-3)=-36}$$個である。

$${a}$$も相対値の場合は、次のようになる。

$${12}$$個入りのうち、半分の$${6}$$個は五郎と二郎の好きな味、もう半分はあまり好きでない味であった。五郎と二郎はそれぞれ自分の持っているチョコのうち、好きな味の方だけ食べて、好きでない方は食べなかった。食べる前と後の二人のチョコの所持数の変化について調べてみよう。

食べる前と後で、チョコの数の変化は$${-6}$$であるから、二郎と五郎のそれぞれの箱の数に応じて、

二郎のチョコの数の変化は、

$$
(-6)×2=-12
$$

五郎のチョコの数の変化は、

$$
(-6)×5=-30
$$

よって、二郎のチョコの数の変化は、五郎のチョコの数の変化と比べると、

$$
(-12)-(-30)=+18
$$

箱の数に注目すると、二郎の箱の数は五郎と比べて$${(2-5)}$$箱であるから、

$$
(-6)×(2-5)=(-6)×2-(-6)×5
$$

もうだんだんと意味がわからなくなってくるが、正負の数のかけ算は、変化量とそのまとまりの数の相対値から、総変化量の相対値を求める計算になる。

このとき注意してほしいのが、かける数とかけられる数では、数える対象が異なっているということである。集まりに含まれるものを数えるのと、その集まり全体を一つのまとまりとして数えるのとでは、「もの」か「まとまり」か、という点で数える対象が違う。

そして、それらの積が表す数は「もの」の個数である。

例えば、

$$
a×b=c
$$

において、$${a}$$と$${c}$$は「もの」の数を表すのに対して、$${b}$$は「まとまり」の数を表す。

$$
\tiny(まとまりに含まれるものの数)×(まとまりの数)=(全体のものの数)
$$

かけ算は交換法則が成り立つ。すなわち、任意の数$${a,b}$$に対して、

$$
a×b=b×a
$$

が成り立つ。

理由を簡単に説明する。

具体的に、$${a}$$個ずつものが入った箱が$${b}$$箱あるという状況を想定する。

まず、袋を$${a}$$袋用意する。$${b}$$個の箱からそれぞれ一個ずつものを取り出して、まとめて一つの袋に入れると、袋の中に$${b}$$個のものが入る。

もう一度、すべての箱からそれぞれ一個ずつ取り出して、また別の袋にまとめて放り込む。

この作業を、箱の中からものが無くなるまで繰り返すと、最終的に、$${b}$$個のものが入った袋が$${a}$$袋できる。

袋を一つのまとまりとして考えると、これは$${b×a}$$であるが、全体の個数は同じなので、$${a×b=b×a}$$が成り立つ。

また、結合法則も成り立つ。

$$
(a×b)×c=a×(b×c)
$$

例えば、$${3}$$個のものを小さなまとまりとして$${4}$$つのまとまりを作り($${3×4}$$)、作ったまとまりを大きなまとまりとして$${5}$$つ用意する($${(3×4)×5}$$)ことを考える。

このとき、小さなまとまりの数は全部で$${4×5}$$であるから、結局、$${3}$$個の小さなまとまりを$${4×5}$$個用意する($${3×(4×5)}$$)のと同じことである。

割り算

割り算は逆に、集まり全体を、いくつかのまとまりに分けたときの、一つのまとまりに含まれるものの数を求める計算である。

例えば、全部で$${12}$$個のものを、$${3}$$つのまとまりに分けると、一つのまとまりに含まれるものの数は$${4}$$個である。

$$
12÷3=4
$$

一つのまとまりに含まれるものの数は、まとまりをいくつ作るかに応じて、一意に決まるから、割り算が計算として成り立つ。

この定義では「ものの数」や「まとまりの数」として絶対値を想定しているが、かけ算と同様に相対値を考えることで、正負の数の割り算の意味も解釈することができる。

また、割り算は、「全体の数」と「まとまりの数」から、「一つのまとまりに含まれるものの数」を求める計算であるから、かけ算の逆の計算である。

まとまりに含まれるものの数を$${a}$$個、まとまりの数を$${b}$$個、全体の数を$${c}$$とすると、これらの数の関係をかけ算と割り算で表すと次のようになる。

$${a×b=c}$$のとき、$${c÷b=a}$$となる。

ここで、交換法則$${a×b=b×a}$$より、

$${a×b=c}$$のとき、$${b×a=c}$$が成り立ち、これに対して$${c÷a=b}$$となる。

ゆえに、$${a}$$を求めるのも、$${b}$$を求めるのも、ともに割り算でできる。

$${a×b=c}$$に対して、$${c÷a=b}$$は$${c}$$と$${a}$$から$${b}$$を求める計算であり、その意味は、「全体の数」と「一つのまとまりに含まれるものの数」から、「まとまりの数」を求めるものと解釈できる。

このように、同じ割り算の式に対して、「一つあたりの数」または「まとまりの数」を求めるという、二通りの解釈ができる。

分数

ある集まりの数を別の集まりの数と同じにするためには、どのような数をかけたり割ったりする必要があるか知りたい場合もある。

「かける」と「割る」を操作として抽象化すると、どちらの計算も、「対象の数」と「操作に用いる数」から「操作後の数」を求めるものとして見なせる。

かけ算は、

$$
\tiny(まとまりに含まれるものの数)×(まとまりの数)=(全体のものの数)
$$

であったから、

  • 「操作の対象」→(一つのまとまり)

  • 「操作に用いる数」→(まとまりの数)

  • 「操作後の数」→(全体の数)

のように対応づけられる。

割り算の意味の解釈の一つは、

$$
\tiny(全体のものの数)÷(まとまりの数)=(まとまりに含まれるのものの数)
$$

であるから、

  • 「操作の対象」→(全体の集まり)

  • 「操作に用いる数」→(まとまりの数)

  • 「操作後の数」→(一つのまとまりの数)

と対応づけられる。

このとき、「操作に用いる数」は、かけ算でも割り算でも「まとまりの数」を表すものとして解釈できる。

一方、割り算のもう一つの解釈は、

$$
\tiny(全体のものの数)÷(まとまりに含まれるのものの数)=(まとまりの数)
$$

であるから、まとまりの数、すなわち、「操作に用いる数」を割り算によって求めることができる。

ただし、かけ算と割り算では、操作の対象と操作後の集まりが逆になっているから、操作に用いる数を求める割り算の順序も逆になる。

かけ算については、

$$
\scriptsize(操作後の数)÷(操作の対象)=(操作に用いる数)
$$

割り算については、

$$
\scriptsize(操作の対象)÷(操作後の数)=(操作に用いる数)
$$

となる。

これをふまえて、もとの集まりの数にかけ算や割り算をして、標的とする集まりの数と一致させたときの、かけた数や割った数を求める計算を考えよう。

このとき、

  • 「操作の対象」→(もとの集まり)

  • 「操作後の集まり」→(標的とする集まり)

と見なせるから、かけた数を求める計算は、

$$
\scriptsize(標的とする集まり)÷(もとの集まり)
$$

割った数を求める計算は、

$$
\scriptsize(もとの集まり)÷(標的とする集まり)
$$

となる。具体例で見てみよう。

$${2}$$を$${5}$$にするとき、$${2}$$にかけるべき数は、$${5÷2}$$で求められ、

$$
2×(5÷2)=5
$$

となる。ここで、$${(5÷2)}$$という数を新しい数として認め、改めて、

$$
5÷2=\dfrac52
$$

と書くことにしよう。$${\dfrac52}$$のような数を分数という。上の数を分子、下の数を分母という。

ここで、$${2}$$を$${5}$$にする具体的な操作は、「$${2}$$の集まりを$${2}$$つに分割し($${2÷2}$$)、分割したもの($${2÷2=1}$$)をまとまりとして$${5}$$個用意する($${1×5}$$)」という操作である。つまり、$${\dfrac52}$$の具体的な意味は、$${2}$$つに分割したもの$${5}$$個分ということになる。

逆数

今度は、$${2}$$を$${5}$$にする割り算を考えてみよう。このとき、割る数は$${2÷5=\dfrac25}$$と求められるから、

$$
2÷\dfrac25=5
$$

割り算で$${2}$$を$${5}$$にする操作($${÷\dfrac25}$$)は、かけ算で$${2}$$を$${5}$$にする操作($${×\dfrac52}$$)と全く同じ結果をもたらす操作であるから、どちらも同じ操作だと見なせる。

$$
÷\dfrac25=×\dfrac52
$$

よって、分数の割り算は、分母と分子を入れ換えた数のかけ算に等しい。

分数の分母と分子を入れ換えた数を、もとの分数の逆数という。$${\dfrac52}$$は$${\dfrac25}$$の逆数である。

よって、分数の割り算は、逆数のかけ算に等しいといえる。

ちなみに、どんな数$${a}$$に対しても、常に$${a÷1=a}$$が成り立つから、$${a=\dfrac{a}1}$$と見なせるので、$${a}$$の逆数は$${\dfrac1a}$$となる。

相対値(比、割合)

二つの量を比べ、その関係を調べることを考えよう。

基準量との関係を表す量を相対値という。

例えば、基準を$${5}$$としたとき、$${2}$$は$${5}$$に$${-3}$$を加えた数であるから、$${2}$$は$${5}$$に対して$${-3}$$という関係がある。よって、相対値は$${-3}$$である。この場合、相対値は差を用いて表される。

基準量との関係をかけ算で表す場合、かける数のことを、基準量に対するという。

例えば、$${10}$$は$${5}$$に$${2}$$をかけた数であるから、$${5}$$に対する$${10}$$の比は$${2}$$である。これは、$${10}$$は$${5}$$に対して$${×2}$$という関係があるということを意味するから、相対値は$${2}$$であるといえる。この場合の相対値は、比を用いて表されたものである。

全体に対する部分の比を割合という。

比や割合などの相対値は、基本的に分数で表される。

$${5}$$は$${10}$$の$${\dfrac12}$$である、あるいは、$${10}$$の$${\dfrac12}$$は$${5}$$である、などといった書き方をする。

まとめ

  • かけ算は足し算の繰り返しとして定義可能

  • 割り算はかけ算の逆

  • 分数は割り算の結果を表す数

  • 分数の割り算は逆数のかけ算に等しい

  • 比は二つの量の関係を表すもの(かけ算を用いて関係を表したときの「かける数」によって特徴づけられる)


まだまだ書きたいことは多いが、長くなるのでやめておく。もしかしたら整理してまた最初から書き直すかもしれない。実を言うと、ここまで一応書き上げたものの、あまり納得のいく出来にはなっていない。

完璧を目指しているわけでもないので、とりあえずはこのまま出す。書き直したくなったら、また改めて最初から書くとしよう。

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