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数の拡張(2)「計算」

数とは、集まりに含まれるものの多さに対して付けられた名前である。つまり、ものの多さを表すための言葉である。

この定義だと、数の表現範囲は、ものの集まり、特に、具体物の集まりに限定される。言い換えると、数で表せるものは、具体物の集まりの規模だけである。

今はとりあえずこの定義の範囲で十分である。このまま話を進めよう。

足し算

具体物の集まりに操作を加えれば、当然それに応じて数も変化する。

例えば、四個の小石と三個の小石を合わせて新たな集まりを作る。このとき作った集まりに含まれる小石の数は七個になる。

これらの数の関係は、小石でなくとも常に成り立つから、抽象的な数の世界にそのまま持ち込むことができる。

4と3を合わせると7になる。

4および3という数と「合わせる」という操作の組み合わせに、7という数が対応する。

合わせるという操作を「+」記号を用いて表し、対応するということを「=」記号を用いて表すと、次のようになる。

$$
4+3=7
$$

このように、いくつかの集まりをもとにして新たな集まりを作ったときに、もとの集まりの数とその操作に対して、新たな集まりに対応する数を求めることが「計算」である。

以上のように計算を導入する。

計算の利点はただ一つだけである。

いくつかの集まりの数を用いて、それらの集まりから作られる新たな集まりの数を求めることができる。

全部を一度に数えなくても、部分に分けて別々数えておけば、それらを使って数が求められる、というのが大きな利点である。

「ものを数える」という行為は、ものの集まりの規模が大きければ大きいほど、めんどくさくなる。逆に、小さい集まりであれば、ものの数を把握するのはとても簡単である。おそらく、五個以下のものは、一瞬見ただけでも正確に数を把握できるだろう。

大きな集まりも、小さな集まりが合わさってできた集まりだと考えれば、より楽に数を求めることができる。

例えば、九個の小石を定義通りに数えるよりも、五個の小石と四個の小石に分けて考えた方が、五個以下は数えなくても見ただけで数がわかるので、素早く簡単に数を求めることができる。

以上が「足し算」である。

具体物の集まりへの他の操作に関しても同様にして計算を導入しよう。

引き算

ある集まりの中のいくつかのものに注目し、それらを取り除く。このとき、もとの集まりの数と注目したものの数に対して、取り除いた後の残りのものの数が一意に決まる。

これが「引き算」である。この操作において、「引く数」に対応する集まりには条件がある。注目するものは、集まりの中のものでなければならない。だから、注目するものの数がもとの集まりの数を超えることはない。

そして、ものを加えることと取り除くことはちょうど真逆の操作になるから、数の世界においても「足し算」と「引き算」は真逆の計算であり、互いに相殺し合う。

かけ算

「かけ算」の導入には、ほんの少しだけ数を拡張する必要がある。

数える対象を、具体物単体だけでなく、具体物のまとまりにまで拡げる。例えば、鉛筆三本を束にして、まとめて一つとして数える、というような感じである。

鉛筆三本の束がいくつあるか、という数を考えることができる。

鉛筆三本の束が二つあるとしよう。このとき、鉛筆は全部で六本ある。

これは鉛筆に限った話ではないから、抽象的な数の世界に持ち込むことができる。

3個のまとまりが2つあるとき、全部で6個になる。

3のまとまりの数が2であるとき、それらの数の組み合わせに対して、6という数が対応する。

まとまりを数えることを「×」記号で表すと、次のように書ける。

$$
3×2=6
$$

このようにして、かけ算を定義できる。

まとまりの数から全体の数を求めることは、足し算でもできる。まとまりを繰り返し足せばいいのである。

$$
3+3=6
$$

この定義においては、かけ算と足し算の間に次のような関係が認められる。

$$
a×b=\underbrace{a+a+\cdots+a}_{b個}
$$

逆に言えば、足し算をもとにして、かけ算を定義することができるということである。

わり算

「わり算」は具体物の分配という操作に対して定義できる。

九個のあめを四人で分ける。一人分は二個で、余りは一個である。

「分ける」という操作を「÷」記号で表し、このときの一人分に対応する数を「=」の後に示し、余りをその後に書くと、次のようになる。

$$
9÷4=2\space{\small余り}1
$$

分数

具体物が分割可能であれば、等分割によって余りなく分配することができる。

分割可能なものは、例えば、ケーキなどの切り分けることができるものや、水などの液体である。

ケーキを半分に切ったときの数の変化を考えてみよう。

ケーキを切る前は、一個として数えられる。ケーキを半分に切った後、数は二個になる。ケーキを切った後の二個と切る前の一個はちょうど同じものを表している。

同じものを表すのに、なぜ数が異なるのか。それは数える対象が異なるからである。数には抽象性があるため、数える対象、すなわち数に対応付ける具体物やまとまりが異なることがありうる。

例えば、鉛筆を一本ずつ数えると四本だが、二本ずつまとめて数えると二つのまとまりとして見なせる、といった具合である。数は、何を一つとして数えるかによって変わるのである。

しかし、これでは全く同じ集まりを様々な数で表せるということであり、集まりに対して数を定めることができなくなってしまい、数の比較もままならない。

数の比較ができるようにするには、数え方を統一し、同じ集まりに対してただ一通りの数が定まるようにしなければならない。

半分に切る前のケーキを「1」として数えたなら、切った後のケーキを同じ「1」という数で表すことはできない。切る前の「1」とは異なる数でなければならない。

切った後のケーキの量は、切る前のケーキの量と、それをいくつに分けるかという分割数に応じて一意に決まる。これを新しい数と見なして、次のように書く。

$$
1÷2=\frac12
$$

このようにして分数という数を定義する。

この拡張により、具体物を等分した後の一つあたりの量を数で表すことが可能になった。

分数という新しい数の表現を導入した。これらは拡張前には存在しなかった数である。

さて、使い分けしやすいように、普通の数、つまり分数でない数にも名前を付けておこう。数の拡張前からもともとある数、すなわち「1」「2」「3」などの数を自然数という。最初に数を定義したときからあるのだから自然な数と言えば確かに自然な数であろう。

まとめ

具体物の集まりに加える様々な操作に対して、それに対応する計算が定義できる。

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