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実数~直線上の点の位置

実在する数

実数についての話。

現実に存在する数だから「実数」と呼ばれる。これは、現実には存在しない想像上の数と区別するために、あえてそう呼ぶのである。

ところで、数が現実に存在するとはどういうことか。

数そのものはあくまでも、人間の頭の中にのみ存在する抽象的な概念である。したがって、現実に存在できるのはその具体例ということになる。

そこで、具体例が現実に存在するような数を、実在する数ということにしよう。

$${0}$$以上の実数すべてに対し、具体例として「長さ」を挙げられるので、$${0}$$以上の実数は実在する数である。しかも、その計算に対応する「具体的な操作」も実際に存在する(計算に対応する操作を現実に行うことが可能である)から、$${0}$$以上の実数の計算もまた実在するといえる。

ちなみにこのとき、数と長さの対応付けにおいて、$${0}$$は「長さがない」ことを意味するのが普通であるから、$${0}$$より小さい長さは考えられない。

しかし、計算上では$${0}$$より小さい数(負の数)を考えることはできる。負の数を計算の都合により頭の中で考えることはできても、負の数に対応する長さ($${0}$$より小さい長さ)は現実に存在しない。ということは、負の数は実在しない数なのだろうか。

数の具体例を「長さ」や「量」などに限定するならば、負の数に対応する具体例は現実に存在しないのだから、負の数は実在しない数だといってもいいだろう。

しかし、「長さ」「量」に限定しないのであれば、負の数に対応する具体例は現実に存在する。この意味において、負の数は実在する。だから、実数は「実在する数」だといえるのである。

負の数

まずは、計算において考えられる数として「負の数」を導入する。それから、負の数に対応する具体例を挙げる。

負の数が必要になるのは、次のような計算をするときである。

  • $${x+7=4}$$などの方程式を解くとき。

  • $${2-5}$$など、小さい数から大きい数を引く引き算。

数の具体例が「線分の長さ」の場合、小さい数から大きい数を引く計算の解釈は、「短い線分から長い線分を切り取る」というものになるが、このような操作を現実に行うことは不可能である。

負の数の具体例を考えるには、小さい数から大きい数を引く計算に対応する操作が現実に存在するようなものを考えなければならない。

引き算の解釈が「長さを切り取る」とか「量を減らす」とかだと、長さがないところからさらに切り取ったり、何もないところからさらに量を減らしたりしなければならないため、現実には不可能な操作である。

数と計算の解釈を変更する必要がある。

数と計算の解釈の変更

数を「長さ」として解釈するのではなく、「点の移動」として解釈すればよい。

この解釈の変更により、計算の解釈も多少変わる。変更点をざっと見てみよう。

点の移動と足し算

足し算$${a+b}$$は、$${a}$$だけ右に移動することと、$${b}$$だけ右に移動することを合わせた移動を表す。

点の移動と引き算

引き算$${a-b}$$は、右に$${a}$$移動することと、左に$${b}$$移動することを合わせた移動を表す。

かけ算と割り算の解釈については長さの場合と大して変わらず、点$${a}$$を倍率$${b}$$または$${\dfrac1b}$$で伸縮移動させることと捉えられる。

正の数と負の数

数と計算の解釈を変更したことによって、$${2-5}$$の解釈は「右に$${2}$$だけ移動することと左に$${5}$$だけ移動することを合わせた移動」となる。そして、そのような移動は実際に存在し、「左に$${3}$$移動する」というものになる。

しかし、原点から左に移動すると、点は半直線の外に飛び出してしまう。

半直線の外に飛び出す点

半直線の左側の点を表す数が必要である。

半直線の右側の点の位置は、原点からその点までの長さによって指定される。すなわち、原点から右にどれだけ移動したかによって表現される。

点$${a}$$の位置を、原点から右への移動、すなわち足し算を用いて表すと、

$$
a=0+a
$$

となる。

原点より左側の点も、同様の発想に基づいて引き算で表すことができる。原点から左に$${a}$$移動した点は、$${0-a}$$と表せる。

$${0}$$を省略して、原点から左に$${a}$$移動した点の位置を表す数を$${-a}$$と書くことにする。

原点より左側の点の位置を表す数、すなわち$${0}$$より小さい数を負の数という。それに対して、原点より右側の点の位置を表す数、すなわち$${0}$$より大きい数を正の数と呼ぶ。

負の数の導入により、半直線は左側にも延長され、両側に無限に伸びる直線となる。この直線上の点はすべての実数に対応するので、実数を表す直線となる。実数を表す直線を数直線と呼ぶ。

数直線上の点の位置に対応する実数を点の座標という。点$${P}$$の座標が$${x}$$のとき、$${P(x)}$$と書き表すことにする。例えば、点$${A(2)}$$は原点から右に$${2}$$移動した点であり、点$${B(-3)}$$は原点から左に$${3}$$移動した点である。

数直線

負の実数の計算

次に考えるべきは、負の実数の計算の意味である。負の実数の四則計算をどのように解釈すべきだろうか。

実数を点の位置、すなわち原点からの移動として解釈すると、足し算は連続した移動と解釈するのが妥当である。

例えば、$${2+(-3)}$$は原点から右に$${2}$$移動し、続けて左に$${3}$$移動した点の位置を表すと捉えるのである。

引き算は逆向きの移動として解釈する。左向きの逆は右向きなので、負の数の引き算は正の数の足し算に等しい。

例えば、$${-3}$$は左向きの移動であり、その逆は右向きの移動であるから、$${-3}$$を引くことは$${3}$$を足すことに等しい。

$$
2-(-3)=2+3
$$

$${-(-a)=+a}$$は次のように証明できる。

$$
\begin{aligned}-(-a)&=\underline{0}-(-a)\\&=\underline{(+a)+(-a)}-(-a)\\&=(+a)+\underline{(-a)-(-a)}\\&=(+a)+\underline{0}\\&=+a\end{aligned}
$$

足し算や引き算の解釈はまだ理解できる。問題はかけ算である。

その前に、実数に対する理解を深めるために、具体例をいくつか挙げよう。

数直線

無限に延びる直線に目盛を付けたもの。この直線上の点の位置と実数とを対応付けられる。原点より右側にあるか左側にあるかは「符号」によって指定され、原点からの距離が「絶対値」によって指定される。

移動

互いに反対な二つの向き、および移動距離によって定められる移動。例えば東または西への移動など。向きは「符号」に、距離は「絶対値」にそれぞれ対応付けられる。

変化量

様々な量に関して、その変化を表すもの。例えば、長さや体積、高さ、重さなどの増減。増加か減少かは「符号」で、変化した量は「絶対値」で示される。

比較量・相対量

基準と比較したときの量の差。基準より多いか少ないかは「符号」で表される。差の大きさは「絶対値」で表される。例えば、Aさんの身長が全国平均よりも$${5}$$cm低いことを、全国平均を基準として$${-5}$$cmと書いたりする。

時刻や時間

基準とする時間の何秒[分、時間]後とか前とかを表現するのに実数を用いる。例えば、$${5}$$分後を$${+5}$$(あるいは単に$${5}$$)と表し、$${7}$$分前を$${-7}$$と表すなど。普通、時刻を表す変数$${t}$$を用いて、「$${t=5}$$のとき」とか「$${t=-7}$$のとき」とか書いたりする。

以上のように、実数の具体例はいろいろ考えられる。具体例すべてに共通する特徴は「符号」と「絶対値」に対応する性質を有しているというところである。特に、「符号」の性質として、互いに打ち消し合う(足すと$${0}$$になるような)性質をもつ二つの種類や方向があるという点が重要である。

具体例に対して定義される足し算は次の性質を有していなければならない。

$$
(+a)+(-a)=0\\(-a)+(+a)=0
$$

それぞれの具体例についての足し算の解釈はそれほど難しくないので割愛する。ほとんどの人が似たような解釈に落ち着くはずである。

解釈が難しいのは「かけ算」である。

まずはかけ算の素朴な解釈から始めよう。

$$
2×5=2+2+2+2+2
$$

自然数のかけ算は、足し算の繰り返しとして解釈できる。

$$
\begin{aligned}2×\frac{3}{5}&=2×\bigg(\frac15×3\bigg)\\&=\bigg(2×\frac15\bigg)×3\\&=\frac25×3\\&=\frac25+\frac25+\frac25\end{aligned}
$$

分数のかけ算は、分割した数の足し算の繰り返しと捉える。分数を考えるうえで分割は欠かせない。

この解釈において、かける数(かけ算記号の後ろの数)は分割や足し算の繰り返しの回数を表す。したがって、かけられる数とかける数では表す対象が異なる。

例えば、かけ算の例として、みかんが$${3}$$個入った袋が$${5}$$袋あるときの合計のみかんの数を求めることを考えると、かけられる数の$${3}$$は「一袋あたりのみかんの数」を表すのに対して、かける数の$${5}$$は「袋の数」を表している。かけられる数とかける数では異なるものの数となっている。

さて、以上の解釈をふまえ、負の数のかけ算について考えよう。

かける数が足し算の繰り返しの回数を表すという解釈では、かける数が負になることは考えにくい。

そこで、「符号」と「絶対値」を分けて考えることにする。「絶対値」のかけ算は従来のかけ算と同じものと見なすことにして、「符号」のかけ算については新たに定義するとしよう。

正のかけ算は、従来のかけ算と同様に、かけられる数の符号はそのままにする。負のかけ算は、かけられる数の符号とは反対の符号にする。いわゆる「マイナス」×「マイナス」は「プラス」になるという法則である。

なぜこのように定義するのか、疑問に思うのは自然なことである。

そもそも、負の数のかけ算に対応する具体例は現実に存在するのだろうか。

少なくとも、みかんが$${-3}$$個入った袋が$${-5}$$袋ある、などという状況は現実にはありえない。

では、どんな例ならあり得るだろうか。もっともよく使われるのは、速度と時刻から位置を求めるときだろう。

例えば、東を正の向きとして、$${2}$$時間以上もの間ずっと同じ速度$${-60}$$km/h(つまり西向きに$${60}$$km/h)で走っている車がある。現在の時刻を$${t=0}$$[h]として、時刻$${t=-2}$$[h]における車の位置を求める問題。

$${-60×(-2)=120}$$より、現在地から東に$${120}$$kmの位置にいたことがわかる。

時間を巻き戻すと、車はバックしているように見える。ゆえに、時間を巻き戻すと車は逆方向に移動すると見なせる。時間の流れが逆になれば、車が移動する方向も逆になるのである。これが、負のかけ算の感覚である。



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