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中検一級、準一級の語彙問題を分析してみた

本日、第110回中国語検定を受けてきました。今回受験したのは1級で、2年前の第104回で準一級に合格して以来の中検でした。

すでに自己採点をしていて、記号だけでもリスニングが35/50、筆記が42/56と不合格は決まっているのですが、細かい学習の記録は別の記事に書くこととして、今回は対策をする中で気づいた中検の語彙問題に関するあれこれをまとめたいと思います。


中検における語彙問題

言わずもがな、中検は語彙力への執着心がえげつない試験です。HSKと中検の違いがよく聞かれますが、HSKが中国語を活用することに重きを置いた試験で、中検が語彙を徹底的に覚えることに重きを置いた試験だと僕は考えています。確かに中検でも活用を主目的とした出題が和訳、中訳のように出題されますが、それと語彙問題の難易度を比べたら、圧倒的に後者の方が学習者にとっては辛いものとなるでしょう。

僕が中検準一級に合格した際は成語やことわざを900強、慣用句も400〜500程度、さらにはキクタン上級の単語を全て暗記して臨みました。はっきり言って使いこなせるのはその10%にも満たないですが、出題の仕方を見るにそれらを活用するところまでは求められていないので、ひとまず覚えるだけでいいと割り切る方が試験対策上は良いでしょう。

2年前に準一級を受験した時の記録は、以下をご参照ください!


中検一級、準一級の語彙問題の類型

今回一級を受けるに当たって、高電社のサービスを数ヶ月利用して1級に出題される記号問題(筆記の大問1〜3)を合計16セット、準一級は2年前の対策時を含めて合計12セット解きました。一級の問題は必ずしも最新のものを解いたわけではなく、新しいものを中心に古いものも解いていきました。全てを記録したわけではないですが、上から順番に解いた点数の記録は以下の通りです。

中検一級の語彙問題

この記事を読者層を考えると釈迦に説法だと思いますが、中検準一級と一級の出題形式はほぼ同一で、大問1が読解のふりをした語彙問題、大問2が文中の空欄を埋める問題、大問3が下線が引かれた語彙の説明問題です。いずれも記号で出題され、1問2点、配点が上から20、20、16の合計56点となっています。

これから紹介するいくつかの類型は、データの集めやすさの関係上大問2と3についてのものとなります。肌感覚としては大問1も似たようなもので、対策の仕方は同じだと思うので参考にしてもらえると嬉しいです。

大問2の類型

大問2に出題される語彙問題の選択肢をいくつかの類型に分けると、以下のようになります。あくまでぱっと見の区別で、正確には成語ではなかったり慣用句ではなかったりということもあるかと思いますが、学習の方針を立てる上で支障のない程度の正確さで分けるとこんな感じになります。

  1. 成語:4文字の単語(動+目や重ね型を除く)

  2. 慣用句:3文字の単語を中心にした重ね型を含む特徴的な単語

  3. ことわざなど:5文字以上の俗語、歇后语、3+3や5+5の組み合わせとなる単語

  4. 類義語:意味が似ているが使う状況が異なる単語

  5. 難読語:そもそも読み方が分からず、意味もぱっと見では分からない単語

  6. 二字熟語(一字共通):AB、AC、AD、AEなど一文字共通する単語

  7. 二字熟語(二字共通):主にAB、AC、DE、DFなど共通する漢字が2〜3字ある単語

  8. 二字熟語(相互に異なる):共通する漢字はなく、意味上も特に似ていない単語

  9. その他:上の類型に当てはまらないもの

  10. (準一級のみ)一文字単語:量詞や一字の動詞

それぞれの類型の出題割合

今回解いた(そして全て覚えた)280問を上記の類型に分け、それぞれの出題割合を算出したところ、下記の表のようになりました。

各類型の出題割合

準一級の特徴は3文字の慣用句の出題がやや多いこと、一級の特徴は成語が多いことでしょうか。一級は難読語もちょいちょい見るイメージで、初見だと想像するのも難しいのではないかと思います。

準一級や一級を受験する人の多くが「中検は成語と慣用句だ!」という認識を持っていると思いますが、実は二字熟語がどちらも全体の5割ほどを占めており、むしろこっちの方が対策をしづらく中検を難しくしている原因ではないかと思います。

成語(難易度:★★)

シンプルに成語が4つ選択肢に出てくる問題で、意味が似ている組み合わせもあれば、字面だけが似ていて全く意味が異なるもの、意味も字面も異なるものなど様々です。

重複して出題されることは実はそれほど多くなく、とにかく数を頭に入れないと太刀打ちできません。今回解いた280問の大問2の問題で重複があった成語は、のべ200強あるうちわずか9個で、3回出たものはありませんでした。大問1、3を合わせると増えるでしょうが、合計28セットで重複が9回で、3セットに1回過去に出た成語が出る計算です。最低1000個(およそトレーニングブック筆記編の準一級に出題されるもの全て+キクタン中級、上級の成語全て)は覚えないと、初見のものばかりで本当に勘でしか解けません。

ただし1500個くらい覚えたり辞書を調べたりして目にする経験を積むと、初見でもなんとなく意味が想像できたり、不正解であることはわかるなどの勘が磨かれてくる(これは良くないことだと思う)ので、一級を受験するに当たってきちっと暗記する量としては1500個が目安になると思います。ちなみにトレーニングブック準一級と一級に出てくる成語を全て足したら2000個くらいになるはずです。覚えるのは困難ではあるものの、学習の見通しは簡単に立つので難易度は★★としました!

慣用句(難易度:★)

慣用句は主に3文字で、キクタン慣用句編に載っているようなものを指しています。動+目の構造で3文字になるもの(爱面子など)もあれば、1文字の動詞と3文字の名詞を合わせて4文字(吃闭门羹など)になるものもあります。

慣用句も出題頻度は高めで、3文字系に関して言えば割と種類が限られています。キクタンに載っているのが392語で、過去問をいくつか解いて出題されたものと合わせて覚えるだけで準一級は合格できるレベルに達すると思います。

一級でも基本はその程度だと思います。僕は中検を受ける直前に现代汉语词典のアプリバージョンに「熟語」という括りで慣用句やことわざがまとめられているページがあると知り、それを時々眺めていました。そこに登場するものは全部で451語あり、これまで全て覚えられれば次の「ことわざなど」の類型も含めて初見のものはかなり減ると思います。
(このリストが出題の何%カバーできるかは確認が大変なのでまたの機会に、、)

雑なまとめですみませんが、アプリに入って○の通りに進むとアクセスできます!

ことわざなど(難易度:★)

4文字が成語、3文字が慣用句なら、5文字以上は「ことわざなど」だろうと思って勝手にまとめした。正確な言えば慣用句、俗语、歇后语などで、例えば丢了西瓜捡芝麻とか干打雷,不下雨とか三个臭皮匠,顶个诸葛亮のようなものがあります。

この類型は辞書にも載っていなかったり、例文が別の単語のページに紛れてたり、出題頻度の割に調べるのが難しいです。大問2での出題は多くないですが、大問3では結構な割合を占めるのでしっかりとした対策が必要です。

教材はトレーニングブックが一番コスパがいいです。あとは先ほど紹介した现代汉语词典の熟語コーナーや、僕は使ってませんが『中国語 四字成語・慣用表現800』にもたくさん出てきます。

この類型に出てくる単語は言葉から意味がイメージしやすいものも多く、数も現実的に覚えられる程度なので、難易度としては低めです。

類義語、難読語(難易度:★)

類義語と難読語は準一級、一級ともに少し出る程度です。ただ、後で説明する共通する漢字を含む二字熟語にも類義語と言っていいようなものもあるので、割合が示す以上にきちんと勉強する必要がありそうです。

類義語の例だと「撑腰、后盾、支持、张扬」という選択肢などがあります。张扬は言いふらすという意味なので類義語には当たりませんが、それ以外の使い分けや細かな意味の違いを知る必要があります。よく辞書で用語の違いを比較するコーナーに出てくる単語が出題されることもあるので、辞書を引くときは注意しておくといいでしょう。

難読語はの例は「蹊跷、蹉跎、蹒跚、踟蹰」があります。蹉跎岁月は基本的なので2つ目はわかるかもしれませんが、調べたことがなければ踟蹰か「躊躇」であることに気づけないでしょう。難読語とはいっても一度知ってしまえば見る頻度が高いことに気づくはずです。出題数は限られてますが、普段から読めない字は辞書を引いて典型的な使い方を知る必要があります。

二字熟語(難易度:★★★)

二字熟語は特徴に基づいて3つに分けましたものの、詰まるところどのくらい単語を知っているかで、難易度を一番高くしたのはこの二字熟語の対策が他より難しいからです。特に一字共通の問題のうち不正解の選択肢として出題される単語は正直何年かけても知り得ないんじゃないかと思うものもあります。

そんな対策しづらい類型で全体の半分ほどを占めるので、一級の筆記の記号問題56点のうち合格点といえる46〜50点を取るのを難しくしていると感じます。

一字共通の問題は繰り返し出されるわけでもなく、正解の単語を知らなければほぼ当てずっぽうになってしまう気がしています。例えばある回で「看青、返青、杀青、踏青」という選択肢がありました。正解は「杀青: クランクアップ」でこれが分かれば正解できますが、他の選択肢は「看青: 青田の番をする」などで、仮に目にしたとしてもスルーしてしまう言葉が多いように思います。

二字共通のものは「依赖、依偎、谋求、苛求」のように、2つで依が共通、2つで求が共通、というような組み合わせで、類義語の要素もあります。また、この場合どの選択肢もよく使うものや学習の中で身につけられるものが多いように感じます。簡単ではないですが、先の一字共通よりは良心的です。

相互に異なるものは純粋な語彙問題で、4つの選択肢の単語を全て知っていれば間違えません。「缤纷、炫目、标致、纤细」などで、最初見たときは知らなくても辞書を引いて用例を見れば頭に入る言葉が多いです。

詰まるところ、熟語の問題はいかに普段文章に目を通し、知らない単語を調べ、覚えているかに尽きると思います。HSKと比べ中検は成語や慣用句が特徴的で目立ちますが、結局はこういうシンプルな二字熟語を用法込みできちっと勉強するのが重要だと思います。

大問3の類型

同様に、大問3の類型は以下のようになります。先に説明したものと基本的に同じであるため詳細は割愛します。

1. 成語
2. 慣用句
3. ことわざなど
4. 二字熟語
5. その他

それぞれの類型が出題割合

大問2と比べると、準一級、一級ともに「ことわざなど」の割合が格段に高いことが分かります。大問3は下線の引かれた語彙の説明として適切なものを選ぶ形式で、大問2よりも解きやすい問題が多いです。ただしこちらも全部で200強ある語彙のうち2回出たのは12個だけで、3回出題されたものはありませんでした。中検が過去問を解きまくって合格できる試験じゃないことがよくわかりますね。

過去問を解く中で気づいたのですが、選択肢に書かれた中国語の説明文は现代汉语词典や现代汉语规范词典(iOS標準搭載、設定から登録可能。)から引っ張ってきたものも多く、日頃から中中辞典で単語を調べる癖をつければかなり対応しやすいと思います。

例えば「一个萝卜一个坑」の正解の選択肢と、现代汉语词典の説明は以下の通りとなります。

比喻每人各有岗位,各有职责。

现代汉语词典

比喻每个人都有自己的岗位

中国語検定過去問

このように、中国語の説明を覚えてしまえば迷うことなく選べるものが多いです。

成語(難易度:★★)

大問2と変わらず、ひたすら暗記するのが全てです。やはり同じものが何度も出るわけではないですが、ざっくりと意味が分かるだけでも正解できる場合もよくある印象です。

意味を問われている成語が完全に初見であっても、文脈から肯定的か、否定的かを判断すれば2択になることもしばしばです。先に書いたように1500個ほどざっくりと覚えておくと成語の構造からあたりがつけられるかようになります。例えば『中国語成語ハンドブック』には成語が3200個掲載されており、现代汉语词典にも4000個以上載っています。これら全てを覚えるのは無理で、中国人も多分全部は知らないでしょう。なので現実的に学習しうるラインを超えたら覚えることより使えることに注力する方が建設的だと思います。

慣用句(難易度:★)

これも大問2と変わらず、覚える数が少ない割りに出題割合は高いため、確実に得点したい問題になります。ただ、例えば単語帳の一番頭に書いてある意味だけを形式的に覚えても思っていた意味の説明がない場合があります。

做文章は、当初「あげつらう」という意味で覚えていました。しかし、実際の過去問の正解の選択肢にはこんなものがありました。

比喻利用一件事发议论,打主意。

中国語検定過去問

あげつらうとは、「物事の良し悪しについて論じ合う。また、欠点・短所などをことさらに言い立てる。」と国語辞典に書いてありますが、この選択肢はあまり日本語の説明にあるような贬义词感がなく、ストレートに選びづらいです。

しかし、现代汉语词典には下記の通り説明があります。

比喻抓住一件事发议论或上面打主意。

现代汉语词典

やはり、中検の勉強をする際は日本語をベースとしながらも、分かったつもりの単語ほど中中辞典で意味を調べ、そこに出てくる単語のニュアンスをつかむと良いでしょう。片っぱしから全て中国語で暗記するのは難しいので、間違った問題だけ調べるでも良いと思います。

ことわざなど(難易度:★)

大問2と同様解きやすさの観点で言えば大問3のことわざも知っていれば正解できるものが多いです。しかし、知らないものはどう頑張ってもわからないこともあるし、覚えることに特化した教材もないので勉強がしにくいです。やはりトレーニングブックが一番収録数がある気がしていて、その他だと先に紹介した『中国語 四字成語・慣用表現800』が良いでしょう。

例に漏れずこちらも现代汉语词典や现代汉语规范词典の説明が少し形を変えて選択肢になっており、日頃から中国語で理解する癖を付けるのが良いです。

二字熟語(難易度:★)

大問2と3を比べると、多くの人が後者の方が解きやすい、点にしやすいと思うでしょう。その理由はやはり二字熟語がどのくらい出るかの違いだろうと感じます。大問3には二字熟語があまり出ないので、全体として16点中12点以上が取りやすいです。また、結果論ですが出題されたものも割と簡単なものが多く、大問2の選択肢に4つ並ぶ状態よりは楽に解くことができます。

ただし、ものによっては「知らんものは知らん!」と匙を投げたくなります。例をあげると「海选」というのがあり、選択肢は以下の通りです。

①指定若干个候选人,得票多者当选的选举。
②不指定候选人,得票多者当选的选举。
③经过广泛的竞选活动之后的选举。
④选举人不必在选票上署名的选举。

いや知らないよ、と思いませんか?僕は思いました。ちなみにこれは準一級の問題です。どういう基準で準一級と一級の出題語彙を決めているのか気になりました。

全部合わせてみると

これまで様々な類型に分けて大問2と3の出題傾向について説明してきました。折々中検は過去に出たものが繰り返し出るとも限らないという話をそれぞれの大問に絞って書きましたが、では大問2と3、準一級と一級を合わせたらどうなるか気になると思います。なので成語、慣用句、ことわざなどの3類型について、今回解いた504問に登場した単語のうち機械的に重複するものを数え、抜き出して紹介します。

成語:12/277

一毛不拔 / 顿开茅塞 / 坐井观天 / 三心二意 / 七上八下 / 信口开河 / 脱颖而出 / 望梅止渴 / 望尘莫及 / 去龙去脉 / 了如指掌 / 琳瑯满目 / 咄咄逼人 / 无懈可击 / 应接不暇 / 锲而不舍 / 风华正茂

慣用句:13/210

*吃不准 / 栽跟头 / 耳边风 / 随大溜 / 打圆场 / 倒胃口 / 套近乎 / 莫须有 / 留一手 / 留后路 / 露马脚 / 做手脚 / 连轴转

*正確には慣用句ではないかもしれませんが形式上慣用句として整理。

ことわざなど:17/90

一个萝卜一个坑 / 好马不吃回头草 / 搞不成,低不就 / 此一时,彼一时 / 三下五除二 / 三天打鱼,两天晒网 / 二一添作五 / 不管三七二十一 / 有眼不识泰山 / 有鼻子有眼儿 / 哪壶不开提哪壶 / 头痛医头,脚痛医脚 / 碰一鼻子灰 / 赶鸭子上架 / 车到山前必有路 / 这山望着那山高 / 鸡蛋里挑骨头

出題単語例(ダウンロード用)

最後に

中検準一級は、巷では「事実上のゴール」などと書いていますが、実際に受かった身からすればゴールどころかスタートも怪しいレベルだと感じます。そのような言説がまかり通っているのは紛れもなく中検準一級に合格した人がどんなふうに学習したかや、この試験をどう位置付けてチャレンジしたかという情報が著しく少ないことが原因です。準一級は確かに骨は折れますが、今回の記事や僕が過去に書いた記事を読めばやるべきことがわかってくると思います。やるべきことがわかったら、あとはやるだけです。1年かけるか、10年かけるか、2ヶ月で終わらせるかは自分次第で、終わりさえすれば合格できるんだろうと僕は考えています。

そして一級を受験して、やはり難しいなと思いました。「神の領域」だと僕も思ってしまいそうですが、数ヶ月この試験のことを考えて、客観的なデータを自ら作成してみると、流石に「神」ではない気がしてきます。だって、語彙力の面で言えば成語2000個、慣用句など1000個、ことわざや俗語500個、二字熟語たくさん(全部合わせて10000語くらい?)覚えれば大問1〜3は合格点なんですから。そのほか和訳や中訳、リスニングも難しいですが、語彙を覚える辛さに比べたら幾分ましです。(二次試験の通訳のことは一旦忘れる。。)

試験に受かるためだけの勉強を進めておいてなんですが、中検準一級も、そしておそらく一級も、日頃から幅広く中国語に触れ、知らない言葉を覚え、たくさん書いて、話して、聞いて、そういう当たり前の積み重ねを十分に継続した時、自然と合格できるようになっていると思います。小手先の死记硬背も、その前に覚えておくべき語彙をしっかり頭の中に入れないと全然身になりません。そういう当たり前のことに、今回もまた気がつくことができたと思います。

以上、中国語オタクの頭の中の共有でした!

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