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葉子、と。

微笑


 六月に入った途端、梅雨を思わせる連日の雨が続いていた。
 花村家恒例の月曜朝食会が終わり、尚美は亨の運転するホンダのミニバンに乗って、堺町押小路にある花村工房へ向かっていた。つい先程、ミスタードーナッツの前で波多野が降りた。
 波多野は約束どおりに亨から村上春樹の「1Q84」を借りることが出来たので、集中して読むべくドーナッツと、それからコンビニでミルクティーを買い込み、部屋にこもるつもりでいる。
「じゃあ」
 その一言を残し、本の入った鞄を抱えた波多野の背中が車から離れていった。

 本は葉子が先に読了していたけれど、亨はまだ読んでいない。波多野がその理由を聴くと、「何十万部も売れてる本には、どうしても退いてしまうんや」とのこと。世間が静かになってから読むんや、と。
「ノルウエイの森」の時もそうしたのだという。

「おまえが先に読めよ、その次、尚美さんで、俺はその後でええし」
「いいんですかほんとに。ありがとうございます」
 そう言いながら波多野は隣の部屋の、壁一面を覆い尽くしている本棚に目をやりました。村上春樹は全部揃っています。
「葉子さん、どうでした」
「うーん、村上ワールドやねえ。『美しい耳の女の子』が久しぶりにでてきたよ」
「あ、『羊をめぐる冒険』」
「そうそう。それでねえ…」
「はいっ、そこまでっ。おれ、まだ読んでないんやから、その先いわんといて」と、亨。
「いわんといて」と、尚美が口まねをしました。

 
 葉子は、四人がかりで後かたづけをしたおかげで(狭いキッチンなのでかえって混乱しそうになったけれど)、早くに手が空いた。そこでベランダに出て、昨日、大宅さんからもらった鉢の「検討」をすることにした。
  
 鉢に植えられているのは肉厚のぼてっとした葉をいっぱいに繁らせた「月下美人」。高さは1メートルを超えていて、ぎゅうぎゅうに混み合ったは葉は、ただただ暑苦しく、さらにその隙間から細く鋭いサーベルのようなシュートがまっすぐに突き抜けてもいた。葉子の頭に浮かぶのは「混沌」という二文字。
 しかし、この「緑の混沌」からあの夜の宝石のような花が生まれるのだ。それはわかっているのだけれど、この滅茶苦茶な「立ち姿」をどうしたものか…。
 葉子は意を決し、腕組みを解いて月下美人にとりつき、細かく状況を点検していった。

「あなたに是非『月下美人』をさし上げたいの」
 と、家の前で歯医者に行く途中の大宅さんにいわれたのが昨日のお昼過ぎ。「月下美人」は六月から夏にかけて、夜中に美しい花を咲かせるサボテンに似た植物である。まだ「月下美人」の実物を見たことがない葉子は、少しうきうきしながら夕方、大宅家に赴いたのだった。大宅家の裏に通されると、そこには株分けされた月下美人がウッドデッキいっぱいに広がっていた。葉子は「緑の海」に圧倒され、一瞬、言葉を失った。早いものはもう花芽が伸び出している。 
 大宅さんは「あなたで三代目なのよ」と、まるで後継者に何かを託すようなものの言い方をする。隣町の鈴木さんの家にあったものが株分けされて大宅さんの家へゆき、そこで花を咲かせ、さらにその株分けが花村家にやってくるようです。
 葉子は、…私が「グリーン・サム」(注)と見込んでの申し出かしら…と、少しいい気になりました。けれど、のたくったワカメでいっぱいになったようなウッドデッキを見ていると、ひょっとしてこれは正直言ってもうスペースがないからでは、と半ば茫然としながら感じていた。と、まるでその気持ちを察したかのように大宅さんがぺこりとアタマをさげるのです。
「ね、わかるでしょ。お助けくださいませ」
 大宅さんはぺろりと舌を出しました。

 そうして「月下美人」を一株、鉢ごといただいたのだった。何とか家のなかに運び込み、置き場所はベランダに。ところが帰宅した亨が鉢を見るなり「バランス、悪すぎ」といったように、夕食の最中に風に煽られてひっくりがえった。なんとか洗濯機にもたれかからせて一晩を過ごしはしたけれど。

 手もとには大宅さんから借りた「クジャクサボテン・月下美人」と表紙に書かれた小冊子がある。それも一応目を通したけれど、とにかく株を立て直さなければ。
 鉢からは三本の茎が立ち上がっていて、そこからいっぱいに肉厚の葉が広がっている。それを無理矢理まん中に集めて、荷造り紐で結わえてありました。
…これはほんとに手に負えなかったんやわ…
 葉子は家にある朝顔用の支柱を鉢にぶすりぶすりと刺し、茎の一本ずつに沿わせて結束をやり直しました。それでもすぐにでもひっくり返りそう。
…鉢を替えなきゃ駄目かしら…


 しかし鉢替えをするには今使っている土と同じものにするのが原則だ。現在の土はやたらと水はけのいい、荒い土です。根まで土を解しとり、まったく違う土にしようかと思ったけれど、巨大な株を見ると気がひける。
…えらいものをもらってもうたなあ…
 もう一度腕組みをした葉子の目は、一つだけ花芽を見つけた。
…とりあえずその芽が咲くまで、この態勢でいってみよう…
 心が決まった。葉子は小冊子を開き、水遣りと肥料のことをしっかり読み込むのだった。


 亨と尚美の乗ったホンダのミニバンは烏丸通りを南下していた。カーステレオからは古いブルースが流れています。ミシシッピ・ジョン・ハート、と亨が説明する。
「なんだか気持ちのいいギターのピッキングですね。ブルースってあまり聴いたことがないんだけど、こういうのもあるんですね。なんだか、からっとしてる」
 と、尚美が言うと亨がうれしそうに
「好きなんや。こういうの聴いてると淡々と仕事に行けるんからいいんよ」
 と言う。
「俺ね」
 亨の声が、少しだけあらたまったように高くなりました。
「なんていうか、仕事の前に心に波を立てたくないんや。心がざわついていたらろくな仕事でけへんからね。それでなくても世間は波立つようなことばかりやし…まあ、車の中で音楽聴いて調整してるんかな」
  それは、それだけ心が感じやすいということなんだ、と尚美は思います。
「尚美さんはどんな音楽聴くの」
「パット・メセニーとか…。日本のだとスピッツとか宇多田ヒカルとか。そんなにたくさんCD持ってないんです」
「ヒッキーは葉子も好きだよ」
 亨はなんだか嬉しそうだ。

 仕事の現場に行く前に二人が亨の実家に寄るのはわけがあった。
 朝食会のとき、尚美と波多野が広隆寺に行った話が出た。じゃあ「御火焚き」にはみんなで行こう、と話は盛り上がり、もちろん弥勒菩薩半跏思惟像も話題になりました。赤松でてきているから半島のものでしょう、と波多野が言うと
「たぶんね。そうそう奈良にもう一つ有名な弥勒さまがあるやろ」と、亨。
「中宮寺の観音菩薩ですね。お寺では如意輪観音としているけれど、広隆寺の弥勒さまと同じポーズですよね」
 尚美がそう言うと、親父が先月までそのお寺に行ってたんや、と亨が肯きながら言った。

 亨の父、花村俊之介は建具の職人で、美術工芸の仕事も多く、文化財の修理も請け負ってきたという。二条城や国立迎賓館の仕事もし、最近は奈良の中宮寺の大修理にも加わっていたのだった。
「たしか、『俺の仕事姿が本に出てるぞ』ってゆうてたなあ」
 それを聴いた途端、尚美はその本が読みたくなりました。亨が携帯で父親に連絡をすると、数冊持っているから一冊を葉子にくれることになったのだ。

 御所から堺町通りを南下。御池通にでる一筋手前の町家の前で車は停まりました。前に停まっている黒いホンダのCR-Vから痩せて背の高い初老の男がひらりと降りてきた。ぴちっと折り目の付いた濃紺のズボンとまっ白なゆったりとしたシャツ。髪はオールバックに綺麗に撫でつけられている。亨にあわせて尚美も車から降りた。

「おはようさん」
「おお、えらいべっぴんさんといっしょやな」
「この子が読みたいてゆうてた子なねん」
「あ、どうも。わざわざきてくれはって。こっちからいってもよかったんやけど仕事先が正反対なもんでね。美術史の勉強したはんねんてなあ。ありがたいこっちゃ」
 顔は微笑んでいるけれど視線が鋭く、頭の回転が早そうな人だな、と尚美は感じました。
「おはようございます。鈴木尚美っていいます」
 花村俊之介はにこやかに肯くと、手に持っている小さな本の、あるページを押さえて亨に見せた。

…長い綺麗な指。職人さんの指…
 尚美の印象は一つずつ積み上がっていく。
 ページを押さえる父の指、それを支えようとする息子の指。二人はそっくりの指をしていた。

「ここ見てみ」
「へへ、仕事してるやん」
 尚美が覗き込むと障壁画を修理する俊之介の姿が撮影され載っていました。

「お寺には菩薩像がありますよね」と尚美が言うと
 俊之介は言葉を探すように、少し沈黙してから
「うん。あるね。…小さなお寺なんやけど」

 そして亨の手から小さな本を取り上げ、まあ仏像のことはあまり書いてないけどよかったらどうぞ、と言って尚美に手渡した。尚美が礼を言うと、にこやかな笑顔が返ってきた。 

「葉子ちゃんは元気か」
「ああ、相変わらず」
「そらよかった。うん。じゃ、俺行くから」

 

 花村家に福知山の友人から再び野菜が届いた。今回の荷物にはよく太ったインゲン豆がたっぷり入っていた。
「こちらでは蛍が乱舞しています」
 と、書かれた小さな和紙の便箋が添えて。
 京都市内でもそろそろ蛍が飛ぶ頃だけれど、あちらの蛍はスケールが違うんだろうな、と葉子は思う。まして友人が住んでいる場所が「天座」という地名なものだから余計にそう思えるのだった。

 葉子の「月下美人」は、どんどん大きくなり、ますます緑の怪物のようになってきた。朝日が当たるように工夫し、しかも雨が当たらないように、吹きぶってきたらビニールのカバーを掛けるようにした。花芽は少ないのだけれど、一つ、また一つと噴き出してきていて「夜の宝石」への期待は嫌が応にも高まるのだった。

 葉子が月下美人の鉢を点検している頃、亨は佐井通りと下立売り通りの交差しているあたりで軒下にずらりと月下美人の鉢を並べている家を見つけていた。ミニバンを路肩に駐めて見にいくと、花村家のものよりもずっとすっきりしてる。おそらく剪定が済んでいるのだろう。花が咲くまでは怖くて手が出せない、という葉子とは対照的に花芽のついたままばっさりと切って小さな素焼きの鉢に突き刺してもいた。そんな鉢がいくつも並んでいる。
 白いランニングシャツを着て、麦わら帽を深く被った老人が水遣りをしていた。手も腕も真っ黒に日焼けしている。

「こんにちは。これ『月下美人』ですよね」
「あ。はい」
「こんなに切っても花が咲くんですか」
「あ、花芽がついてんのは間違えて切っちゃったんやけどね。多分、大丈夫。こいつは強いから」
「剪定していかないと駄目ですかね」
「ああいくらでも大きくなるからね、黄色くなったり皺が寄ってるやつは切ったほうがいいよ」
「なるほど」
 『緑の怪物』のようになった株を前で途方に暮れている葉子の姿が脳裏に浮かんだ。
「ほら、ここに剣のような若いシュートがあるでしょう。これをある程度の高さで切ると、そこから平たい葉がでてきて、その葉に花芽がつくんですよ」

 何ともいえない笑顔を亨に向けて、老人はそう言う。
「花はさぞかし…」
「見たこと無い?まあ息を呑むぐらい美しいから。あなたも栽培してはるの?」
「ええ、株をもらい受けて」
「ああそれはよかった。大丈夫、きっと花を見ることができますよ」
 老人は、なんて幸運な人なんだ、と言わんばかりの表情をした。


 尚美は花村俊之介からもらった金色の表紙の本を読み始めていた。小冊子といってもいいくらいの薄い本である。表紙は菩薩半迦像(寺伝如意輪観世音菩薩像)と同じくらいに有名なこの寺の宝である「天寿国繍帳」を拡大したものかと思ったけれど、どうやら花村俊之介も修復にかかわった障壁画を拡大したもののようだ。金地の上を鳳凰が舞っている。
 平成の大修理について具体的な説明がぎっしりと書かれていて、半分は英語で書かれていた。英文はこの本の執筆者に京都在住の中世日本研究会のカナダ人女性のものと、ニューヨークにあるワールド・モニュメント財団理事長の短い挨拶文が寄せられていた。この寺に現存しているさまざまな「モニュメント」の価値が世界的に認められていることを尚美は再認識した。
 実際、海外の財団からの支援が今回の修理に大きく寄与しているようだった。

…なにしろあの微笑みだもの…
 尚美は菩薩半迦像の微笑みを思い起こす。数年前、尚美は奈良・斑鳩までこの寺を訪ねたことがあった。京都に比べてひなびた印象のある奈良の、さらに静かな里に建つ法隆寺に寄り添うようにあった小さな寺でした。

 広隆寺の弥勒菩薩がどこか冷ややかさを秘めた凛とした微笑みだとすれば、中宮寺の像はものは見るものを包み込むような優しさに溢れた微笑みだ、と尚美は思ったのだった。
 
 尚美は部屋の横壁を見た。そこにはアルミフレームに入った菩薩半迦像の大判のポスターが掲げられていた。
 まだ波多野の来たことのない部屋。このポスターが部屋にあることももちろん彼は知らない。本は美術関係のものがほとんど。広隆寺と中宮寺の二つの菩薩像の美しさに惹かれるままに日本美術史の勉強をすすめてきたのだった。
 人間の想いと指はこんな素晴らしいものを創りだすことができる。その指を支える心や暮らしとはどんなものだろう、尚美はそんなことをよく考えるのだった。
 そして、この先この研究が自分なりに何か一つのまとまった形をとり、それで区切りがついてしまった後でも、この微笑みをずっと傍らに置いていたいし、置いているだろうと思う。魅せられたままでいる自分でありたいとさえ。


「尚美、あれはクスノキだよ。知ってると思うけれど」
 朝食会の時、波多野が言った言葉を思い出した。広隆寺半迦像の赤松と中宮寺半迦像のクスノキ。朝鮮半島と日本。昔、それぞれの国に自生していた木です。仮に赤松があっても、おそらく日本に赤松を彫る技術はなく、また、朝鮮半島にクスノキは自生していなかった。

 彫る人の民族の違いが表情の違いに出るのかしら、だけど渡来系の仏師かも知れないし…。それとも木材の性質が菩薩さまの表情にも関係するのかしら、と尚美は考えていた。つまり、仏師が自らの描くイメージのままに彫るのではなくて、実はその木に『彫らされている』のだとしたら…とも。尚美は立ち上がってもう一度そのポスターを見入る。
…『彫る』ってなんだろう…


 波多野は村上春樹の「1Q84」を読みつづけていた。読んでいる間は本に集中し、三十分に一度くらいの休憩をいれ、ドーナツとミルクティーを口に運ぶ。このインターバルだと途中で邪魔が入らないかぎり、いつまででも本を読み続けることができるのだった。
 この作品にひかれる要素はいくつもあったけれど、夢と現実が表になったり裏返ったりする物語にぐいぐいと巻き込まれていった。どちらがどちらでもあるように思えてくる。現実がほんとうにそうであるのか疑い続けながら、もうひとつの現実もどこかにあるとする見方。あるいは現実は簡単に崩れてしまうのだとする認識はある意味、仏教的ですらある、と感じていた。
 最近、尚美と広隆寺と中宮寺やそれぞれの菩薩像について語りあった中にもなにかそれを表す言葉があったように、頭に光が灯るのですが思い出せない。
 思い出せないまま長編小説を読む悦楽に身を任せながらBook2を読みすすめていると、尚美から電話がかかってきました。

「どう、おもしろい?」
「ものすごく。そっちは?」
「うん、修理の具体的な様子がとてもよくわかった。特に表御殿の屋根が面白いの。銅なの」
「銅って、平たい銅板のこと?」
「ううん、本瓦の形をした銅板瓦」
「銅を瓦の形に加工してるの?」
「うん」
「そんなのあるんだね」
「やっぱり重たい瓦は建物にかなりの負担をかけるし、地震の時にはその重みで建物が潰れたりするでしょう。阪神淡路大震災の時も凄かったし。これだと重さが十分の一なんだって」
「全体のバランスはどうなんだろう」
「それがねえ写真で見たらいい感じなの、いっしょに斑鳩に行きましょうよ」
「うん。それってどうなんだろう。どういうふうに輝いているんだろうね」

 マサルは尚美の声を聴きながら、横にいて欲しい気持ちが膨らんできました。肌に触れたいと無性に思うのです。読んでいる本のせいかもしれません。
 マサルは現実と「もう一つの現実」が表裏になっていて、夢の中で夢を語っているような「1Q84」の大雑把な説明をしました。
「これがさあ、広隆寺か中宮寺の何かに引っかかるんだよね」
「それはたぶん『世間虚仮』のことじゃないかしら」
 即座に答えが返ってきました。この世は常に移り変わり何物も実体のあるものはない。世はみな仮の姿、虚の姿であるという意味です。「世間虚仮 唯仏是真」は聖徳太子が常に口にしていた言葉として伝わっているのだった。「天寿国繍帳」に刺繍された言葉でもあった。
「ふーんなるほどね…。ということは現世のものはそんな確固としたものじゃないということだよね。ちょっと通じてるかな…。まあいいいや。それはそうと逢えないかな。こっちにこない」
「読書は、いいの?」
「Book2の途中なんだけど、ここまできたら中断しても平気。いつでも物語に戻れるよ」
 尚美が現れたのは二時間後だった。


 葉子は夕飯の支度をしたあと、もういちど月下美人の鉢に水を遣るためベランダに出ていた。ぶ厚い葉を一枚ずつ点検していると、また新しい花芽を見つけた。勢いよく吹き出ている。そして朝、確認した花芽がぐっと伸びていた。葉子は小さな歓声を上げて亨をベランダに呼び出した。


 尚美とは波多野は静かに本を読んでいた。夕食は二人で定食屋に行きさっさと食べ終え、すぐに部屋へ戻ってきたのだった。尚美はBook1を読み始めていて、波多野はBook2を今夜中に読み終えてしまいそうな勢いだ。
 尚美の携帯にメールが届いた。葉子からだった。


 「月下美人」の鑑賞会を一週間後あたりにしようと思うの。そちらの都合を教えてください。花の都合に合わさないといけないけどね。とにかく素晴らしく美しい花だそうだから深夜になるけどよければどうですか。 


 尚美が黙って微笑みながら波多野にメールの画面を見せる。波多野はにっこり笑って肯きました。
「初めて見る花だなあ」
「わたしも」
 尚美が返事のメールを打ち始めます。

 もう夏のような夜だった。

                             (了)

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