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それを恋と呼ぶなら私は今も彼に恋をしている

「彼に彼女ができたらしい」

そう聞いたとき、私は動揺した。なんとなく、ほんとに勝手に、彼は彼女を作る気はないんじゃないか、と漠然と思っていた。でもそんなことはなかった。彼は彼女を作った。私ではない誰かの彼氏になってしまった。

彼は部活の後輩で、特別目立つような人ではないけど、穏やかで芯の強さを感じさせる雰囲気をもっていた。口数は多くないのに、たまに出てくる言葉が面白くて、もっと話したい・知りたいといつも思っていた。

部活仲間として、話をしたり、メールをすることはよくあった。しかし当時の私はかなりシャイで、恋愛要素を人間関係に持ち込むことが極端に苦手だったため、彼に必要以上に好意伝えることはなかった。

それでも、なんとか彼に近づきたくて、一生懸命話しかけて、私にとってあなたは大事な存在ですよ、というメッセージを表現した。

そして、それは彼に伝わっていたと思う。彼は私のことを先輩として大事にしてくれていたと思う。

でも、私が本当に求めていることはそうじゃなかったのに。絶対にそうじゃなかったのに。

噂で聞いていた、彼女と彼が一緒に歩いているところを見た。

高校3年生の文化祭の日。

手を、繋いでいたと思う。羨ましかった。

数か月後、私が高校を卒業するとき、後輩達から寄せ書きをもらった。

彼からのメッセージは「ちょっと好きでした(笑)」と書かれていた。

それいつだよ。ちょっとってなんだよ。好きってなんだよ!って思った。

私もちょっと好きだったよ。


あれから10年後、彼と食事へ行った。

彼はあの時と変わらず、穏やかで優しく、そして口数が少なかった。

当時の彼女とは結構すぐ別れていたらしい。そして今は彼女がいない、と。

当然のように、その日も恋愛要素は持ち込まれなかった。

帰宅後、「やっぱり私にとってあなたは憧れの存在だよ」とLINEをした。

返事はなかった。

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