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NFTガチャと賭博に関する最新の議論を読み解く

1. はじめに

NFTの販売手法の一つとして、トレーディングカード(以下「トレカ」)のパッケージ販売のように、中身がわからない形態で販売する方法(以下、「NFTガチャ」)が考えられます。

しかしNFTガチャによる販売方法が、賭博にあたるのではないかと言う声があります。

いったいNFTガチャを巡って、どのような議論がなされているのでしょうか? 今後も国内でのサービス展開は難しいのでしょうか?

このnoteでは、上記について紹介したいと思いますが、説明することが多く、長い記事なので、Key Takeawaysを先にお示しします。

【Key Takeaways】
・NFTガチャのうち、販売市場だけを設置する場合は、オンラインくじなど既存のガチャ的なサービスと根本的に変わりはない。既存のサービスの法的整理が活かせるだろう。
・NFTガチャのうち、販売市場に流通市場を併設する場合(NBA Top Shot型)においても、販売市場と流通市場は性質が異なるため、両者を一体とみなす特別の事情がなければ、賭博に当たらないと解釈することも可能との経産省研究会の専門委2名の見解が公表された。
・このガチャをめぐる議論の行方は、ブロックチェーン/NFTに限られず、その他のオンラインサービスにも影響を与えるのではないか。

*以下では、NFTガチャの賭博該当性に関する議論の紹介を行いますが、元エンタメ/ゲーム業界の法務職員による「こういう考えがあるよ」という知見の共有とご理解ください。実際のサービスの提供に際しては、賭博該当性の他、留意すべき規制は複数あり、必ず弁護士にご相談ください。

*以下では、NFTガチャによって得られた結果のNFTを「ガチャNFT」と呼びます。

2. いわゆるNFTガチャの販売方法

NFTガチャとは、トレカや福袋のように中身がわからない形態で販売されるNFTですが、得られたガチャNFTを併設の流通市場(二次市場)で売買できるサービスがあります

代表的なものとして2020年10月から開始されたNBA Top Shotがあり、静止画ではなく短い動画がトレカになった点や、二次市場の存在ゆえに、非常に人気が出ました。

そのため、コンテンツの豊富な日本でも、同様の販売方法を検討した事業者はそれなりにいた/いるのではないかと思いますが、賭博に当たるとの懸念から、まだ日本で同様のサービスは提供されていません。

以下では、満たすと賭博になってしまう要件(構成要件)を説明した後に、NFTガチャの販売方法のうち、販売市場だけを設置するスキーム(以下「非併設型」)と販売市場に流通市場を併設するスキーム(以下「併設型」)とに分けた上で、それぞれ賭博の該当性につき考えたいと思います。

3. 賭博になる場合、ならない場合

3.1. 賭博の構成要件

賭博とは一般的には、以下のような行為を指すとされています。

【賭博の構成要件】
①偶然の勝敗により、②財物や財産上の利益の、③得喪を争う行為

*一時の娯楽に供するものを賭けた場合を除く(刑法第185条但書)

①の偶然性要件は、完全な運の要素だけでなく、ある程度の技術・経験を要するスポーツの勝敗なども該当します。②は金銭だけでなく、オンラインゲームのアイテムなども含まれます。

③「得喪を争う」とは、参加する人のうち、ある人の得(win)がその他の人の喪(lose)の上に成り立つ関係を指します。勝つ者がいれば失う者もいるという関係で、参加者は財産の一部を失うリスクを負っていることになります。
*なお「得喪を争う」の主体について、事業者と参加者との間の関係なのか、または参加者間の関係かは明らかではありませんが、実務上はいずれか一方が満たされていれば、要件を満たすと考えるのが妥当と思います。

たとえば、2人がお金を出し合い、トランプで勝った方が総取りできるとした場合、片方の得(win)が他方の喪(lose)の上に成り立つため、「得喪を争う」要件を満たします。

3.2 既存の賭博の整理

上記の構成要件を満たすものの、競馬・競艇などの公営競技についてはそれぞれ関係する法令により規制された合法な賭博と言えます。

加えて、風営法の規制の範囲内で適切に行われているパチンコ店についても賭博には該当しません(平成28年政府答弁)。また、たとえば友達間でトランプをして負けた人が勝った人にご飯をおごるようなような賭け事は「一時の娯楽」として違法性はないとされています。

他方で、上記の構成要件を満たし、かつ「一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまる」ものではない、オンラインカジノなどについては、サービスを提供することも利用することも違法と考えられています(三宅法律事務所ウェブサイト「オンラインカジノは違法です(法的議論の整理)」)。

違法賭博は刑事罰の対象となります。

4. 非併設型NFTガチャの考え方

4.1.既存のガチャの考えかた

「非併設型」NFTガチャとは、事業者が販売市場だけを設置し、流通市場を設置していないような形態の事業です。類似のサービスは世の中に複数あります。

たとえば、物理的な世界ではカプセルトイ(バンダイさんの『ガシャポン』とか)があり、ソフトな世界ではソシャゲ(オンラインゲーム)のガチャがあります。また、バンダイさんの『一番くじ』などのオンラインくじ(電子くじ)や購入するまで中身のわからないトレカのパック売りも基本的な設計は同じです。

これらのランダムにグッズが得られる形式の販売方法については、賭博の構成要件のうち③の「得喪を争う」ものではないとの整理がなされていることが一般的かと思います。
*①偶然の勝敗であること、②財物(ここでは得られるアイテム)が得られることから、①と②の要件を満たす前提で説明します。

得喪を争うとは、ある当事者の得(win)が他の当事者の喪(lose)の上に成り立つ関係と言えますので、もし、当事者のいずれもloseしないような整理ができれば、この関係は成り立ちません。

そのような発想から、実務的には、事前にどのような商品が当たりうるかについて明らかにした上で、「課金した額 ≦ 得られるアイテムの一般的な価格」の式が成り立つように設計しています。つまり、「得喪」の「喪」をなくすことで賭博の構成要件を満たさないという法的整理をしているものが多いと理解しています。

例えば、1回300円のオンラインくじであれば、最低でも一般的な販売価格として300円相当の缶バッジなどアイテムを提供すれば、少なくとも金銭的な損は生じず、販売者との間で得喪を争う行為ではないということです。

こうしておけば、購入者において、予めどのようなアイテムが当たりうるか分かっていれば、低レアなアイテムが当たる可能性をも織り込んで購入しているわけです。もし、低レアのアイテムが当たっても、支払った額に相当するものを得られていれば、損をしているとは言えないでしょう。

他方、事業者においても、ガチャを売った時点で売上が立っており、購入者が獲得するアイテムの偶然性(アイテムのレア度)によって、事業者の得るものが増えたり減ったりする関係にはありません。したがって、当事者間で「得喪を争」わないという整理になります。

実際、オンラインくじのサービスを提供する場合は、各社の実務にもよるものの、提供するアイテムのうち最も安いものについて、他社で売られている商品価格を調査し、その価格を踏まえ合理的な販売価格を設定し、一連の調査の証跡を残したりしていると思います。

同様の実務はオンラインゲームのガチャについても当てはまります(以下ガイドライン参照)。

有料ガチャについては、以下のいずれかを遵守するものとします。なお、有料ガチャにより提供されるガチャアイテムの価値について、その価額が明記されていない場合、可能な限りにおいて、その類似または同類のアイテム等の価額を参照するものとする。
a. 有料ガチャ1回利用時に提供されるガチャアイテムの価値は、有料ガチャ1回の価額と同等またはそれ以上とする。
b. 有料ガチャ 10 回利用時に提供されるガチャアイテムの提供割合の期待値上の価値は、有料ガチャ 10 回の 価額と同等またはそれ以上とする。
c. 有料ガチャの利用金額の総計が 5,000 円の場合、有料ガチャから提供されるガチャアイテムの提供割合の 期待値上の価値は、5,000 円と同等またはそれ以上とする。

ランダム型アイテム提供方式を利用したアイテム販売における表示および運営ガイドライン
日本オンラインゲーム協会
太字筆者

このような「喪」をなくす整理については、非併設型NFTガチャにおいても、原則としてそのまま活かせると思われます。従って、販売時に適切な価格設定がなされる限り、非併設型NFTガチャを提供することは賭博ではないとの整理も可能でしょう。

*なお、ガチャにおける「カード合わせ」(ソシャゲの「コンプガチャ」等)は、欺瞞性が高いものとして景品表示法で禁止されています(消費者庁ウェブサイト))。

4.2. ガチャNFTのリアルマネートレード

それでは、流通市場が併設されていなくても、プラットフォームの場外に移転して転売・換金できることは問題はないのでしょうか。いわゆるゲームの「リアル・マネー・トレード(以下、「RMT」)」に関する論点です。

非併設型NFTガチャであっても、パブリックなブロックチェーンを前提にすると、移転が自由に行えますので、第三者の流通市場で換金・売買することが可能です(下図)。

結論としては、ガチャNFTが換金できるから直ちに賭博に該当するというものではないと思います。ガチャNFTが換金可能であることは、得られるアイテムが要件②「財物/財産上の利益」であることを肯定する要素にはなりますが、直接的に③「得喪を争う」関係に影響を与えるものではないと思われます。

確かに、現状のオンラインゲームにおいて、事業者と利用者との間における契約(利用規約)によってRMTが禁止されていることが一般的です。

しかし、これは賭博に該当することを避けるためというより、主にRMTがもたらす問題(お金がゲームの勝敗を決し公平性を阻害する「Pay to Win」の問題や売買に伴う紛争)を避けるための措置と言えるでしょう。また、RMT自体を禁止する法令は日本には存在しません。

そもそも、トレカやガチャガチャの景品を専門の買取りショップやメルカリで売却するように、ランダムに得られた商品を、買ったお店以外の店舗で売るような行為は、ごく普通の経済活動です。

仮に、購入者が購入時よりも安値でガチャNFTを第三者に売ったとしても、そのことでNFTガチャの販売者が儲かり購入者が損するというような関係が新たに生じるわけではありません。また、流通市場の売主(購入者)と買主である第三者との取引も、通常の売買にすぎず、新たに得喪を争う関係が発生するわけではないでしょう。

従って、ガチャの成果(アイテム)を換金できても、得喪を争う行為が生じない以上は、やはり賭博に該当するとは言えないでしょう。

ただし、換金ができることで、射幸心(偶然の利益を、労せずに得ようとする欲心)が生じますので、過度になりますと、なんだか「ギャンブル」っぽいので「けしからんから規制すべき」との世論の声が強くなるでしょう。

後述の内閣府消費者委員会の意見では、そのような声に配慮した「決着」がなされているように思います。

5. 併設型NFTガチャの考えかた

5.1. 存在する懸念

非併設型NFTガチャについては上記の通りですが、他方、併設型NFTガチャを提供する場合については、賭博になるのではないかとの懸念がより大きいと思います。

賭博罪のグレーゾーン懸念から「NFTのガチャ販売と二次流通市場をセットにしたビジネスモデル」ができない。

第5回スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会 事務局資料 3頁

そういった課題を踏まえ、3月に公表された自民党デジタル社会推進本部 NFT政策検討PTのホワイトペーパー(以下「自民党ホワイトペーパー」)で、以下のような提言がなされています。

特に、NFTを用いたランダム型販売と二次流通市場の併設については、既に海外では同様のビジネスモデルが隆盛を極めていることを踏まえると、 関係省庁において、少なくとも一定の事業形態が賭博に該当しないことを明確に示すべきである。

それでは、なぜ併設型NFTガチャはより危険視されている/いたのでしょうか。以下では、この懸念の発端となっていると思われる消費者委員会の意見を紹介します。

5.2. ソシャゲにおけるガチャの議論

2016年9月、内閣府消費者委員会は、未成年によるソシャゲ課金のトラブル等(親のクレカを使って高額課金をする問題などがたくさんありました。)を踏まえ、『スマホゲームに関する消費者問題についての意見~注視すべき観点~』(以下、「委員会意見」)を公表しました。

委員会意見においては、(2)「注視すべき具体的観点」として、 スマホゲームの電子くじと賭博罪との関係として、以下のように述べられており、NFTでの議論にも影響しているように思います。

(略)一般論として、スマホゲームで見られる電子くじは、専らゲームのプログラムによって排出されるアイテム等が決定されることからすれば、上記「賭博」にいう「偶然性」の要因を満たしていると考えられる。また、上記「財産上の利益」の解釈に加え、有償で入手したオンラインゲーム内のアイテムを詐取した事案につき詐欺罪の成立を認めた下級審判決があることなどからすれば、アイテム等については「財産上の利益」に当たる場合もあり得るところである。
実際に電子くじが賭博罪に該当するか否かについては、上記「財産上の利益」該当性に加え、「一時の娯楽に供する物」該当性等も含め、事案ごとに判断されるものである。電子くじで得られたアイテム等を換金するシステムを事業者が提供しているような場合利用者が換金を目的としてゲームを利用する場合は、「財産上の利益」に該当する可能性があり、ひいては賭博罪に該当する可能性が高くなると考えられる。

「スマホゲームに関する消費者問題についての意見~注視すべき観点~」
太字筆者

委員会意見は「電子くじで得られたアイテム等を換金するシステムを事業者が提供しているような場合」とあるので、併設型ガチャについて述べられていると考えて良いと思います。

この意見では、①偶然性と②換金性による財産上の利益の要件にのみ触れ「ひいては賭博罪に該当する可能性が高い」とされています。

確かに、①の偶然性(ガチャ)の結果として得られるアイテムの換金性が高まると②の要件も容易に満たすでしょうから、換金要素がない場合より相対的に「賭博罪に該当する可能性が高くなる」とは言えそうです。

しかし、委員会意見では、③「得喪を争う」要件については触れられておらず、やや前のめりの見解にも思います。

さて、この委員会意見ですが、NFTガチャに関する議論にも影響を与えているように思えます。例えば、ブロックチェーンコンテンツ協会(株式会社gumiなどゲーム会社も会員)のガイドラインでは、以下のように規定しています。

NFT等その他換金性を有するゲーム内アイテムを排出する有償ガチャを行うことは賭博に該当する可能性が高いため、実施できないと考えます。

ブロックチェーンコンテンツ協会ガイドライン 第 2 版(2020 年 12 月 25 日)
太字筆者

読売新聞の記事においては以下のようなコメントが掲載されています。こちらも委員会意見と同じく「得喪を争う」関係については言及がありません。

(略)だが、刑法の賭博罪は、偶然の勝ち負けで損得が発生する行為を禁じている。ガチャで当たったカードが2次市場で安値しかつかなければ、購入者が損をするため、賭博罪に該当する恐れが強くなる

東京都立大の星周一郎教授(刑事法)は「スポーツ賭博を解禁するには、賭博を許容するほどの公益目的と、社会的な合意の両方が欠かせない。NFTガチャも転売が可能な2次市場がある限り違法性を拭えず、制度設計のハードルは高い」と指摘している。

読売新聞「[検証 スポーツ賭博]<2>際限ない刺激、依存招く」(2022年6月9日)
太字筆者

上記のように「得喪を争う」要件には触れないまま賭博の成立を認める議論は、これまでも非常によく聞かれました。しかし、近時、販売市場と流通市場の違いを踏まえつつ、NFTガチャによって「得喪を争う」関係が生じうるかについて、これまでより踏み込んだ見解が出始めていますので以下で紹介します。

5.3. 賭博の成立を認める見解(仮)

上記、星周一郎教授のコメントで「ガチャで当たったカードが2次市場で安値しかつかなければ、購入者が損をするため、賭博罪に該当する恐れが強くなる。」とありました。

この議論を踏まえつつ、賭博の成立を認める論者がおそらく言いたいことを以下のように整理します。

(賭博の成立を認める説(多分言いたいこと))
購入者がNFTガチャの結果得たNFTについて、併設された流通市場において、販売価格よりも安値で取引されているとする。その場合、購入者はNFTガチャの購入で、購入時に支払った価格より低額のNFTを得たと言え、「損(喪)」が発生しているので、賭博にあたる。

*4. 非併設型とは違い、販売市場と併設の流通市場を一体として捉えることで、「NFTガチャの販売価格>ガチャNFTの流通市場での価格」が同一プラットフォームで成り立つ場合には、結果的に、販売事業者は消費者に損をさせていると言いたいものと思われる。

この点について、スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会*(以下「スポーツコンテンツ研究会」)における議論を紹介します。
*2021年8月より開催されている経済産業省における、スポーツコンテンツやデータの活用に当たり、望ましい権利関係の在り方を整理するための研究会。

スポーツコンテンツ研究会の二名の委員ともに、販売市場(一次流通市場)と流通市場(二次流通市場)が異なる性質に着目しつつ、以下のように述べています。

二次流通市場において、個別の NFT の価値が上がるか下がるかは、あくま で二次流通市場における価格形成の問題であり、一次流通市場における事業者による価格設定と直接結びつくものではない。また、二次流通市場の価格は、常に上下するものであり、一次流通市場における取引時に、パッケージの中のNFT が二次流通市場で幾らで取引されるかを正確に予測することはできない。(略)
二次流通市場の併設を踏まえたとしても、NBA Top Shot においては、一次流通市場で販売されるパッケージには、あくまで「Dapper Labs 社が一次流通市場での価格として妥当であると判断した販売価格」が設定されているのであり、ユーザーは、期待したとおりのパッケージの内容(すなわち、パッケージに表示されたとおりの種類のモーメントが、表示されたとおりの数入っている。)を購入しているため、Dapper Labs 社とユーザーの何れも財産を失っていないと解することの合理性は失われないものと考えられる。

NBA Top Shot と類似したサービスの提供と賭博罪の成否について」 稲垣 弘則 弁護士 他
太字筆者

転売価格が取得時の価格を下回っているからといって、そのことから直ちに、当該 NFT の販売時の客観的価値が取得価格を下回っているという評価が導かれるわけではない。賭博罪の成立を認める見解は、NFTの販売行為と二次流通市場における転売行為を一体的に評価して、財物等の「得喪を争う」関係を認めようとするものといえるが、両者は異なる主体に基づく別個の取引であり、両者を一体的に評価する点において無理がある

賭博罪をめぐる論点について」橋爪 隆 教授
太字筆者

例えばスポーツに関するNFTの転売市場での価格は、販売者の思惑から離れて、選手の成績など外部環境の変化によって人気が左右され価格が変化する側面があるため、販売市場と流通市場は性質が異なっています。

そのため、ガチャNFTの併設する流通市場における価格が、購入時の価格を下回っているからといって、そこから、販売者と購入者の一方が勝ち・他方が負ける関係が生じるとは言えず、賭博の構成要件を満たすとは言えないというのが両者の共通する見解かと思います(同様の見解を述べるものとして、亀井源太郎(2022)「ブロックチェーンゲームと賭博罪」福島 直央 (編集) 『NFTゲーム・ブロックチェーンゲームの法制』 商事法務 140-145頁)。

5.4. 賭博に該当するリスクが高まる行為

なお、橋爪教授においては、以下のように補足的に述べていますが、重要な指摘ですので共有します。

これに対して、販売者が二次流通市場を運営し、売買手数料を取得するにとどまらず、自らが販売価格よりも低い価格での買い取りに応じているような場合は、販売行為と買い取り行為が一体的に行われており、これによって購入者は、購入段階において既に一定の損失を被っていると評価される余地があるため、賭博罪が成立するおそれがある。

この指摘の通り、販売者によるガチャNFTの買取りスキームは賭博に該当するリスクが非常に高いと思います。

例えば、ガチャの結果、300円で当たったガチャNFTについて、事業者が購入者から200円で買い戻す場合を考えてみましょう。最終的な結果として、販売者は売ったNFTが手元に戻った上で+100円の儲け、購入者は-100円の損失になります。

二つの取引を一体的にみた場合、購入者の負け(-100円)の上に販売者の勝ち(+100円)があり、得喪を争う関係が認められて賭博にあたるだろうということです(中古の概念がないデジタルアイテムであれば、販売時の価格と買戻時の価格差を正当化しにくいでしょうから、得喪を争う関係がみなされやすいでしょう)。

以上を敷衍しますと、販売市場と流通市場が一体であるとみなせる場合を除き、併設型においても、非併設型での法的整理が活かせる(賭博に該当しないNFTガチャの整理が可能)ではないかということになるのではないでしょうか。

6. 議論の射程

上記の5で整理した内容について妥当性があり、近い将来併設型のNFTガチャのサービスが展開されたと仮定した場合の影響について少しだけ触れたいと思います。

非併設型NFTガチャに関しては、ブロックチェーン特有の性質として、プラットフォームの外部にNFTを持ち出し、外部の流通市場での換金が可能です(例:事業者Aで得たガチャNFTを、OpenSeaで売却する)。したがって、こちらはブロックチェーン(ビジネス)特有の要素と言えそうです。

他方、併設型NFTガチャにおける流通市場については、販売事業者が取引の場を自社のシステムにより提供している二次市場ですので、それ自体はブロックチェーン(ビジネス)とは必ずしも関係がありません。

つまり、この5における併設型NFTガチャの議論・整理が仮に妥当であるとすると、その影響はNFTガチャだけではなく、既存の(中央集権的な)オンラインサービス事業のガチャにも及ぶのではないかということです。

そうなると、内閣府消費者委員会の意見を踏まえ、(ガチャによるアイテムか否かにかかわらずアイテムの売買について)規約で禁止している既存のゲーム事業者の中から、自らのプラットフォームで(ガチャ)アイテムの二次市場を設置する動きが出てきてもなんら不思議ではないかもしれません。

7. 雑感

従前の「NFTガチャは換金できるから賭博になる可能性がある」的な意見には疑問を抱いていた身からすると、今回、多少なりとも議論が進んだことは喜ばしく、スポーツコンテンツ研究会における委員の意見の方向性でまとまることを期待したいです。

とはいえ、仮にNFTガチャのサービスを提供できるとしても、これまでみてきたように、実務的に留意すべきことは多いように思います。賭博に当たらないようにするには、たとえば、以下のような措置が考えられるのではと思います。

・販売価格の設定方法および当たるNFTの種類や当たる確率など販売時の顧客への情報提供につき、既存のゲーム業界で採られている措置を参考にすること(日本オンラインゲーム協会「ランダム型アイテム提供方式を利用したアイテム販売における表示および運営ガイドライン」「有料ガチャの設定に関する事項」など)
・販売事業者が、自らまたは第三者を介して併設する流通市場に当事者として参加しない(ユーザー間のC2C取引から手数料を取るだけ)こと
・流通市場においてユーザーによる「オリパ」(オリジナルパッケージの略。ここではガチャNFTを自由に組み替えて新たなパッケージとして他者に売る行為を想定。パッケージの価格設定が杜撰になりがち。)が技術的に提供できないよう措置を講じること

このほかにも、射幸性があることそのものは賭博の構成要件ではありませんが、NFT市場自体の投機性には注意が必要です。

内閣府消費者委員会の意見がなぜあのような着地になっているのかはNFTガチャ設計時に重く考える必要があると思います。射幸心を煽らない広告の文言とすることに加え、未成年への販売についても慎重に検討すべきと思います。

そういった意味で、自民党ホワイトペーパーにおける提言は非常に重要と思います。(おわり)

なお、ランダム型販売や二次流通市場を利用してNFTを購入する消費者を保護する観点からのルール整備は別途検討を進めるべきであり、関係省庁の見解を踏まえた事業者におけるガイドラインの策定等が行われることが期待される。

自民党デジタル社会推進本部 NFT政策検討PT ホワイトペーパー(案)
太字筆者

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