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【裏レポート】理想の組織探訪~ネッツトヨタ南国編

数字では見えない企業の価値を伝え、新しい就業先の選択軸を伝える「人を大切にする企業」特集。
今回は、高知県にあるネッツトヨタ南国㈱に行ってきた。

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ネッツトヨタ南国といえば、日本経営品質賞やホワイト企業大賞の受賞歴があり、全国約300社のトヨタ販売会社で10年以上顧客満足度No.1を獲得している、自律的な組織のお手本のような会社として有名だ。
飛び込み営業を廃止したり、社員を1番大事にする経営を徹底しつつ、この車が売れない時代に業績を向上させてきたことで、注目を浴びている。
最近「会社の目的は利益じゃない」という著書も出した横田元会長は有名な経営者で、「日本でいちばん大切にしたい会社」をはじめてとして、数多く記事にもなっている。
しかし、今回の取材の目的は経営論を聞くことではない。

もともとこの特集にカーディーラーを選んだのは、全国どこにでもあるのに大卒者の就業希望から外されるので、働く魅力を伝えることができれば、地方就職希望者の選択肢を増やせるのではないかと思ったからだ。
また、個人的な興味としては、「どうやって自律的な組織を作ったのか」という点にあった。
組織論が盛んな昨今、よく話題になることとして、「自律的な組織は、どんな業界でも実現可能なのか?」というテーマがある。
物をつくっているわけでも革新的なビジネスモデルを出せるわけでもない、どこにでもある自動車販売という事業で自律的な組織をつくる方法を知れたら、多くの業界で自律的な組織づくりを実現するために役立つのではないか。
そのエッセンスを学び、組織づくりの方法論を深めたいという目論見を持って取材に臨んだ。

30年会社の変遷を見てきた人

はじめのインタビューは、伊藤社長だった。
伊藤社長は、創設7年目の1987年に新卒で入社し、以来30年にわたってネッツトヨタ南国に勤めてきた人だ。元々は営業が長く、以前は店長だったというが、抜擢されて現在は社長を務めている。
物腰柔らかい方で、穏やかに、しっかりと話を聞かせてくれた。

元々伊藤さんは家業を継ぐために、関西の大学から地元高知に戻ってきて、継ぐ前の修行のつもりで入社したそうだ。
会社案内で手書きの手紙が入っていたことに興味をもって受けにきて、当時の横田社長の社員を大切にするという経営理念に共感して入社を決めた。
しかし、入ってみたら、理念とは程遠い、普通のカーディーラーだった。
グループ内でも最後発でできた会社なので、他のカーディーラーから人を出してもらって、寄せ集めでできた組織だった。
そんな中で、伊藤さんは、一つ一つ課題と向き合って仕事をしてきた。

この会社では、職種を問わず様々な企画やテーマでプロジェクトチームが組まれ、年次に関わらず提案ができる。
そのミーティングでは厳格なルールがあり、多数決で物事を決めない。なのでちっとも決まらず、半年も1年も同じテーマを話し合っていたりする。
若い顧客を増やすために店内貸し切ってケーキバイキングやってみたり、来店者が来た時の声かけ方法や立つ位置を細かく調整したり。
毎日の改善を、社員が自分の手で実現してきた感覚がある。

以来30年。
伊藤さんが入社当時には理念でしかなかった組織は、いつの間にか現実のものとなっていた。
「でも、まだ全然できていない。改善しなければならないことは山ほどある。」
謙遜ではなく、本気でそう思っていることが言葉の端々から伝わってくる。

家業は結局どうしたのか聞くと、継ぐことを辞めてしまったらしい。
この会社で働くことが楽しくて、辞められなかったのだと。
「まだここで実現したい夢があってね、まだ辞められないんだ。」と、社長は照れ臭そうに言った。

人間のことを知る会社

次のインタビューのために場所を移動した。
ショールームを出て、道路を一本はさむと、保育園があり、園児たちの賑やかな声が響き渡っていた。
ここは、ネッツトヨタ南国が運営する保育園。社員の子どもだけでなく、地域の子どもも通っている。店舗が忙しい土日も預かってくれる。

人事担当の長山さんのインタビューは、保育園の上のフロアで行われた。
長山さんは東京出身で、東京の建材商社で営業をしていた。歩合制で収入は良かったが、社内はストレスであふれていた。環境をなんとか改善しようと、短期的な利益ではなく、顧客と信頼関係を築き、長期的に売上が上がる仕組みを作るべきと提案してみたが、「理想に過ぎない」と流されてしまう。
東京の生活に疲れ、両親の故郷である高知で働くことを考えていたころ、ネッツトヨタ南国のことを知り、そんな理想を実現するような会社が本当にあるのだろうかと会社見学に来てみたところ、自分が提案したような経営が実際になされていたことを知り驚く。そのまま入社を決め、以来営業を経て現在は採用の責任者を務めている。

ネッツトヨタ南国は一人当たり最低でも30時間以上と面談し、140人の会社なのに1,000万円以上投資するほど採用に力を入れている。
いったいどんな手法で自律的な社員を選抜するのかと思ったら、「選んでないんですよね」と言われて拍子抜けしてしまった。
「高知という小さなマーケットでは、選考で落とした人も将来顧客になる可能性があります。実際に過去受けてくれた何人もがその後この店から車を購入しています。そこでふるいに落とすようなことをしてよい関係が築けるとは思えません。会社のことを隅々まで知ってもらって、何時間も話し合ううちに、合わないことがわかった人は辞退していく。お互い納得して答えを出すので、選んでいるという意識はないです。」との回答だった。
この会社の面談は、「なんのために働くのか、なぜ働くのか。」という問いから始まる。何十時間も対話を繰り返す中で、受ける人間の自己理解を促す。受けた人を成長させる面談だ。
採用活動は、社長も新入社員も関われる貴重な経営活動。だから人事だけではなく全部署社員が参加できるプロジェクトとして行っている。

そうやって入社した人は、半年間本配属とは違う部署で働く。営業の人は技術サービスで。技術サービスは営業で。そうやって後までずっと続くパイプができる。
プロジェクト活動は、ともすれば個人対応になりがちな業務を横に連携させ、協力することを学ぶ機会を提供する。人は自分のためだけにはがんばれない。誰かのためにがんばれるために関係を強固にする。そして、うまくいかない痛みを知る。
顧客対応は、心の機微が影響する仕事だ。痛みを知って強く優しくなる練習を重ねた社員が、心づくしのサービスを行う。顧客満足度が上がって当然だ。
「最初の労働観を身につけさせてあげたいんです。長く働く仕事人生で、働くことの楽しさを伝えたい。それは人を幸せにも不幸にもするものだから。」長山さんはそう言った。
「この会社は社員を幸せにするために存在する。」全ての行動が一貫してその目的に向けられていた。業績を上げるために社員を大事にするのではなく、社員が幸せに生きるために事業を行った、業績はその結果に過ぎない。
聞いていて、「よく人間のことを知っている会社だ」と思った。
ひとつひとつやっている施策に物珍しいものはないのだが、必要なことを無駄なくやり、いや、常に現状を観察して改善を加えていった結果、一つ一つの取組が絶妙に組み合わせり、強い組織が築かれているのだ。

たくさん語っていただいた後、学生に見せるためにつくったというイベントのメイキングビデオを見せてもらってもう泣きそう。
毎日仕事が終わった後、お客さんとの交流イベントの準備に奔走する社員の姿。
夏のよさこい祭りのために踊りを練習する姿。
ああ、きっと自分が学生時代にこの会社の選考を受けてこの映像を見たら引くんだろうなと思った。「俺にはこういう雰囲気は合わない」と辞退するだろう。
そんな昔の自分と今の若い人たちに言いたい。「仕事でもなんでも、結局最後は本気で踊ってるやつにはかなわない。」

一日目のインタビューは終了した。

組織が血肉を持つということ

二日目は、若手社員のインタビューを行った。
1人は北海道出身の男性社員。もう1人は高知にUターンした女性社員で、明後日から産休に入るという中、話をしてくれた。

こんなに楽しそうに仕事のことを話す若者を久しぶりに見た。
画一的で創造性が少ない仕事をどうやって面白くするのか、という視点で話を聞こうと思ったが、間違っていた。
そもそも仕事は創造的で面白いものだ。個人のスタンスの話で、事業内容は面白さとは関係がない。
お客様との接し方、他部署との連携、クレームがあった後の関係の築き方、顧客からしたら自然に行われているように見えるサービスは、実は絶え間ない思考と実践の繰り返しによってなされていることがわかる。

話を聞いていて驚いたのは、2人が全く自然だったことだ。これだけ世間からもてはやされる会社や経営について、彼らは特に意識もしていなかった。お客さんも経営品質賞をとっていることなんて知らない人が大部分で、普通にこの店を選んで利用している。それでいい、それがいいと彼らは言った。

経営理念も「すみません、細かく覚えてません。」と言われてしまった。理念経営の代表みたいな会社なのに。。特に唱和するような機会もないようで。。
昨日人事の長山さんが、理念は知識として知っているのではなく、判断を迫られたときの価値基準になっていることを重視していると言っていたが、それがこれかと思った。
彼らが話してくれる仕事のエピソードはそれぞれバラバラなのだが、困難に陥ったときに自分で考えて顧客のためになる行動をとる点で共通している。
「理念が浸透する」ということは、言葉として覚えられているということではなく、普段は意識されないほどに、個人に内在化しているということなのだ。

2人とも共通して話していたことは、働く目的を「人として成長すること」においていた点だ。そして社内の目標としている人のエピソードが次々にあがってくる。
上司に対する信頼、他部署の社員に対する信頼、後輩に対する信頼が言葉の端々からみてとれた。

どうやらこの会社には「人を育てる型」が無意識的にインプットされているらしく、誰と話しても、「成長を待つ」という表現が出てきた。
何かトラブルが起こっても、上司は話を全部聞いた上で、責任をとれる準備だけ整えると、何も口を出さず、最後まで当人が自分で考えて解決するのを待つ。そして考える社員が育つ。
先輩がそう待ってくれたように、自分も後輩がやることには口を出さず待つ。どんなに自分がやった方が早くても、人の成長を促すことが、全社員に染みついているようだった。

伊藤社長は、昨日、成長はゆっくりでいいと何度も口にした。それぞれのペースでよいのだと。変化していることが重要なのだから、早さは関係ないと。
社員は皆、伊藤社長の環境を整えて待つ姿勢に対し、口々に尊敬の念を口にした。伊藤社長に聞くと、横田さんがそうだったからだという。「人を育てる」ことが脈々と継承され、完全に風土になっているのだ。

誰に聞いても共通していることがもう一つあった。
現状に満足しないことだ。
傍から見たら完璧に近いと思われる接客も技術サービスも、日々改善を繰り返す。顧客からの、社員どうしのフィードバックと行動変革が文化になっているのだ。

明後日から産休に入る女性社員に、復帰後に不安はないのかと問うと、ためらいもなく「特にないんですよね」と答えた。
だって、たくさんの先輩社員が試行錯誤をしながら制度を整え、復帰して、楽しそうに働いているからと。妊娠中も子育て中も、恐縮するくらい周りがサポートしてくれるし、不都合があれば皆で考えて変えていけばいい。だから心配ないんですと。

この会社の根底にあるものがなんだかわかった。「安心感」だ。
自分が正しいと思うことを正しいと思って共感してくれる仲間がいること。自分が一生懸命向き合っている仕事に、同じように真摯に向き合っている仲間がいること。その本質的な信頼が揺るがない安心感を与えている。

ああ、あなたたちはきっと知らない。この会社にいる限りこれからもずっと知ることはない。
何の疑いもなく同僚を仲間だと思えることも、上司を憧れだと言い切れることも、当たり前のことではないのだということを。それどころかすごく稀なことで、自然にできるようなものではないんだ。
関わる人の不断の努力がなければ、組織なんて簡単に壊れてしまうのだから。

良い仕組みが良い組織をつくるわけではない。
そもそも「良い組織」という固定した状態はない。
なぜなら組織は生きているから。生きている世界で、生きている人間が成り立たせているものだから。
理念を持った個人がいて、理念を掲げた組織があって、個人が行動と改善を積み重ねている間、「良い組織」という運動体が生じている。
大事なのは仕組みではなくて熱であった。そこに思いがあること。信頼があること。そして常に変化し続けること。
血が通っていて、生きていて、初めて組織は機能する。

「自律的な組織」はつくれるか?

2日間のインタビューが衝撃的でボーっとしている。

はじめの目的に戻る。
よい組織のエッセンスを感覚的につかんだはいいが、これは他の会社で再現可能なのか?

伊藤社長は、他の販売会社の社長と集まる会合で、どうしたらネッツトヨタ南国のような会社にできるのかとよく問われて、一生懸命説明するのだが、何度話しても話がかみ合わなくなってしまうのだという。
それはそうだろう。積み重ねてきたものが違い過ぎるし、表面的なことだけまねしても機能するはずがない。

「再現、無理なんじゃないか・・?」
積み上げられてきたものの大きさに気後れする。

一つ救いなのは、この組織は初めから存在したわけではないということ。30年前は絵に描いた餅だった。
今は現実に存在する。つまり発生させることはできるということだ。
横田英毅さんという人がいて、社員を幸せにする会社を作りたいと思い、社員によって不断の努力が続けられた結果、今のネッツトヨタ南国が存在する。
横田さんの話を聞く機会はなかったが、この会社に触れれば、横田さんという方が何をしたかったのかがよくわかった。

ちょうど先日、伊藤社長と人事で今後の採用方針について話し合いが持たれた。大きく変えていく方針だそうだ。
自動車販売がいつまでもできるとは限らない。時代の変化に対応できるように、新しい事業を創れる人を増やしていきたいのだと。
このメンバーなら、全然別の事業をやっても成功するだろう。
事業それ自体に価値があるのではない。人に、組織に価値があるのだから。

生きている組織は立ち止まらない。

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