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「マネジメント」の本質を考える会

先日、知人の薦めで「ドラッカーと論語」(安富歩 著)という本を読んだら目から鱗の連続で、感動のあまりfacebookに投稿したことがきっかけで、「マネジメントの本質を考える会」をやることにした。
投稿に反応してくれた人が数名いて、とりあえずやってみようということでトライアルでやってみたところ、思った以上に深い学びになったので、当日の様子を備忘録的に残しておくことにした。

参加者は自分の他に2人。(3人でよかった。時間足りなかった。)
Fさん:以前自分が障害者雇用の課題に対するワークグループをやっていたときのメンバー。当時大学院生だったが、その後障害者の人材紹介を行う会社に就職し、キャリアカウンセラーとして5年目。マネージャーとなって3年目を迎える。自分とは3年ぶりに会った。
Yさん:自分の職場の同僚。別にいつでも話せるのにわざわざ参加してくれた。思わぬよい効果を発揮。
I:自分。地方創生の公共事業である「地方就職者を増やす」プロジェクト(チームは東京25人、大阪15人の40人)のマネジメントを行う。

木曜夜に八重洲のカフェに男3人で集まり、「マネジメント」について語った。
2人は課題図書なのに「ドラッカーと論語」を読んできてなかったので、本に沿ってではなく、各自の経験談を中心にマネジメントの在り方を省みる形で進めた。

■メンバーはマネジメント視点を持ち得るか?

初めて会ったとき大学院生だったFさんは、30代の会社員になっていた。自分もよく知っている障害者雇用に特化した人材会社に就職して5年。若い会社なので、5年いればかなりのベテランだ。今年から予算は持たずに10人のチームのマネジメントに特化している。
昨年までと今年で彼はマネジメントスタイルを変えたらしい。
昨年までは、戦略を考えるのはマネージャーである自分の仕事と考え、試行錯誤していたが、メンバーのモチベーションが上がっていかないという課題があった。今年からは、課題も含めて共有し、一緒に戦略を考えていくことにしたらしい。
とはいっても、メンバーがマネジメントの視座を持つのは難しく、これを実現させるのは至難の業だ。
面白いくらい自分が辿っているこの2年くらいの道と符号していたので、彼の苦悩は痛いほどわかる。

「どうしたらメンバーも高い視座で仕事ができるのか?」という課題に対して、3人であがった意見は以下の通り。

・役割(課題を解決するのはマネージャーの仕事だと思っている)
・情報(経営情報など、持っている情報に違いがあるからではないか?)
・意思決定に関与できる機会

ただ、上記を全て整えたとしても、動かないことが多分にある。「頭では理解できていても、やりたいかどうかは別」、という問題だ。
マネージャーの悩みは深い。。

■「効率性」と「有効性」の違い

さて、悩んでいても仕方がないので先に進むこととした。
Fさんのチームの悩みの根本を探っていくと、社会性と収益の課題が横たわっている。社会企業が必ずぶち当たる壁だ。
Fさんの会社は、誰もが働ける社会の実現をモットーに、障害者に特化した人材紹介を行っている。社会的に必要とされていることをビジネスとしてやり続けている素晴らしい会社だ。
働く人も、そのビジョンに最終的には合意している人が来るので、価値観は合いやすい。しかし、困っている個人のためになりたくて仕事をしても、お金を払うのは企業であり、続けていく以上収益は必ず必要となる。収益を上げるためにできるだけ多くのマッチングを成立させねばならず、メンバーの日常業務はそのことで頭がいっぱいだ。そして予算を達成しても、自分の給与がそんなに上がるわけではない。人材紹介は効率的にやった方が絶対に儲かる。障害者に特化している時点でそこまで収益は望めない。

Fさんの会社の目的は、働くことが困難な人に働く機会を提供することだ。そしてより多くの困っている人に機会を提供することを考えたら、数を追わなければならないのは当然だ。しかし、数を追いかけて仕事が雑になったら何のためにこの事業をやっているのかわからない。

会の冒頭から具体論の話をしていたが、ここで、ドラッカーのマネジメントにある「企業の目的」のことが頭に浮かんだ。

規模の拡大のためには、効率的に事業を行う必要がある。Fさんの事例でいえば、より多くの対象者にあたることだ。一方で、ドラッカーは「有効性」という概念を重視した。「有効性」とは、その事業を行う意味や価値のことである。

目的に立ち返れば、Fさんの会社の目的は就労困難な人が快適に働き続けられる環境を提供することで、ただマッチングすればいいわけではない。
そもそも数を追う必要はあったのだろうか?

この話はこの疑問にぶち当たったところで終わった。

■「仕事の価値」とは何か?

Fさんの会社の社員がモチベーションを維持したまま働くにはどうしたらよいだろうか?
報酬で応えることは難しい。この会社は別に無駄遣いをしているわけでなく、確保できる収益でこの給与を支払うことが精いっぱいなのだと思う。一般の人材会社と比べると見劣りするのは仕方がない。
でも、もともとそれは了解済みで、他のことに価値を感じている人が入社してきてくれているわけなのだから、もっと皆が他のことに価値を感じてイキイキ働く方法はあるのではないか?

なぜモチベーションを失うかを考えてみた。
自分も社会人のスタートが人材紹介の部署で、個人の転職希望者の相談にのることだったのでよくわかる。個人側の対応しかしていないと視野が狭くなるのだ。では一人が企業対応も一緒にやればよいかというと、一概にそれがよいとは言えない。効率性やマッチングの広がりを考えると役割分担をすることのメリットも大きいからだ。
それでも、僕はキャリアカウンセラーが企業を見る機会を増やした方がよいと思うと伝えた。仕事の価値を感じるには、視野を広げることがどうしても必要だ。
営業は、企業から求人ニーズをとってくる。ほとんどの企業は、障害者の雇用率を埋め合わせることが第一目的なので、就業後の雇用者の就業環境まで気を配れているところばかりではない。仕事がほとんどなく、続かなくなってしまうケースも多い。人事担当者に話を聞けば、とにかくノルマの○人を集めてほしい、という直接的なニーズを伝えてくることがほとんどなのではないか。
しかし、ここで優秀な営業だったら、顧客の表面的なニーズを聞くのではなく、職場環境づくりから入るだろう。業務の状況を聞きだして、ハンディキャップがある人をうまく活かせる業務設計を行って提案する。コンサルに近い。
そういう提案ができて、その提案ができる余裕を持てる組織だったら生み出す価値は他の追随を許さず、営業しなくても選ばれる事業者であり続けるだろう。

これがドラッカーのいう「マーケティング」なのだと思った。
顧客の言うことに従うのではなく、自社の生み出す価値を理解し、そこに忠実な事業活動をすることで、頼んで売る必要は全くなくなる。

そして、こういう仕事をしていれば、価値を感じられていれば、それは楽しいだろうなと思った。

■「自分を変える」=イノベーション

話しているうちにあっという間に夜もふけてきた。
自分たちの反省をしていたわけではない。話は、組織に対する愚痴から始まった。
しかし、ドラッカーの根本的な問いを手掛かりに状況を振り返っているうちに、自分がまだやってないこと、それもできるのにやっていないことに自然と気づいてきた。

Fさんは、自分自身も納得しないまま事業をやっていたこと、現場を見ていなかったこと、自分がメンバーだったときにマネージャーに示してほしかった価値基準を自分自身が今示せてないことに気づいた。やるべきことがスッと出てきた。

1か月間行動してみて、1か月後に、今度は本を読んだ状態でまた集まろうということになった。

「ドラッカーと論語」を読んで、「マネジメント」の定義は、「自らの行いを注意深く観察して、自らを改めること」だということがわかった。
そして、この「自らの行いを注意深く観察して、自らを改めること」が機能している状態を本では「学習回路が開いている状態」と表現した。この状態が維持できていることを、儒教では「仁」と呼び、ドラッカーは、「マネジメント」において、integrityという言葉で表現した。

リクルートの社是「自ら機会をつくり、機会によって自らを変えよ」を文字って、「自らの行いを注意深く観察して、自らを変えよ」をモットーとしたいと思う。

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