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対話記録~「理念」の進化

近年、経営理念を掲げる企業は増えてきた。
しかし、理念がどこまで組織に内在化しているかということを考えると、実現できている企業はどれくらいあるのだろうか?

経営理念とは、本来、経営者個人の内側から発せられる「思い」に基づいて打ち立てられるものでなければならない。

今回は、これまでも理念を掲げて建築事務所を経営してきた羽ヶ埼建築士が、あることをきっかに思いと理念がつながった瞬間について語ってくれた例を紹介する。

(2018年10月23日~10月26日にオンライン上で行われた対話より抜粋)

■森田解説~「理念経営」とは

新潟の羽ケ崎建築士は、「着付け教室を開設するための自宅のリフォームの依頼」を受けたそうです。

理念経営について学んできた羽ケ崎建築士は、施主である着物屋さんにリフォームに対する要望を聞くうちに、
「なぜ、自宅で着付け教室をしようと思ったんですか?」という問いが芽生え、話を聞いたところ、
「着物販売会社から独立して、新たに自宅で着付け教室と着物販売をする」
「しかし、新たに事業を始めるので、不安やモヤモヤがある」
ということを語り出したそうです。

「では、まず、その不安やモヤモヤの内容を話してください」
ということになり、施主は、羽ケ崎建築士に話すことで、「自分の思い」
を初めて認識するに至ったそうです。
意外にも、リフォーム相談が、「理念の明確化」につながり、施主は大いに喜んでいるそうです。

「これはもはや建築士の仕事ではないかもしれません」
と羽ケ崎建築士は言っています。

しかし、「理念経営的建築士」であれば、これは極めて自然なことなのです。
私が特段、彼に指示や指導をしたわけではありません。
羽ケ崎建築士は、内発的に理念経営のコーチングをするリフォームをしているのです。

【事例】羽ヶ埼建築士の理念が腑に落ちた瞬間

●羽ヶ崎→森田

おはようございます。昨日は「福島の保養のこれから」というお話会に参加してきました。
そこでベラルーシの現状を追うドキュメンタリーを見ました。
日本の放射能保養に関する未来が描かれていたわけですが、感情の上がり下がりが激しい女性の代表が泣いていたのですが、いつもならそこからそのまま感情受け取ってしまい自分が「苦」そのものになってしまうのですが、昨日はその「苦」を観察することができました。
僕にとってとても大きな進歩でした。
福島の女子高校生の一部は
「どうせ福島に住んでいる私たちは結婚しても子どもを産めない。たとえ生んでも奇形の子が生まれる。」
というような主旨のことを漏らす子もいるようで「生きがい喪失」の状態であるなと感じました。

ひと晩その事について考えているうちに、自分の設定した会社の理念「Enjoy Our Life」が、
言い換えると「人々の生きがい創出」に繋がるのだなと気が付きました。

「アトリエニコの理念=くらしを楽しむ=Enjoy Our Life=顧客の生きがい創出のお手伝いをする」
ということになるのだなと確信できました。

●森田→羽ヶ崎

>ひと晩その事について考えているうちに、自分の設定した会社の理念「Enjoy Our Life」が言い換えると「人々の生きがい創出」に繋がるのだなと気が付きました。
「アトリエニコの理念=くらしを楽しむ=Enjoy Our Life=顧客の生きがい創出のお手伝いをする」ということになるのだなと確信できました。

「企業理念」に「慈悲の視点」が加わった、ということかと思います。
「慈悲とは、行為や行動以前に、視点であった」
ということも、見えてきましたね。

いまや、羽ヶ崎さんの「企業理念」には「慈悲」=関わる人に対する仲間意識と理解の促進が、視点として、しっかり組み込まれていますね。

すると、
「企業理念の実現」=「慈悲」
となるわけです。

ブッダもさぞ、喜ぶことでしょう(笑)

●羽ヶ崎→森田

自分の中で生まれてきた標語にようやく中身が入った気持ちです。
この中身に伴ってもう一度マンダラを作り直してみようと思います!

●森田→羽ヶ崎

>自分の中で生まれてきた標語にようやく中身が入った気持ちです。
パーソル伊藤くんの言い方ならば、「本願」が見えてきた、ということだろうね(笑)
「本願」とは単なる思いではなく、「阿弥陀仏とも通底する思い」だと私は思いました。
阿弥陀仏とは「慈悲」そのものです。
ゆえに、「本願」とは、言いえて妙なのです。

慈悲の視点から思いを掘り下げていくことで、本願が見えてくるんでしょう。

●羽ヶ崎→森田

先ほど願望マンダラを眺めていましたら「Enjoy Our Life」の理念の周りを囲んでいる8個の枝葉が今の考えと全く違う内容で笑ってしまいました。
「理念」に対しての本願が見えてくると、行動まで完全に変わる事になります。
マンダラを1から作り直すことになりそうです。(笑)

● 森田→羽ヶ崎

それは、自然栽培や森林再生なそフィールド再生でいうと、熊田さんのいう、「イニシャライズ」です。
羽ヶ崎さんは、なぜ、イニシャライズ出来たのでしょうか?

●羽ヶ崎→森田

おそらく当事者性の質が上がったからではないかと思います。
自分なりに当事者性は持っていたつもりですが、理念の中身が入ることによって、当事者意識に格段の変化が起きたように感じます。

●森田→羽ヶ崎

なるほど、非常に興味深いですね。
木村さん熊田さん高田さんと、それ以外の自然栽培農家や里山再生家の間の最大の違いは、「イニシャライズ」の有無です。
木村さん熊田さん高田さんは意図的に自然の力を活かしたイニシャライズを目的にしているが、他の農業者里山再生家はそうではない。
その差は「理念の違い」ということになりそうですね。

■考察~「苦の観察」が理念をクリアにする

上記の羽ヶ埼建築士のエピソードを聞き、森田・伊藤で「理念の深め方」について対話を行った。

●伊藤→森田

羽ヶ崎さんの理念のクオリティアップが、苦の観察を契機にされているところがとても興味深いですね!
本願を見つけるためには、当事者研究=苦の観察が欠かせないのですね。
苦の観察がなく、今の認識だけでたてた理念は浅いと言えるのでしょうね。

●森田→伊藤

>羽ヶ崎さんの理念のクオリティアップが、苦の観察を契機にされているところがとても興味深いですね!

苦の観察→智恵の開発
というプロセスになっているね。

>本願を見つけるためには、当事者研究=苦の観察が欠かせないのですね。

設定された理念→本願への進化
ということだね。

当事者研究の目的=理念を進化深化させること
とも言えそうだ。
理念経営と当事者研究の関係が、「苦の視点」の導入によって、さらに見えてくるね。

>苦の観察がなく、今の認識だけでたてた理念は浅いと言えるのでしょうね。

「理念は、苦の観察によって、深まる」
ということだね。

■考察2~理念のイニシャライズ

羽ヶ埼建築士に、自身のエピソードを振り返ってもらい、理念の深め方について再度考察してもらった。

●羽ケ崎→森田

確かに「苦」の観察により深まったと思います。
気付きが増える事によって、自分の意識がセットアップされるというのでしょうか。
抜けているパズルのピースが埋まっていくことで、つながって見える部分が増えてきました。
イニシャライズについてですが、やはり日頃の意識と経験がその域に達するのに非常に関係していると思います。
僕はおそらく今回のことで、建築設計から派生してくる「暮らし」についてはイニシャライズできそうな気がしますが、自分がやっている小さな家庭菜園や庭についてはイニシャライズはまだ出来なそうです。
さらに庭と菜園との対話が必要な気がします。
でももしからしたら利他の視点から見ることで、イニシャライズできるかもしれませんし。
このままどうなるか観察していきたいと思います。(笑)

僕の中のイニシャライズの認識は確かに初期化なのですが、今回の自分の意識のイニシャライズに関して言えば、自分の中の「苦」を観察し続けることによる「大きな気付き」ではないかと思っています。
「大きな気付き」によって起こる意識の変化が「イニシャライズ」と考えます。
今回の僕の「大きな気付き」は「Enjoy Our Life⇒生きがいの創出」であることに気が付いたというところでしょうか。

●森田所感

コンサルの鈴木さんは、JALの会社更生に関与していましたが、「なぜ、稲盛さんが、JALがあれほど短期間で再生できたかが、分からない」
と言っていました。

彼ほどのスペックの人間が、会社更生の開始から終了までJALにコンサルとして関与していて、なぜ再生したか理由が分からない、などということが、果たしてあるだろうか?

そんなことを思っていたら、

JALの奇跡 (稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの)
大田嘉仁
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という本が出たので、早速読んでみました。

JAL再生関連の本は何冊か読みましたが、この本がもっとも赤裸々で、非常に面白かったです。

この本の後書きで、著者の大田さんは、
「稲盛さんは、経営幹部や社員の心を変えることによって、非常に短期間でJALを劇的に変えた。」
「しかし、「人の心を変えることで、経営が劇的に変わる」ということを、経営コンサルタントなどがどうしても理解できないようなので、やむなく、この本を書いた。」

と書かれていました。

これは、非常に重要な指摘です。

「心が変わると、経営が劇的に変わる」
ということを、誰も信じることができないのです。

おそらく、鈴木さんも、「人の心が変わると、経営が劇的に変わる」ということが、理解できていないのでしょう。

しかし、私は非常によく理解できます。
「経営者の心が変わったら、社員が一瞬で劇的に変わった」
ケースを知っているからです。

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