208回 Trick or Treat!


毎年この時期になると、オレンジ色が目につくようになる。
そう、ハロウィンだ。
まだこんなにこの行事が根付いていなかった頃は何をやっていたんだろうというほど、当たり前のようにそこかしこに黒猫やら魔女やら、ジャック・オー・ランタンというカボチャをくり抜いたランタンやらが氾濫する。
かくいう私もハロウィン仕様のリースなど持ち出して、玄関に飾ってある。

コロナ禍になる前ハロウィンは一時期、仮装をして馬鹿騒ぎをする若者の祭りに成り下がっていた。それが悪いとは言わないが、ごったがえした渋谷で犯罪が多発するまでになるのは、いくらなんでもやり過ぎだと思う。
つらつらと思うに、ハロウィンは秋祭りの代替行事なのではないか。かつてはこの時期、地域の神社の秋祭りが盛大に行われていた。祭りを担う若者がいなくなったり、地域の人々の交流が薄くなったりして、以前ほど秋祭りが心躍る楽しみなイベントではなくなっている今、ハロウィンという外来の行事がすっぽりと人々の気持ちにはまったような気がしてならない。

ご存知のように、ハロウィンはアメリカから伝わった行事である。
そもそもは1970年代に、原宿のキデイランドがハロウィンに関連した商品を販売し始めたが、当時は一般的には知られていなかったせいもあり、盛り上がりに欠けた。1990年代になって東京ディズニーランドのハロウィンイベントが話題になる頃から、次第に日本にも浸透していったように思う。2000年代に入るとお菓子業界がハロウィン商戦に参入し、他の業種の店舗でもハロウィンにちなんだディスプレイを飾り付けるようになった。
とにかく夏休みが終わってがっくりきているところに、クリスマスまではまだかなり間が空いているこの時期、ハロウィンの登場は子供たちやお祭り好きの人々にとってもってこいの出来事だったのだ。

ハロウィンは元々古代ケルト人のお祭りである。
ドルイド信仰に於いて、新年は11月1日と定められていた。その日を境に光の季節(=夏)が終わり、闇の季節(=冬)が始まる。正確には日没が1日の始まりとされていたので、その前日の10月31日の日没から新年が始まる。この時期は作物の収穫の時期でもあるため、ハロウィンは収穫祭も兼ねていた。
そしてこの10月31日は、死者の霊が家に戻ってくる日でもある。言ってみればお盆のようなものだ。ただこの死者たちはなかなか気難しく、悪い妖精や悪霊の姿をしているため、機嫌を損ねないように食べ物や飲み物でもてなしたり、子供たちもお化けなどの仮装をすることで死者の魂に気づかれないようにする必要があった。
ハロウィンはキリスト教的には異教の祭りなので、否定的な立場をとっている場合が多い。そのかわりと言ってはなんだが、カトリックではこの日は万聖節(現在は諸聖人の日と言うらしい)の前夜祭という位置付けとなっている。「ハロウィン Halloween」という言葉自体は、「聖人たちの夜」という意味の「All Hallow’s Eve」のスコットランド語的語尾変化からきているとのこと。古代ケルトでは「サウィン SamhainまたはSamhuinn」と呼ばれていた。
現在ハロウィンの行事は、ケルトにルーツを持つアイルランドと、アイルランドからの移民が広めたアメリカ以外では、殆ど行われていない。

私がハロウィンを初めて知ったのは、谷川俊太郎訳の漫画「ピーナッツ」シリーズであった。スヌーピーと言えば誰でもわかるだろう。
1967年に初めて発売されたこの日本語訳単行本の中で、チャーリー・ブラウンの友人のライナス・ヴァン・ペルトが信じ続ける「カボチャ大王」。これがハロウィンとの出会いだった。ライナスは「ハロウィンの夜には世界で最も誠実なカボチャ畑からカボチャ大王が飛び立って、子供たちにプレゼントを配る」と信じて、毎年これだ!と思ったカボチャ畑に座って待ち続ける。
この作品でハロウィンと出会った子供の私は、てっきりハロウィンとはライナスが言うようなものだと思っていた。実際のハロウィンにはカボチャ大王は登場しない。ライナスの言葉は周囲の子供たちに相手にされずに、彼一人が信じているだけである。
このエピソードは、いくつになってもサンタクロースを信じていることのパロディだとか、当時アメリカで盛んだった新興宗教を揶揄したとかという説もあるが、私はライナスの一途な思いをそのまま受け止めたい。

祭りの由来や伝承など、いくらでも変化してきているものだ。
正解などないと言ってもいい。
だからハロウィンも自分の好きなように楽しもう。
私はカボチャのほくほくした食感が苦手なので、カボチャは食べずに飾り付けだけにしておく。そのかわりせっかくの収穫祭、信州のご当地的には新蕎麦をいただこうと目論んでいる。
そういうハロウィンもあっていいだろう。


登場したアイテム:ジャック・オー・ランタン(Jack-o’-Lantern)
→ジャックという悪賢い人物がその悪行から死後天国に行けず、また悪魔を騙して契約をしたため地獄にも行けないため、悪魔からもらった火種をカブをくり抜いたランタンに灯して永劫にこの世を彷徨い続けているという伝説から。本来はカボチャではなくカブだが、それより前は故人の頭蓋骨を使用していたとか。
今回のBGM:「Helloween」by Helloween
→まあここはこのバンドしかないでしょう。紆余曲折を経てかつてのメンバーが揃った2021年発売の最新アルバム。


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