第159回 たれてもいいよ


たれぱんだを覚えていますか。
20世紀の終わりに現れたゆるキャラの元祖ともいうべき存在のたれぱんだ。
好きだったなグッズ持ってたよ、という人もいるに違いない。
かくいう私もたれぱんだファンの一人だ。

たれぱんだは、末政ひかるによってデザインされ、サンエックスが生み出したキャラクタである。
1995年に初めて登場したが、その後文房具など様々なグッズが発売されるに従いじわじわと人気が上がり、1999年に爆発的にヒットした。当時発売された絵本もベストセラーになり、奇妙なキャラクタに魅了される人が続出であった。
その絵本を見るとわかるが、たれぱんだは所謂パンダではない。一見ジャイアントパンダに似た様相だが、表面には毛が生えているのではなく、しっとりと軟らかく仄かに温かいそうだ。すあまが好物というが、たれぱんだ自体がすあまのような触り心地なのだろう。大きさは様々、転がって移動する。口は確認できず、分裂して増えるという噂もある。いつのまにか側にぴったりくっついていることがあるが、特に害はない。

こうやって書いてみると、このたれぱんだというのは一種の妖怪の類なのではないかと思う。妖怪は我々にとって、怖いだけではなくどことなくユーモラスで生活の中にひっそりと根付いた存在だ。
たれぱんだに続くヒット商品となったリラックマやすみっコぐらしにしても、少し不思議でちょっと不気味なところが特徴であり、それらはみな妖怪を思わせる。

サンエックス(アルファベット表記San-X)は、文具や雑貨の製造販売とキャラクタの版権管理を行う会社である。同様の会社にサンリオがあるが、サンリオがハローキティで全世界的な人気を博した一方で、サンエックスは同じキャラクタ展開でももう少しマニアックな印象がある。
幾多のキャラクタが生み出されては消えていく中で、サンエックスは粘り強くキャラクタを育ててヒットにつなげていく。リラックマでさえ登場してから20年近く経っており、たれぱんだに至っては四半世紀の歴史がある。どちらも根強いファンがいて愛され続けていることはご存じだろう。
もちろんサンリオにもキティをはじめとして息の長いキャラクタは沢山いるが、サンリオのキャラクタは、現実とは異なるキャラクタたちだけの世界に存在しているような印象を私は受ける。それはそれでファンタジーとして確立しているのでたいしたものだ。
それに対してサンエックスのキャラクタは、どこか我々の住む現実世界の片隅にいるような気がするのだ。設定もたれぱんだやすみっコぐらしのように家の中に棲息していたり、リラックマのように同居していたりと、生活の中に存在しているようになっている。愛すべき妖怪のように思える所以だ。

「今日もよくたれています」という絵本のタイトルでもわかるように、たれぱんだは何もしない。ただそこにいる。
それは1999年というその時代、バブルの終焉と20世紀の終わりに際して疲れ切ったこの国の人々にとって、究極の癒しだったのではないか。
その後登場したリラックマもまた「ごゆるり」というのがキャッチフレーズであり、いつもだらだらしている。すみっコぐらしも「ここがおちつくんです」といつもすみっこにいる。
いずれも言ってみれば隠キャであるが、自己顕示と競争であふれた21世紀の新自由主義の時代に、ストレスフルな現実を少し和らげてくれるこれらの存在が、どれほどの癒しになるか。

そしていつの時代もキャラクタは、少女の強い味方だ。
ファンシーグッズと呼ばれるキャラクタ商品は、少女になれる魔法のステッキであり、また少女を守る頼もしい眷属でもある。それを手にすることで性別や年齢とは関係なくいつでも、少女で在ることができるのだ。
現実社会で少女であり続けるためには常に困難を伴う。
戦いに疲れたときには、無表情のたれぱんだの顔としっとりと軟らかなその感触に癒してもらおうではないか。


登場した和菓子:すあま
→上新粉に砂糖を加えて蒸し、捏ね上げて作る餅菓子。関東近郊ではお馴染みだが、関西ではほぼ知られていない。ピンク色でムニムニ。大好物。
今回のBGM:「飛行夢」by ZABADAK
→風が吹き抜けるような浮遊感あふれる楽曲は、ひととき日常を離れて開放的な世界に連れていってくれる。


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