278回 シャンプーが目にしみる


入浴中にふと、この頃リンスって聞かないなと思いついた。
昔はシャンプーとリンスはセットだった。それが今はリンスではなく、コンディショナーになっている。
いつからリンスは消えてしまったのか。いや、そもそもリンスとコンディショナーは何が違うのか。

結論から書くと、リンスとコンディショナーに違いはない。
なんとなくコンディショナーの方が高級そうに思えるがそんなことはなく、どちらもシャンプーで髪の汚れを落とした後に、髪の表面をなめらかにしてキューティクルの痛みを防いでパサつきを抑えるという働きがあることに変わりはない。この2つの他にもう1種類、トリートメントというものもあるが、こちらは髪の内部に有効成分を浸透させることにより髪の痛みを補修したり質感をコントロールすることで、髪の状態を整える役割を持つ。
というように書いたが、実はこの辺り厳密な定義などはないそうで、各メーカーごとに言ってみれば適当に呼び分けているらしい。結構いい加減である。
リンスは和製英語であると言われているが、実は英語にもちゃんと存在している。
そもそも「リンス rinse」というのは「すすぐ・すすぎ」という意味である。英語圏でも昔から、アップルサイダービネガー(リンゴ酢)などを用いたリンスが使われていたが、rinse単独ではなく「hair rinse」と呼ばれていたようだ。1970年代のアメリカでは「Clean Rinse」という製品が売られていた。それが1980年代になると次第に「hair conditioner」という名前に取って代わられ、現在ではそちらが一般的である。因みに今でもアメリカでは「Apple Cider Vinegar Hair Rinse」という商品が売られているそうだ。
英英辞書には今でも「すすぐ」という意味ともう一つ、「リンスで髪を整える」という意味が書かれているので、リンスは立派に英語がルーツであることは間違いない。

「ちゃん・リン・シャン」、これを読んですぐに薬師丸ひろ子の顔が浮かんだ方は、ある程度の年齢だと思う。今ではなんのこっちゃと思うこのフレーズは、バブル真っ盛りの1980年代に一世を風靡したCMのキャッチコピーである。
1985年、その後の朝シャンブームを巻き起こす洗面台がTOTOから発売になった。女子高生が毎朝登校前に髪を洗っているという情報を元に開発された、ハンドシャワー形式の吐水口を設置した「シャンプードレッサー」である。朝髪をシャンプーで洗うから「朝シャン」。安易なネーミングであるが、これが大ヒットした。もちろん女子高生だけでなく、男女問わず朝シャンした人は多いだろう。朝食を抜いても朝シャンと言われたが、私はその頃物凄く髪が長かったので、やらなかったというより時間がかかりすぎるのでやれなかった。
そしてこの「シャンプードレッサー」と呼応するかのように1986年に資生堂から発売されたのが、朝専用のシャンプー「モーニングフレッシュ」である。19歳の初々しい斉藤由貴がCMに起用され、一気に朝シャンは広まった。
ただでさえ忙しない朝、シャンプーだけではパサパサになるがリンスまでやるには時間が足りないという人に向けて、満を持して1989年にライオンから登場したのが、リンスインシャンプー「ソフトインワン」である。そう、本当の名前は「ソフトインワン」なのだが、あまりにも薬師丸ひろ子がCMで発した「ちゃん・リン・シャン」というキャッチフレーズのインパクトが強かったので、はっきり言って「ちゃん・リン・シャン」は覚えていても、「ソフトインワン」を今でも覚えている人は殆どいないだろう。
実は資生堂からも1988年にリンスインシャンプーが発売されている。だが名前が悪かった。「リンプー」はあんまりだ。私も覚えていない以前に、こういう商品があったことさえ知らない。
はっきりとはしないが、おそらく1990年頃から徐々にコンディショナーという名前が登場し、2000年代に入るとほぼリンスはコンディショナーに取って代わられた。
温泉の大浴場では今でもリンスインシャンプーを見かけるが、リンスインシャンプー自体ほぼなくなっているので、今ではリンスの名前が残っているのは、メリットの「リンスのいらないシャンプー」くらいだろう。単体のリンスとなると、ほぼ絶滅状態と言っていい。

一時期シャンプーにしろコンディショナーにしろ、「ノンシリコン」が大流行したことがあった。シリコン入りは悪!という勢いでノンシリコンが普及したが、シリコン入りは本当に髪に悪いのだろうか。
そもそも何でシリコンが入っているのか。シリコンとはケイ素のことである。ケイ素は地球上に酸素の次に沢山あるとされる元素であり、自然界では岩石や土の主成分である。通常酸素と結びついて二酸化ケイ素(シリカ)の状態として存在している。石英(水晶)はシリカである。半導体産業に使われるシリコンは、原料となる珪石を還元・精留させてケイ素の純度を高めた、暗灰色の金属だ。
またシリコンと紛らわしい「シリコーン」という物質がある。こちらは人工的に作られたケイ素を含む有機化合物の総称のケイ素樹脂というものであり、自然界には存在しない。液体状のシリコーンオイルや弾性のある個体のシリコーンゴムなど、生活のいろんなところで役に立っている物質であり、その安全性も確認されている。
シリコーンオイルは、髪のキューティクルを守りきしまないようにしてくれるコーティング剤として使われる。ということで、シャンプーなどに配合されるのは本当はシリコンではなくシリコーンなのだが、便宜上ここではシリコンと書く。ノンシリコンシャンプーはオイル分が入っていないため、ふんわりと軽い仕上がりになるが、その分パサつきやきしみが気になる。シリコン入りシャンプーだとしっとりまとまりやすい髪になりツヤも出るが、その反面猫っ毛の人はペタンとなってしまう。
シリコン入りを使っているとシリコンが落ちきれず毛穴に詰まるとかなんとか言われているが、ノンシリコンシャンプーが出てきた本当の理由はメーカーの販売戦略だそうだ。サロン専売品として付加価値を付けて売り出し、その際の謳い文句が上記のようなシリコンは身体に悪いというものだったということだ。
どちらを選ぶかは、自分の髪の質となりたい状態によるので、ノンシリコンの方が良いわけではない。シャンプーでしっかり汚れを落とし、コンディショナーで質感を調整する。ノンシリコンかシリコン入りか、どちらにするかはどうしたいかで決めれば良い。

今はシャンプーとコンディショナーに加え、トリートメントだのヘアパックだのアフターバストリートメントだのが登場して、髪は至れり尽くせりだ。
どうも気が多いので色々使ってみたくなるが、この頃の容器はなぜか大容量のものが多いので、なかなか使いきれない。詰め替えるどころか、1本使い切るまでに時間がかかるのだが、みんなそんな一度に大量に使うのだろうか。
一度誰かに尋ねてみたいところである。


登場した行為:洗髪
→「湯シャン」をご存知だろうか。シャンプーを使わず、お湯だけで洗うことである。シャンプーで洗い過ぎると油分を取り過ぎて髪を痛めると言われ、一瞬流行ったような気がする。それどころか髪を洗うこと自体が良くないとして、ある黒髪の美しい女優は1週間髪を洗わず梳かすだけという噂があったりもした。1日洗わなくてもベタつきや痒みや臭いが出るというのに、この高温多湿の国で1週間洗髪しなかったらどういうことになるか、想像したくない。
今回のBGM:「悲しみよこんにちは」by 斉藤由貴
→アニメ「めぞん一刻」の初代オープニング曲でもあったが、「モーニングフレッシュ」のCM曲として使われた。作詞・森雪之丞、作曲・玉置浩二、編曲・武部聡志という、堂々たる楽曲である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?