第5回  ワールズエンド


ロッキンホース・バレリーナを初めて見た時のことは、今でも鮮明に覚えている。
1990年代初頭、ある評論家の出版記念パーティに招かれて出かけた六本木の洋館で、これまでの常識を覆す形の厚底の靴を履きこなしている女性がいた。かつて日本のボンデージ・シーンを牽引した伝説の店、AZZLOを率いる山崎夫妻のユミさんである。なんともスタイリッシュでエキセントリックなその靴の形は、木でできた分厚いソールの強烈な印象とともに記憶に残った。

ご存知の通りロッキンホース・バレリーナは、ヴィヴィアン・ウエストウッドが1987年のコレクションで発表した、彼女のコレクションを代表する靴であり、いまだに根強い人気を保ち続けている。大槻ケンヂや嶽本野ばらの著作に登場したために、ロリィタファッションの代名詞として扱われていることでも有名だろう。そして映画『下妻物語』で深田恭子演じる桃子が履いたことで、世間的にもロリィタの象徴として印象付けられたと考える。
ヴィヴィアン・ウエストウッドの服もまた、ロリィタファッションを好む人たちの絶大な支持を得てきた。アイコンであるオーブを勲章のようにつけたロリィタを一時期原宿でよく見かけたものだ。
しかし私は、彼女が創る服は少女の服だとは思っていない。あれは戦う女性の服だ。実際着てみるとわかるのだが、ヴィヴィアンの服は胸と尻がしっかりあってウエストは細い、いわゆるトランジスタグラマー体型の女性に良く似合う。なのであっさりした体型の私には全く似合わなかった。あらゆる意味で攻撃的で身体的な服。観念の少女の服ではない。
それはヴィヴィアン・ウエストウッド自身が戦う女性であるのだから当然なのだ。ロックでパンクでアグレッシヴ。御歳70代の現在も第一線で戦い続けているのだから。彼女がキャメロン首相のところに戦車(実際は砲塔を装備するなど改造された兵員輸送車らしい)で抗議に乗り込んだというので以前話題になったが、いかにもヴィヴィアンらしい。戦うなら派手に、というところだろう。

反骨精神を秘めたデザイナーが創った異形の靴。
本来少女とは無縁のデザインであったはずのこの靴は、戦闘服としてのロリィタファッションに取り入れられることで、戦う少女の靴になった。ロッキンホース・バレリーナは決して実戦的な靴ではない。鈍器としては使えるかもしれないが、あれを履いて戦うのはなかなか困難だ。ただ口さがない他人の評価をはねのけるのにはもってこいだと思う。
その敢えて不安定で危なげのあるフォルムは、少女が世界と対峙するときのお守りとなっているのかもしれない。細い足首に力を込めて、世界の果てまでも駆けていけるように。


登場したブランド:「ヴィヴィアン・ウエストウッド」
→12月には『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』というドキュメンタリー映画が公開されるが、この77歳になるデイムの格好良いことといったら!
今回のBGM:「STARCRAWLER」 by STARCRAWLER
→ロサンゼルス出身、平均年齢20歳のパンクロックバンド。血だらけのパフォーマンスをするヴォーカルのアロウ・デ・ワイルドは戦闘少女か。


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