168回 当たるも八卦、当たらぬも八卦


年があらたまった。
とはいえ幼い頃のように、別の時代に突入するような期待と不安が入り混じった気分になるわけではなく、日常が続いていくだけである。
この当たり前の日常が続くことがどんなに奇跡的で有難いことかは、この2年の間世界中が痛感したと思う。
今年はもう少しいろんなことが自由になればいいと願うばかりだ。

さて正月といえば初詣。去年は自粛したが今年は行ったという人は多いのではないか。
近場の馴染みの寺から有名どころの神社まで、神社仏閣に詣でてお参りした際、お守りを購入したという人もいるに違いない。せっかくなのでと御神籤を引いたかもしれない。吉凶を占って一喜一憂したり、大事なお守りを肌身離さず持っているという人も結構いるだろう。
かくいう私は筋金入りのリアリストである。特定の宗教を信仰することはなく、かといって否定する気もないため、初詣も機会があれば行くが、行かなければと強迫観念にかられることもなく、正月はうちでゆっくりしている方が好きというたちだ。

迷信深いわけでなくても、仏滅や大安を気にする人は結構多い。仏滅という字面から縁起が悪いと思われがちだが、実際は仏教とはなんの関係もない。かえって仏教は占いを否定している程だ。
これらは吉凶などを暦に記載する暦注と呼ばれるものの一種である「六曜」に由来する。六曜は鎌倉時代に中国から伝来したもので、江戸時代に流行し、明治時代は政府に禁止されても続いてきた。いまでも冠婚葬祭の時に気にする人は結構いるだろう。
リアリストである私は、敢えて仏滅の日を選んで結婚式を挙げたが、他に誰もいなくて空いていたため、大変快適に余裕をもって出来た。ちなみに結婚式自体何式でもよかったのだが、神式だと雅楽の生演奏付きだったのでそれにした。笙(しょう)や篳篥(ひちりき)を間近で聴くとかなりの音量だということがよくわかった。

なぜか少女と占いは相性が良い。
かつて「My Birthday」という雑誌があったのをご存知だろうか。最盛期は40万部を売り上げたというこの雑誌、10代の少女を中心に絶大な人気があった。
占い自体には全く興味がない私がこの雑誌を愛読していたのは、ひとえに好きな漫画家やイラストレーターの絵が豊富に掲載されていたからなのだが、それでもせっかくなので占いも読んでみる。読んではみるのだが、一瞬のちには良いことも悪いことも忘れている、というかそもそも頭に入ってこない。おそらくこれは、信じてなるものかという一種の防衛反応からくるものではないかと睨んでいる。
「My Birthday」には、お馴染みの星占いから所謂心理テスト、白魔術のおまじないといったものまで豊富な情報が掲載されていて、読者コーナーも充実していた。ファッションや美容関係なども含め10代の少女に向けた総合誌といった様相であったので、あまり興味のない占い以外の記事も結構楽しく読んだ覚えがある。

初めて雑誌で星占いを特集したのは、1970年の「anan」だそうだ。60年代から占いを掲載した雑誌はあったが、毎週掲載したのは「anan」が最初だった。それを契機として、1973年に『ノストラダムスの大預言』の大ヒットを受け、第1次占いブームが起こる。
1979年には「天中殺」「六星占術」が流行し、「My Birthday」のような占い専門誌が登場、第2次占いブームとなる。
そして現在、第3次占いブームだという。インターネットを通じた様々な占いが人気となり、YouTuberにも占い師は多い。就職情報誌に占星術師が紹介されるほど、職業としても人気だというので驚いた。占いの結果を信じるだけでなく、占いたいという人がそれ程多いというのは意外だった。
占い師というのは、一種のカウンセラーでありコンサルタントでもある。人は迷った時に誰かに背中を後押ししてもらいたいものだ。本当はどうしたいかもう自分の中で決まっているのだが、他人に言語化してもらうことではっきりするのだろう。

ジンクスというものを、できるだけ持たないようにしている。いや、ひとつもないと言ってもいい。ちょっとでも自分の頭の中にジンクスめいた考えが浮かぶと、すぐさま敢えてそれをやってみる。そうしてそれに特別な意味はないと自分自身で確認するのだ。
それはできるだけなにものにも縛られたくないという気持ちが大きいからである。ただでさえ窮屈な社会で、自分で自分を縛るようなことは出来るだけ避けたい。
先が見えない不安な世の中、何かに頼りたくなる気持ちも大いにわかる。
お守りでも占いでも、少しでもそれで気持ちが上向きになるならそれは良いと思う。ただしそれに縛られてかえって不自由になったり、のめり込みすぎて他の価値観が見えなくなったりするのは避けた方がいい。

少女たちよ、とらわれるな。
少女性とはもっと自由であるべきものなのだ。


登場した雑誌:「My Birthday」
→2006年12月号をもって廃刊となったが、実質的に編集を請け負っていた説話社が、「My Calendar」という季刊誌として復活させている。
今回のBGM:「欲望と絶望」by 三柴理
→新たな希望と決意を込めて。


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