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2020年3月末基準の月次レポートを振り返る 後編 #月次レポート研究所のポッドキャスト テキスト版

前編はこちら

上記のレポートをテキスト化したものです。


結い2101 2020年3月の月次レポート

renny: 前編に引き続き、コロナウイルスの感染が急拡大した2020年3月末時点のアクティブファンドの月次レポートを読みながら当時を振り返っていきます。後編で最初に見たいのは、鎌倉投信の「結い2101」の月次レポートを振り返ります。冒頭は社長の鎌田さんの挨拶。最初の見出しは「新たな価値は混沌から生まれる」ということを書かれてます。この当時のたまたまこのファンドの10周年だったんですよね(2010年3月29日設定)。ちょうど10年を振り返るという意味もあったと思いますが、10年の間に金融危機の余波や東日本大震災が挙げられています。そういう変化で新しい価値が生まれるんじゃないか、というようなことを当時のレポートで予測されています。吉田さんはコロナを通じて見方が変わったとか、そういうふうに感じられるような会社とかってありますか?

吉田: 自分の中で評価が確立されたのはNVIDIAかな。会社の会議や出張もVRとかの方向へ行くんだろうなと。そうすると画像処理能力がものすごく必要になるから、NVIDIAは社会のインフラになっていくだろうなって思って、ここでかなり追加で投資しました。一方で完全に読み違えた会社がルルレモン。カナダのYOGAウェアで世界的に有名な会社なのですが、感染が拡大された当初、スポーツクラブが問題視されたじゃないですか。だからスポーツクラブ行く人いなくなると、ルルレモンもダメだろうと思って手放しました。ところが、在宅ワークになって、部屋着の需要でYOGAウェアの人気が出てきて逆に伸びていったという、思わぬことも起きたりしました。(※参考:ルルレモンのEPSは、2020年1月期の4.93ドルから2023年1月期は6.68ドルへ)

renny: なるほどね。確かにすごくわかりやすい例ではリモートワークを助けるような、こんなことでもなければZoomが普及するなんてこともなかったんじゃないかなと思うんですけれども。さっきおっしゃったNVIDIAの画像処理のところも、もう一段要求水準が上がったのは、コロナがきっかけかもしれないですね。

吉田: そうですね。

renny: 鎌倉投信の月次レポートにもどりますと、

「先を見通せない状況の中で、鎌倉投資に関わる多くの経営者は、危機感を持ちながら悲観する人はいません。いかなる環境下にあっても新たな価値をどのように創造するかを考えています。」

結い2101 2020年3月の月次レポート

renny: 前編に取り上げたファンドの月次レポートでは、これから倒産が増えるかもしれないよ、と暗めの話が多かったんですが、こちらは明るい感じに、あんまり悲観しないでっていうような感じですね。

吉田: そうですね。

renny: ただこのときは緊急事態宣言にもなる前だったと思うんで、これ本当どうなんだどうなるんだろうとかっていう感じではあったのは確かですよね。

吉田:緊急事態宣言は4月の初めでしたね。

renny: このレポートってね4月6日ぐらいに発行なので直前ですよね。この頃は海外で酷いところは結構深刻でしたよね。中国はもちろんイタリアでも。株価が下がってる局面は、ファンドを持ってる人たちも自分の保有資産の評価が下がってるわけじゃないですか。そういうときに、どういうメッセージを出されているかというのは、特徴が現れるというか、同じタイミングのファンドのレポートを見ることで、感じられることってあるのかなって思ったりしますね。

ひふみ投信 2020年3月の月次レポート

renny: 続いて「ひふみ投信」のレポートを確認してみます。2020年の3月末の基準価額は4万2000円台。昨日あたりに6万円を1年何ヶ月ぶりかに回復したという話を聞きました。それを考えるとずいぶん株価が戻したなと。2020年3月のレポートの8ページ目に運用責任者の藤野さんからのメッセージで、タイトルは「withコロナ時代の銘柄選択」。

「メディカルや介護など、どのような環境でも変わらず、むしろ新型コロナウイルスがプラスにはたらくようなセクターや企業が評価されていくでしょう。通信会社、通信工事会社、テレワークを支援するIT企業、テイクアウトを中心とする飲食業、医薬品、医療機器、ゲーム関連、教育関連テクノロジーの会社などです。また今後、需要と供給が落ち込んでいく中で政府が財政支出を余儀なくされますが、公共投資、土木、5Gなどの通信環境支援企業、またはクラウドコンピューティングの需要などが注目を浴びるでしょう。」

ひふみ投信 2020年3月の月次レポート

renny: 当時のひふみ投信の投資先1位はドミノ・ピザとかじゃなかったかな。

吉田: 本当だ。ドミノ・ピザ!

renny: だから言ってることとやってることが近いですね。あとテルモとかシスメックスも上位に入ってますもんね。ひふみ投信は2月の時点で現金比率を31%まで高めて、3月の下落局面で投資を進めて、3月末には現金比率を20%になっていました。

吉田: なかなか大胆ですよね。

renny: ここまで思い切るのは難しいなと思いますけど、これをやれるのはすごいなとは思います。だから記録が残ってると歴史的資料として非常に有益というか、振り返る意味があるんじゃないかなと思うんですよね。さっき吉田さんがコロナで見方が変わった会社があるというお話でしたが、ひふみ投信のレポートではこの辺が評価されていくんじゃないか、市場の評価が高まるんじゃないか、と書かれてました。この当時、吉田さんが買増しされた会社の中にNVIDIAが入ってたんですか?

吉田: はい。NIVIDIAやMicrosoftはかなり買い増しましたね。

renny: なるほど。Microsoftはまたどうしてだったんですか?

吉田: MicrosoftのTeamsとZoomを比較して、Microsoftの方が信頼性が高いかもしれないなと。

renny: Zoomも最初の頃は、いくつかセキュリティ面で問題というか、無関係の人が入ってくるみたいな話を聞いたこともありましたもんね。

吉田: 最初の頃はZoomが懐疑的に見られてたから、Microsoftに乗っかっておこう、みたいなところがありました。(補足;ちょうどその当時、上阪徹「マイクロソフト 再始動する最強企業」を読んで注目もしていたので)

renny: Teamsということだったんですね。僕の場合は個別の会社を買ってるわけじゃないから、投資信託でより投資先を絞り込んでるファンドに、より多く投資するとかっていうようなことをしてましたかね。今回、2020年3月の月次レポートをいくつか見てきましたが、吉田さんはご覧になっていかがでしたか?

吉田: スパークスさんが深刻に捉えてたんだな、っていうのがよくわかりました。

renny: 倒産しそうじゃない会社を選んでますと強調されてましたね。

吉田:一番やばそうなソフトバンクには1ページ割いて解説してましたしね。

renny: そのあたりはどういう会社に投資しているかということもあるのでしょうね。ひふみ投信は200数十社、鎌倉投信の場合も60社に投資していて、一社あたりの比率が小さいファンドとは違い、厳選投資は一社あたりの比率高いので、倒産に言及していたのかもしれないですね。当時のような不測の事態で、倒産が起きたときに影響度が大きいのは、そういう投資先を絞り込んでいるファンドだったっていうのが、レポートにも表れてたのかなと今思いました。

吉田: なるほどそうですね。

辛抱強さを身につけるには?

renny: 2020年3月のところから派生して、さっきひふみ投信でも、最近の株式相場の活況で基準価額が4万2000円台だったのが6万円に戻してきて、辛抱強く持ってた人がそういうリターンを得られたんだと思います。この間コモンズ投信さんの社長っていうか最高投資責任者やられて伊井さんにお話をお聞きしたときに、海外の長期投資を標榜している投資家、コモンズ投信さんも含めて、忍耐強さ、我慢強さというか、patientっていう言い方をされてたんですけども、そういうものが大事だっておっしゃってました。僕も全くその通りだと思うんですけれども、そういう辛抱強さ持ち続けるために、それを育てるというか、持つためにどういうことができるのかな、という話をしてみたいと思います。吉田さんはその辛抱強さというか、まずご自身辛抱強いって思ってらっしゃいますか。

吉田: たぶん。。。

renny: 辛抱強いっていうのも二つぐらいあるのかなと思ってまして、例えばこの会社のこの事業はすごくいいなと思ってるけど、なかなか花が開かないっていうような部分で辛抱強くっていう面と、もう一つは、そこそこ業績が安定して出てるんだけれども評価がついてこないというか、市場の方がなかなか見つけてくれないのを待つ辛抱強さ、の2つがあると思います。そういうふうに分けたときで、吉田さんだったらどちらの方が辛抱できそうですか?

吉田: 後者の方ですね。実際に投資してやっと芽が出たっていうのが最近の商社株です。15年ぐらい持っててやっと注目されました。

renny: それもうバフェットさんさんの話もあり、とはいえ、今でも結構PBR1倍あるかないかぐらいのところですよね?

吉田: そうですね。でも昔はPBRもPERも、もっと低くて、ずっと割安放置でした。

renny: そういう意味では投資家が評価してくれるだろうと結構辛抱強く待てそうっていうような感じなんですね。

吉田: そうですね。

renny: 前者のここの会社はいいと思うけど、なかなか業績が思ったより伸びない、というのは中小型株に多いと思うんすけども、そういうところは、なかなか辛抱強くなりづらいかなって感じですか。

吉田: 自分が間違ってたかなってあきらめちゃうことが多いですね。

renny: なるほど。後者の今のは評価はいつか見直されるという辛抱強さはどんなふうに体得してきたというか、こんな体験があったからとか、こういう本を読んだからとか、何が影響してますかね。

吉田: やっぱり古典かなぁ。禅とか。。。

renny: なるほどね。古典とか禅とかは日本的ではあると思うんですけれども、そういう古典とかに触れることで、そういう感覚が磨かれるっていう可能性があるってことなんですよね。

吉田: 私の場合はそうですね。結局、読書で何とかしたタイプなので。

renny: たとえば古典はどういうものですか?

吉田: 禅の問答集とか日本の古典だけじゃなくて、西洋のものでもマルクス・アウレリウスの「自省録」とか。なにか人生論的な古典ですね。周りの評価に惑わされるなみたいな感じの。

renny: なるほど。価値を磨くことをよりも、周りがどう見るかの方に傾くかないようにすると。

吉田: 株式市場は美人投票って表現されて、周りの評価に乗っかるのが大事と言われたりするじゃないですか。でもそういうのに振り回されないっていうのが大事っていうのは古典とかで学んだなって。

renny: そういうところは会社の振る舞いでも分かったりするようなところもありますかね。世間的に右向け右って言われてるようなときに、理路整然と、いや僕は左向くんです、というふうに言える会社っていうのは確かに魅力あるでしょうね。

吉田: そうですね。

2023年の株主総会シーズンを前に

renny:話が脱線してしまいますが、あさって5月25日にセブン&アイ・ホールディングスの株主総会があるじゃないですか。投資ファンドと会社が真っ向対立していますが、吉田さんはどんなふうにご覧になってますか?

吉田: あれは分割しろみたいな話でしたっけ?

renny: コンビニに集中しろと。分割に近いでしょうね。経営資源をコンビニに集中させた方がいいんじゃないかというのが1つ。もう一つはそういう事業の再構築を今の経営者はちゃんとやってこなかったんじゃないのか、むしろそっちが導火線に成って、もうコンビニだけにしろっていうような筋立てなのかなというふうに僕は捉えてるんですけれども。

吉田: でも個人的にはセブンイレブンのオーナーさんの実情を知る機会があり、そっちの方が関心があるんですよね。ずいぶんエグいビジネスしてるなって。そんなことをしたら、セブンイレブン本体の収益率高くなって当たり前だよねと。(補足;個人的にはセブンのフランチャイズ制度に、かつての小作農制度を重ね合わせています。)だからちゃんとオーナーさんの生活を考えた事業したら、今のような利益率は維持できなくて、イトーヨーカドーを目の敵にするようなレベルにはなくなると思うので。今はESGやSDGsと社会性が求められる時代になってきたんで、そこを追及されたら、コンビニに集中した方がいいなんて会社にはなれないんじゃないかな。

renny: なるほどそうですね。事業としての持続可能性は大丈夫?っていうようなとこなんですかね。

吉田: そうですね。だから数字だけ見てどうこう言える問題じゃなくて、いろいろ根が深い話だと思うんですよね。

renny: なるほどね。小売業は2月決算なので5月に株主総会ですが、今年は何か株主提案の話とかが増えたりしてて、6月の株主総会とかっていろいろありそうかなとかって思いますが、吉田さんの投資先の3月決算の会社で、株主総会が気になる会社はあります?

吉田: ずっとやばい投資先はレストラン関係のひらまつ。だいぶ前に株主優待目当てで投資したんですが、経営めちゃくちゃで…。今はなぜか東証の市場再編の時にプライム市場を選択してしまい、その要件を満たせるのか問題があったり…(訂正;5月12日付けでプライム市場からスタンダード市場への移行申請を東証に提出していました)

renny: 大変なんですね。さっきの辛抱強さのところでいくと、辛抱強さよりも株主優待が勝っていたということなんですね。

吉田: そうですよね。なんかもう、めちゃくちゃすぎて行く末を見守るのが面白くなっちゃったっていうのもあって、創業者がお金に使い込んじゃったところからはじまり、経営が傾いていったところにコロナが来て…

renny: そうですか。意外とさっきの業績云々の辛抱強さのところも、吉田さんはお持ちなんじゃないかな、と今の話聞いております。

吉田: ひらまつは事件性もあって、観察しているのが面白くなっちゃったところもあります。

renny: この6月の株主総会は東証からもいろいろ注文が付いている会社もあり、いろいろニュースになりそうかなと思ってます。以前にこのポッドキャストで、投資信託の皆さんがなかなか株主総会に出席するのは難しいというお話がありましたけれども、投資信託の人たちが出られるようになって、その様子を受益者というか投資家の人に伝えてくれると面白くなったりする、面白くなるっていうとちょっと言い方があれですけれども、ただ実態を知るっていう意味では有益なんじゃないかなと思ったりするんですよね。

吉田: そうですね。たしかスパークスさんが月次レポートに書かれてましたよね。

renny: そうですね。今回はちょっとあちこちに話題が飛んだんですけれども、ここで終わりにしたいと思います。ありがとうございました。


昨年、株主総会について収録したポッドキャストはこちら。


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