見出し画像

『投資家の日常は、いとをかし。』 #4 2024年2月 後編テキスト版

こちらのポッドキャストのテキスト版です。

前編はこちら↓



タイトルの発想法

renny:前編は市況やレストランのインフレについてのお話をさせていただきました。後編では最近僕の悩みについてお話したいな、ご相談したいな、と思ってます。ズバリ悩んでるのはタイトルの付け方なんですよね。このポッドキャストをはじめ、ブログ、noteなどなど、タイトルを付けて発信していますが、タイトル次第でその先に読まれるかも決まるみたいなところがあってですね、タイトルの付け方って難しいなと思ってます。吉田さんも長くブログを続けられてたりする中で、新しい記事を作られたらタイトル付けられてると思いますが、タイトルに悩まれることってありますか?

吉田:あまり悩まないですね。それはブログの目的が違ってて、誰かに読んで欲しいという想いはなくて、もう完成に自分のため、自分のための情報宇宙を作る、みたいなのが根本にあるからだと思います。

renny:なるほど。読み手を意識するというよりは、ご自身を意識してるんで、タイトルは自分が後で見返したときに引っ張り出しやすい、検索性が高い方がいい、という感じなんですかね。

吉田:そうですね。

renny:でも時には誰かに伝えなきゃいけない、読み手を意識するケースもたまにはあると思うんですけれども。。。

吉田:あまりないかもしれない。でも今だったら、ChatGPTと対話をすればできそうな気がしますけどね。

renny:たしかに。noteのAIを使うと、AIがタイトルを考えてくれる機能があったりして、知恵を借りることはあるんですが、でもそういうAIを使って出てくるタイトルって、自分でつけるタイトルとはちょっと違うなっていうようなことがあったりします。このポッドキャストも今年からタイトルを変更して「投資家の日常は、いとをかし」ということで、今年のNHKの大河ドラマを意識したみたいになっていますが、キーワードは「投資家」「日常」「をかし」で、「をかし」はなかなかスッとは出てこないと思うんですよね。そういうのって、やっぱり読書を通じてボキャブラリーが増えてくるというか、連想が降りてくるって感じがあるんですかね。

吉田:どうなのかな。ChatGPTも結局いろんな情報を詰め込んだ上で答えてるから、詰め込んだ情報の範囲内でしか、何かを創造することができない。そこは人も機械も同じだろうから、やっぱりたくさん触れれば、出てきやすくなるのかもしれないですね。

renny:そういうのに比例するところはあるんでしょうね。何かと何かを結び付けられるストックみたいなものがたくさんあると、いろんな選択肢が出てくるみたいなところはあると考えると、インプットが大事なのかなと。あとやっぱり吉田さんの読書に関する発信とかを拝見していると、そんな本どこで見つけてきたんですか?みたいな本もあったりして、そういう普通には出てこない発想が出てくるようなとこってあるんでしょうね。

吉田:そういう発想について面白いこと言ってたのが、ロジェ・カイヨワ。あの人は哲学者なのか何なのか、様々な分野を混ぜ合わせた本を出していた人がいて、その人は遠く離れた分野の二つのものを、対角線を引いて、折り目で重ね合わせたときにいいアイデアができるんだ、なるべく今考えているものから遠くの分野のものに触れてみて、アイデアをもらってくるのが新しいものを作れるんだよ、みたいなことを言ってましたね。

renny:たとえば株式投資とか遠く離れたものって何になるんですかね。

吉田:少なくとも経済の周辺にいるうちはダメでしょうね。

renny:だから突飛なところに行かないと、そういうような離れたところとの共通点を探してていくと、何かが出てくるというか何か面白いものが出てくるというのはわかるような気がしますね。自分の趣味や嗜好で選んでるようなものじゃなくて、全く自分では意図せざるというか、行きたくなかったのに連れて行かれたようなところで体験したことかな。

吉田:そこまでじゃなくても、サッカーとかから引っ張ってこれないかな。

renny:もちろんサッカーも思いついたんですけど、やっぱりこういう発信をやってると、似たことをやってる人の話を聞くよりは、全く違うことをやってる人のお話を聞いた方が、対角線が長くなるような感覚っていうのはあるんで、そういうのは面白いなとは思うんですけど。でもたしかにそういうふうなことをやると、タイトルも想定外のものが出てきそうですね。

アクティビストの社会的意義は?

renny:「月次レポート研究所」がこのポッドキャストの以前のタイトルで、投資信託の月次レポート読んでみるというようなことを1年以上やってたんですけれども、あんまり面白いレポートがないから中身をどうしようか、ということになったのですが、最近改めて「マネックス・アクティビスト・ファンド」のレポートを読んでみると、分量はそんなに多くはないですが、レポート内容はその他のファンドとは異質というか、異彩を放ってるな、と思いました。吉田さんは最初の頃に少し買ってみたとお聞きしたんですけど、それはどうしてまた関心をお持ちになったんですか?

吉田:始めた頃は個人投資家の意見を吸い上げて企業と対話をするんだ!みたいなことを言ってたので、それはなんだろう?と思って、最初の募集のときに1万円だけ投資してみて観察してたって感じです。月次レポートだけじゃなくて、月次の説明動画とかも出してたりして、結構積極的にやってるなと思って見てたんですよね。

renny:今は世間ではPBRが1倍割れている会社はどうなんだ?とか、より株価を適正に!とか、要はそういう投資家のイニシアチブで企業の評価を何とか変えれないか、というアプローチがアクティビストの狙いのひとつだと思います。吉田さんはアクティビストの行動をどんなふうに認識されてて、評価としてはどんな感じですか?

吉田:昔みたいに余剰資産だけに着目して配当を出させて終わりっていう形ではなくて、中身をきちんと見るようになってきてるのは感じますね。会長が会社のお金を使い込んでるじゃないか、みたいな指摘をしたアクティビストがいたりしましたし。

renny:そうですね。昔みたいに溜め込んでいる資金を吐き出させる、というすごく直接的なものっていうのは減ってきてるのかなっていう感じですね。たとえばセブン&アイの例では、コングロマリットを解きほぐすことで高く評価されるんじゃないかとか、あとはこのあいだマネックスのフォーラムに参加したときは、マネックスの松本さんはガバナンスを強調されていました。吉田さんは日本の会社をご覧になるときに役員構成であるとか、いわゆるガバナンスみたいなものって、考慮されたりしますか?

吉田:役員構成から悪い会社は分かるけど、何が良いのかわかんないなというのが正直なところです。(補足:みずほFGの総会招集通知の役員の部分を、三菱FGや三井住友FGと見比べてみるとよく分かる。)

renny:駄目なものはわかるけど、正解みたいなものは個社によって全然違うと思うんで、そういう意味ではネガティブ・スクリーニングにしかならないんですかね。

吉田:そうですね。それまで投資していた会社の社長が変わって良くなりそうだから、と買い増すみたいなことはあるかもしれないけど。

renny:トップが変わって事業がより魅力的に見えるというか、変わるんじゃないかという期待を持たせるようなところはあるってことなんですね。それはどういう情報源からお感じになるんですか?

吉田:それは株主総会の会場に行ってとかかなぁ。

renny:株主総会でそういうところを見られるんですね。今年は株主総会に出席される予定はお持ちですか?

吉田:最近、オンラインで見られるようになってきたので、ラッシュの電車に乗って会場に行くのが面倒くさく感じるようになってしまって、どうしようかなって悩むんですよね。社長が変わったりしたら行くけど、大きな変化がなければオンラインでいいかな、って思うようになっちゃいましたね。

renny:なるほどね。僕がアクティビスト・ファンドに対してすごく疑問に思ったのは、彼らの活動によって要は、すごく割安というか低く評価されてた会社が高くすること。要は市場が価値を認めてくれて株価が上がりました、となったらファンドの人たちはそこで売却しちゃうことが多いですよね。そこでファンドの成功報酬のようなものも発生して、売却資金でファンドは次の投資機会を探すんだと思うんですが、これって何のため?、何のためにというか、ファンドの役割って何なんだろう?とかって思ったりします。

吉田:日本株に限って言えば、たとえばPBRを適正水準まで持っていってあげるっていうのは、中国のよくわかんない会社に買収される危険性から助けてあげて、そこから先は自分たちで何とかしてねみたいな感じかな。

renny:なるほど、経済安全保障的な考え方になるんですかね。

吉田:そういう意義はあるのかなと。

renny:前編でお話した今年に入ってからの日本の株高の一つの要因に、どうも中国の投資家が買ってるという話があったことも考えると、上場している会社は買収される可能性と隣り合わせにあると思うんで、企業の評価をある程度のところまで引き上げることは意義があるのかもしれないですね。

吉田:あとはある意味、潔い良いかなって捉え方もできるかな。投資家は事業を運営していく専門家ではないので、自分たちができる範囲のことだけをしたら出て行くのは意外と潔い良いのかも。最近流行りだから対話の場をといって、忙しい社長やIRの時間を無駄にする投資家もして、お前らなにしに来たんだ?と怒ってる会社もいたりするので。

renny:たしかにそうですね。彼らがターゲットにする会社は少なくともその株式市場から評価を受けてない会社で、マネックスさんのファンドのケーススタディの一つが大正製薬さんでした。大正製薬さんは医薬品のアナリストとかがカバーしていることが多くて、ただ実態はドラッグストアで売られてる商品が圧倒的に強くて、海外でもそういうような買収がうまくいってて事業がうまくいっている。でも、当てられる物差しが医薬品の臨床開発で宝探しをしている会社と同じように並べられて過小評価されてた。株式市場の見立てがちょっと違うんじゃないか?という面を変えていくのが、ああいうファンドの役割かもしれないですね。とはいえファンドに投資をしようか、と思うとちょっと何か違うような気がするんですよね。

吉田:レポートを読んでても、事業そのものの話があまり出てこないので面白くないんですよね。

renny:レポートをほぼ全部見直したんですけれども、ある時期までは投資先は非開示で、ある程度結果が見えたところでしか開示してなかったんですよね。去年の半ばぐらいから、個別の会社が開示されるようになりましたが、どっちかというと事業そのものというよりは、ガバナンスと資本効率の話が多い印象は受けますよね。

吉田:そうなんですよね。それを読んで関心が広がることがあんまりないから、私みたいな変態は楽しくないっていう感じです。

renny:新しいアイデアが浮かぶっていうような刺激にはちょっと少ないかなってことですね。ただ日本の機関投資家含めた株式市場の課題や問題はあのレポートから読み取れますよね。

吉田:そうですね、日本の課題みたいなのはよくわかりますね。

パリのパサージュを巡るように本を探す

renny:残りの時間でちょっと宣伝です。神保町に棚本屋さんがありまして、本棚の棚ごとに店子さんを集めて、店子さんが店主をやる本屋さんなんです。そういうお店が神保町のすずらん通りって、靖国通りから南に入った、古い本屋さんがあるところに1号店ができて、そこのビルの3階に2号店、そして靖国通り沿いに3号店を出されることになりまして。そこに一つ棚を借りて、本屋さんを始めました。投資と読書で両方とも動詞だから英語で「Reading:As:Investing」っていうふうにつけたんです。

renny:棚と言っても10、20冊ぐらいのそんなに広い棚ではないんで、僕が本当にいいなと思った本を選んで並べてるというような感じになってます。一応投資の本を並べようと思ってますが、それ以外にも少し投資に関係しそうな他分野の本を選んでいこうと考えています。吉田さんは本当にたくさん本をお読みになってますが、こういう本屋さんへ訪問されたことはありますか?

吉田:ないですね。ちなみにタイトルに「テュルゴー通り」と入っていますが、これは経済書が置いてあるという意味ですか?

renny:そうなんです。今回の3号店は一部だけジャンル縛りみたいなことをやってて、棚ごとに通りの名前を付けてるんですよね。たぶんパリの通りの名前なんだと思うんですけど、

吉田:これは実際にある通りの名前?

renny:たぶんあるんだと思う。というのは、これ仕掛けられたのがフランス文学者の鹿島茂さん、先月の収録の際に吉田さんが取り上げられた本の著者の鹿島さんが、Founderみたいな存在なんです。だからパリの通りの名前なんじゃないかな。

吉田:テュルゴーってフランス革命の頃の財務大臣みたいな人ですよね。だから経済の棚なのかなと。

renny:そういう連想からなのかもしれないですね。さすがですね。新しい3号店は棚が500ぐらいあってテナント募集中みたいですが、すべての棚に本が収まるとなかなか面白そうだし、あと僕は基本的に新刊を置かせてもらってますが、自分の手持ちの蔵書を販売されてる方もいらっしゃって、中には蛍光ペンで線引いてあったり、そういう本が売られてたりするんですよね。さっきタイトルの話をしたときの、全然違うジャンルの対角線が長くなるような本との出会いもあるかもしれないなといういうふうに思ってまして、神保町にお越しになる際には一度、覗いてみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?