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本と本屋と出版社の未来像を(できるだけ現実的に)考える 第17回PLANETS CLUB定例会レポート

評論家・宇野常寛の主宰するPLANETS CLUBでは、月1回の定例会として、公開生講義&交流会を開催しています!今回は7月定例会の様子をご紹介します。
クラブ会員の方はこちらにて、動画でお楽しみいただけます。

トークセッション:「本と本屋と出版社の未来像を(できるだけ現実的に)考える」

今回のゲストは、文庫版「母性のディストピア」の担当編集を務めた早川書房の塩澤快浩さんと「遅いインターネット(仮)」の担当編集を務める幻冬舎の箕輪厚介さんの2名。ファシリテーターとして、株式会社モメンタム・ホース代表取締役社長/編集者の長谷川リョーさん。そして、宇野さんの4名で「本と本屋と出版社の現実的な未来像」を考えました。

♢出版界のルールを1つだけ変えるとしたら

最初の議題は「出版界のルールを1つだけ変えるとしたら」。

図1

まずは「返本制度をやめる」と回答いただいた塩澤さんよりご説明いただきました。

「これまでは雑誌がある程度売れていたから、出版社から取次、取次から書店に配送する時に、雑誌のついでに書籍も運んでもらっていた。しかし今は雑誌が激減しているので、書籍は雑誌を頼れず、流通経費が書籍に乗せられている」と塩澤さんは言います。

「また、運搬の人手不足もあり、地方では新刊の到着が遅れ、Amazonに注文したほうが早く届くような現状もある。売れる本と売れない本の差が前にも増して激しくなり、本屋はどういう本をどういう人に向けて仕入れて売るか考えず、売れそうなベストセラー作家の本をとにかく仕入れて、売れ残ったら返本している。もうちょっと考えて、書店ごとの特色を出していく必要がある」とまとめました。

図2

対して宇野さんは、「本屋を切る、もしくは一体化」と答え、既存の取次と書店はもうやめた方がいいとバッサリ。

「書店は、本を買う場所ではなく、本と出会う場所だというならばメディアでいい。書店がなくなると新しい本と出会う場がなくなるが、それはメディアが頑張るしかない。出版社と書店は一体化するしかない。いま、取次が成り立たないことは、取次自体が一番よくわかっていて、現に取次のトーハン・日販は弱い出版社や書店を買収して、傘下に入れまくっている」と話します。

図3

そして、箕輪さんが提案したのは「熱量マネタイズ」。

「今までは、パブがうまくいったりして世の中に広く売れたベストセラーも、狭い中で深く感動する本も、すべて定価×部数でしかマネタイズできなかった。でも今は、スマホで直接課金する仕組みを使えば、感動の深さをマネタイズすることができる」と、光本勇介さんの『実験思考 世の中、すべては実験』という書籍ではじめて実施した「価格自由」の取り組みについて話しました。
紙の本は390円、電子書籍は0円と原価で販売し、本の最後のページに「面白いと思ったら課金してね」とQRコードをつけて、直接課金できるようにしたところ、なんと、1億円も集まったそうです。

「本はある種、完結した作品だって思われている部分もあるけど、やっぱりライブパフォーマンスのようなもので、熱量を高める力がある。ほんとうに熱量が高ければ、読み終わった後にに投げ銭ができる仕組みを用意するだけで、制作費を回収できるのではないか。そういうシステムを今後やっていきたい。たとえ売れるのが6000部でも、クリエイターが食べていくことができて、出版社の編集者が肩身の狭い思いをせずに『6000部しか売れてないけど、「価格自由」で3000万円集まってるんで全然黒字です』と言えるようにしたい」と話しました。

♢自由に本を出版できるとしたらどんな本を作りたいか

続いては、「自由に本を出版できるとしたらどんな本を作りたいか」という議題です。

図4

宇野さんの回答は「見城徹の出版史」。それを見て「やってよ!(笑)」という箕輪さん。会場からも笑いが起き、まずは宇野さんからお話していただきました。

学生の頃、90年代に行われていた、芸能人や作家と懇意になって書き下ろしの本を書いてもらう幻冬舎商法があざとくて大嫌いだったという宇野さん。

「でも、大人になって出版ルールをハックしていることに気が付いた。そもそも、出版とは小商いで、数百万円の制作費で単価が1000円ぐらいのものを売っていくようなビジネスモデルだった。それを最初から10万部売れるとわかっているものに対してお金をかけていくビジネスモデルに変えたのが見城さん。その見城さんが参考にしていたのは、明らかに角川春樹だ」と話します。

角川春樹さんは、オーデションを行なって選んだアイドルで映画を撮り、そのCMをテレビで流し、文庫を売るという、テレビ・映画・出版という三角形を作ることによって、出版のルールをアップデートしたのだそう。

「メディア環境の変化により、見城さんの幻冬舎商法が行き詰まってきたときに出てきたのが箕輪さん。だから、角川春樹と箕輪厚介の間にいる見城さんが出版史を書き、最後は『箕輪は出版の終わりだ』と締める(笑)」と宇野さんが話すと、会場からは笑いが起こっていました。

図5

続いて、塩澤さんの回答は「超才能あるけど小説の書き方を全く知らない作家の本」。

「30年も編集者をやっていると、作家として才能があるかないかは、大体わかる。なので、僕ができることは才能を伸ばすことではなくて、その才能を持っている人の小説の体裁を整えることでしかないと思っている」と塩澤さんは話します。
「その作業を延々とやっていたいと思っている。だから、誰の本を出したいというよりも、とにかく待ちの姿勢です」と語りました。

図6

そして、箕輪さんは「雑誌×体験×EC」と回答。
雑誌に可能性があると思っているのだそう。

「僕が作っている本は人を動かすための本。イメージとして、スクランブル交差点のど真ん中に本を置いて、その本に熱狂した人が集まってくるような感覚で。だから、そこに募金箱を置くと光本さんの『価格自由』の試みみたいに1億円が集まるし、それをプロジェクト単位でまとめるとオンラインサロンになる。そういう意味で、雑誌って交差点として価値観を束ねていくことができる。だから俺は雑誌だなあって思ってる」と話します。

自身が思う雑誌像については、「僕がやっていることは一番勢いがあった頃の雑誌の感じ。トゥクトゥク乗ったり、SNSで喧嘩したり、そのライフスタイルを見て『そういう生き方いいなぁ』と思うことが雑誌。今は紙で完結していて、そんな特集を見せられてもリアリティがないけど、昔は『箕輪さんが本当に六本木をトゥクトゥクで走ってた!』とか、そういう感覚だったんじゃないかと思うんだよね。ひとつの常識にとらわれないとか、ふざければいいとかの軸を元にして、あとは何をやってもいいっていうようなことが、昔の雑誌で。僕の活動はその代替をしているように思えてきたから、コンテンツとしての雑誌を持ちたいなと思えてきた」といいます。

対して宇野さんから、箕輪さんの考える雑誌は紙でやるべきなのかという質問が。
 
箕輪さんは、「紙でやらなきゃだめ」と答え、その理由について、次のように話します。
「SNSが発達すればするほど、実体のあるモノの価値が異常に上がっている。やりたいのはブックインブックがチケットになっていて、日付と時間だけが書いてある。それを持ってきたらイベントになるみたいなことをしたい」。

その後、箕輪さんの話から、これからの出版社の流通制度・ビジネスモデルについての話やPLANETS書籍のビジネスモデルの話など、ここでしか聞けない話が続き、会場は盛り上がっていました。

♢宇野常寛の本を10万部売るためには

最後の議題は「宇野常寛の本を10万部売るためには」というもの。

塩澤さんは「10万人が読みたくなる本を書く」、箕輪さんは「ココロをうばう」と回答。それぞれのお話のあとに宇野さんから「100年売れる」という回答が提示されます。

図7

「もちろん高いハードルだが、どこかで残るものを歯を食いしばって書くしかないと思っていて、それは長期で考えなくてはいけない」と宇野さんは語ります。
同時に、しっかりとテキストに向き合い、他人の頭を通して思考する習慣のある良質な読者層を、長い時間をかけて育てていくことが必要だとまとめました。

会場からの質疑応答のあとは参加者と一緒に記念撮影。

図8

♢交流会・サイン会

トークセッションのあとは恒例の交流会が行われました。
そして、今回は会場限定で先行販売された文庫版『母性のディストピア』のサイン会も行われました!

図9

PLANETS CLUBでは本イベントのアーカイブ動画を配信中です。
レポートには書けない、ここだけの話も盛り沢山です。

今月の定例会は9月21日(土)。ゲストはお笑い芸人の西野亮廣さんをお招きします。現在クラブ会員枠のみ空きがあります!
詳細はこちらをご覧ください。

イベントの模様はPLANETS CLUBのFacebookページでご確認いただけます。
PLANETS CLUBの詳細はこちらから。

(文:松原明子・PLANETS編集部)

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