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「マトリックス」の前日譚|SFX"バレットタイム"の歴史

こんばんは ぷらねったです
機械に支配されてしまった人類を描く「マトリックス」の世界
シリーズとしては4つの映画が公開され 2021年の「マトリックス レザレクションズ」をもって完結したとされています
しかし "大量の人間が 謎の装置に接続されている"という 絶望的でダークな世界は なぜ生まれてしまったのでしょうか
今回は 「マトリックス」に至るまでのストーリーと "バレットタイム"というSFX技術について お話ししていきたいと思います


1.なぜ「マトリックス」のような世界になってしまったのか

「マトリックス」は ウォシャウスキー兄弟(後に姉妹となりますが、動画内時点の状況に基づいて今回は兄弟で統一します)による 1999年のSFアクション映画です


キアヌ・リーブスが主演として出演し 東洋的なワイヤーアクションや "バレットタイム"と呼ばれるSFXによる 革新的な映像表現で話題になった作品です
続編として 2003年の「マトリックス リローデッド」
同じく2003年の「マトリックス レボリューションズ」
さらに時がたった2021年に公開され まさかのコメディー要素も含んだ「マトリックス レザレクションズ」があります
そして今回重要になるのが 外伝的な立ち位置の作品として 2003年に公開された「アニマトリックス」という アニメーション作品です

「アニマトリックス」は 全9話の短編で構成されたアニメーションであり ウォシャウスキー兄弟が製作を担当した作品です
1話の平均は10分ほどという 比較的コンパクトにまとめられた中で 各話の監督・脚本や デザイン, そして製作会社が異なるという バラエティーに富んだ内容で描かれています
「らんま1/2」などの日本のアニメや漫画にも 多大な影響を受けたという ウォシャウスキー兄弟
そんな背景もあって 日本のトップアニメーターを中心とした 監督やスタッフが集められています
「アニマトリックス」で描かれるすべてが「マトリックス」の前日譚という訳ではありません
補足的内容が描かれる外伝のストーリーや「マトリックス リローデッド」へ繋がる内容が語られる第1話もある中で 第2話と第3話において「マトリックス」の前日譚が語られています

まず 第2話"セカンド・ルネッサンス パート1"では 西暦2090年の世界を舞台に 堕落した人類社会が描かれます
ロボットが奴隷的な扱いをうける中で "B1-66ER"という機械が人間に逆らい 殺害したことが 「マトリックス」の世界が生まれてしまう 発端となります
殺人罪で裁判を受け 市民権を否定された"B1-66ER"
これにより 世界中の人間たちが ロボットを破壊し 社会から追放する事件が起こりました
西暦2092年になると 追放されたロボットたちは集結し 中東で機械の国"01(ゼロワン)"を建国
発展した"01"の商品は人類より優れていたため 経済をリードしていくことになりますが 国連が経済制裁を発動したり 国連への加入を拒んだりする経緯が描かれるのです

つづく第3話"セカンド・ルネッサンス パート2"では その後に起きた 人類とロボットによる戦争が描かれます
力をつけていく"01"を危険視した人類は 機械に対する一方的な攻撃を開始
この 非人道的なおこないにより 今までできるだけ人類に服従し続けてきたロボットたちは 反撃に転じます
恐れを知らないロボットと 強大な軍事力に 人類が勝てるはずもなく 領土は奪われていきました
悪あがきする人類が思いついた 愚かな反撃は "機械の動力源である太陽光を遮るために 地球全体を暗黒雲で覆いつくす"という方法でした
しかし 機械側にはすでに 太陽光に代わる代替エネルギー源があったため この反撃は無に帰すことになります
機械達は人類の生き残りを捕獲し 人体の構造を解析した結果 "マトリックス"という 人類を電力源として 効率よく使用するためのシステムを開発
こういった経緯をもって 「マトリックス」のような ディストピア世界が生まれたのです
機械が人類を恨んでしまうのも 納得してしまうような歴史です

2.「マトリックス」と「アニマトリックス」

ウォシャウスキー兄弟が「マトリックス」の世界観を描く中で重要な作品として ジョン・カーペンター監督の「ゼイリブ」, 大友克洋監督の「AKIRA」, 押井守監督の「攻殻機動隊」, その他には「ブルース・リー」, ウィリアム・ギブスンの小説「ニュー・ロマンサー」などが挙げられます

また レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの"Wake Up"という楽曲を聴きながら脚本のほとんどを書きあげたそうで 映画のエンディングテーマとしても使われているこの楽曲はとても重要だと言えるでしょう

これらの中でも 特に「攻殻機動隊」で描かれるサイバーパンク世界のイメージは 大きな影響を与えたと言われています


実際に「攻殻機動隊」の押井守監督は ふたりとアメリカで対談した際に 「アニマトリックス」の監督をオファーされ 断った上で 代わりに森本晃司の名前を挙げたそうです

森本晃司は 「MEMORIES」, 「マインド・ゲーム」, 「鉄コン筋クリート」などを制作した STUDIO4℃の創業者のひとりであり 実際に「アニマトリックス」では第7話の監督・脚本を担当しています

これ以外にも 「REDLINE」の小池健や 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」, 「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で監督にクレジットされる 前田真宏, 「カウボーイビバップ」の監督や 絵コンテを担当した 渡辺信一郎などの日本人に加え 「アイ,ロボット」で視覚効果を担当し 「アバター」では アカデミー視覚効果賞を受賞した アンドリュー・R・ジョーンズなど 現在も一線で活躍する そうそうたる実績をもったアニメーターたちが 「アニマトリックス」の各話で 監督, 脚本, デザインなどを担当しています

「アニマトリックス」においては 先ほど紹介した前日譚以外のストーリーも それぞれとても個性的で 見ごたえがあります
「AKIRA」の原画も担当した橋本晋治や スタジオジブリの「君たちはどう生きるか」にも参加した 大平晋也などによる作画が秀逸すぎる 第4話"キッズ・ストーリー"などもおすすめですが
個人的には 「REDLINE」が大好きなのもあり 小池健監督がつとめた第6話"ワールド・レコード"がとても素晴らしい内容と 映像表現だと感じました
100メートル走で8.99秒という世界記録を出し ドーピング陽性判定という汚名を着せられた男が 身の潔白を証明するために ケガすることを分かっていながら もう一度世界記録に挑戦するストーリーです
"走る"というテーマや 躍動感のある作画で描かれる世界観は「REDLINE」に通じるところもあります
とにかく 通常の日本アニメでは絶対に観られないような 前衛的な作画が光り 「マトリックス」の世界観に基づいた おもしろいストーリーばかりなので 興味のある方は ぜひご覧になっていただきたいです

3. バレットタイムの歴史

つづいて「マトリックス」を語る上で 重要な要素として"バレットタイム"と呼ばれるSFXがあります
これは "映像がスロー もしくは静止した状態で カメラだけが円を描くように動き続ける" というエフェクトであり 作中でも特に印象的な ネオが銃弾をよけるシーンなどで使用されました
このSFXは 特殊撮影を手掛けたジョン・ガエータによって 大友克洋の「AKIRA」や ミシェル・ゴンドリーが手掛けたミュージックビデオの影響を受けていることが 後に明かされています
このミュージックビデオがどの作品かは明言されていないようですが おそらく The Rolling Stonesの"Like A Rolling Stone"のことを指していると思われます


ミシェル・ゴンドリーといえば 2004年の名作SF映画 「エターナル・サンシャイン」の監督をはじめ 数々のミュージックビデオや コマーシャル映像で 革新的な映像を描いてきた人物です

ミシェル・ゴンドリー自身は "バレットタイム"のSFXを 日本でもよく知られるお酒である"スミノフ"のCMにて 1996年に初めて使用していますが この技術の発祥はさらに前まで遡ることになります


まず 1985年に Accept(アクセプト)というドイツのヘヴィメタルバンドが "Midnight Mover"において このSFXを ミュージックビデオとして初めて使用


さらに遡った 1980年初め頃 イングランドにある バース芸術デザイン学校に所属していた ティム・マクミラン(Tim MacMillan)という人物が 自身の映像作品において このSFXを実写映像に使用したのが 記録に残っています


これが"バレットタイム"の発祥ではないか というのが現時点で最有力です
もっとも "バレットタイム"が実写で使われる以前にも 元々アニメーション業界で 似たような表現技法は存在しており 1967年のタツノコプロの作品「マッハGoGoGo」のオープニングが 最初期の作品と言われています


「マッハGoGoGo」は ウォシャウスキー兄弟にとって はじめて観た日本アニメだとされており その後「スピード・レーサー」というタイトルで実写映画化もしているので 「マトリックス」で"バレットタイム"が使われたことにも関係している可能性は 十分あります
他には 2001年の映画「ソードフィッシュ」


福山雅治の「Heart」のミュージックビデオなどにおいて 同じようなSFXが使われています


また 最近では 東京ドームのプロ野球中継においても "ボリュメトリックビデオシステム"という 撮影した選手, ボール, 球場のデータを使って 仮想3D空間を生みだす技術があって さまざまな視点から選手やボールの行方を観ることができる 画期的なものとなっており これは"バレットタイム"の発展形とも言えるでしょう

「マトリックス」含め それぞれの表現がすこしずつ違って とてもおもしろい映像になっています

とてもかっこいい映像にも関わらず"バレットタイム"のSFXがそこまで広まらなかった理由の一因として お金が掛かりすぎることや 準備が大変なこと 現場での修正がしにくいことが挙げられます
場合によっては 100台を超える大量のカメラと 緻密な配置が必要となるのです
この大変さがよくわかる「マトリックス」のメイキング映像も貼っておきます


そのため「マトリックス」でも 2作目の「マトリックス リローデッド」以降は "俳優をコンピューターで全身スキャンした上で データを取り込み CGで画面内に再構成する" という手法でほとんどが撮影されたといいます
現在では 1台の内側視点のカメラに棒を付けて 振り回しながら撮影することで バレットタイム的な撮影ができるものもあるようですが そこまで世の中には浸透していません
SFXとして 主にファーストパーソン・シューティング(FPS)や サードパーソン・シューティング(TPS)ゲーム内の映像として スローモーション機能と共に取り入れられています
私たちが気づかないところで "バレットタイム"を使った映像を すでに見かけていたのかもしれません

あとがき

今回は「マトリックス」の前日譚と "バレットタイム"というSFX技術についてのお話でした
傑作である「アニマトリックス」はもちろん 「マトリックス」シリーズも "バレットタイム"に注目して観なおしてみると おもしろさが増すかもしれません
ご覧いただき ありがとうございました


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