見出し画像

「自分の頭で考える」ことの難しさ

ネットには以前から「情弱」とかいう言葉が溢れています。
嘘を見抜けないのが悪い、とか。文脈を読み取れないのが悪い、とか。

でもねぇ、「情弱」っていう言葉を安易に使う人ほど、「頭使って考えてないんだろうなぁ」っていう気がします。

だって、顔の見えない遠くから、匿名で、誰かを貶して喜んでるだけじゃないですか。そんな人が、理知的にモノゴトを考えているとは思えない。

そもそも、本当に自分の頭で考えている人って少ないですよ。そう思いません?
だって、頭を使って考えるのって、疲れるんですもん。

人間は基本的に「無意識に動き出している」

人間の安静時におけるエネルギー消費のうち、約20%を脳みそが消費してるんだそうです。(参照資料:総論 エネルギー消費量とその測定方法

安静時で、これですよ。
脳みそが一番、エネルギーを使うんです。
真剣に頭を使って考え出したら、どれだけのエネルギーを消費するか。
だから、棋士がタイトル戦の途中でおやつを食べているのも当然なんです。
脳のエネルギー補給です。

勉強を始めるとすぐに眠くなってしまう人は、エネルギー切れなのかもしれません。

ちなみに、脳みそのエネルギー源は「ブドウ糖だけ」とよく言われますが、それは間違いだったようです。
「ブドウ糖以外にも乳酸やケトン体をエネルギー源にしている」そうです。

まず、「脳はブドウ糖を唯一のエネルギー源にしている」ということが栄養学的に正しいのかについて解説しなくてはなりません。結論的に言うと「脳はブドウ糖以外にも乳酸やケトン体をエネルギー源にしている」が正解です。むしろ、乳酸やケトン体という物質を積極的に利用しているときの方が脳は冴えているとさえいえるのです。その分かりやすい例が、筋肉にやや負荷をかける運動をしているときに乳酸が産生されます。また、空腹状態が続くと脂肪の代謝が活発になりケトン体が産生されます。乳酸もケトン体も水溶性で血液中から脳内にスムーズに入って脳の神経細胞のエネルギー源として使われることが分かっています。このようなときには同時に肝臓は脂肪やたんぱく質からブドウ糖を合成して、血糖値を安定させるように活動しています。

CO-OP学生総合共済 2017年10月のコラム:脳を安定して働かせられる食事とは(上)

適度に運動したほうが頭が冴えてくるのは、乳酸とケトン体が産生されるからだったんですね。
納得です。

しかし、個人的な体験としては運動しすぎると、複雑な思考ができなくなります

昔、肉体労働のバイトをしていた時は脳みそがスッキリ爽快で、「文章」なんて何も考えられない状態になっていることがありました。
いわゆる「脳筋」ですね。
もう、頭の中が、竹を割ったようにスッキリさっぱりしていました。

思考活動に回すエネルギーが枯渇していたんでしょうか。

で、さらに最近の研究では
人間は、無意識に動き出して、行動結果を後から意識が追認してエピソード記憶として蓄えている」
ということがわかってきたそうです。

どういうことか?
「カズレーザーと学ぶ。」というTV番組でも少し前に取り上げられていましたが、人間が刺激を受けて、その刺激を認識するまでに0.5秒の時差があるんだそうです。

たとえば、野球。ピッチャーが球を投げて、キャッチャーのミットに収まるまでが約0.4秒。だとすると、バッターには「見て」→「考えて(意識して)」→「バットを振る」なんて猶予はないんです。
もう、無意識でバットを振ってるんです。それでヒットやホームラン。
人間って不思議です。

言い換えれば、選手たちは「無意識」にバットを正確に振れるようになるまで練習しているわけですね。

そんな専門的な動作じゃなくても、日常の大半は「無意識」に動作を起こしているんです。↓ 下記研究チームの論文からの抜粋引用をご参照ください。(DeepLで翻訳しています)

例えば、私たちがコンピューターで論文を書くことに夢中になって仕事をしているとしよう。突然、"水を一杯飲みたい "と思い立つ。書きかけの段落をタイプし終わる前に、そして次に来る文章をまだ考えているうちに、私たちは立ち上がり、キッチンに行き、キャビネットの扉を開け、中に手を入れ、グラスをつかみ、それを取り出し、キャビネットの扉を閉め、グラスを蛇口の下にかざす、 冷たい水を出し、グラスが満たされるのを見、水を止め、グラスを唇に近づけ、グラスの先を上に傾け、一口飲み、こぼさないようにグラスを安定させながら、コンピューターに戻り、グラスを置き、座り、仕事に戻る。
グラスに水を汲むという決断は、一連の動作のあらゆる部分と同様に、無意識のうちに開始され、実行された可能性が十分にあると我々は主張する。実際、私たちが歩いたり物体を掴んだりするとき、ほとんどすべての場合、完全に無意識的な脳のプロセスがこれらの行動を実行していると私たちは考えている

引用元:Consciousness as a Memory System(英文)

どうです?

だから普通に生活していると、脳みそを使って「考える」っていう機会は、なかなかないんです。
自分から積極的に疑問を持って「何が本当なのだろう」「どうするのがいいのだろう」と考え悩んでいかないと「自分の頭で考える」なんてことはしないんです。

最近売れ筋のビジネス本って、「はじめに答えあり」のものが多いでしょ。
多くの人は、本を読んで自分で考えるよりも、自分が「こういうものが欲しい」と思っていた「答え」を得て、そこで満足しているんです。

ギリギリまで頭を使うのが、僕たちの仕事

僕は、19でフリーライターになって、ゲーム雑誌や格闘技雑誌などのライター 兼 編集を経て、某巨大外資系IT企業のコピーライターになって、のちに広告代理店に転職。で、今はしがない個人事務所をやっています。

僕の主な仕事をざっくりと言えば
「人にインタビューして、短いキャッチと長い文章にまとめる仕事」
です。

僕が独自に習得・研鑽してきた技術は下記の5つです。 

  1. 質問力

  2. 傾聴力

  3. 多面的・多角的思考

  4. ストーリーテリング

  5. ファシリテーション

コロナ前は「文章力」「聞く力」「話す力」「考える力」の4つの講座を自主開催していました。

で、「考える力」=「本質思考」の講座を行なった際、参加してくださった方が最後のアンケートに
「自分の頭で考えるというのが、いかに難しいかが分かった」
といったことを書かれていたんです。

その時は「どういう方法があるか」を分かりやすくお伝えしたつもりだったので、ちょっと驚いたんですが、今になって分かります。

そう、自分の頭を使って考えるのは、難しいし、疲れるんです。

そして結局のところ、世の中にたった一つの正解なんてものもないんです。

どうすりゃ売れるか、成功するか、分かっている人なんていないんです。
SNSなんかには「絶対に売れるコピーの書き方」みたいに、自作の情報商材を売りつけようとしている人がいっぱいいますが、そんなメソッドはありません。あったら、誰も苦労しませんし、誰でもプロのコピーライターになれます。

大事なことなので、もう一度書きます。
世の中にたった一つの正解なんてものはないんです。

正解はないんですけどね、僕らの仕事でいうと、やっぱり企業活動の重要な部分を担うわけですから、自分なりに「この考えで正しいはず(成果が得られるはず)」っていうところに着地させないといけないわけです。

もちろん、ほかの人たちも納得してくれないといけない。

そのためのロジックと、根拠を示す場合もあります。

Webの製品ページを構成する場合も、製品のポジショニングから考えます。
マーケのブリーフィングをそのまま鵜呑みにするのではなく、ユーザー目線に立ち戻って、腑に落ちるまで考えます。
短い文章量で、きちんと伝わる内容にするために、何度でも言葉を磨き直します。

要するに、悪あがきを続けるわけです。時間の限り、抵抗します。
で、最終的には「これでいいんじゃないか?」と開き直って、堂々と提出するわけです。

他人様の「真意」を汲み取る難しさ

僕の仕事の中で、一番ボリュームが大きいのが「お客様導入事例」という記事の作成です。

たとえば、マイクロソフトの製品やサービスを導入したお客様企業にインタビューして、オウンドメディアに公開します。営業の提案書にも使われます。

マーケティングツールとして、一番説得力があって、効果があります。

インタビュー取材は、写真撮影を含めて約2時間。
取材に応じていただくお客様は、1名様の時もあれば、多い時には8名様ほどになることもあります。
役職も部署も、時に所属会社すら違う方々がズラーッと集まっていただいた場所で、過不足なく、全員からお話を聞きだすのは、とても難しい作業です。

事前に簡易的な質問シートを作成して、お客様にも共有するのですが、これはあくまでも「最低限の内容」でしかありません。

僕たちが知りたいのは
「お客様のお仕事の中で、実際に、どのように活用されているのか」
「業務上のどのような課題を、解決することに役立っているのか」
「お客様は、実際のところ、どこまで機能を活用されているのか」
などなど、
その場でしか伺うことのできない、生の声です。

インタビュー取材では、お客様との窓口として懇意にしている営業の方ですら初めて耳にするようなディティールまで引き出します。

僕からの質問に答えてくださるお客様のお話に耳を澄ましながら、
「お客様が、今、言い逃したことはなんだろうか」
「僕が今、理解できていないことはなんだろうか」
「お客様はなぜ、今のような言い回しをしたのだろうか」
「なぜ、あちらにいる方は、この方のコメント中に “クスッ” としたたのだろう」

なんてな事をみっちりと考えながら、インタビューをしています。

耳にした言葉の意味を考えながら
目を凝らして観察しています。

すごい頭を使うんですよ。
2時間終わるとクラクラします。

で、原稿を書くに際して、さらに調べ物をします。
お客様の立場を考慮して、お客様の職場を想像して、より深く、情報を掘り下げます。

そして、ドラマチックなストーリーを描き出します。
お客様にとっても、クライアントにとっても、その記事を読むほかのお客様にとっても価値のある記事を心掛けます。

お客様の真意を汲み取ることが出来なければ、その記事が、お客様に喜ばれることありません。

業務のディティールが読み取れなければ、同業他社のお客様への営業提案で、深く響くこともありません。

「お客様導入事例」には、お客様の数だけドラマがあります。

簡単な、誰でも使える「売上に貢献する記事を書く方法」なんてものはないんです。

大切なことは、相手への「興味」と「敬意」

そもそも、他人様の頭の中なんて覗けません。
他人様のお話を深く理解するためには、こちらも頭を使って応えなければなりません。

相手への興味と、敬意をもって、きちんと向き合わないと、相手への理解は深まりません。

でもね、大概の人は、相手が話している最中に、自分の話を考えています。

相手の話が終わらないうちに、先入観で結論を導いていたりします。

だから普段の会話でも、理解がすれ違うことがあります。

親身に話を聞いてもらえたな、と思っていたのに、相手の記憶にまったく残っていなかった……なんてこともあります。

いずれにしても、頭を使わない人ほど、あるいは頭を使っていない時ほど、簡単に他人様を口撃できるのかも知れません。

ここから先は

0字
50歳に至って、ようやく見えてきたモノゴトなど、肩の力を抜いて書いております。10記事まとめて、マガジンにまとめております(Vol.2は現在進行形です)。

今まで書く機会がなかった、いい話、すごい話、ダメな話から、仕事と人生のアレコレを書かせていただきます。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?