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頭の中で完成する作品 ー「菅俊一展 正しくは、想像するしかない。」 @松屋銀座7階・デザインギャラリー1953

 白い壁の空間に、モノクロームのシンプルな線だけで構成された作品が3つ。最小限の要素でだけで構成されたような展示室ですが、見る人の想像の中でその先が補完され、頭の中で作品が完成するような展覧会でした。

「菅俊一展 正しくは、想像するしかない。」 @松屋銀座7階・デザインギャラリー1953

 多摩美術大学美術学部統合デザイン学科の専任講師で、研究者・映像作家の菅俊一さんの個展です。以下の3作品で構成されています。
 (1) 透明の発生
 (2) 乗り越える視線
 (2) その後を、想像する

 4月1日(月)に開催された菅俊一さん・岡崎智弘さん・岡本健さん 3名によるトークイベントの内容も踏まえた感想を残します。

■ 想像させるための「スイッチ」

 ”頭の中で作品が完成する”というのは、例えば《そのあとを想像する》では、ディスプレイの中で様々な”うごき”が途中まで再現されては途中で途切れ、その続きが延長線のように脳内で再現されていきます。

(これまで目にしてきた情報を手がかりに、その後どうなるのかを想像させる試み”の作品;《そのあとを想像する》

 菅俊一さんは ”頭の中で「動いているもの」をイメージするのには動画で作る必要はなく、頭の中でイメージが作れれば良いのではないか?頭のなかのほうが《理想的な動き》や《本当に美しいもの》 が作り出せるかもしれない。”  ということを10年ほど考えていたといいます。

 頭のなかのほうが《理想的な動き》を作り出せるというのは、なんだか不思議な感じもしますが、例えば、漫画の中で”最高の演奏”がなされている場面があったら、自分の頭の中で ”最高の演奏” が再現されて、アニメなどで実際に音がついたら”ちょっと違う…”と感じてしまうのではないか?といわれると、なるほど。

 でも、なにもないところから自由に想像していくのは難しく、デザイナーさんたちはその”想像させるための「スイッチ」”を仕掛け、想像を操作しているといいます。この展覧会は、そういった「スイッチ」を3つ紹介する展示ともいえるかもしれません。

■ シンプルなかたちから想像する

 ここでの作品は、どれもモノクロのシンプルな図形の組み合わせだけで構成されていますが、そのなかでもユニークに感じられるのは《乗り越える視線》。

(ディスプレイや紙に描かれた顔の視線同士をつないで、空間に線を描く試み。;《乗り越える視線》

 「四角形」と「直線」だけから構成されていますが、見た瞬間に”顔”を感じ、黒塗りの四角形から”視線”を感じてしまいます。

(図形の集合でも、”見られている感覚”を感じてしまいます。)

 2017年に開催された「指向性の原理」の時にもこのような”顔”が用いられていましたが、今回はさらに”鼻”も簡略化され、ただの直線になっています。

 2017年時点では、情報を減らしすぎると”顔”として認識できなくなるのではないか?と危惧していたそうですが、眼球のサイズなどをコントロールすることで顔に見えるようにしたとのこと。

 どんどん要素が削ぎ落とされて、「最終的には”つくらなくても良い”のかもしれない」といった話は、先述の” 頭の中で想像できれば 動画を作らなくても良い”という話にもつながってくるようです。

(鼻と口をイメージした直線を隠すと、さっきまで”顔”だったものが、”図形”に戻ってしまうように見えます。)

■ アプローチを脳内でシミュレーションする

 ところで、この展覧会を見た時、数字は一切出てこないにも関わらず、”数学的”な印象を受けました。

 特にそれを感じた作品が、”線の質感・表現を変えるだけで「透過」感覚を作りだす試み。”の作品《透明の発生》。上部から落ちてきた同じ四角形が、箱の中に入ると、それぞれ違った「透過」の感覚が表現されていきます。

(線の質感・表現を変えるだけで「透過」感覚を作りだす試み。;《透明の発生》

 このとき、箱の中で何が起こっているのか?といったこと、頭の中で、そのアプローチ方法をシミュレーションしていく感覚に”数学”っぽさを感じました。

 菅さんはこういった作品をつくるため、感覚を”訓練”して磨かれているといい、例えば、「身近な生活の中にある、”人間の行為の痕跡や、工夫の痕跡”を探し、解析し、その結果となった流れをトレースする」とおっしゃっていました。(その内容は、「観察の練習」などの書籍にも詳しいです。)

 ゴールにたどり着くための道筋は、”未知な方法” を探るわけではなく、”これまでに学んできた知識の使い方を変える”ことでつなげていくことが、そこには数学による発想の訓練が生きているといいます。

(会場では、菅さんの書籍なども購入できます。)


 デザインには ”想像させるための「スイッチ」”が仕掛けられていて、見る人の”想像”を操作しているというのは、この展示のように面白い見せ方や気づきになることもあれば、危ないものを危なくなく見せたり 見てはいけないものを意図して見せることもできてしまう。デザインにはそういった危険な要素もあり、デザイナーはそれを操作できる力を持っている、といったことがトークの中でなされていたのも印象的でした。(グラフィックデザイナー・岡本健さんのコメント)

 4月15日(月)までです。

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■ 菅俊一展 正しくは、想像するしかない。 @松屋銀座7階・デザインギャラリー1953

会期:2019年3月20日(水)〜4月15日(月)
開催時間等については、松屋銀座のWebサイトにて、営業日・営業時間をご参照ください。
最終日午後5時閉場
入場無料
企画・監修:菅俊一
担当:鈴木康広

菅氏は、人間の知覚能力に基づく新たな表現の研究・開発を行っているクリエイターです。今回の展覧会では、私たち人間が持つ想像する能力について考察するものです。以下の3つのテーマによって展覧会は構成されます。
1)線の質感・表現を変えるだけで「透過」感覚を作りだす試み。
2)ディスプレイや紙に描かれた顔の視線同士をつないで、空間に線を描く試み。
3)これまで目にしてきた情報を手がかりに、その後どうなるのかを想像させる試み。
それぞれの展示を通し、人間の知覚能力の可能性を実体験していただければと思います。

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