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福岡市に再び必要な総合計画に関する議論の時ー2023年7月19日開催の福岡市次期基本計画策定にむけた民間主導の意見募集キックオフイベントレポート

 福岡市では行政計画のうち、最も上位の計画にあたる基本構想の下にあたる基本計画の終期をむかえ、次期計画の策定に際し、「みんなでつくる福岡市の将来計画プロジェクト」(以下、「将来計画プロジェクト」)と題して広く市民や企業、コミュニティから意見募集を集める取り組みを行っています。

 この福岡市の取り組みに産学官民のパートナー組織である福岡地域戦略推進協議会(以下、「FDC」)が独自で意見募集を行い市の将来計画プロジェクトに取りまとめて提案する取り組みをされています。

今回FDC主催による意見取りまとめのキックオフトークイベントが開催されたレポート内容を登壇者ごとにまとめましたので、ぜひ多くの方がこのプロジェクトに参加する際の参考になれば幸いです。

登壇者は次の方々です。

左から石丸修平FDC事務局長、山田美里公益財団法人福岡アジア都市研究所研究主査、松岡恭子一般社団法人都市空間交流デザイン代表理事、黒瀬武史九州大学大学院人間環境学研究院教授

福岡市の総合計画(基本構想、基本計画、実施計画)について

 まずそもそもの総合計画は地方自治法で策定が決められている行政の施策の総合的な指針となる計画のことを指します。総合計画は上から、基本構想、基本計画、実施計画で構成されています。
 今回更新されるのは、中間にある10年間の長期計画である基本計画です。

福岡市総合計画HPより

 福岡市の基本計画の基本戦略は下記の大きく2つで構成されています。
①生活の質の向上と都市の成長の好循環を創り出す
②福岡市都市圏全体として発展し、広域的な役割を担う

この2つの戦略に8つの目標が定められています。

(公財)福岡アジア都市研究所(URC):『「第3極」の都市2023』,P10

トークセッションもこの2つの内容のあり方を深く考える内容でした。黒瀬教授のお話から順次紹介していきます。

福岡という都市のこれからの10年と、これまでの福岡の10年を振り返るー黒瀬教授

 黒瀬教授のスピーチはこれからの10年を考える時には、これまでの10年を振り返るところから始める必要があるところから始まりました。
 今回改定される第9次基本計画は2012年からで、この10年間での出来事は下記のような変化がありました。

2012年 福岡都市高速道路全線開通・環状線誕生
2013年 福岡市の人口150万人突破
2014年 国家戦略特区に指定
2015年 天神ビックバン始動
2017年 九州大学六本松キャンパス跡地再開発開業
2020年 福岡市の人口160万人突破

福岡市のあゆみ、福岡市HP参照の上記載

 この前後では2011年に九州新幹線が鹿児島まで開通、2023年には地下鉄七隈線が博多駅までの開業しています。まさに福岡という都市が成長する姿が人口増や都市開発などで目に見えるかたちで実現していった、近年福岡市が元気といわれる要素が詰った「成長」の10年間であったと言える。
 一方で、生活の質は不動産価格や日用の物価の高騰による都市生活における負の要素なども生じており、都市の成長と生活の質という個人的な乖離は見えてきている中で、この2つの両立では、やはりネガティブなところもあることは否めない。
黒瀬教授自身は熊本市出身で、2016年に福岡に来るまでは東京に住んでいたそうです。当時から東京でずっと住んでいくのは違うかも、という感覚があったそうです。福岡のコンパクトシティさや子育てのしやすさなどを享受する一方で、長く住むと福岡の良さが相対ができなくなるところは気を付けないといけないとのことした。

 これからの10年を考える総合計画の立ち位置について、これだけ元気といわれる福岡市で、基本計画・総合計画は実は、あまり市民や経済界からも熱量をもって議論されることはここ最近はなかったのが事実ではないか。ただ唯一大きなうねりでもって議論されたときがあり、それが今の福岡市の運命を決定づけた産業構造の転換をしたときだった。その時のうねりを生みだしたのは、民間であり、今回FDCが総合計画を自主的に吸い上げ、提言していく姿勢がとてもすごくいい機会であると述べています。

「総合計画」を民間の声で動かした福岡市ー木下斉『福岡市が地方最強の都市になった理由』より

 上記の最後に黒瀬教授が述べられた、産業構造転換時の総合計画の議論について、本書では福岡市の強みの重要な点として紹介していただいています。

 産業構造の転換時とは、1960年代の高度成長期に工業化することが都市の成長というのが常識だった当時、福岡市が最初の第一次福岡市総合計画で掲げた工業化の政策を、第二次で継承せずサービス産業を中軸とした文化・教育を含む第三次産業への転換を実行できた時のことを指しています。
 そのきっかけが西日本新聞社が誌面で掲載した「西日本都市診断」という連載記事でした。

 西日本都市診断とは、その(そもそも総合計画というのは、市民にとって馴染みが薄いものです。なぜそのような計画にしたのか、という理由などもわからないまま推進される)問題を正そうという試みでした。
 福岡市の立てた総合計画が「市民にとって本当に正しい選択なのか」という議論を市民に代わって新聞社が行う。そしてその議論を積極的に公開し、自治体に問いかけていく。革新的かつ大胆で、情熱的な挑戦です。

木下斉:福岡市が地方最強の都市になった理由、PP131-132

 この新聞記事の提言を福岡市は受け入れ、今の福岡市が形成されたといえます。つまり総合計画のあり方を民間が市民を巻き込んだ議論を行い積極的に問うことが非常に重要であることがわかります。

都市の成長と生活の質についてー第3極都市との比較から考えるー山田研修主査

 福岡市のシンクタンクである福岡アジア都市研究所(以下「URC」)では、2015年から継続して、第3極という都市を設定し、比較研究を継続している。なぜ第3極という軸を設定しているかというと、森記念財団が発表している都市総合力ランキングでは、そもそも日本からの選出都市は東京、大阪、福岡(42位/48位)のみであり、福岡市の評価はリストに載るだけすごいが、下からの方が早い。またこのランキングは母数の都市が増えていることと、首都などのメガシティも含まれ評価が難しい。

 そこでURCでは首都(経済首都含む)や人口500万人以下、高度都市以外で類似性のある9都市での比較を福岡市の基本計画に沿うような形で評価してきた。その結果の推移が下記のグラフのとおりである。

(公財)福岡アジア都市研究所(URC):『「第3極」の都市2023』,P68
※見方:最もスコアの高い2023年のバルセロナのスコアを定点として、各年度におけるバルセロナと他都市のスコア差を偏差値としてプロっとしたもの。各都市名はFuk(福岡市)、Bar(バルセロナ)、Sto(ストックホルム)、Hel(ヘルシンキ)、Van(バンクーバー)、Bus(釜山)、Mun(ミュンヘン)、Mel(メルボルン)、Sea(シアトル)

 福岡市は生活の質については、生活コストに関わる指標が伸びたほか、医療面など多くの指標が伸びている一方で、都市の成長は大きく引き離されています。バルセロナがトップな要因については、観光資源が突出している点が大きく、観光客とそしてレストランの多さなどが理由とのこと。いかに福岡市が存在感を高めていけるかが重要だと思う。

 山田さん自身は大分出身で、10年前はカナダのトロントにいたそうです。お住まいのエリアは移民も3世代に入り、いい意味のミックスになっていたそうです。日本にもどる際には、福岡に住みたかったそうです。空間的なゆとり、人と話せるゆとり、地域的な店舗、ローカリティを残っていて福岡らしさが魅力だった。東京では住めないだろうという感覚があったそうです。この点は前の黒瀬教授と同じ考えなのが興味深いところです。

トロントではウォーターフロントでの不動産投資が加熱し、市民の郊外に移転するような問題が生じた時に市民参加型のプラットフォームの構築ができていた。福岡市がまだ100万人時代の市民アンケートを見返すと、当時の交通渋滞や大気汚染などの都市課題が挙げられていたが、いま160万人になっても都市がうまく機能しているように、福岡という都市は乗り越えられるのかもしれない。

 ただ、160万人という市民、そして企業やコミュニティなどの意見をどのように反映させるかは、難しいが、今は昔以上にツールが進化して、書かれていることがAI分析できるようになっている。きちんと読み込まれているので期待していい。

福岡市という都市の規模でいかに市民、企業、コミュニティが都市の政策にコミットできる環境をつくれるかー松岡恭子さん

 もともと東京と福岡の2拠点で活動されていた松岡さんが、福岡に拠点を絞った理由が福岡出身であることともう一点重要で、東京ではまちづくりはできないと思ったそうです。黒瀬教授、山田さんとまったく同じ考えで福岡を選ばれている点は興味深いところです。
 いかにして市民の声を吸い上げるかは、今の都市規模では難しいかもしれない。でもFDCで主体的に主導しているのが意味がある。一般市民から聞くこや市民が書き込めるサイトがあったりするが、市民像がわからないのが課題だろう。もっと市民から声を聞くうえでの解像度、レベルを高める必要がないる。自分で言うと建築家集団から出てくる、そんな構図があってもいいかもしれない。
この基本計画の8つの目標は企業だったら各部門にどれに合致するんだろうと照らし合わせるはず。国際的な目標であるSDG sよりもずっと身近で、どんなアクションができるかを企業だけでなく市民やコミュニティが、自身のもつチャンネルでこの基本計画にアプローチできたら、今回の基本計画のような大きな話に対しても、自身のチャンネルからどういう方向に福岡を持っていくかを合わせていく作ことがうまれるかもしれない。さっきの都市の成長と生活の質での乖離のように、財界と産業界の目指す都市、市民感覚の目指す都市像がお互いに近づけていけるかもしれない。
 この都市の成長と生活の質の議論では、何を残していくか、失っていくことを考えないといけない。特に今からの成長は、これまでと違う価値観で再定義がいるのではないだろうか。福岡らしい成長も、企業のビジョンもより福岡市の基本計画へコミットしていかないといけない。

九州の中での福岡市の役割をふまえた基本計画が果たす福岡という都市の責務

 福岡市は九州の中で圧倒的な力を持っていて、九州の人口の6分の1が福岡市にいる。九州を背景に考えるべきでハブになるべきで、九州の中での首都であると言う考えとなると福岡という都市が果たすべき責務は大きい。
 One Kyushuの取り組みは、バルセロナが類似の都市の中でトップだったように、成長にこそ個性が必要で、観光があることは、歴史性、個性があるさことを社会実験として行っている。イベントではなく、コンセプトを作り計測していく取り組みとして行っている。これまでの成長によって失われてかけているものをきちんと残す取り組みである。成長の再定義を行なっている。

九州の持続可能な発展における福岡の役割と総合計画が今、民間の主導でつくられる意義についてー石丸修平FDC事務局長

 福岡市の総合計画はあくまで策定主体が福岡市であり、議会の承認も経ているものであるが、基本構想には「福岡市のさまざまな計画や市政運営の基本になるとともに、市民の皆さまをはじめ、まちづくりに携わる産学官民の多くの主体と共有するもの」と記載されているとおり、基本計画にある8つの目標も含め行政だけで行うものではないということです。今の共創の取り組みは個別施策が中心だが、今後は大きな方向性での共創も必要で福岡市はそれをやすべき。

 今回のように総合計画に関する議論の機会が少ないのは、アクセスの問題。かつての西日本新聞が提言した「西日本都市診断」のような民間によるきっかけづくりをどのように作れるかが重要。
 福岡市の総合計画の戦略の2本目にあるとおり、福岡市の総合計画でありながら、福岡市都市圏という260万人の住むエリアとしての発展を広域的な役割を担う姿勢が示されている。
 例えば天神ビックバンや博多コネクテッドのような再開発、中心部の水害対策などは福岡市のレジリエンスであるが、就業者は都市圏で通勤してくる方々のためでもあることから、都市圏のレジリエンスと言える。

 石丸さんが福岡にFDCとしてジョインしたのがちょうど10年前。各所への挨拶回りで、これ以上どう良くなるのと?と言われたが、今の福岡は新しいフェーズに入っているという認識で、市民の満足度と国際競争ビジネスをどう勝ち残っていくかが問われている中で、常に新しい価値観を示さないといけない。いい街だけども持続可能性がどうか、それを解決するのがまちづくり側面、経済的など取り組みが必要。
 なのでGDPだけでない生活の質を見てきた。メガリージョンと違うやり口で都市を持っていくと言うことで、新しい産業の形成と生活の質に関わるところが、企業誘致にもつながってきている。

 なので、ぜひ奇譚のない意見が欲しい。

Plat  Fukuoka cyclingも意見提出を準備しています。
提出した内容については、この記事のこの後ろに後日掲載を考えております。

長いレポートになりましたが、多くの方に福岡市の総合計画の可能性について、気がついてもらい意見を出すきっかけになれば幸いです◎

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