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すぐ理想を踏み外す

糖尿病で辛い思いをした方が提携病院の紹介で入院して来た。高齢者と呼ぶにはまだお若い。認知症もない。

怒りっぽく暴力的だとサマリーに書かれてある。”特に女性に対しては暴言が凄いから要注意”とのこと。

そんな前情報に目を通して病院に迎えに行ったのだけど、全然そんな感じはしなかった。

辛い思いをして来たんだから、いくら血糖値やらHba1cやらが絶望的に高いと言っても、あまりギチギチな制限はせず暮らして貰おう。
幸いにも主治医が『もう好きなもん食べさせて良いよ。』と言ってくれていた。
制限されてくさくさ暮らすより『おいしい』を実感して生きて欲しい。

というわけで、あまり沢山ではないが、ある程度の買い食いやおやつも黙認。
ところが、何とこの人、日増しに本領を発揮して来た。
入浴する曜日は説明してあるのに『そんな話聞いてねーから俺は入らないぞ。』とか、排泄介助の時に介護職員を怒鳴りつけて「下手くそ」と言い、看護師に対してはおまえ呼ばわり。

私は、日にちが立つごとに職員たちから『ちょっと来て下さい。』とその人のところへしょっちゅう呼ばれるようになった。先が思いやられる。

しかし、昨日あることを説明しに行ったときのこと。
何やら両上肢が浮腫んで来ているので週明け主治医のところへ一緒に行きましょう、火曜日しかいない先生だから覚えておいてくださいね。と言ったのだが。

『何で俺が覚えてなきゃならないんだよ!』と大声で怒号する、高齢者ではない普通のおじさんである。入口にわらわら人が集まって来た。ビックリしているのと同時に危ないと思って集まってくれているのだろう。

でも、私は非常に疲れていた。何たってもう1月も半ばを過ぎているというのに年末年始の疲れが抜けないわ、スタッフに困ったやつがいるわで、ちょっとピリピリしていた。ダメですね、一瞬頭が真っ白になっていた模様。

『だって急に行くぞって言われて誰が行くか!?この糞馬鹿野郎!とか言い出すでしょうが!』と、まったく同じ声の大きさで言葉が口をついて出た。しかも相手の物真似まで入れて。

自分で言っていて途中で気が付いている。自分が疲れてるからってこの人にあたってるだけやんか!と。
この人だって自分の身体が思うようにならないし、言葉が下手くそだからイライラしている。つまりは病気の症状の一つなんだと思う。
それなのに、私と来たら。

単なる逆ギレ状態になりつつ上記のようなことを頭で考え、すぐさまお詫びしようと思ったのだが。

一瞬しんと静まり返った後、そのおじさんも入り口付近の人々も大爆笑した。何?何なの?手が伸びて来て軽く叩こうとするのでそれを何度も軽く叩き返し『いやいや、違う、違う。ちょっと聞いて。謝りたいことがある。私もね・・・』というのだが、なかなか爆笑を止めてくれなかった。

『今度からボスと呼ぶよ。火曜日ね。分かった。ボスでいい?ボスとブス、どっちがいい?』

『何、それ。全然おもんないわ。』と言うとまた爆笑。

この先は割と本音で渡り合うことになりそうだ。という成り行き。

でもまあとにかく少しでもここでの生活を楽しんで貰いたい。

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