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大好きだよ

猫語翻訳アプリというものがある。
だいたい人間が作ったものだから、その精度は適当だろうと勝手に思っている。

でも、たまには言葉で通じ合いたい!と思う私のような愚か者には、うってつけの心惹かれるアプリだ。

しかし、当初、私たちはこの子の声を一切聞いたことがなかった。シェルターに何十匹も居る大群の猫たちが一斉に鳴いてアピールしているという悲しい光景の中でも、ブランカは無言だった。それどころか、シェルターから引き取ってキャリーが電車に揺られている最中ですら一声も発しなかった。

いや、強いて言えば、シェルターでの初対面のとき、彼女に釘付けになっている時に、スタッフの女の子が色々喋っている真っ最中のこと。
ぼーっとした頭に「ブランカ。今はブランカ。前は白だったけど。まあ、同じ意味だけど。」と、だいたいそのような言葉が頭に流れ込んで来ていた。あたかも目の前で真っ直ぐに見つめ返して来る子猫が喋っているかのように。
これは以前にも書いた話。(以前と言ってもまだ2週間足らずの過去だけど。)

私はかつてお別れした白ちゃんとよく似た姿の子に会ったもんだから、幻を観たり聞いたりしているのだろうとも思った。

それはさておき、うちへ来て2日目あたりから高くて良く通る声で鳴くようになった。何て言っているんだろう?

10日も過ぎたあたりで思い出したのがこの猫語翻訳アプリだった。まあ、信憑性はさておき遊び感覚でインストールしたのだが。

外から帰って来たときに鳴いている時の翻訳

猫が鳴くと瞬時に翻訳して、このように左下に言葉が出て来るのだが、インチキかも知れないのに、嬉しくて涙が出そうになる。そう思ってくれていたら嬉しいなと。

その他、
「狩りの遊びをしようよ」
「お腹減ったよ。」等、色んな言葉が出て来るので、人間が作ったものにしても、レパートリーが豊富だなと感心していた。

だいたい3~4行くらい喋ったら消えてしまい更新されるようだ。

最初は楽しかったのだけど、一瞬だけ妙な言葉が出て来たのでドキッとした。
「会いたかったよ」
「いつも一緒にいたい」
「10年かかった。」

この3言目が気持ち悪くて咄嗟に削除してしまった。心霊まがいのことを時々体験してしまうので、また変なものを拾ってしまったのでは?と思ってすぐにアプリを閉じて「わーーん!Kちゃん!怖いよー!」と隣の部屋で洗濯物を干している彼女に話しに行ったのだ。

すると、Kちゃんが「何言ってんの。10年かかったよってのもブランカ自身の言葉だよ。白ちゃんが亡くなったのってそれくらいの時期でしょ?」

はっ!とした。ほんとだ。約10年だね。いや、半年か1年くらいはずれてるか?

「ずれてないよ。この子は推定の月齢が5ヶ月だよ。」

と言った本人のKちゃんが「わー。鳥肌がたつ。良い意味で。」と言って目に涙を浮かべた。
まあ、どんな経過を辿るのか、あちらの世界のことは分からない。でも、会いに来るのに10年かかったよ!と言ってくれているとしたら泣ける。

私は色んなことを体験するくせに疑り深い性格なのでこのアプリについて調べたりもしたが、手掛かりなし。でも、喜怒哀楽を表現する言葉が表示されるものの「会いたかった。10年かかったよ。」なんて言う翻訳の例は無いようだ。

今でも、あの春夏秋冬を思い出す。
自分で開いていたカウンセリング事務所でパチパチと書き物をしていた夕方、白ちゃんがふと目を覚まし、キョロキョロと私を目で探す。見つけるや否や、グルグル、グルグルと近寄って来る光景。

いつも一緒だったあの日々を。

真相はさておき、あの激動の日々の中に癒しをくれたこと、夏の光、秋の匂い、寒い朝、全ての瞬間とその存在に感謝し続けている。

そして、目の前の命にも。

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