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さざなみ書評『推し、燃ゆ』

ものすごい小説を読んだ
とある女子高生と
「推し」にまつわる物語

毎日がうまくいかなくても
推しのためなら頑張れる
推しと向き合う時間が何より大切で
彼女にとって真実だ

どうして尖った目つきをするの?
どうしてそんな言葉を選ぶの?

ファンのために推しが
送り出した表現を手がかりに
その目に映る世界を
解釈して理解したい

推しに捧げた代償こそが
愛の大きさなのだから
バイトをして商品を買って
ブログも更新する

コンサートでは着飾って
なりふり構わず叫ぶ

推しのことしかみえない
これといった取柄のない
彼女に対する周囲の目は厳しい
推せば推すほどひらく他者との距離

他者とはすなわち
彼女をとりまく現実である
彼女には現実が見えていたか?

もしも推しがいなくなったら
どうやって生きていけばいいのか

自分に価値を見出せない
「持たざる者」に対して
いったい何を糧にして
一切皆苦の人生を
生きろと言うのか

小説の1行目で燃えた推しは
いよいよ引退してしまう

まだ幼い彼女にとって
推しがすべてだった彼女にとって
それは大きすぎる出来事だった

書影

『推し、燃ゆ』で描かれる「推し」とは
その言葉の意味を知らない人からすれば
「信仰」のようなものだと思う

人によって重みはちがうけれど
誰でも一つは持っている
聖なる対象

推す者に巨大なエネルギーをさずけ
時として悲哀をもたらす存在

そんな「推し」とともに在るとは
どういうことなのか?

その問いに答えるかのように
作家・宇佐見りんは
「推し」に傾倒する少女を描いた

その心はあまりにも切実に
重く読者にのしかかり
私たちはたちまち窒息してしまう

もしあなたに「推し」がいなくても
推しとは信仰のようなものだから
たとえば「音楽」を本気で信じていたり
信じていたのに裏切られたと感じていたり

べつに音楽でなくても
いつか消えてしまう
かもしれないなんらかを
糧とした経験があるのなら

この小説で描かれる
少女のドラマに
共感し感銘を受けるか
さもなくば
うなされてしまうだろう

作者の宇佐見りん氏は
まだ大学生だという

新しい言葉を的確にとらえ
その言葉とともにありうる
架空の誰かの人生を

「これは私のことかもしれない」

と思わせるリアリティをもって
あぶり出すように
書き連ねてゆく

しょせん学生の小説だろう?

そうやってナメてかかって
私はヤケドしました

そして宇佐見りん文学は
私の推しになりました

みなさんもぜひ
私の二の舞になってください

推しが多ければ多いほど
人生は楽しくなりますから

(文責:モラトリくん)

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