UFOを見たような

僕はUFOを見たことがあるような気がする。

雪の日のことだ。
あの日はかなり降ったので、比較的温暖な僕の街でも雪は積もった。
僕は冬の冷たい空気が好きなので(その悲しい匂いが)、雪の積もった街を一人でふらふらしていた。そこにUFO(のようなもの)が飛んできたのだ。

飛んできたUFO(のようなもの)は、まさにあの形をしていた。UFOを思い浮かべてみてほしい。僕が見たのは、それだ。お皿の上に、ひっくり返したお椀がのってるようなヤツ。

UFO(のようなもの)は空中をふらふら飛んで(あの日の僕のようだ)、下方向にばーーっと光を出した。そこには一匹の猫がいた。猫は光に包まれてようやくUFO(のようなもの)に気が付いたらしい。顔がびっくりしていた。

猫はすーーっと浮かび上がり、UFO(のようなもの)に吸い込まれていった。一回にゃーと鳴いた。僕も猫と同じ立場だったらにゃーと鳴いただろう。

UFO(のようなもの)は猫を連れて飛び去った。猫がいた辺り、積もった雪には「good night」という文字が残っていた。

僕にはこれが現実に起きたことかよくわからなかった。あまりに現実味が薄かった。だから誰かにこの話をするようなことはしばらくなかった。
何年かが経って、春。僕は春の空気が苦手なので(その幸福な匂いが)、ついこの話をしてしまった。心を現実から逸らしたかったのだろう。

彼女はアイスコーヒーのストローを遊ばせながら言った。
「あなたの話が本当なのかどうか、私には判断できない」
それはそうだろう。
「私にはあなたの話が本当なのかどうか、確認する術がない。だからあなたの話が本当だと、信じることはできない。だけどあなたが自分で自分の話を信じている、と言ってくれたら」
彼女はアイスコーヒーのストローを遊ばせながら。
「信じているあなたを信じることならできる」
僕は自分の話を信じられるか、自問してみた。あの冬の空気、光、猫の鳴く声。僕はそのときに初めて、自分が自分の話を信じていると気が付いた。
「僕は信じているよ」
アイスコーヒーを一口。
「それなら」
彼女もアイスコーヒーを一口。
「私はあなたを信じる」

僕はしみじみと(なるほどなぁ)と思った。何を(なるほどなぁ)と思ったのか定かではない。しかし僕はそのときに(なるほどなぁ)と思った。

彼女と会ったのは、あれが最初で最後だ。
彼女は店を出ていくときに「good night」と言った。

UFOを見たような(春)

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