僕たちはいつだって音楽をやりたい(みんなでつくる音楽祭in小平2021)

 ある時代のある場所に、戦争があった。戦争は長く続いていたが、だんだんと終わりが見えてきていた。夜も遅く、二人の兵隊が見張りに立っていた。
「なあマルタン、お前はこの戦争が終わったらどうするつもりだ」
「何も考えられないな。何かつまらないことをやるだろう」
「マルタン、俺たちは面白いことをやらなけりゃいけないぜ」
 そう言って兵隊の一人は口笛を吹いた。マルタンは口笛を聞いていた。
「それはなんて歌だ、ミシェル」
「名前なんてない」
 ミシェルは少し辺りを気にして、声を潜めた。
 「マルタン、これはここだけの話だがな。俺たちは戦争が終わったら音楽祭をやろうと思っているんだ」
「音楽祭?」
「そうだ。パスカルもロベールもやるって言ってる。こんなに長いこと銃なんか持って、面白くなかっただろう。これからは気に入ったヤツと音楽をやるんだ。マルタン、俺はお前を気に入っている。どうだ、一緒にやろうぜ」
「いいな、音楽祭か」
「そうだ。音楽祭だ」
 そのとき、銃声が響いた。一発、二発、続けて何発も。二人が気付かない間に、すぐそこまで敵が迫っていた。
「全く、良くないぜ。こういうのは。俺は人間なんか撃ちたくないのによ」
 轟音。人間を撃ちたくなかったミシェルは、弾丸に撃たれた。ミシェルは崩れ落ちた。マルタンは一瞬、ミシェルが口笛を吹いたような気がした。
「ミシェル、面白いことをしよう。こんなのは面白くない。これからは面白いことをしよう。俺たちは音楽祭をやるんだろう。なあ、ミシェル」
 マルタンは夜の空に向かって一発、銃を撃った。その弾丸は誰も殺さなかった。銃声だけが響いた。
「これはみんなでつくった音楽祭だ。なあみんな、音楽をやろうぜ」
 そしてマルタンは。

 その夜彼らと敵対していた兵隊の中に、「音楽を聞いた」というものが幾人かあった。
 それからしばらくして、戦争は終わった。

おわり
(2021/11/27)

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