見出し画像

TRPGにおける”合意”を2種類に分けて考えてみる

この記事は、TRPGシステム、およびその運用について考えをまとめるために書くものである。

セッション進行のための新しい枠組みとして「ディシジョン」およびその下位カテゴリの「プロットディシジョン」,「ディティールディシジョン」を考える。なお,あくまでこれは私の独自の定義であり,「自分がTRPGを楽しむために,考えて,まとめておきたいこと」の域を出ないものである。

「ディシジョン」

TRPGのセッションでは、ゲームマスター、プレイヤーは発言(音声、あるいは文字情報として)を通じてセッションを進めていく。

TRPGに限ったことではないが、ある発言は,その発言そのものが何かしらの行為となっている。例えば「部屋を片付けなさい」という発話は『命令』行為であるし,「昨日はカレーを食べたよ」という発話は『説明』である。(cf.言語行為)

TRPGに即して考えると,あるプレイヤーの「村を訪ねにいく」という発話は「キャラクターの行動を宣言する」という行為になる。

ゲームマスターの「ゴブリンがあなたたちの目の前に立ちはだかりました。この先に進みたければ、このゴブリンを倒してください」という発話は「状況の説明,およびプレイヤーに対して(条件付きの)指示・命令をする」という行為になる。

他にも、「この部屋をもう少し調べませんか?」という発話は「提案」という行為であるし、「壁の向こうの敵の様子を知りたいんだけど,どうすればいいと思う?」という発話は「相談」という行為だろう。

TRPGのセッションはこのような複数の発話が続いていくことによって物語を進めていくゲームであるといえるだろう。

1つ、あるいは複数の発話行為が行われた際、セッションのメンバー全員の合意がとられ、セッションが進行していく。

例えば、このような状況である。

PL1「ここの本棚、怪しいから調べておかない?」(相談)
PL2「そうだね。GM、どうやったら調べることができる?」(質問)
GM「【知識】の能力で判定して、成功すれば情報が得られますよ」
GM「達成値が7以上だったら成功です」(回答・説明)
PL2「ちょっと僕には難しいかもしれない」(説明)
PL1「私は【知識】が高いから成功しやすい。私にやらせて」(提案)
PL2「いいよ。よろしく頼む」(依頼)
PL1「GM、私が【知識】で判定するわ」(行動宣言)
GM「わかりました。では判定をどうぞ」(宣言の受理)

この例では相談や質問、提案などがされたあと『PL1が【知識】で判定を行う』という合意が(明示的に表現されているわけではないが、)GM、PL1、PL2の全員で取れている。

この合意が取れるまでの流れを一つのユニットとして扱うと、TRPGのセッションはこの合意形成プロセスの集合だと言えるだろう。一方,もし合意が取れていない場合,それはセッションに反映されることはないだろう。

例えば以下の場合,宣言1と宣言2の2つ宣言が矛盾しており,合意が取れておらず,セッションは滞ってしまう。

PL1「ここの本棚、怪しいから調べておかない?」(相談)
PL2「いや,先を急ぐべきだね」(否定)
GM「二人は一緒に行動する必要がありますが…。」(説明)
GM「本棚を調べますか?それとも先に進みますか?」(質問)
PL1「調べます」(宣言1)
PL2「いや,調べずに先に進みます」(宣言2)
GM「どちらかに決まらないとセッションが進行できません」(説明)

この場合,より入念に議論を重ねたり,そのTRPGシステムのルールを参照したり,ゲームマスターの裁定によって,合意をとることができるかもしれない。そうやって初めてセッションが進行する。

このように会話の中の合意形成プロセスによって導かれた決定1つを「ディシジョン」と定義することにする。

ディシジョン:
セッションにおいて参加者全員の合意が取れた決定事項。セッションに影響を与える最小ユニットとなる。

2つの「ディシジョン」

「ディシジョン」には大きく2つのものに分けられると考えてよいだろう。この2つの区分を意識することでセッションを進行させやすくなると私は考えている。

セッションの進行に最低限必要な「ディシジョン」を「プロットディシジョン」と呼ぶことにする。

例えば、行動宣言、参照するデータ・判定の決定など、それについて決定しないとセッションの進行が止まってしまうようなことをさす。

一方で,セッションの進行に必ずしも必要のない「ディシジョン」を「ディティールディシジョン」と呼ぶこととする。

例えば,キャラクターのセリフ,状況や行為の演出などがそれに当たる。極端に言えば,この「ディティールディシジョン」を無視してセッションが進行しても,シナリオが完結するようなものを指す。

それぞれについて考えていく。

「プロットディシジョン」

「プロットディシジョン」は参加者で同意される決定事項のうち,セッションを進行させるために必要なものである。基本的にその決定を保留したままセッションを進行させることはできず,その時点で決めなければいけないことである(ただし「保留」という選択肢がある場合がある)。

「プロットディシジョン」はセッションの中でも課題解決的,問題解決的,ゲーム攻略的側面を強く持つ。例えば,戦闘行動などがその最たる例である。

前者は合意が取れている場合(すなわち「プロットディシジョン」である),後者は合意が取れていない場合である。

PL1「PC1は魔法で敵Aを攻撃します」(宣言)
GM「敵Aは離れた位置にいるので,攻撃は届きません」(説明)
PL1「仕方がない。では敵Bに攻撃します」(宣言)
GM「では,敵Bへの攻撃の処理をします」(説明)
→プロットディシジョン:PC1は敵Bに魔法で攻撃する。
PL1「PC1は魔法で敵Aを攻撃します」(宣言)
GM「敵Aは離れた位置にいるので,攻撃は届きません」(説明)
PL1「いや,PC1の魔法は特別な魔法だから届くんだ!」(説明)
GM「その魔法にはそのようなルールはありません」(否定)
GM「他の行動を宣言してください」(宣言の不許可)

前者は至極当たり前のやり取りのように見えて,一方,後者は「迷惑な参加者」のように見えるが,実際のところこの「ディシジョン」が取れているかどうかの違いであると言える。

「探索」のような行動においても,この「プロットディシジョン」は存在する。

PL1「天井にあるスイッチが怪しい。押してみよう」
GM「天井のスイッチにふれるためには,判定が必要です」
GM「【身体】技能で成功しなければいけません」(説明)
PL2「いや,俺がちょうど長い棒を持っている」(説明)
PL2「これでスイッチを押すことができないか」(質問)
GM「ちょっと待ってください。確認します」
GM「…はい。その長い棒でスイッチにふれることができます」
GM「判定は必要ありません」(説明)
PL2「じゃあ,長い棒でスイッチを押します」(行動の宣言)
→プロットディシジョン:長い棒で天井のスイッチを押す

この「プロットディシジョン」の特徴は,(「保留する」という「ディシジョン」がある場合を除き)その決定をせずにセッションを進めることができないという点である。

戦闘行為であれば,その手番のプレイヤーの行動が決定しない限り次のプレイヤーの行動に移ることはできない。

探索行為であれば,「誰が何をいつどのように探索するか」が決まらなければ,キャラクターの行動が決まらず,セッションを進めることができない。

それらの決定は,セッションにおいてシナリオなどで規定されている課題解決(例えば,ボスを倒すことができるか,真相を明らかにすることができるか)に直接関わってくるため,いい加減に決めることはできず,ルールに則り,公平に決めることが必要である。

課題解決を主たるゲーム体験とするセッションでは重要なディシジョンであるだろう。

プロットディシジョン:
参加者の同意によって決められるディシジョンのうち,セッションの進行に最低限必要であるもの。セッションにおいて課題解決的側面に影響する。戦闘や行動宣言などが該当する。

「ディティールディシジョン」

「ディティールディシジョン」は「プロットディシジョン」とは異なり,参加者で同意される決定事項のうち,セッションにおいて必ず要求されるものではなく,究極的に言えば,その「ディシジョン」が保留・無視されたままでもセッションが進行できるものである。

「ディティールディシジョン」はセッションの中で,物語的,演出的,創作的な側面を強く持つ。例えば,キャラクターのセリフなどがその例である。

GM「酒場にはフードをかぶった怪しげな男がいます」
GM「話しかけることで何か情報が得られるかもしれません」(説明)
PL1「この人に今回の敵について聞いてみようか」(提案)
PL2「そうだね。いいと思う」(同意)
→プロットディシジョン:男に話を聞く

GM「どのように話しかけますか?」(質問)
PL1「PC1は人質を取られているから,焦って話しかけるかも」(説明)
PL2「確かに。じゃあ,PC2はそれをなだめるようにしようかな」(提案)
PL1「いいね。じゃあ,PC1は
   『おい!お前,ヤツのこと知ってるんだろ!!早く話せ!』
   って男に詰め寄ります」(説明・提案)
PL2「PC2はそれをなだめる感じで。
   『まぁまぁ,落ち着けって。焦っても疲れるだけさ』
   ってキザっぽく言いましょうかね。」(説明・提案)
GM「いいですね。では男はPL1と目を合わせずに
   今回の敵の居場所について次のように話してくれます…」(説明)
→ディティールディシジョン:
 PL1が男に迫るように話しかけ,PL2がそれをなだめ,話を聞く

「ディティールディシジョン」は,セッションの物語的,演出的側面がある一方,課題解決やゲーム攻略的な意味を持たない。

先程の例では,PC1やPC2が男に対して,どのような話の聞き方をしても敵の情報について聞くことができるようになっていた。そのため,「PC1やPC2がどんなことを話すか」は「ディティールディシジョン」と言える。

もし具体的にどう会話をしたか決めなくても(会話の場面の描写が無くても),「男に話を聞く」という「プロットディシジョン」があるので,セッションを進めることができる。

GM「酒場にはフードをかぶった怪しげな男がいます」
GM「話しかけることで何か情報が得られるかもしれません」(説明)
PL1「この人に今回の敵について聞いてみようか」(提案)
PL2「そうだね。いいと思う」(同意)
GM「では男はPL1と目を合わせずに
   今回の敵の居場所について次のように話してくれます…」(説明)

この「ディティールディシジョン」は,攻略という観点からではなく物語性という観点から,TRPGのゲーム体験をよりリッチなものにするものであろう。無くても問題はないが,あった方がセッションを楽しめるポイントが増える可能性が高くなる。

また,この「ディティールディシジョン」は「プロットディシジョン」に比べ制限がゆるい。先程の例で言えば,男に対し「焦って」話しかけても,「丁寧に」話しかけても,「脅しながら」話しかけてもその結果は変わらないことになる。そのため原理的にはどのような表現を行ってもよく,「どれくらいことが許容されるか」は比較的広く,”自由”な表現が可能となる。

物語性,創造性を主たるゲーム体験とするセッションでは重要なディシジョンであるだろう。

ディティールディシジョン:
参加者の同意によって決められるディシジョンのうち,セッションの進行に必ずしも必要ではないもの。セッションにおいて物語的側面に影響する。キャラクターの台詞や行動の演出などが該当する。

なお,この「ディティールディシジョン」も,厳密には参加者の同意というものが必要であると考えてもよいだろう。例えば,このような場合は同意が取れていないことになる。

PL1「PC1はイケメンなので,世のすべての女はメロメロさ」(説明)
PL2「でも私のPC2は女性だけど,
   PC1のことは特に何とも思ってないわ」(説明)
PL1「いや,それはPC1の設定と矛盾する」(否定)
PL1「PC2も女性というなら,PC1にメロメロのはずだ」(提案)
PC2「いやよ」(提案の拒否)

PC2がPC1に恋愛感情を抱いていようがいまいが,ルール処理的な意味でセッションの進行に変化をもたらさないのであれば,それは「ディティールディシジョン」である。しかしこの場合は参加者の間で同意が取れていないため,この設定をセッションに反映させることはできないだろう。

「プロット」と「ディティール」を意識する

「プロットディシジョン」と「ディティールディシジョン」を意識することでセッションの進行がやりやすくなり,スムーズな進行になるだろう。具体的には次のような利点があると考えている。

①会話の方針を決めやすい
決めなければいけない必須事項とそうでないものを整理することで,会話の方針を決めやすくなる。決めなければいけないものが「プロットディシジョン」,必ずしも決めなくてもよいものが「ディティールディシジョン」である。参加者で話し合わなければいけないことに優先度が付与され,その優先度を共有することで参加者は何を話し合うべきかを共有できる。

②時間の管理がしやすい
優先度が付与されることにより,タイムキープがやりやすくなるだろう。「プロットディシジョン」を決めた上で,もし時間に余裕があれば「ディティールディシジョン」の相談の時間を多く取ってもよいし,時間がなければ「ディティールディシジョン」はスキップしてもよいかもしれない。

③物語表現の自由さの保証
「プロットディシジョン」は選択できる範囲が狭いことが多いが,「ディティールディシジョン」は比較的自由に決めることができる。TRPGは他のゲームと比べても創作的側面が占める余地は大きいが,攻略的側面への影響を考えなければいけないこともある。PLがただの演出(ゲーム攻略的には意味のないもの)として考えていたものが,GMがその演出にルールを適用して,攻略に影響を与えてしまうなどのすれ違いがあるかもしれない。結果,PL側は攻略に影響を与えないように,自由な演出に対して及び腰になってしまうこともあるだろう。どこまでが「プロットディシジョン」で,どこからが「ディティールディシジョン」を共有できれば,その範囲内で自由な創作的表現が保証されることになるだろう。

「プロット」と「ディティール」の境界

では,「プロットディシジョン」と「ディティールディシジョン」の境界はどこだろうか?

答えとしては,「TRPGシステム,シナリオ,セッションメンバーなどによって異なる」としか言いようがない。

先程の怪しい男に話を聞く例に即すと,「どのように聞くか」が「ディティールディシジョン」として処理されるのではなく,「プロットディシジョン」として処理されることもあるだろう。

GM「どのように話しかけますか?」(質問)
PL1「PC1は人質を取られているから,焦って話しかけるかも」(説明)
PL1「なので,PC1は
   『おい!お前,ヤツのこと知ってるんだろ!!早く話せ!』
   って男に詰め寄ります」(説明・提案)
GM「では男は怯えてしまって口を閉ざしてしまいました」(説明)
GM「話を聞くことは難しそうです」(説明)
GM「どのように話しかけますか?」(質問)
PL1「PC1は礼儀正しい性格なので,穏やかに話しかけるかな」(説明)
PL1「なので,PC1は
   『すみません。今,この街を荒らしている人たちについて
    何か知っていることを教えてくれませんか?』
   と男にたずねます」(説明・提案)
GM「では男はゆっくりと語ってくれます」(説明)

機能的な境界として,ゲーム攻略に影響を与える「プロットディシジョン」と影響を与えない「ディティールディシジョン」に分かれているだけである。

どういったことがゲーム攻略に影響を与え,どういったことが影響を与えないかについてすべての状況で共通するものはない。まして,これは「プロットディシジョン」とすべきで,これは「ディティールディシジョン」とすべきだ,という議論はあまり意味がない。

ただし,どれが「プロットディシジョン」で,どれが「ディティールディシジョン」なのかを意識しておくことが大事であるとは言えるだろう。それが暗黙の了解で参加者に共有される場合もあれば,明示的に発言・説明した方がいい場合もある。

まとめ

TRPGのセッション進行は参加者の合意が取れた決定の連続で成り立っていく。その合意の影響範囲として,「プロットディシジョン」と「ディティールディシジョン」に分けて考えると,合意が取りやすくなるだろう。

このような合意形成プロセスである「ディシジョン」の種類を意識することによって,よりスムーズなセッションができるようになるかもしれないと考え,私はここにその考えをまとめた次第である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?