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春の始まり。

「春は水の音で始まるんやね」

長く土地に住む人は、旅の者が言う土地の感想を聞いて自分でも感心するようにそう言った。

「川の近くに住んでいると毎日が雨なのかと思って目を覚ますのよね」

そんな話から始まった。
大雨が降ると川の中の石がゴロゴロと音を立てているのも分かるという。

旅の者は言った。
「分かります。でも、冬は音がしないんですよね」

雪深い地域はどれほどの音を吸い込んでしまうのか。

そんな雪解け水の起点にもなりそうな所にある川は澄んでいて冷ややかだ。
夏場にはその清流の周りに強力な虫が発生する。

「きれいな水でしか住めないのよね」

困ったという話なのに、妖精のことを話すように言う。
そして、そこにはそういうもんだと受け入れている気持ちと誇りが入り混じる。

愛や価値は画一的ではなく、その人の中に住まう。

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