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「ルールを問い直す」〜弁護士視点を持ったキャピタリストとして/PMI Legal Community 野本遼平

初めまして、PMI Legal Communityに参画しています、野本遼平と申します。

法律家から始まった歩み

 僕は司法試験合格後、企業法務や訴訟も含め、様々な案件を抱える法律事務所に入所しました。その後、周りに起業する友人が増えた影響により、弁護士を志したきっかけである「人の役に立ちたい」との想いは、「ベンチャー業界を後押しすることで社会全体に寄与したい」というものに進化していきました。

 そこで多くのベンチャー企業を顧問先としている事務所へ移籍したのですが、そこでの業務を通じて、事業成長そのものを支援しつつ起業家に伴走したいと思うようになり、そのためには事業や経営に対する実務的な知見が必要だと感じるようになりました。MBAを取得することも考えましたが、ロースクールで長時間費やした座学を振り返ると、今は実務で経験を積むほうがいいなと。そこで、前職である、KDDIグループのSupershipホールディングスの経営戦略室で仕事を始めました。そこではメディア等のtoC向けのサービスや、デジタルマーケティング等のtoB向け事業に携わりました。

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 部門長まで一通り経験してみて、次第に、弁護士のときの「外部からの中立的な視点で、より多くの人をサポートする」というスタンスでの仕事への想いが復活してきました。そこで、スタートアップエコシステム全体に関わる職業として、次なるステップに選んだ現在の職業が、VC(ベンチャーキャピタリスト)でした。

キャピタリストへの転身

 今、僕はグロービス・キャピタル・パートナーズのキャピタリストとして、投資先の発掘からDD(デューデリジェンス)、会社に対する経営支援、そしてイグジットまでを業務として行っています。現時点では、特に最初の3つが業務のメインです。
 スタートアップアクセラレータやアドバイザーも魅力的な仕事ではありますが、キャピタリストの道を選んだのは、資金とワンセットで経営支援できる点により魅力を感じたからです。今、弁護士としての活動はしていません。もちろん、投資先か否かにかかわらず、コーポレートや事業適法性に関わる相談は受けますが、あくまでもキャピタリストとして、つまりフィーをとらずに支援させてもらっています。今は名刺にも弁護士という肩書は載せていないので、自分が弁護士だと感じる瞬間は、職場でのあだ名で「先生」と呼ばれる時くらいかも(笑)。弁護士資格を持つということは、現時点ではキャピタリストとしての一つの個性になっているとは思いますが、そのうち珍しいものではなくなっていくとも感じています。

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弁護士とキャピタリスト、ふたつの視点でみる「イノベーション」

 PMIは「イノベーションを、社会と接続する。」を掲げる組織ですが、実は日頃、僕は仕事で「イノベーション」という言葉を使う機会はあまりないんです。僕にとって「イノベーション」とは、理想と現状とのギャップをどのように埋めていくかという「課題解決方法のアップデート」です。

 特に、依頼人の抱える理想としてルールメイキング的な解決を求められる不動産、FinTech、モビリティ、医療(遠隔診療についてなど)等において考えられる弁護士としての「イノベーション」とは、複数のステークホルダーの利害を調整する「法」という課題解決方法を、解釈や運用、あるいは法改正も含めてアップデートすることだと考えています。いわゆる、W.F.オグバーンの文化的遅滞の話ですが、社会や技術の変化に対して、法はアップデートが遅れてしまうのが通常ですが、そこのギャップを埋めるのが法律家の仕事です。
 一方、キャピタリストは事業そのものと向き合います。そこでの「イノベーション」とは、事業を通じて課題解決方法をアップデートすることで、既存の課題解決手段では満たされていないニーズを満たしていくことだと考えています。利害関係の調整や社会課題の解決などの「根源的な目的」を達成することに焦点を当て、そのための解をアップデートしていくという過程は共通しているかもしれません。

「ルールを問い直す」法律家としての視点

 PMIは「ルールメイキング」をテーマとしたイベントを行っています。たとえば、ウェブサービスの、利用規約以外のルール設計もルールメイキングです。法律家に求められている「ルールメイキング」とは、現在はリーガル領域として認識されない領域においても「どのように人を誘導するか」という意識を持って、経営視点と組み合わせながら「あるべきルールとそれに対応したUI/UX」全体をデザインできる力だと思います。

 法律家出身ではなくても、ロジカルに、説得的な説明ができる優秀な仲間はたくさんいます。しかしながら、「規範と事実と評価を区別し、どのように論理的に結論づけるか」という思考力、「立法趣旨に立ち返る」という基本動作は、やはり法律家ならでは。「過去のケースの射程が本件に及ぶのか」という観点や、「そもそも障壁となっている規制自体に問題はないか」といった着眼点は、弁護士としての経験ゆえに獲得できたものだと実感しています。

 ただ、現在はリーガル領域として認識されないエリアにチャレンジする法律家がもっと増えてもいいと思っています。僕も法律家出身のVCとして、社会の変化を先読みしながら、「ルールメイキング」思考を反映させた仕事をしていきたいと考えています。

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 PMIに関わっていなかったら、強い課題意識をもった、こんなにもフットワークの軽い弁護士や官僚の方々に出会う機会はなかったのではないかと思います。今後は、PMIの繋がりを活かした横断的な動きを通じて、ベンチャーエコシステムに対して、規制やロビイングの動きに対するサポートの動きが実現できたら面白いなと考えています。

 こうした動きに関わる弁護士も増えて欲しいですね。もちろん、そこでの活動をナレッジ化することも必要ですが、ノウハウを蓄積してもアップデートが必要で、過去の情報は陳腐化していきます。だからこそ、切れ者が自然と繋がり続けるために、まずは人材のハブとして、その役割をPMIが担い続けられたらと思います。そのために、僕も頑張ります!

記: 八村美璃
 現在法科大学院に通うPMIインターン生

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 野本遼平
弁護士として、スタートアップのビジネススキーム策定・提携交渉・資金調達等の支援に携わった後、2015年にKDDIグループのSupershipホールディングスに入社。同社の経営戦略室長・子会社役員として、BizDev、戦略提携、M&A、政策企画について、戦略立案から実行・PMIまでを統括。2019年4月、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。
慶応義塾大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。
著書に「アプリビジネス成功のための法務戦略」(技術評論社)。

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