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傘と、男心

その日も雨だった。


私は軽音サークルに所属していた。

ヴィジュアル系が好きだったからだ。


その頃には痩せて、可愛いお洋服を着れるようになっていた。

大学デビューというやつで、

努力の成果である。


大学は、服装が自由だ。


私は毎日「レース・リボン・花柄・フリル」のお洋服を身に付けることを自分に課して、大学生活を過ごしていた。

ときにはウィッグを被り、ときには王冠のヘッドドレスを着けて、授業を受けていた。


「いつも可愛い格好してるね♡」


クラスの9割は女だった。クラスメイトは、いつも洋服を褒めてくれた。

「そのお洋服、どこで買ったの??」

と訊いてくるコもいたし、

「Pちゃんの着こなしが可愛かったから、真似しちゃった」

というコもいた。


見た目はそんなだったし、“気持ちはいつもお姫様“だったから、

いつしか「姫」と呼ばれるようになった。


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軽音サークルで、私の担当はヴォーカルだった。

楽器が弾けなかったからだ。


他の部員の手前、一度だけギターにチャレンジしてみたことがある。

一度でやる気が無くなった。

地味な作業は面倒だ。

やるなら派手なパフォーマンスがいい。


だって私は、「姫」だから。


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夕方になり、バイトに向かう部員がチラホラ出てきた。

私も帰ろうと思った。


練習をしないので部室にくる意味はほとんどなかったが、

憧れている先輩がいたのだ。

先輩の顔を見に、部室に来ているだけだった。


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ある後輩の男子と、帰りが一緒になった。


「まだ雨、振ってるね」

「そうっすね」

「傘、途中まで入ってく?」と提案した。


その傘は晴雨兼用だったので、いつも持ち歩いていた。


真っ白くて縁にフリルがたくさん付いている、大好きなブランドの傘。

彼は傘を持っていなかったから、濡れてしまってはかわいそうだと思ったのだ。


「・・・いや、いいっす、じゃ!」


彼は雨の中を、濡れながら走って帰った。


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「私と相合傘になるのがイヤだったのかな。。」と、当時は思った。


今は彼の気持ちがわかる。


“姫”なんて呼ばれる格好の女と並んで歩くのはまだ我慢出来ても、

フリフリの傘に入るのは、

男として断固避けたい事態だったのだと。


あの時は気付かなくてごめんね、後輩くん笑



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