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岡村さん炎上騒動とは何だったのか

あの深夜ラジオから起こった岡村さん炎上騒動から1年。
私は20年以上前から聴いていた「ナインティナイン〜岡村隆史のオールナイトニッポン」の1リスナーとして、炎上の当時は心がえぐられるような思いをしていた。

岡村さん批判の記事、コメント、署名、運動…冷静な批判意見もあれば、誹謗中傷に近い攻撃的な意見もあった。出来るだけ目を背けずにそれらを読んだ。また時にはそういった岡村さんを批判する方々とtwitter上ではあるけれど対話や議論を重ねながら、ここ1年はいろいろと考えさせられた。
この1年で色々な意見に触れた上で、改めて思ったことをまとめたい。

初めに大事な前置きとして、これは岡村さんの名誉の為ではなく、自分がただ言いたいだけだ。誰かの為ではなく自分の為に書く、ということは言っておきたい。

岡村さんファンの中には「忘れかけているのにもう蒸し返さないで欲しい」「岡村さんはそんなこと望んでいない」と言う人はいると思うし、その気持ちもまた理解出来る。
でも、申し訳ないけど私はそれでも振り返る。私なりの考えをまとめたい。出来れば誰かに知ってほしい。特にあの炎上騒動を表面だけ知っている方に。あの時何が起こったのか…

そもそもの発言と炎上の経緯、当時の論調、インフルエンサー達の発言や記事や運動、じゃあ何がダメだったのかなどを自分なりの視点でまとめる。リスナーだから、ファンだからではなく、出来るだけ客観的に書こうと思う。自分の考えに近い他人の記事や意見もあまり引用はせず、自分の言葉で書く。学者でも専門家でもない一素人の意見として、この件に少しでも興味がある方に見てもらえたら嬉しい。

ちょっと長くなりそうなので、気になるトピックだけでも読んでくれたら嬉しいです。

※去年5月に私が上げたnoteをご覧になった方は、少し重複している箇所もありますことをご了承ください。

発端となったラジオ番組内での発言を振り返る

改めて、炎上の発端になった発言をまとめてみる。
2020年4月23日放送の深夜ラジオ番組「ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン」内の『WET STREAM』(『最近あった性にまつわる嫌な出来事』のハガキを送ってもらうコーナー)にリスナーからハガキが届いた。
昨今のコロナ事情で性風俗に行きたくても行けないリスナーからの悩みに答える形で、岡村さんはこう回答した。

※以下、私が書き起こしたものです

続きまして東京都「ブーメランチャンネル」から頂きました。
「コロナの影響で今後しばらくは風俗に行けないし女の子とエッチなことも出来ないと思うので、思い切ってダッチワイフを買ってしまおうかと今真剣に悩んでいます」

いやもうあかんて、これはもうあれやねんから。いつか雨は上がんねんから。いま辛抱、辛抱よこれは。言うてはるやんか皆がほんまに、止まない雨は無いって言うてはるねんから。神様はあれなんですよ。人間が乗り越えられない試練は作らないって言うてはりますから。ここは絶対乗り切れるはずなんですよ。だから今面白くなかったとしても、これ、コロナが収束したら絶対面白いことあるんですよ。
なかなか苦しい状態がずっと続きますから。コロナ明けたら、なかなかの可愛い人が、短期間ですけども、美人さんがお嬢やります。これなんでかと言えば短時間でお金をやっぱり稼がないと苦しいですから。そうなった時に今までのお仕事よりかはちょっと。これ僕三ヶ月やと思ってます。苦しいの三ヶ月やと。三ヶ月の間、集中的に、可愛い子がそういうとこでパッと働きます。でパッと辞めます。それなりの生活に戻ったら。だからコロナ明けた時のその三ヶ月。三ヶ月は今まで…え?こんな子入ってた?というような人達が絶対入ってきますから。はい。
だから今我慢しましょう。今はほんとに我慢して、コロナ明けた時に、我々「風俗野郎Aチーム」みたいなもんは、この三ヶ月!三ヶ月を目安に、頑張りましょう。そのために今は我慢して、風俗に行くお金を貯めとき、そしていろいろ仕事無い人もあれですけど切り詰めて切り詰めて、その時のその三ヶ月の為に、頑張って今、歯食いしばって、踏ん張りましょう。
そうしたらコロナ明けた時のその三ヶ月、見てみ、行ってみ。え?こんな子入ってた?マジすか。でも三ヶ月やで?その子ら。パッとやって、パッと辞めるから。それだけはもう多分そうなんじゃないかと。僕は、僕は、それを信じて今、頑張っています。

約3分だ。出来ればたった3分のラジオ音源を聴いて欲しい。その音源を聴くともっと柔らかい印象になるはずだ。実際、ラジオ音源を聴いて文字より軽い印象になったという意見は幾つか確認した。印象は文字と比べて変わらなかったという人もまたいたが、文字より音源の方が酷かったという意見を私は一度も見なかった。
ただ岡村さんの近くにいたスタッフ(放送作家の小西さん)の笑い声が「なぜ間違いをその場で指摘できなかったのか」「番組スタッフも同罪」などと批判されることは多々あったことは補足しておく。

そして恐らく岡村さんはコロナで自粛中のリスナーを勇気付ける為に、ちょっとしたボケを交えた感覚で回答されたのだと思う。
風俗嬢をリスペクトしている人を『風俗野郎Aチーム』と呼んで、性風俗について包み隠さず話し、散々ネタにして来た経緯を毎週聴いているリスナーなら知っている。

ラジオの書き起こしとネット記事の信憑性

よく「ラジオと書き起こしは一緒」とか「むしろ文字の方がその場の雰囲気などの曖昧な背景に干渉しないので事実に近い」と言う人がいるのだけど私はそこにも2点、「書き起こしは正確だとは言えない」と反論したい。

まず1つは書き起こした人の意図が含まれる場合がある。
意図的に一部の言葉を省略したり、(笑)を付けたり付けなかったり、特定の文を太字にして強調したり、わざと一文だけ段落を変えたり…

例えば上記に挙げた私が書き起こした文字も、もしかしたら何かしらの意図が作用しているかもしれない(出来るだけそうならないように書き起こしたつもりでも)
会話の書き起こしは一見正確なように錯覚するが、実際は読み手の印象を操作することも出来る。

次に、たとえ同じ言葉でも、その文脈やその場の空気感で意味が変わることがあるからだ。同じ「愛してる」でも真剣な顔で言う場合と鼻で笑いながら冗談っぽく言う場合ではニュアンスは大きく変わるはずだ。「愛してる(笑)」なら?その笑い声が実際どうだったかに関わらず印象は大きく変わる。

以上の事から、私は書き起こしに絶対の信頼は置いていない。もしその発信元がラジオなら、そのラジオ音源こそが誰かの印象操作が入らない純粋な一次ソースのはずだ。

問題の回の放送はYouTubeにも幾つも上がっている。
先ほど「実際のラジオの音源を聴いて欲しい」と書いたが、もしYouTubeで確認するのであれば字幕が付いているものはおすすめしない。字幕が視聴者の印象を操作する可能性があるからだ。
※以下は実際の字が載ったYouTubeを抜粋した画像。

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この画像を見ただけでも、聴き手側の印象が微妙に変わるように思う。小さい事だと笑う人もいるだろうが、それがたとえ小さな誤差でも、積み重なれば印象も事実も歪曲される。

ラジオ番組内での発言が、いとも簡単にネットニュースになる時代だ。信頼性のあるサイトばかりではなく、半分素人の記者が小銭稼ぎに記事を書く場合も多い。
もしあなたが有名人が出演するラジオ番組のリスナーであれば、テレビのバラエティ番組のファンであれば、それらを記事化したネットニュースが実際の番組の印象と大きく違うと感じたことが何度もあるはずだ。
その番組から何を抽出して記事を書くか、何を読み手に思わせるかは、書き手の手綱で決まることも多い。
そしてもしその記事がアクセス数や広告クリック数で書き手になんらかの利益が還元される仕組みであれば、記者はよりセンセーショナルな見出しにして狡猾にPV数を稼ぐだろう。

だからもしあなたがラジオを書き起こしたネット記事をソースに誰かを批判するのであれば、まず一度落ち着いて、出来れば一次ソースであるラジオの音源を実際に聴いてみて欲しい。面倒なのは分かるけど、あなたがデマを拡散してしまう可能性もある。差別を糾弾するつもりが、無意識に別の加害行為になってしまうかもしれない。

そして一般人以上に気をつけなければいけないのは、発言に影響力のあるインフルエンサー、活動家、大手メディアに記事を書くオーサーだ。
彼らはその情報元を念入りに確認をする責任が大いにあると私は思う。不確かな情報をソースに誰かの間違った印象を一度拡散してしまったら、もう取り返しがつかない。一度ネットの海に拡がったその不名誉な汚名を返上することは不可能に近いのだから。

岡村さんの発言は本当に不適切だったのか?

岡村さんの発言を出来るだけ印象を変えずに私なりに要約するとこうだ。

コロナが明けたら金銭的に苦しい女性が短期で風俗嬢をやるだろう。
普段風俗嬢をやらない人も増えるので、美人の方も入るだろう。
だから今は風俗に行けないけど我慢して、コロナ明けに風俗に行けるようにお金を貯めて自粛を頑張ろう。

上記の発言は果たして本当に不適切、差別的だったのだろうか?

これについては岡村さんファンの間でも意見が分かれてはいる。
その上で私の意見を言うと、
岡村さんの発言は確かに「不適切」だったと思う。
「差別」だったか、と言われると判断が難しい気がする。


不適切だったと思う根拠について。
コロナという言わば未曾有の災害によって予期せず貧困に陥ってしまう女性がいて、その中には止むを得ず風俗嬢を選ぶ人もいるだろうから、その方々への配慮に欠けていた発言だと思うからだ。これは風俗嬢だからという訳ではなく、災害を理由に止むを得ず希望しない職業を選択せねばならないことはある。
岡村さんが言ったことはきっと事実なのだろうと思うし、性風俗の顧客目線で言えば美人が現れるのは喜ばしいことなのだろう。ただそれでもあの発言は想像力が足りなかった。災害による貧困とはとても苦しいことであり、その被害者となってしまう人にとっては、岡村さんの言葉によってとても辛い気持ちになってしまうかもしれないのだから。

「岡村さんの発言は全く問題ない」と言う意見も理解出来る。あの発信はあくまで性風俗の顧客目線の人向けであり、貧困で止むを得ず働く性風俗従事者を傷つける意図は無かったはずだ。そもそもリスナーのお悩み相談としてのリスナーを勇気づける為の回答であって、3分間のラジオ音源を聴いたら彼が女性の貧困を望んだ意図など無いのは明らかだ。
でも悪意なく人を傷つけてしまうことは世の中に溢れているし、悪意が無かったら軽減はされても無罪放免とはならない。貧困女性当事者に限らず、普段からそういった問題に関心がある人にとってはとても問題があると感じたのではないだろうか。

また「自分は問題無いと思う」→「だから(全員にとって)問題無い」は成立しない。もし自分以外の誰かが「不適切だと思う」のであれば、それが不適切なのか、では何故誰かにとって不適切だと思われるのか、考える必要があると思う(その上で実際に差別だったと断定出来るかは別の話)

それでも「全員にとって不適切ではない」と思うなら、そう言えるまでの客観的な根拠が必要だろう。

内心で思うことは自由だとは思うが、それを口に出して全国放送に乗せてしまえばそれによって傷つく人が生まれる可能性が出てくる。「深夜ラジオはゾーニングされている」という意見もあり、深夜ラジオファンとしては擁護したいところだが、正直なところどちらとも言えない。
もちろんテレビのゴールデンに比べればゾーニングされていると言えるだろうし、ラジオの深夜2時半に始まるコーナーだ。好きな人しか聴かないだろう。
今回岡村さんを糾弾した人は無数にいると思うが、その中にリアルタイムで聴いていて本気で憤った人は果たしてどれだけいたのだろうか?私はただの一人もいないのではないか、とすら思ってしまう。
このようにある意味ではゾーニングされていたのに、安直なネットニュース(今回はFLASHの記事)によって掘り起こされ、さらにそれがインフルエンサーによって拡散され、白日の下に晒された形だ。
だが公共の電波で全国放送で発言したというのは紛れもない事実であり、かつ今は情報がすぐにSNSなどで共有される時代だ。ゾーニングが適切に行われていたかと言われれば、判断が難しいと個人的には思う。ラジオが公共の電波だからではなく、例えばこれがYouTubeであってもきっと同じように炎上したのではないだろうか。
「昔の深夜ラジオは過激で良かった」と思うのは深夜ラジオファンである私も共感するが「昔の深夜ラジオのようには出来ない」というのはもう現実として呑み込まなければならない時代だと思う。

では「差別」だったか?と言われると判断が難しい。「差別」とは「正当な理由なく不利益を生じさせる行為」だ。岡村さんの発言がそこまでの「正当な理由なく不利益を生じさせる行為」だったかと言われると、断言までは出来ない。

私は以上の理由から「災害時の望まない貧困」という視点で岡村さん発言に問題はあったのだと思う。
ところが実際はさらにもう一つの観点も加わり、炎上はとても広範囲に拡がった。

岡村さんを糾弾する行為に乗せられたもの

炎上当時に何人かの岡村さんを批判する方と議論をして、もう一つの論調があることに気づいた。
議論を進めると、何故か岡村さんを過剰に批判する方々はそもそも性風俗自体に反対で、本来あるべき産業ではないと思っている人がほとんどなのだ。
以下は岡村さんを糾弾する方々と私が議論した時の、2名の対話相手のコメントを抜粋した。

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「性風俗に通う時点で女性をモノ扱いしている」
「その手の職業自体存在が間違っている」

私は疑問に思った。
本当に岡村さんの発言が人間の本質的に差別的だとするなら、セックスワークに反対だろうが賛成だろうが関係無いはずだ。

そしてもし関係あるのなら
セックスワークに反対する行為を岡村さんを糾弾する行為にすり替えて叩いてないか?
という別の疑念を抱かざるをえない。

性風俗をどう捉えているかで岡村さん発言に対する印象は大きく変わる

性風俗に対する個々人の見解の違いを、あえて単純に2種類に分けてみる。
(後ほど言及するが、実際はこんな単純な構造ではないということを前提として)

1. 性風俗はそもそもあってはいけない産業。風俗嬢はあってはいけない職業、誰もが本当はやりたくない職業と思っている。

2. 性風俗はあってもいい産業。風俗嬢はあくまで職業の一つであると思っている。


1.前者か2.後者かで岡村さん発言の印象は大きく変わる。
ちなみに私は2で、岡村さんもきっと2のはずだ。
だから岡村さんはあの発言を安易にしてしまったのだと思う。別に風俗嬢になることなんて職業の一つでしかないし、選択肢の一つでしかない。

でも1の人も確かに多く存在して、コロナによる貧困で嫌々でも選ばざるを得ない人もいるかもしれない。そこの想像力が当時の岡村さんには無かった。

性風俗に反対するある人は、性風俗は「女性の尊厳」を売っている、という。フェミニストとして影響力のある上野千鶴子氏はセックスワークに言及する文脈で「肉体と精神をどぶに捨てるようなこと」とまで言った。
では性風俗で働く女性が売っているものは「人」「女」「尊厳」なのか?それとも「性サービス」なのか?

岡村さん発言の炎上当時、少し話題になった例え話がある。
岡村さんの発言は「コロナの影響で、より良い食料品や料理がお手頃価格で手に入ることを喜ぶ」ことと構造は一緒なのでは?

岡村さんの発言が炎上した時期、全く別の話題で以下の記事が話題になった。

この記事ではコロナの影響で本来飲食店へ供給されるはずのカツオが余り、スーパーに大きく美味しいカツオがお値打ち価格で販売されるというものだ。記事の一部を抜粋する。

私の漁業者を支援することを仕事にしており、カツオ一本釣りの漁師さんたちともお付き合いがあるので、この状況だとかなり厳しいよな~と心配になっています。ですが、消費者のみなさんにとっては、普段はお寿司屋さんに行かないと食べられないような美味しいカツオをスーパーで買えるチャンスです!

この記事は単なる「お得情報」とした広く拡散されたのだが、これに対して「岡村さんが炎上してしまった発言と同じ構図なのでは?」というツイートがあって、私はなるほどなと思った。だがそれに対して「魚と人は違うでしょ」という批判コメントが山ほど溢れた。

では性風俗が売っているのは「人」なのか?「尊厳」なのか?
それとも「性サービス」なのだろうか?

漁師や卸売の方々はどれだけの努力をしてその「魚」を売っているのだろう。「魚と人は違うから比較出来ない」というのは表面しか見ていない意見だ。魚を店頭に売るまでにどれだけの労働力や思いが漁業者にあったのだろうか。当たり前だが、何もせず勝手に魚が店頭に現れた訳ではない。
漁業関係者の方々がどのような気持ちで本来売るはずだった飲食店ではなくスーパーに本来の値段より安く売らざるを得なかったのか、その気持ちは語られない。上記のカツオ安売りの記事を「お得情報」だと喜び拡散した人が、岡村さんの発言を極悪な犯罪者のように叩きのめすのはダブルスタンダードでは無いのか?
「女性と魚を比較するなんて失礼だ!」と怒る人もいるだろう。でもそれは表面の字面を掬っているだけだ。魚と人は違うに決まっている。当たり前だ。
もし性風俗も漁師も同じ"労働"として見られるのであれば、この二つの構造は近い部分があると言っていいはずだ。
別にカツオじゃなくてもいい。「コロナのお陰で一流シェフのご飯がお手頃に食べられる」でも「コロナのお陰でライブハウスを激安で借りられる」でも一緒だ。問題なのは「コロナに影響を受ける労働者」と「それを喜ぶ人」がいることだ。
だが性風俗が売っているものは「女」であり「人」であり「尊厳」だと思っているなら、その瞬間からこの二つの構図は違ったものになる。「労働」と「労働」ではなく「労働」と「人権」を並べているのだから。

現実的に風俗嬢という職業は、人によっては複雑な思いを持つ職種なことは間違いないだろう。(あまり負のレッテルを拡げたくないが、偏見を持っている人が多いのは事実なのであえてこう書きます)
岡村さんは性風俗に特別な偏見を持っていないため、その無垢さ、鈍感さからあの発言をしてしまったのだろうが、性風俗に対して複雑な思いを持つ人にとってはあの発言で嫌悪感を抱いたに違いないし、その気持ち自体を私は否定しない。岡村さんの発言を擁護したい訳ではない。

実際は性風俗という産業の存在に賛成の人、反対の人の二択ではなく、人々はそれぞれ複雑な考えを持っている、いわばグラデーションだ。反対ではないけどあまり良く思ってない人、賛成ではないけど良い面もあるよねと思う人、職業差別はいけないよねと理屈は分かっていても内心では偏見を抱えていて葛藤している人…

人によってその捉え方は様々で、セックスワークに賛成だろうと反対だろうとそれぞれに自分の中の"正義"があるのではないか。

その上で、現段階での私の中の考え。
人それぞれの性風俗や風俗嬢への印象や、自分の中にあるセックスに対する倫理観などは特定個人の差別糾弾の場においては一旦置いて考えるべき
なんじゃないかと思う。

性風俗に肯定的な人が「風俗嬢は全く普通の仕事なので岡村の発言は何の問題も無い」というのも私には少し違和感があるし、性風俗に否定的な人が「岡村の発言は性を商品化して扱う産業を肯定し、性搾取を助長しているから絶対に許さない」というのも違うと思う。

例えば性風俗産業に断固反対の人々が振りかざす正義の斧によって岡村さんは激しく糾弾されたのだが、その正義の斧は果たして本物なのだろうか?
その立ち位置や考え方によって変動するような正義はとても危険だ。
人や国、宗教や思想や社会的立場によって時に正義は形を変える。正義と正義がぶつかり合って戦争は起こる。

ある人はこうまで言い放った。「岡村隆史は人類の敵だ」と。「人類の敵」か…。
ここまで言えるのが「正義」の恐ろしさだと私は思う。

炎上の経緯を時系列で追ってみる

ここで改めて岡村さん発言炎上の経緯について振り返る。
この岡村さん発言について様々な媒体や有識者から、とても多くの記事や発言があった。あまりにも多いので炎上初期の一週間だけ、特に大きな動きだけを時系列でまとめる。(全て2020年)

4月23日深夜 岡村氏 「ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン」内で問題発言

4月26日 6:00 FLASHが書き起こしを元にした記事を投稿
【岡村隆史、風俗を自粛「神様は乗り越えられない試練は作らない」】

4月26日 13:50 藤田孝典氏がyahoo!ニュース内に記事を投稿
【岡村隆史「お金を稼がないと苦しい女性が風俗にくることは楽しみ」異常な発言で撤回すべき】
(2021.8.1追記 藤田氏yahooオーサー解任に伴い記事削除された模様)

4月27日 ニッポン放送が公式サイトで謝罪

4月29日 吉本興業の公式サイトで岡村氏本人含めて謝罪

4月29日 一般社団法人Voice Up JapanによるNHK番組降板を求める署名が始まる。(最終署名人数:約1万6千人)
【女性軽視発言をした岡村隆史氏に対しチコちゃんの降板及び謝罪を求める署名活動】

4月29日 藤田孝典氏がyahoo!ニュース内に記事を投稿(二度目)
【岡村隆史氏「『困っている女性が風俗に』大変不適切で深く反省」遅すぎる見解表明と問題意識の希薄さ】
(2021.8.1追記 藤田氏yahooオーサー解任に伴い記事削除された模様)

4月30日 石川優実氏による岡村氏を起用したフェミニズム番組制作を求める署名が始まる。(最終署名人数:約3万人)
【#岡村学べ ナインティナイン岡村隆史さんを起用し、女性の貧困問題やフェミニズムについて学べる番組を制作・放送してください】

4月30日深夜 岡村氏 「ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン」放送内で改めて謝罪

5月1日 藤田孝典氏がyahoo!ニュース内に記事を投稿(三度目)
【岡村隆史氏のラジオ番組内の謝罪「変わらなければならない」について】
(2021.8.1追記 藤田氏yahooオーサー解任に伴い記事削除された模様)

はぁ、、、
たったこれだけ挙げただけでもなんだか疲れてくるのだが、当時はもっと多くの批判記事や意見が溢れ、一ヶ月、二ヶ月と炎上は続き、世論はうねりにうねっていた。

では深夜ラジオの1コーナーの発言が、これだけ拡散したきっかけは何か?
言わずもがな、藤田孝典氏が4月26日にyahoo!ニュースに投稿した記事である。

藤田孝典氏のあの記事の問題点

2020年4月26日13:50 藤田孝典氏がYahoo!ニュースに【岡村隆史「お金を稼がないと苦しい女性が風俗にくることは楽しみ」異常な発言で撤回すべき】というタイトルで以下の記事を公開した。
(2021.8.1追記 藤田氏yahooオーサー解任に伴い記事削除された模様)

Yahoo!ニュースで公開されたこの記事はショッキングなタイトルもあって瞬く間に拡散され、Yahoo!のトップページに載るとより加速度を増して広まっていったのを私は覚えている。
記事公開当初、岡村さんを擁護するコメントはほぼ無かったかと思う。緊急事態宣言中の自粛ストレスもあいまって、とにかく非難と怒りのコメントが溢れ返っていた。

私はこの記事について大筋はある程度納得しつつも、初めに読んだ時からずっと何か違和感があった。それがうまく言語化出来ずにいたのだが、日にちが経つにつれて色々なコメントや記事に触れて、少しずつその違和感の正体がわかってきた。そこを一つ一つ紐解いていきたい。
前述している通り、岡村さんの発言に問題があったことは私は理解出来るので「全て捏造記事だ」とも思っていない。また、正当な方法での批判であれば特に何も言うことは無かっただろう。
その上でこの記事はとても問題がある書き方だったと思うので、特に重要だと思う項目を以下4つにまとめた。

1. 実際には言っていない発言を題名にしてショッキングな印象を作り、拡散、炎上させようとした

この記事の題名はこうだ。
『岡村「お金を稼がないと苦しい女性が風俗にくることは楽しみ」異常な発言で撤回すべき』

初めに書き起こした通り、「楽しみ」をはじめ、実際にラジオでは言っていない言葉を『岡村「〜」』と、あえてカギカッコを付けてあたかも本人が言ったように改変し、記事の見出しにしてショッキングに読者の嫌悪感を煽ったのだ。怒りは一度着火するととても拡散し易い。そこを明らかに狙った悪質な要約だ。こんな悪質な報道の仕方が果たして許されるのだろうか?

ネット記事のタイトルはYouTubeで言うサムネイル、本屋で言う本の表紙、週刊誌で言うと中刷り広告と一緒だ。ネット記事のタイトルはそれを見た人が実際にクリックするか否か、発信者にとってタイトルはとても重要な要素と言えるだろう。YouTuberが「重大発表があります」というタイトルの動画を上げて、実際には大した話ではないなんてことは多い。それと同じ構図に見えた。多少の誇大表現でもクリックされたもん勝ちなのだ。だが、本当にそれでいいのか?
自分の失敗談くらいであれば多少の誇大表現も許されるかもしれないが、他人の実名を使った糾弾記事であればより正確性が必要なはずだ。ましてYahoo!ニュースという最大手の巨大メディアの看板となるタイトルだ。

この見出しを見た人々の中には実際の音源を聴かず、記事を流して読む人もいるだろう。いや、そういった人々の方が多いくらいだ。タイトルだけを見て脊髄反射的に批判した人もいるはずだ。実際、藤田氏のこの偏った表現によってネット上では未だに「岡村が貧困女性が風俗に来るのが楽しみ、と言った事は許せない!」という意見が散見される。

以下の画像は藤田氏の記事が拡散されて炎上した直後、ANN番組のtwitterアカウントに寄せられたコメントの一部を抜粋した。実際には言っていない「楽しみ」という言葉を使っている人も多い。
記事内では侮辱的なワードもあまりにも多かった。「異常」「心の底から嫌悪感」「閲覧注意」「醜悪」「最悪レベル」「下劣」「野蛮」…それらのワードを見た人は、記事と同じようにここまでの侮辱的なワードでも記事で使ってるから大丈夫だろうと攻撃度が増したのではないか。
ここでクエスチョン。はたして以下の攻撃的なコメントを番組公式アカウントにリプライした彼らは、実際のラジオ音源を確認してこの批判や誹謗中傷を書いたのか?それともラジオは聴かずに藤田氏の記事だけを読んで書いたのか?私にはその答えが一目瞭然に見えた。藤田氏は考える責任があるはずだ。

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この言わば捏造された問題のあるタイトル表現は記事公開当初は特に気づかれなかった。しかし日にちが経つにつれ一次ソースと比較する人が増えたのだろう。有識者や多くの人が指摘し、批判されていった。
それを受けて藤田氏は以下の記事でこのように回答している。

「岡村氏は楽しみとは言っていない」などと、私の記事タイトルへの反発や抗議、捏造だという指摘も多数いただいた。
しかし、発言主旨は本人もニッポン放送も謝罪して認めている通り、不適切であり、深刻な問題を含むものである。
改めて擁護の仕様が無い発言であったことは、事実として強調しておく。

出典:5月15日 岡村隆史のオールナイトニッポンの番組終了に関する感想、今後の番組への期待
(2021.8.1追記 藤田氏yahooオーサー解任に伴い記事削除された模様)

はあああああああ??????
何の弁明にもなってないんですけどー!!!!!!
と、呆れてしまった・・・
岡村氏の発言が不適切なことと、記事の表現方法に問題があったことは全くの別問題である。

ちなみに藤田氏はその後、岡村氏結婚直後の記事でこんなことを書いている。

21日のNHK報道によって女性の自殺者数の急増が明らかになっている。
岡村氏が話した通り、お金を稼がないと苦しい女性が自ら死を選ばざるを得ない環境に追い詰められている。
出典:10月23日 岡村隆史さんの結婚と風俗発言と予期されていた深刻な女性の貧困問題
(2021.8.1追記 藤田氏yahooオーサー解任に伴い記事削除された模様)

岡村さんが「お金を稼がないと苦しい女性が自ら死を選ばざるを得ない環境に追い詰められている」と話したそうである。
いつどこで岡村さんがこう話したのか、ぜひ藤田氏に聞いてみたいものだ。

彼はこの程度の責任感でYahoo!ニュースという巨大メディアを使ってあの記事を拡散させたのである。

2.藤田氏は性産業の存在そのものを否定している

私がこの記事を初めて読んだとき、最も違和感があったのがこの点だ。
記事内で性産業そのものについて「性の商品化」「女性の性的搾取」という表現を使い、「性産業=悪」と思えるような表現をしている。
また、風俗嬢の顧客である岡村さんが、顧客として利用する事自体が批判されている。
この記事は岡村さんを批判するのと同時に、性風俗の存在を否定している、性風俗産業廃止に向けて扇動しているように感じた。
そもそも彼は性風俗の存在自体を認めていないのではないだろうか?

この時の予感は、当たっていた。
ずっと性風俗産業そのものへの考え方を濁してきた藤田氏だったが、5月11日に大竹まこと氏のラジオ出演時の性風俗への否定的発言を記事化された事で、彼は堰を切ったように性風俗産業そのものへの否定的な考え方をツイートし続けている。

つまり岡村氏の発言以前に、そもそも性風俗の産業自体を無くそうとしていたのである。
私は前述した通り、人それぞれの性風俗や風俗嬢への印象や、自分の中にあるセックスに対する倫理観などは特定個人の差別糾弾の場においては一旦置いて考えるべきだと思う。

性風俗産業を廃止したいのであれば、有名人の名前を引用しなくても理論は広げられるはずだ。
他人の知名度を利用して他人の名誉を傷つけることで、自分の利益や知名度や運動に繋げようとする人を私は一切信用できない。

3.Yahoo!ニュースという巨大メディアのオーサーとしての責任

ここで藤田孝典氏がこの記事を拡散させたプラットフォーム「Yahoo!ニュース」について言及しておく。
ICT総研の調査ではニュースアプリの利用者は2019年度末に8,796万人、2020年のモバイルニュースアプリで利用率がトップだったメディアが「Yahoo!ニュース」だ。それだけ多くの人々に影響力がある超巨大メディアと言える。そのオーサーは正しい情報元を引用し、事実を歪曲することなく正確に伝える責任があると言えるだろう。
出典:ICT総研

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さらに藤田氏が所属する「Yahoo!ニュース 個人」は記事の閲覧数が記者の広告収入として還元される仕組みであることが以下の記事から分かる。

Yahoo!ニュース 個人では記事ページ内で発生した広告収益の50%をオーサーに支払う「レベニューシェア」を採用。さらに残りの50%の収益も、取材費の補助や1万5000PV超の記事を月に3本以上出したオーサーへのインセンティブなどに当てています。

つまり記事が拡散されればされるほど記者の金銭的利益になるシステムなのである。

確かにネットニュースを無料で誰もが見られる時代に、有益な情報をまとめた記者にしっかり利益が還元されるシステム自体は良いことなのかもしれない。

だけどもし自分の利益の為にPV数狙いで事実を意図的に歪曲させた表現を使って炎上目的で拡散したら?
あえて有名人の知名度を使って、その不幸を利用するようなオーサーがいるとしたら?

情報の有益さとアクセス数の多さは決して比例しない。
「〇〇結婚」の下に「か?」を小さく入れる東スポのような手口を使う姑息なオーサーも出てくるだろう。新聞は多く買ってもらえば勝ち、記事は多くクリックされて炎上されたもん勝ちなのだ。
このシステムはとても危険であると言わざるを得ない。

4. 藤田氏はそもそもラジオ音源を聴いていなかった疑惑がある

前述した通り、誰かのラジオ発言を批判するなら一次ソースであるラジオを確認することがとても重要だ。そして影響力・拡散力のある人なら、巨大メディアのオーサーなら、その責任は大いにあるはずだ。
これも初見の時からずっと違和感があったのだが、藤田氏の元記事では引用元はFLASHの書き起こし記事であり、藤田氏自身での書き起こしやラジオ音源への言及などは一切無かった。
「あ、この人…さてはラジオ聴いてないな?」と私は思っていた。
そんな切り取られた情報が元では、どんどん印象が歪むはずである。
元の記事の冒頭はこうだ。

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心の底から嫌悪感を生じる発言を目にしてしまった。閲覧注意なので気分が悪くなった方は読まなくていい。

ラジオは聴くものなのに「目にしてしまった」という表現が私にはずっと違和感があった。
そしてこの件も有識者などに複数指摘されていたのだが、それを受けて藤田氏は辻褄を合わせるように以下の記事に修正した。

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知人から発言があったことを教えてもらい、radikoで発言の該当箇所を聴き、以下の通り、各種報道で心の底から嫌悪感を生じる発言を目にしてしまった。閲覧注意なので気分が悪くなった方は読まなくていい。
(5月4日 追記:太字箇所)

・・・とても違和感のある文章である。
「各種報道で目にした」とあるが、当時このラジオの1コーナーを取り上げたメディアはFLASHぐらいではないのか?
「各種」と言うからには複数なのだろうが、この各種報道がどの媒体を指すのか、ぜひ藤田氏に聞いてみたい。

これは本人にしか分からないことなのであくまで疑惑でしかない。だが私には辻褄合わせだけのあまりにも見苦しい追記文に見えた。

炎上を加速させた二つの署名運動

藤田孝典氏の記事が公開され、Yahoo!トップにニュースが載ったことで瞬く間に炎上した。前述したようにTwitterの番組公式アカウントや岡村さんのインスタ公式アカウントには多くの批判と、誹謗中傷が溢れ返ったのを覚えている。
その炎上をさらに燃え広げさせた件がある。

藤田孝典氏が初めの記事を公開した三日後、4月29日。
一般社団法人Voice Up Japanが発起人となり【女性軽視発言をした岡村隆史氏に対しNHK「チコちゃんに叱られる」の降板及び謝罪を求める署名活動】が始まったのである。(最終署名人数:約1万6千人)

簡単に要約すると、NHK「チコちゃんに叱られる」は子供の視聴率も高いので、今回の問題発言をするような岡村氏がMCを務めるのは不適切だ、という内容だ。

さらにこのわずか1日後、4月30日。
今度は石川優実氏が発起人となり【#岡村学べ ナインティナイン岡村隆史さんを起用し、女性の貧困問題やフェミニズムについて学べる番組を制作・放送してください】という署名が始まる。(最終署名人数:約3万人)

こちらの署名も宛先はなぜかニッポン放送ではなくNHKだ。簡単に要約すると、NHKで今回の岡村さん発言がなぜ炎上したかを検証し、フェミニズムを勉強する番組や特集を放送して欲しい、という内容だ。

この2つの署名が始まり、この岡村さん炎上騒動は一気に燃え広がった印象がある。
ここまでするのは「やり過ぎ」なのか?それともここまでするのが「相応」なのか?「海外では失言したら職を失うのは当たり前」という意見もよく見る。でも私は全ての失言が一発退場なのではなく、その「失言」の内容次第なのだと現状では思う。

これらは岡村氏が不適切発言をした事への相応な対応なのか?

私が問題視するのは
これまで差別されてきた考え方、社会への怒りを岡村さんの不適切発言と重ね、必要以上に叩いていないだろうか?
ということだ。

ずっと見過ごされてきた女性差別と日本社会の問題点、無くならない貧困問題、富裕層が貧困層を搾取し続ける社会構造。声を上げる女性達それぞれが感じたこれまでの差別的経験。政治や会社の上層部における男女比率。セクハラ、性暴力・・・
それらと岡村さんへの制裁を同列に進め過ぎている。

「謝罪をすれば終わりじゃない」「本当に謝罪の意思があるのか疑問」「半年後には笑い話にしてる」「落着ではなく始まりだ」
全部分かる。分かるけど、それは岡村氏と本当に関係があるのか?

この運動で矛先を向けるべきなのはもう岡村さんではないし、宛先は吉本興業でもチコちゃんプロデューサーでもないはずだ。ただ彼の知名度を「利用したいだけ」ならそれは岡村さんへの必要以上の断罪には当たらないのか。

NHK「チコちゃん」番組降板を求める署名の問題点


そして私は特にVoice Up Japanが提起した「チコちゃん番組降板署名運動」については特に問題があると感じた。
(逆に石川氏が立ち上げた署名サイトは内容に私は反対ではあるものの、以下問題のような悪質さは無く、主張方法については正当性があると感じた)

署名サイトは活動を開始した背景と要求を初めに述べた後、いきなりこの文章から始まる。

日本の性風俗産業は、長年「人身売買」「未成年搾取」の観点から海外でも問題視されてきました

ん?
改めて岡村氏の実際の発言と比べて欲しい。お分かりいただけるだろうか。
もうすでに岡村氏の発言からかけ離れた話から始まるのである。
「人身売買」や「未成年搾取」と岡村さんの今回の発言が果たしてどれほど関係があるのだろうか?

岡村氏が失言をしたのなら、その事実のみを批判するべきだ。岡村氏とは因果の無い過去の事例や、別の思想や運動、糾弾したい社会構造までの責任をなぜ彼が取らされなければいけないのか。

またサイト冒頭の文章や団体メンバー9名のコメントには「性風俗産業=性的搾取」と捉えている表現が多く、「人身売買」「未成年搾取」「売春」といった性産業自体を悪とするような偏見に満ちた極端な言葉が多い。これは藤田氏の記事同様に、性風俗産業への偏見や産業反対派としての思想が要所に盛り込まれた文章なのではないだろうか。

(※補足:後にVoice Up Japanはセックスワーカー支援団体SWASHと意見交換会やイベントを主催して、セックスワークに対する団体としての立場を修正したようである。
情報元:Twitter Voice Up Japan [@VoiceUpJapan]及びSWASH代表 要友紀子氏[@kanameyukiko]

さらにVoice Up Japanは署名活動が始まって10日後、5月9日に以下の画像をアップした。
出典:Twitter Voice Up Japan [@VoiceUpJapan]

画像8

上記の表明文にも問題点が多い。
幾つもあるが、右上の項目を取り上げる。

私たちも当事者です
この発言は全ての若い女性に向けられた発言である

これまで日本社会では多くの人々が「女性蔑視発言」で傷つけられてきました。今回、岡村隆史は「セックスワーカーでない女子大生や勤労者が貧困に陥り、セックスワーカーになることを待ち望んでいる」ような発言をしました。これは自分の意に反して性的産業に従事する女性を軽視した発言だけでなく、すべての若い女性に対して、貧困に陥ってほしいという屈辱的な女性蔑視発言です。

ぜひ改めて一次ソースのラジオ発言と、事実のみで比べてみて欲しい。
そして自分が性風俗産業に賛成か反対かは置いておいて、冷静にフラットに判断してほしい。
岡村氏は本当に「すべての若い女性に対して、貧困に陥ってほしい」、もしくはそれを意図したような発言があったのだろうか?

これは完全に拡大解釈、歪曲表現だ。

やろうと思えば拡大解釈は無限に進められる。
「こう言ったことにすれば批判しやすい」という意図があれば、ここまで極端な解釈に変化させることが出来るのである。

拡大解釈の危険性

岡村さん批判の記事やNHKチコちゃん番組降板署名サイトなどによって展開された「拡大解釈の危険性」について言及したい。

ラジオの発言は「これってこうだよね?」「要はこうだよね?」「ってことはつまりこうなるよね?」と次々に歪曲、誇大表現、印象操作、拡大解釈が繰り返されていった。

結果「岡村は女性の性的搾取を促した」「岡村は若い女性の貧困を望んでいる」「岡村は女性が貧困で苦しむのが楽しみと言った」と岡村さんの元の発言からかけ離れた論理が各所で展開された。
Voice Up Japanの表明に「すべての若い女性に対して、貧困に陥ってほしいという屈辱的な女性蔑視発言」なんてのも分かりやすい拡大解釈の例だ。もちろん岡村さんはそんなことは言っていない。

例えば岡村さんが一切言っていない「若い」という言葉が急に出てきたのは何故か?
これは予想であるが
・性風俗従事者は若い人が多い→だから「若い」
・貧困は若い人ほど陥りやすい→だから「若い」
・普段風俗をしないという事は"ウブ"な女性を望んでいる→だから「若い」
・男性は若い風俗嬢をきっと望んでいるに違いない→だから「若い」

こういった理由から岡村氏が一言も言っていない「若い」という言葉が出てきたのだと推測される。

この拡大解釈をどんどん進めると
・岡村は美人の風俗嬢を望んでいる

・美人の風俗嬢はコロナが蔓延することで発生する

・岡村はコロナ蔓延を望んでいる

つまり拡大解釈を進めると「岡村はコロナ蔓延を望んでいる」すら成立してしまう。でもこれはもはや当初と真逆の論理なのは分かるだろう。岡村さんは「風俗に美人が来たら嬉しい」「だから自粛を頑張ろう」「止まない雨は無いんだ」とリスナーを励ましたかっただけなはずだ。

こういった拡大解釈を安易に進めていた人々に改めて聞いてみたい。
先述した「コロナの影響でスーパーに美味しいカツオが出回って嬉しい」という人を「飲食店に魚が売れず、漁業関係者が困っているのが嬉しい」人に変換されて違和感を持たないのだろうか?
この人々が喜んでいたのは「美味しいカツオ」であって、「漁業関係者の困窮」では決して無いはずだ。
岡村さんが望んでいたのは「美人の風俗嬢」であって、「若年女性の困窮」ではない。

安易に拡大解釈を進めてはならない。
事実を捻じ曲げる危険性があるからだ。

ネット記事を鵜呑みにする人たち

岡村さんを批判するコメントの中には過去の発言や記事を掘り返して「ほら、岡村は女性差別者だ。今回だけではない」と叩く人も多い。
私は20年以上ラジオを聞いていて、確かに岡村さんは女性不信の気質を持っているのは間違い無いし、誤解・非難されても仕方ない発言もまたあったのは確かだと思う。

ただ中には印象操作の酷いネット記事もあり、それをソースに叩く人もいる。

4月29日 岡村さんが差別発言をした、という前提のコメントをしたVoice Up Japan代表の山本和奈氏はtwitter上でこう発言した。

岡村氏の問題発言は残念ながら初めてではありません。
男尊女卑を促す差別発言↓
https://news.merumo.ne.jp/article/genre/9409818
他にもネットで検索すると出てきます。

さてここで彼女が引用した差別発言の根拠だと言った、引用元であるネット記事を確認したい。
『東出擁護のナイナイ岡村「女は不倫ダメ!」の過去発言を蒸し返される』というタイトルで東出(男性の不倫)は擁護、女の不倫はダメ、という男性には甘いというダブルスタンダードを非難する内容だ。
(ちなみに昨年12月も別のフェミニストの方がこの記事を引用して岡村氏を非難していたことも補足しておく)

こちらの記事のプラットフォームは「めるも」という女性向けのニュースサイトで「まいじつ」という「週刊実話」系のいわばゴシップ系媒体の提供になる。

記事を一部抜粋すると

男性芸能人がそろいもそろって擁護を繰り返している中、岡村隆史の発言が〝男尊女卑〟だと批判されている。

男は不倫OK、女はダメという岡村のダブルスタンダードはネット上で注目を集め

結局、仲の良い人の肩を持っているだけなのだろう。

ということである。
この記事だけを読むと、岡村さんはとても女性に厳しく男性には甘いというダブルスタンダードな人物に見えるだろう。

私はこの記事を読んで、すぐに一次ソースである実際の音源を確認した。
本当に「男は不倫OK、女はダメ」という内容(全く同じ文言ではなくともその文脈も含めて)を発言したのか。

結論から言うとはっきり言って酷い印象操作が含まれるデマに近い記事であることが分かった。

岡村さんは「男は不倫OK、女はダメ」というニュアンスで発言したのではなく「夫婦間では自分は許さない」「世間が許さないのは違う」という文脈だったのだ。ダブスタでもなんでもなく、この二つの不倫への岡村さんの見解は全く矛盾していないのだ。
全部は大変なのでちょっとだけ抜粋して書き起こしてみた。

・後藤真希さんの言及について
「僕はもう結婚もしてないからね、分からないけども。嫁がなんか違う人と、となったら…無理かなあ。だってもう俺もその時風俗辞めてると思うもん。風俗辞めてるって何の宣言してんねんな(笑)」
ソース元:ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン【2019年3月14日放送】

・東出昌大さんの言及について
「毎回思うけどこんなにあかんことやったっけ、不倫って。あかんのかなあ。世の中の人が許せへんねんな。ルール違反やでって僕も言うんですけど、不倫の時って。でも夫婦のルールだけであって。周りのルールからの違反では無いじゃないですか
ソース元:ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン【2020年1月23日放送】

【ナイナイ岡村「女は不倫ダメ!」の過去発言】というタイトルを見ると、ほとんどの人は岡村さんが過去に「女は不倫ダメ」と言ったんだと思うはずだ。しかし実際の放送を聴いてみると2回の放送のどこにもそんな男女としての立場に言及した発言は無く、それどころか似たような意味合いの発言すらも無く、捏造・歪曲表現されたタイトルだと分かる。
分かりやすい構造にして岡村氏にバッシングが来るような形にした方が、女性向けのニュースサイトやゴシップ系サイトではページビュー数が上がり広告収入になる。怒りは拡散しやすい。女性差別への怒りを利用したとても卑劣で狡猾な手口だ。情報が多少間違ってようが注目されたもん勝ちなのである。こんな酷い記事がネット上には溢れているのだ。

昨年SNS上における大量の誹謗中傷が原因で自殺された方のニュースが大きく報道され、多くの人が驚き、悲しんだはずだ。もし不確実な情報を根拠に誰かを批判するとしたら、それは誰かを傷つける加害行為に他ならない。最悪の場合、取り返しのつかない悲劇を産むかもしれない。

「ソース元がネットのゴシップ記事」なんてこの令和の時代にどれだけ信用出来るのだろうか?
こんな不確かな情報を何の疑いもなく安易に拡散する人々は、ネットリテラシーや人権問題に対する意識がアップデート出来てないのではないか?

そしてあの「岡村チコちゃん番組降板を求める署名」を主導したVoice Up Japanの代表すらも、このデマ記事をソースに(一次情報を確認せず)岡村氏を批判していたのである。

今もなお続く岡村氏を看板にした運動

最後に、あまり拡散されていないのが救いだが、岡村氏の名前を看板に使った運動が炎上から1年経つ今もなお続いていることに言及したい。

「岡村隆史発言が見せつけた買春容認社会に怒ろう!!」運動である。

この運動の問題点は岡村さんの失言に対する批判という域を超えて「性風俗産業が存在することに反対」する運動になっていることである。
コロナ以前からある性風俗産業自体がもう既に女性差別だ、と訴えているのである。
この問題点を分析する上で、運動の内容について改めて触れておく。

「岡村発言から買春社会を考える会」という数人の団体が発起人で、2020年の6/13に始まり、7/18、8/24、9/12、10/17、12/19。さらに年を跨って今年2021年の1/30、3/6、4/24(次回開催)とほぼ毎月、渋谷ハチ公前でのスピーチを続けている。

画像9

「岡村発言から買春社会を考える会」の参加メンバーは瀬野喜代元荒川区議、増田都子元中学教員、吉祥眞佐緒氏、三井マリ子氏、中嶋里美元所沢市議、山本ひとみ武蔵野市議、新井祥子元草津町議といった面々だ。
ちなみに新井祥子氏は草津町長からの性暴力被害を訴えた人物で、住民投票でリコールされ、話題になったばかりだ。
それに加えて昨年夏頃からはポルノ・買春問題研究会(通称:APP研)と言われる反売買春の思想を掲げるラディカル・フェミニズム団体も加わり、団体代表の中里見博氏を始め、森田成也氏、キャロライン・ノーマ氏などAPP研のメンバーがこの学習会で毎月のように発言している。
先述の藤田孝典氏もこの団体や森田氏について度々ツイートし、共感しているようだ。彼らに共通するのは「性風俗産業を無くそう」といった発言を繰り返していることだ。

セックスワークを国としてどう捉えるかについては様々な論調がある。
非合法化、部分的な非合法化、北欧モデルと呼ばれる利用者の犯罪化、合法化、非犯罪化…
この運動が目指すのは北欧モデルと言われるセックスワーク利用者の犯罪化であり、しいては性風俗産業自体を無くすことである。藤田孝典氏も同じ思想を掲げていることも付け加えたい。

これはもう岡村さんの発言の域を超えていないだろうか?
「災害下の貧困女性に対して配慮が足りなかった!」という批判ならまだ分かる。だけど「性産業は女性差別だ!」「性風俗を利用することは性搾取だ!」と訴えているのである。
性風俗産業反対を訴える運動であれば、それはそれで勝手にやればいい。ただ、岡村さんの名前は外すべきだ。彼は有名人だから何を言ってもいいと、傷つかないとでも思っているのか?

もっと言うと「買春」は日本の定義では本番を指すもので、法律により禁止されている(売春防止法)
岡村さんが「買春」を容認した?そんな事実はもちろん無い。こういった思想の人々の中には「性風俗=売買春」として話す人も多いが、それは間違った言葉の使い方だ。また海外でそんな細かい言葉の定義は無い、という意見もあるが日本で言葉を使うなら受け取る側も日本人なので日本語を正確に伝える必要がある。「岡村隆史発言が見せつけた買春容認社会」という表現では「岡村さんが違法行為を容認するように促した」という実際の発言内容とは違った印象を与えてしまう。

ちなみに私はTwitter上でフォロワーさんと、この会の中心メンバーである瀬野喜代元区議に岡村さんの名前を使わないで欲しい旨を昨年9月に直接訴えて対話をしたが、2021年4月現在もこの運動は「岡村隆史」の名前を冠に続けられている。
ここまで岡村氏の名前を看板に使い続けていることに果たして正当性があるのか?
私はとても疑問に思う。

最後に

2021年4月現在、コロナはいまだに収束していない。
一年以上続く閉塞感のある現状や、靄がかかった将来にストレスが溜まっている人も多い中、今もなお定期的に「コロナ、貧困、苦しむ女性を喜んだ象徴」として岡村さんの名前が使われる。
あの発言は確かに問題のある発言だったと個人的には思うけど、まるでこのコロナ禍の貧困、悲劇を作っている根源のように憎しみの的にされる。
少なくともコロナが収束するまではこうやって定期的に使われるんだろう。ため息しか出ない。

なぜこんなことになってしまったのだろう?

私がこの記事で訴えたかったのは、岡村さんは何も問題無い!無実だ!と言いたかった訳ではない。

悪質な印象操作や拡大解釈をして批判記事や意見を拡散させたのは誰なのか。それによりどれだけの人を攻撃的にさせたのか。どれだけ不当に名誉が傷つけられたのか。
ソースを十分に確認せずに批判することがどれほど危険か。その正義は誰にとっても正しい正義か。他人を必要以上に叩くことで、自分の拡げたい思想や運動に繋げようとする人々がいないか。

そしてそれらの行為は何の追求も無く見過ごされ、忘れ去られていないか。多少間違っていても大きい声で言ったもん勝ちの社会なんて絶対におかしい!


長い記事になってしまったが、私が訴えたかったのは以上のことかもしれない。

この炎上騒動を見ていて思ったのは、他人の知名度を利用して他人の名誉を傷つけることで、自分の利益や知名度や拡げたかった運動に繋げようとする人が確かに存在する。
はっきり言ってクズだと思う。

彼らは正義の仮面を被っていて、表向きは差別糾弾のヒーローのような顔をしている。しかしよく見るとその批判は不当なやり方を巧妙に混ぜ、印象操作をし、誰かの名誉を過剰に傷つけている。仮面の下で、嘲笑っている。

この炎上騒動で本当に笑っているのは誰なのか?
今後似たような騒動があったとして、差別糾弾の大声の陰に隠れて笑っているのは誰なのか?
そこを見過ごしてはならないと思っている。

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