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僕たちのDocument

はじめに

20年近く通っている定食屋がある。自宅からは少し遠いので、近くに行く際にはできるだけ寄るようにしている。つい先日、たまたま近くで用事があったので久方ぶりに入ってみると、先代は隠居されたようで、2代目がテキパキと調理し女将さんが店内の客の注文取りや品出しをしていた。昔からここの煮魚定食が大好きなのでそれを注文し、料理が出てくるのを待っているとふと気づいたことがあった。

ラジカセでラジオを流していたように思うが天井近くに小ぶりなスピーカーが置かれ音楽が流れていたのだ。まぁ代替わりもしたことだし2代目もまだ若いのでちょいと洒落た音楽でも流してみたいのだな、と思いながら出てきた煮魚定食を食べているとおもむろにビートルズの「 All My Loving」が流れてきた。

店内の親子連れやお年寄りは別段気にも止めず、ご飯を食べている中、僕は1人興奮していた。何故なら「イントロがハイハットver」だったからびっくりしたのだ。久しく聴いてなかったが、実家にドイツ盤の「With the beatles」があったはずだ、と思い出し、お店を出たら急いで実家に取りに行こうと思いつつも、何だか古い友人に偶然出会ったような気がして、瓶ビールとお漬物を追加し、そのままずっとビートルズを聴いていた。

会計の際、2代目に「店内の音楽ってCDですか?」と伺うと「いやぁ、未だにカセットテープなんですよ〜」と笑いながら答えてくれた。「いい選曲ですね」と伝えると2代目は笑顔で「昔に友人が作ってくれたビートルズのベストなんです」と答えてくれた。その友人はきっとビートルズが大好きなんだろうな、なんて考えながら、とても幸せな気持ちでお店を出た。音楽が当たり前のように日常にある幸せを改めて噛み締めながら。

そして今、この文章を書きながら、myfunnyhitchhiker のNew album「Documet」を聴いている。最初に聴いたときも何十回と聴いた今も印象は変わらない。ここで鳴らされているのは僕の「Document」だ。そしてあなたの「Document」でもある。

今はただただこの音を浴びよう。

さぁ、もう準備はできたよね。じゃあそろそろ、my funny hitchhiker「Document」について語り合おうじゃないか。

1. コーヒー&シガレッツ

まずはご挨拶とばかりに、とびきりのナンバーから「Document」は始まる。初めてLIVEで聴いた時から大好きな曲だ。

イントロのDrumsから1拍/3連を決めて流れ出すギターフレーズがこれから始まる旅へ、BPM160で連れ出してくれる。右側のスピーカーからはフレットを移動するたびに、弦と指が擦れてでるギターのスクラッチが生々しさを伝え、この曲だけでmy funny hitchhikerが新しいゾーンに突入したことがわかるのだ。

ホントにゾクゾクする。

サビのパンチライン「グーグルも知らない場所へ行こうぜ」そんな場所なんてないよ、ってあきらめないで、まだ見ぬ世界を一緒に探そう。この好奇心がいかにもmy funny hitchhikerらしい。

そして遊び心あるリリックの仕掛けにもニヤリとしてしまった。最初のフレーズ「ベルベッツ、倍速の速さで再生」とサビの「ファムファタール」
僕はずっと「彼女のリクエスト、そう、いつでもワンパターン」だと思っていたんだけど、実は「彼女のリクエスト、そう、いつでもファムファタール」と歌詞カードで気づいた瞬間、嬉しくなった。

この仕掛けに興味がある方は「Velvet Underground」「femme fatale」「Venus de Milo」「Aphrodite」をgoogleで検索して楽しんでください。

2. 夜明け前

妖しいハーモニクスから始まり、シェイカーが重なるGroovyなこの曲は、抑制した歌詞のリズムがこれから起きる「何か」を水彩画のように淡々と描写する。

抽象的なフレーズは不穏な言葉群を引き連れてはいるが「もうすぐ夜明けだ、約束の場所はもう近い そしてそこで、きみが来るのを待ってる」と終わる。

この終わりを再臨と解釈するのであれば「約束の場所= promised place=カナン」を連想することも可能だ。ちなみにカナンは「世界のハイウェイ」と呼ばれ最も危険な場所だったとも言われている。

楽曲の3分22秒から慈しむようなコーラスが流れる。ギターは激しくコードをかき鳴らすが徐々に音像に深度が増していく。「この声よ、きみ歩く空に響いてくれ」と願いが綴られていき、更にアルペジオが流れ出したとき、
それはエレクトリックな讃美歌のようでとても美しい。

この楽曲においてmy funny hitchhikerは新しい表現を開拓したと言えるだろう。

3. ドキュメント

Album title曲でもあるこの曲は映画「Bonnie and Clyde」を彷彿させる。しかしそこにあるのは絶望ではなくかすかな希望を見つけ出す物語を描いている。楽曲においては音像がとにかく素晴らしい。

特筆すべきは音の「奥行き」「幅」だろう。

イントロのギターストローク、そしてベースはメロディーを奏でる。Drumsで感じてほしいのは左からかすかに刻まれるハイハット。そして歌が始まり、雷鳴のようにザックリと刻まれるギターカッティングは山彦のように余韻を残す。

「どうか友よ、この路上で今夜・・・」から始まる歪んだアルペジオ。

幽玄と激しさを融和させながら残響が灯りのようにリリックを導いているようだ。

遠い昔のモノクローム映画のように。曲目に反してフィクションのような、得体のしれなかったあの2020年からの空白期間が重なる。

激しくも蝋燭のような灯りを感じるこの楽曲は、あの空白期間があったからこそ生まれ落ちたのだろう。

4. E=MC5

相対性理論の関係式をもじったtitleではあるが、この楽曲でいきなりmy funny hitchhikerはアクセルをベタ踏みしてくるのだ。ロックバンドってやつはホントどうしようもねーなー。前戯も何もあったもんじゃねーって思いながら大笑いするぐらいこの感性が好きだ。

シンプルに聴こえるが実はとても複雑な構成を持っているところもmy funny hitchhikerらしくて好きだし何よりDrumsが素晴らしい。
緩急も含めリズムパターンの組み立て方に是非注目して聴いてほしい。

歌詞は焦燥とノスタルジックの入り混じったリアルな内面の吐露が僕を急き立てる。そして「E=MC5」の意味と物語は次の曲「Starless Universe」に引き継がれる。

いきなり余談ですが
「それがオレにとっての大事な存在意義なのさ アーメン」をコーヒー&シガレッツの時と同じようにライブで聴いていたときは「それがオレにとっての大事な存在意義なのさ アーイエー」と思っており、さすがロックバンドである、オーイエーをアーイエーって言うなんて格好いいなー、なんて思っていた私が少し恥ずかしい。

ゆるしてチャオ。

5. Starless Universe

アクセルベタ踏みのままで、Albumは進む。

Album「Funny party」にも収録されているが、新たにリアレンジされての収録である。「Funny party」verは心象の深淵を覗き込むように音像は流れるが静かに燃え上がるような印象を僕は持った。

しかし今回リアレンジされた「Document」verは音像は激しく生き急ぐように楽曲は進むが、どこかしら俯瞰したような視線を感じる。vocalの息継ぎのたびに、どこか感情が変容するような感覚。激しさゆえの静寂。リアレンジによってこれほど印象が変わるのも不思議だ。

歌詞においては「E=MC5」で「E=mc2の相対性理論 その先にあるのはE=MC5だって友だちのケンジがいつだって言ってんだよ」と歌われていた。

それが「Starless Universe」では「誰も知らない方程式 解けるのは世界で二人だけ」と歌われている。

共犯者心理がもたらす意識の共有はバンドとそのリスナーとの関係性そのものだ。

そう認識して「E=MC5」と「Starless Universe」の歌詞を読んでほしい。

狂った拍子記号のようなドラミングや幾重にも重なったギターサウンドが聴くたびに印象を変えるため、何度もリピートしてしまう中毒性を持った楽曲。

〜小休止〜

夕闇が寒さを引き連れて帳をおろす。近所のスーパーや八百屋や魚屋の路面店では、夕餉の支度のために買い物をする人たちがせわしなく会話を交わす。僕は1人、そんな人達を横目に自分の買い物にいそしむ。

こんな市井の日々がいつまでも滞りなく続くことを願う。

愛する人や大切な人のため、そして自分がそこに関わることが苦痛ではなく、とても愛おしい日々である事に気付くまでに時間を要したとしても、
気付いたことで、また新しい優しさが生まれることもあると信じたい。

僕は自分が何かしらの欠落を持っているとばかり思っていた。
あの出来事が起こるまで。
しかし、徐々に平穏が戻ってきたときに気付いた。
当たり前なんて無いことに。

僕の欠落とやらは惰性と怠惰に支配されていた事に。
僕がそんな日々を乗り越えるには音楽が必要だった。
悲しみは遠慮なく唐突に襲ってくる。それと対峙するためには音楽が僕には必要不可欠だったんだ。

6. Highway mfh

この曲もAlbum「Funny party」に収録されているが、「Starless Universe」同様に新たにリアレンジされての収録。

「Funny party」verはinstrumentalだが「Document」verは歌詞が新たに加えられている。「Funny party」verからのサンプリングを逆回転する事により「Funny party」から「Document」への時間軸を狂わせる意図を感じた。フィリップkディックのSF小説の世界のような手法だ。

そして曲間で流れる、歪んだ単音でのギターフレーズが秀逸だ。

音が全てを物語る。

そんな事を考えてしまうほどのギターフレーズ。

そして楽曲終盤、3分17秒からの静寂、そして逆回転フレーズと荒野を抜けるような風の音。my funny hitchhikerの旅はまだまだ続くのだ。

7. SOS

ロバート・ジョンソンがクラークスデイルの十字路で音楽の才能と引き換えに悪魔に魂を売ったと言われる伝説がある。

話自体は眉唾であるがそれほどの思い入れ、それを夢と言ってもいいが悪魔に魂を売ってでも手に入れたいモノがある人々がいるのは事実だろう。

才能と言う言葉だけで片付けるには到底納得できない人もいるだろう。
しかし魔力とも言うべき魅力を持つモノだからこそ、人は救われもする。僕にとっての音楽もその一つだ。

マイナーコードの鮮やかなカッティングギター。孤独と救いを求める声のようでもあるが、この主人公はもう一人の自分と語るように歌う。

「Thank you for the luck」と。

8. Speedy man

ロックとは敢えて強引で乱暴に言うならば、喧しくてなんぼ、のものである。その喧しさにカタルシスを見出し興奮する。「喧しければいいってもんじゃない」という人もいるだろうが「喧しければ喧しいほどいいんです。ロックってもんはね」と僕は言いたい。

だから「Speedy man」は問答無用で格好いいのである。

イントロからしてバッキバキのギターリフに半開きハイハットが喧しく鳴らされ、ベースは我かんせずとばかりエイトビートをぶん回す。逃避行劇が進む中「罠を振り切って、スピーディ・マン」に重なるように追い打ちでノイジーなギターが飛び込んでくる。

1st Album 「Two muffs beat as one」収録の「スープはいかが?」とタメをはる、問答無用のロックン・ロール。

9. 13

非常に興味深いベースのフレーズがギターやDrumsと絡まり、浮かび上がったった音像がとても印象的なイントロで「13」は幕を開ける。

「13」を言葉で例えるとすれば「差異」の歌だと僕は思う。

情報過多な現代においては「本質」という意味そのものが、意味をなさなくなっている。もっと言えば神話やファンタジーの世界も現実社会も頭の中では対して区別されてない。だからこそリアルになればなるほど嘘っぽく感じられ、とんでもないような事件もモニター越しでは、ゲームの世界のような感覚を持つ。

社会の病みなのか、人であるがゆえの病みなのか。

「Do it right? or do it wrong?」と問いかけられるがその答えを持っていない。だからこそ「無心で走り抜ければいい」と歌うことが意味を持つのだ。

「Just 13 Blues is beating fast.」この呼応するように繰り返されるフレーズ。このフレーズの展開が変化するパートがある。
2分20秒からのパートの最初の1箇所のみ、呼応からハモリで歌われるが3回目の「Just 13 Blues Do what you want!」の下がりながらのハーモニー。

鳥肌が立つ。

「13」という数が持つ意味についてはユダ(13番目の使徒)やロキ(ラグナロク終末の日の元凶)、素数説等、色々あるが、

いずれにせよ「Just 13 Blues Do what you want!」である。

10. Sustain Zero

「Sustain Zero」はmy funny hitchhikerがメロディーメイカーとして如何に優れた楽曲表現ができるか、改めて僕たちに叩きつけてきたナンバーだ。

クリアで透明感があるギターストローク、そして左側から4つ打ちのバスドラ。ベースは地を這うように低音域を響かす。

「ハロー、マイフレンド、この声は聞こえてるか?」

「きみはどこにいて、そっちの世界はどうなんだ?」

この印象的なヴァースの終わりから一瞬の静寂、そしてカウントから一気に音像世界は広がっていく。

間奏における呼吸音。
深く息を吸って、吐いて。深く息を吸って、吐いて。

「Sustain Zero」から感じる生や死もまるごと呑みこむような自由への渇望がこの呼吸音に宿っているように感じた。美しいメロディーとリリックを持つこの楽曲は深く聴く人の心に刺さるだろう。

11. 激情

Album「Document」のラストナンバー。「激情」を初めてLIVEで聴いた日、僕は心から思った。

「この曲を待ってたんだよ!」

それほど「激情」は僕の心を揺さぶった。重く響くギターリフ。その中で遠くから聴こえるハーモニクス混じりのカッティング。

そしてポエトリーリーディングから吐き出される言葉とメロディにのる言葉の交差が言葉だけでは伝えきれぬ思いをも伝えてくるようだ。

淡々と、ただ淡々と繰り返される言葉はかつての日々へのノスタルジアなのか。それとも喪失への嘆きなのか。

「あの時交わした言葉を思い出せない」

この言葉の意味は重い。

「この激情をきみの元へ、届けたかっただけなのに」伝えられなかった「激情」を「今」「ここで」鳴らすのは?

僕はここで物語性を考えてしまうのだ。

あの空白の期間の事を。

終わりに

2020年から2023年までの期間だけでも、僕自身の周りで本当に色々なことが起こった。嬉しいことよりも寂しいことが多かったが、年齢を考えると「まぁ、そうだろな」と思う。日々、生活の中、周りを見回すことを疎かにし、後悔をすることも少なくなかったが、そんな時でも音楽は鳴っていた。古くからの親友であり人生の親戚でもある音楽。

そんな日々があったからこそ出会えたmy funny hitchhikerのNewAlbum「Document」を聴く。それはなんだかとても美しい瞬間だ。

サウンドについて少しだけ語ると、音の定位が非常にいびつなAlbumである。言い換えると誰もやらなかったこと(やれなかったこと)を具現化させたとも言える。

ほんとになんて奴らなんだ、と心の底から思うほどこの「Document」の音像は素晴らしい。なので、でっかい音でもヘッドフォンでもいいから何度もリピートしてほしい。

そして、僕の生活にmy funny hitchhikerのNewAlbum「Document」が加わったことが何よりも最高の喜びだ。

さぁ、今からでっかい音で「Document」を聴こう。

それは最高に楽しい時間なのだから。

最後に

my funny hitchhikerの2020年〜2023年の歩みを見ると、どれほど僕たちがmy funny hitchhikerに愛されているかがよく分かる。

コロナという抗うこともできない空白期間の中でも、my funny hitchhikerは止まらなかった。

my funny hitchhiker 1st Album 「Two muffs beat as one(2020/7/1release)
my funny hitchhiker 「Funny party」(2020/12/31 release)
my funny hitchhiker Live Movie「20201220251」DVD&CD-R(2021/3/31 release)

1stAlbumのリリースも含め、この3枚のCDと1夜限りのLIVEDVDのリリース。そして絶えず更新してくれたRadio「my radio hitchhiker」

本当、凄くないですか?

そしてmy funny hitchhikerのNewAlbum「Document」のリリースに合わせ
2024年には、待望の名古屋、大阪、東京でのワンマンライブが開催される。
その会場で受け取ろう。my funny hitchhikerの思いを。

毎日の暮らしの中、思いっきり音楽を楽しもう。

そして、名古屋・大阪・東京のワンマンライブの会場でこの言葉を交わそう。

「どうか友よ、このフロアで今夜、再会の祝杯をあげよう」

名古屋ワンマンライブ日程

☆2024年1月13日(土) at 名古屋 sunset BLUE
http://sunset-blue.net
※愛知県名古屋市中区東桜2-18-24 サンマルコビルB1
open/start 18:30/19:00
〜New Album「Document」 Release Tour 2023~2024〜
“my funny hitchhiker・アコースティック・ワンマン”
出演:my funny hitchhiker

☆2024年1月14日(日) at 名古屋 LIVEBOX UNLIMITS 大須
http://www.unlimits-osu.jp
※名古屋市中区大須2-23-34 大須GATEビル1F
open/start 16:30/17:00
〜New Album「Document」 Release Tour 2023~2024〜
“my funny hitchhiker・ワンマン”
出演:my funny hitchhiker

大阪ワンマンライブ日程 

☆2024年2月3日(土) at 大阪・谷町九丁目 cafe&bar Lgt(レガート)
※大阪府大阪市天王寺区生玉前町2-8
open/start 18:00/18:30
〜New Album「Document」 Release Tour 2023~2024〜
“my funny hitchhiker・アコースティック・ワンマン”
出演:my funny hitchhiker

☆2024年2月4日(日) at 大阪・寺田町 Fireloop
※大阪市天王寺区大道4-10-17 新井ビルB1F
open/start 16:30/17:00
〜New Album「Document」 Release Tour 2023~2024〜
“my funny hitchhiker・ワンマン”
出演:my funny hitchhiker

東京ワンマンライブ日程

☆2024年2月25日(日) at 下北沢 ニュー風知空知
※東京都世田谷区北沢2-14-2 JOW3ビル4F
open/start 15:30/16:00
〜New Album「Document」 Release Tour 2023~2024〜
“my funny hitchhiker・アコースティック・ワンマン”
出演:my funny hitchhiker

☆2024年3月2日(土) at 下北沢 CLUB Que
※東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンビルB2F
open/start 18:30/19:00
〜New Album「Document」 Release Tour 2023~2024〜
“my funny hitchhiker・ワンマン”
出演:my funny hitchhiker

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