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どこへ行こうと言うのかね

3月1日に眼の手術を受けた。
眼といっても今やよくある手術で、日帰りで済むし、手術そのものは30分もかからず終わったし、幸い術後の経過も良好なので、ご心配には及ばない。よく見えている。

そうは言っても術前は、やはり個人的には少しナーバスではあった。
眼は繊細で大切な器官だし、全身麻酔ではなく局所麻酔だから、痛みはなくても意識ははっきりとあり、鮮明ではないにせよ手術中の様子がなんとなく見えるというのも怖かった。
自分の判断で受けると決めはしたけど、こういうのは調べれば調べるほど心配が募るので、ええいプロに任せようと開き直り、特に直前は、手術に関する情報へのアクセスは意識的に避けるようにしていた。心配をかけたくないというよりも、いらぬ情報を吹き込まれたくなくて、周囲にもほとんど伝えていなかった。

幸い、終わってみれば(当然だが)術中の痛みはまったくなくて、麻酔が切れたあともちょっと目がコロコロするかな?という程度。術後もまっすぐ帰ればいいものを、痛みもないしまだ明るいのだからと、眼帯をしたままラーメンを食ったり、図書館に寄ったり、探していたお菓子を買いに行ったりするくらいには元気だった。入浴も、多少気を付ける必要はあるが、手術の翌日から可能で、総じて思ったよりも不自由しなかった。先生の確かな技術の賜物とはいえ、こういうときに限っては、つくづくいい時代に生まれたものだ、などと考えてしまう。

眼帯もとうに外れているが、このところ日中は、一応の保険として、無意識に目もとを触ってしまわないように、だてメガネやサングラスをかけて過ごしている。これさえももう外してもよさそうなんだけど、新しい自分にちょっと楽しくなっちゃっているのだ。
もっとも、しばらくはウチ風呂ガチ勢にならざるを得なかった。せめてもの楽しみにと、事前に入浴剤をいくらか買い込んだりして備えていた。これはこれで楽しい世界だ。

手術の約1週間後、経過観察で再診を受けたときに、先生とこんな応酬があった。

「…うん、いい感じですね。もうお風呂も入られていると思いますが、気になることなどありませんか?」
「あっはい。特に問題ないです」
「そうですか。では次の診察ですが…」
「あっあの。…外のお風呂に行ったりって、いつくらいからOKなんでしょうか」
「外のお風呂???」
「あっあっ」
「???」
「あっあの」
「どこか行くんですか???」
「おおお温泉とか銭湯とか巡るしゅしゅしゅ趣味がありまして」
「ああ、温泉に行きたいんですね」
「あっあっ」
「まあご自宅のお風呂よりは衛生面のリスクがありますからね。普段は最低2週間とか空けたほうがいいって言っているんですけど、ぽちんさん若いし状態もいいのでもう大丈夫ですよ。まだしばらく眼に水が入らないようには注意してくださいね」
「あっあっ」
「ほか何かありますか?」
「はっ…激しい運動とかは…」
「あー、運動ね…。たとえばどんなこと想定されてますか?」
「あっあっ」
「???」
「たたた例えば走ったりとかあhgjはwfhっとか」
「???」
「さささサウナって問題ないでしょうか」
「ふふっ、サウナお好きなんですね。もう大丈夫じゃないですかね。ふふっ、無理されないでくださいね」
「あっあっ」

2週間待ってやる。

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