見出し画像

おむかいの向井さん

燃えないゴミの日。
「今日は軽いからいいよ」と夫がひとりで行ってくれた。

帰宅すると、なにやらモゴモゴ言っている。
「なになに?どうしたんやって?」と聞いてみると、あ~またアレだ。
おむかいの向井さん(仮名)のことだった。

もう気にしなくなってたはずなのに、やっぱり嫌な気持ちになるのだろう。

それは、出会っても絶対あいさつをしない向井さんのご主人のこと。

今日の夫の話では、ごみ集積場に行く200mほどの間に出会った向井さんに「おはようございます!」と声をかけたが、まっすぐ前を見たままプスッとも言わなかったと。
もう一度出会ったから、あえてわかるように会釈したが反応なしだと。

もうそんなこと、向井さんがおむかいに家を建てられた20年来のことなんだし、ふたりで何度も「どうしてだろうね」と言ってきたことだ。

もう半分忘れていた。
しかし向井さんはやっぱりお向かいさんなのだ。
忘れてしまうことのできない、物理的に近い距離感がある。
それはどうしようもない。

ふだん、夫と一緒に出かけようと外に出ると、向井さんがおもてにいることがある。
夫があいさつをしても、むこうを向いたままか、こっち向きだったとしても音声を発することはない。
私もさっさと車に乗り込む。


夫も私も、月極駐車場をはさんだ50mくらいむこうの家のベランダにいるジョージさん(仮名)にさえ挨拶するのに、向井さんに挨拶するのはとても緊張する。
できればあいさつしたくない…、とさえ思う。

(注:ジョージさんは、ジョージ・クルーニーに似ていると映画好きの息子も言うほど、とても社交的な日本人のオジサン)

向井さんと仲良くなりたいわけでもないし、かといってお互いに何か嫌がらせ合戦をしているわけでもない。
ただ、顔を知っているお向かい同士なんだし、出会ったら「すー」って言うくらいでよくない?と、私は思う。


向井さんの亡くなられたお母さんもご近所にお住まいだったので、ずいぶんお世話になった。
子どもを幼稚園バスに乗せたあと、洗濯を干そうと思うところへお母様が出てこられて、育児について強力なアドバイスをいただいたものだ。
「そろそろ…」と言い出せずにいるうち、半日保育の娘がバスで帰宅した日もあった。

娘が6年生のときだった。
(ここで補足ですが、向井さんは地元の私立進学校の先生です)

向井さんのお母さんが「リサちゃんはG中学を受験しないの?息子に出願名簿を見てって言ったんだけど、ないって言うから」

向井ママ、もしそれが本当なら息子さんコンプラ違反です。

そのあたりから気味悪くなって、できるだけお母様に会わないように気をつけた。
もちろんウチより前から住んでいる向井ママは恐い存在だったので、出会ったら笑顔であいさつはしていた。

そのうちに、向井さんがうちのむかいに家を建てることになったと聞かされた。(どこに家を建てようとそれは自由です)
私達より10歳ほど若い自慢の息子さん夫婦のことを、「仲良くしてやってね」と言われた。


にもかかわらず、なぜに向井さんは無視されますのん。

学校であいさつ運動とか校門指導とかしませんか? しないか。
でも授業はするでしょう。

お子さんたちが小さいころは、少々うるさいほどの声でふざけている声がしたものだが、同じ人とは思えずそれも謎だった。

ところで、向井さんにはいつも笑顔の奥さんがいる。
そこがまた不思議でもあるのだが、あまりにご主人が感じ悪いので(笑)、奥さんにもどう接していいのかわからなくなってしまった。

幸いお互い仕事をもっているので、話す機会はほとんどない。
「すごいお義母様がいらして、大変ですね」とか「ご主人はあいさつをしない人ですね」なんて、言えない。
会っても言わないってば(笑)。

だから、車で出入りするときにお互い会釈をするだけだ。
それで全然OKなのだ。

ただ、「すー」さえ発しない向井さんのご主人が、20年経っても謎のままなのが、どうにも気味悪いだけなのだ。

ふだんはすっかり忘れていることなんだけど、今日みたいなことがあるとちょっと嫌な思いをしてしまうだけのこと。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?