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マグカップと湯気と「慣れ」

日常の中にありふれているなんでもない光景に、ときどきまじまじと見入ってしまうことがある。

よく晴れた朝に光を受けとめるレースカーテンの陰影とか、お風呂に入っていてふと見つめる水面のゆらめきとか。

この前はマグカップに白湯をそそいだ瞬間、立ちのぼる湯気の美しさに「ほうっ……」と見入ってしまった。

たまたま気温が低く、背景に黒っぽいものがあったから、いつもよりよく見えたのかもしれない。

丸いマグカップの口から、上へ、上へ。

もくもく、すうーっと立ちのぼって、次第に広がり、空間に消えてゆく。

でもそのルートは一律ではなくて、瞬間、瞬間、空気の動きによって常にふらふらとゆらいでいて。立ちのぼりはじめすら一定ではない。狭いマグカップの中のいろいろな方向から、さまざまな濃淡でゆらゆらと放たれてゆく。

なんだろう。ろうそくの火を見つめているときのような安心感。

立ちのぼる湯気を眺めていたくて、何度もポットから熱いお湯を注いだ。

他にもたとえば、台所で何気なくかぼちゃを切っていたとき。

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どうでもいいことをすごくしんけんに書いています。

<※2020年7月末で廃刊予定です。月末までは更新継続中!>熱くも冷たくもない常温の日常エッセイを書いています。気持ちが疲れているときにも…

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