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春の嵐、20分前の改札。

暖かな風が強く吹くと、必ず思い出すことがあります。


高校3年生の夏、片想いをしていました。
同じクラスのSくん。
背が高くクールで、でもどこか優しい男の子。


学園祭の準備の時、女子では一人残って作業を手伝っていたわたしに帰り際Sくんが爽やかに言い放った「ありがと!」の一言で恋に落ちたことを鮮明に覚えています。


片想いのまま約一年が過ぎ、
卒業式が終わり。


本当は、卒業式の日に告白するつもりでいました。
それなのにタイミングを逃してしまった私は、やっぱり後悔したくなくて卒業式の3日後に「話したいことがある」と彼を呼び出したのです。


私たちの通っていた高校の最寄り駅は彼の自宅の最寄り駅でもあり、私はまだ期間の残っていた定期券を使って3駅、彼に会いに行きました。


田舎の私鉄は、20~30分に一本。
約束の午前11時に駅に着くには、10:40に着く電車で。
20分は、まあ本屋か何かで適当につぶそう。


10:40に目的の駅の改札を抜けると、まだ20分前なのにSくんの姿が。
「11時ちょうどに来る電車なんてあるのかなぁと思って調べたらこれしかなかったから」
わざわざ乗るであろう電車に合わせて早く来てくれたのです。



その日は風が強くて、暖かい暴風に髪を押さえながら駅のテラスで横に並びました。


少しだけ、翌月から行く大学の話しなんかして、「好きです」とお伝えしましたが、
「いい子だなと思うけど恋愛感情では見たことがなかった」とのことで、ふられてしまいました。


でも、わざわざ電車に乗ってきた私を気遣ってなのか。
お互いに違う県の大学に進学するお別れの意味だったのか。

そのあと2時間ほど、Sくんは一緒にいてくれました。
駅の周りをグルグルと歩きながら、他愛もない話を。

憧れの男の子の隣で緊張していたのでまったくうまく話せなかったのに、ずっと話題を提供してくれていました。


そして、また同窓会でね。と再会を願い、私はまた改札を抜けました。

ホームに下りる階段に入るまで、見送ってくれていたことも覚えています。




故郷での最後の思い出。
最高に切なくて、美しくて、優しいお別れでした。
そんな優しくて切ない想いを、この時期、風が強く吹くと思い出します。



あれから、元気でいますか。
私は幸せなことに、今もあなたみたいに優しい人たちに囲まれて生きています。

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