星村 文未

(ほしむら ふみ) たまに書く 詩人

星村 文未

(ほしむら ふみ) たまに書く 詩人

マガジン

最近の記事

7mm、4月に夜の海

両手のひらをにぎってひらいた。 あいだに暗くあたたかな海を広げて、 夜空にちいさな ちいさな星をひとつ投げた。 星が、飛んでいったのかもしれない。 海底の街では破壊と再生が音もなく繰り返されていて その営みは、たしかにうつくしく、人だった。 すべてがなめらかな なめらかな現実 夢の中ですら形はないというのに いないということだけが とてもよくわかる それでも 音のない建設を、終わりまで繰り返していく。 かたちを変えながら、流されてゆきながら、 だれも、わたしも。 よるべ

    • 宵の明星

      きみが 宵の明星であった。 どうしてそんなに遠いのに 流れていってしまうの。 うつろな夜にしか 見えないもの うるおう夜にしか とりこめない酸素の 粒子であったか 粒子であったか あるいは、もっと。 くびの隙間からつたい入る冷気 夜露、のばした指さきにまとわりつき すぐに消えてしまう。 送ってゆくことが 季節を流すことだと 時計をすすめることだと もう、理解していたのだ。 遠くにあって 流れていってしまうことこそが 会える ということなのだ、と とっくに とっく

      • ヒロイン

        あたたかく湿った風が はえそろった新緑をはためかせる。 春のあらし 陽が沈みきって予感を置いていった。 確信する、きみが泣いている。 花びら渦巻かす風を、 つま先で操ってきみの窓を目指す。 わたし、もう知っている この背にしかせおえない色のマントを。 雲は急ぎゆく、 おとめ座がささやく、 はなやいで木々は輪郭をやわらげる。 パーティを抜けて 雲と並走して わたしはとんでゆく。 待っていて、 必ずそこに降り立つから。 助けてあげる、と 覚悟して言えたなら永遠だって許して。

        • 別れについて

            誰とも、永遠に おんなじにはなれない。 笑えるか、 きみは それを 惑星の上で、私たち ずっと立ち止まっていると思っている。 意思ある方にのみ進み、 旋回して、次元をたちのぼってゆく。 みえないことは救いであって みえないことは残酷だった。 出会わないといけないのならば 水流はたちまちゆがむ。 踏ん張らないと立っていられない、 私たち、自らの足のほかによって 運ばれてゆくことを避けてはゆけない。 ねがいと意思が合致しないとき どうやって越えてきましたか。 誠

        7mm、4月に夜の海

        マガジン

        • 64本
        • 短歌
          1本
        • 彼女たちによせて
          10本
        • 随筆
          4本
        • Blog
          3本
        • 詩写真
          3本

        記事

          振り袖

          実家は経済的に豊かではなかった。 特に父は、たった数時間のために何万円もする衣装だなんてと快くは思っていなかったようだ。 私自身も最初から諦めていた。 友達には会いたいから、スーツでもいいかなあなんて思っていた。 しかし、母から、祖母が年金から出すって言ってくれてるから、 安いレンタルになっちゃうけどそれでもよければ振り袖を借りようと提案された。 周りの友達の浮かれ具合にやっぱり羨ましさも出ていた私は素直に甘え、 地元団体の2万円くらいの格安レンタルを利用した。 ちょ

          #未来から来た女性

          10年前。春、あんなにも美しく闘うひとに初めて出会った。 大学生時代所属したハンドボール部の先輩だったそのひとは、私が入部した1年生のときに在籍していた4年生で唯一の女子プレイヤーだった。 ひろみさん。いつでも穏やかでおおらか、すこやかに焼けた肌が美しい、南国育ちの女性。 会えば「ふみ~!おつかれさま!」と明るい声で名前を呼んでくれて、後輩に元気がなければ「どうした?」とやさしく励ましてくれる。弱音を吐いたところは、少なくとも私たち1年生はついに見たことがなかった。

          #未来から来た女性

          【雑記】ことばについて

          *ためしに、ブログ気分で、 好き勝手書いてみようかなと思います。 ブログは続いたためしがないので、気が向いたらまた書く感じになりそう。。 ───────── 個人的な、ことばの扱い方について。 「日本語の乱れ」という概念は好きではない。 敬語などTPOに合わせたものは、なるべく誤用は避けたほうがいいしそれだけで損をすることは実際にある。 (ただし誤用と言っても業界やその環境や相手によって違うということもままある。) ただ、私が恩師である言語学の教員の言葉で納得しず

          【雑記】ことばについて

          栗花に ふるさと香る はつ恋の

          栗花に ふるさと香る はつ恋の

          きみの悲劇

          きみの悲劇

          脈拍

          私生まれました ここに、生まれました 成熟した幹の内側 燃えるようにうまれ落ちた いまから、 はじめさせて第四章 たいくつだときめられた よく晴れた街は 光をおどらす 葉を見つめる人をふくんでいる、と 気がついた日 私、この街の真ん中に立ちのぼる あなたに見えましょうか おいしい珈琲 かくしきらぬ言葉 見えません この生命が燃え揺れていても 見えていませんだからやめました、 書くのを やめました。 この世が飽きてしまった物語を 今から辿って血に変えていくのです 夢ならあ

          ジャケット

          昼下がり。 花咲く川辺に誘われるまま、ここに来た。 やっと着たジャケット、やわらかく汗ばむ陽ざし。 くすんだベンチに腰をおろす、 父と子の蹴るボールがゆるやかに横断する。 あどけない制服。 新しい教室で、春、 生まれ変われるような気がしていた。 がらりとなんて、 変われないと、わかったのは。 コーヒーがひやりと手のひらを濡らす。 ――ねぇ、大人になれるなんて思わなかったよね。 今年はじめて押した自販機の青 重ねてきた土を踏みしめて、 何があるのか、そもそも有るのか、わか

          ジャケット

          春の夜の

          あんまり綺麗で幸福なシーンにあって、 これは夢で、まもなく醒めてしまうのではないかと思った春の夜がある。 桜の咲く小雨の夜。 挫折してばかりだったそのころの私にはもったいないくらいの、愛と希望と光。 私は踏み出すことができていて、暖かい瞳に守られていた。 生きるうえで思いつく限りの歓びが目の前にあるみたいで、 夢なのか、もしくはもう長くないのか、と意識を疑う。 それから数年、とりあえずまだ生きている。その時と同じところで起きている。物語とするならまた新しい章に入っていて

          エル

          リーネきみが、ぼくをみつけてくれ きみのいってしまったあと 夕風をまとって、はじめて ここにいるぼくが どこにも、どこにもいけないと知る どこにもいけないと知った時、 それでもかばんに詰めるだけが勇気ではない ここで目をひらいていようと思ってるよ ここで、ぼくを、つづけていく 輪廻みつけてくれ、きみが そうしたら必ず思い出してぼくはきみを きっと、

          夏になる、

          夏になる、